ウェルビーイングを実現するオフィス

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目次

長引くコロナ禍によって、ストレス過多のワーカーが増えている。
その処方箋として注目が高まっているキーワードの1つがウェルビーイング(well-being)。
ウェルビーイングとは、世界保健機関(WHO)憲章に由来する言葉で、心身ともに、さらに社会的にも健康な状態で満足した生活を送れることをいう。
幸福(happiness)が短期的・瞬間的な幸せを意味するのに対し、人生における長期的な幸せを指すのがウェルビーイングである。
1日8時間という長い時間を過ごすオフィスは、ウェルビーイングと深い関係がある。

世界保健機関憲章前文(日本WHO協会仮訳)
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

健康経営からウェルビーイングの時代へ

働き方改革を進める際に注目された「健康経営」は従業員の健康管理を経営課題とする手法である。近頃は健康経営に代わり「ウェルビーイング」を経営課題として取り組む企業が増えつつある。ウェルビーイングの満足度を上げて各々の意欲を高めた結果、仕事においても生産性や効率性の向上をもたらし、ひいては企業の成長につながるという考え方だ。
また、SDGs(持続可能な開発目標)※1における17のゴールのうち「③すべての人に健康と福祉を」、「⑧働きがいも経済成長も」を企業が達成する上でも、ウェルビーイングの視点から働き方やオフィス環境、社内制度の整備等を改善しようとする動きも見え始めている。

※1 SDGs(Sustainable Development Goals):2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成される。

オフィスビルのトレンドにも

近年竣工したオフィスビルでは、省エネや低炭素社会の実現といった環境に配慮した建物に対する第三者機関の評価・認証を取得する例が増えてきている。客観的な評価は不動産価値を高め、ビルやテナントのブランディングにもつながる。
建物の環境性能の評価に加えて、利用者の健康性や快適性など人への影響やウェルビーイングを評価基準とする「WELL認証™」や「CASBEE®ウェルネスオフィス評価認証」がトレンドとなっている。
CASBEEを例に挙げると下図のように「CASBEE建築」は環境性能への評価であり、ウェルビーイングの評価を加味したのが「CASBEEウェルネスオフィス」および「CASBEEスマートウェルネスオフィス」だ。これらの認証は新築以外にも既存ビルやテナントビルの内装でも取得できる。こうした背景にはSDGsやESG投資※2といった社会的要請、人材不足や価値観の多様化への対応があると考えられている。

※2 ESG投資:ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字。投資するために企業価値を測る材料として、財務情報に加え、非財務情報であるESG要素を考慮することをESG投資という。

図参考:一般財団法人日本建築センター

WELL認証に学ぶウェルビーイングオフィス10のヒント

WELL認証はビルやオフィス空間をウェルビーイングの視点で評価し、認証を与えるもので、北米を中心に世界的に広まっている。WELL認証のエビデンスを参考にウェルビーイングオフィス実現のヒントをみてみよう。
評価のコンセプトは10項目あり、オフィスの空気質、光、温熱、音など物理的な環境整備だけでなく、「心」を豊かにする取組みも評価項目に含まれる。例えば、オフィス内の緑化はストレス軽減に効果があるとされており、ウェルビーイングを向上させる。

1.空気

室内空気質の向上はウェルビーイングに最も重要な要素の1つ。換気、フィルターによる汚染空気のろ過、結露やカビの防止、空調機器の取換え、空気質モニタリング、メンテナンスなどの対策がある。

2.水

水は健康維持の基本。オフィス内の無料ウォーターサーバー設置が適切な水分補給の助けとなる。

3.栄養

食事休憩の際は専用スペースの利用や、人と一緒に食べることがポジティブ感の向上と疲労減少などをもたらす。食堂やカフェスペースの設置もよい。

4.光

照明環境はサーカディアンリズム(良質な睡眠につながる体内時計)などに影響を与える。グレア(ちらつき)を抑えた照明や、サーカディアンリズムに合う照明の導入などは生産性・気分・ウェルビーイングの向上に役立つ。外光が入る窓も活用できる。

5.運動

座りっぱなしは健康面に悪影響とされ、座る・立つの姿勢を変えられる昇降式デスクや、運動機能をもつ椅子を導入するオフィスもある。階段利用を促す仕掛けも有効。

6.温熱快適性

オフィスが暑すぎると従業員の効率が6%下がり、オフィスが寒いと4%下がるという。温熱快適性の体感は個人差があるためフリーアドレスで自席を選べる、室温を各自で制御できるシステムの導入、デスクトップファンなどの併用で満足度を上げるとよい。

7.音

騒音は気が散漫になり、生産性や記憶維持を低下させ、ストレスが高まるといわれている。騒音を抑える手段の1つとして「サウンドマスキング」があり、オフィス環境の音のプライバシーを強化できる。

8.材料

内装などの建物材料や什器の素材の化学的安全性に配慮する。洗剤など清掃用品の有害成分にも注意したい。

9.心

緑など自然に触れられるオフィス空間、集中や対話など場面に適した作業環境の提供はストレス低下と能力発揮を促す。サウンドマスキングに自然音を取り入れると、リラックス効果をもたらす。

10.コミュニティ

ウェルビーイングは社会やコミュニティとの関わりで幸福を感じることも重要。社内制度の整備や企業文化の育成がウェルビーイング向上につながる。

株式会社 清和ビジネス築55年テナントビルのオフィスでWELL認証を取得

株式会社清和ビジネスは、オフィスなどの「人々が集う場」を最適な環境と働き方へとデザインする事業を手掛けている。東京本社のオフィスでWELL認証ゴールド(インテリア)を取得、その効果や運用について話を伺った。

築55年のテナントビルに本社を構える清和ビジネス。受付に足を踏み入れると、観葉植物や、自然音のBGM(ハイレゾ音響空間KooNe)、ディフューザーからの香り、アート壁画など、ウェルビーイングをねらった仕掛けが体感できる。
同社はいち早くウェルビーイングに着目し、2015年からオフィスに電動昇降式デスクや、香・音・光・植栽のトータルデザイン、ABW※1などを導入してきた。2020年2月にWELL認証ゴールド(インテリア)を取得。同社のようにテナントビルの内装で取得したケースは珍しい。

同社の上席執行役員でオフィス営業本部 働き方デザイン部部長 丸山 史夫氏は、WELL認証の取組みについてこう語る。
「空調設備や天井照明はビルの設備更新時期に当たり、オーナーの東京建物さんのご協力で要求水準をクリアできました。高性能フィルターを導入し、外気の汚染物質もカットしています。」
毎日の定期的な窓開け換気は社内放送で促し、CO₂濃度は認証基準よりも良い状態を保っている。全座席に電源を配置してABWをより快適にサポート、業務内容に合わせた什器の工夫も行った。

換気システム

働き方デザイン部 働き方研究室 リーダー・参事 高谷 文子氏は「運動習慣を促す社内制度を創設したり、自動販売機に栄養成分表を掲示したり、細かく整備しました。」と話す。様々な取組みが社内に浸透し、従業員の満足度も上がっているという。丸山氏は「ウェルビーイングを考えたい企業にとってWELL認証は有意義な取組みです。企業規模やビルスペックは関係なく、どの企業にも可能性はあります。」と語った。
コロナ禍への対応として、同社は2021年6月にWELL Health-Safety Rating(WELL健康安全性評価)※2も追加で取得した。社内通路を一方通行にして感染対策するなど、ウェルビーイングにつながる新しい試みも実践している。

全席に採用した電動昇降式デスク。高さを上げると目線を合わせて打ち合わせでき、社内コミュニケーションの促進につながっている。

カフェ風の木質系家具でデザインしたミーティングスペース。窓からの景色が眺められるカウンター席が人気だという。

WELL認証の評価項目(コミュニティ)を意識し、日本文化を感じるミーティングスペース。低めの天井で集中しやすく、壁は反響しにくい布団張り。

※1 ABW(Activity Based Working):時間と場所を自由に選択できる働き方のこと
※2 感染症の流行時やその他緊急事態において、来訪者や従業員などの健康と安全に配慮した施設であることを評価するシステム

まとめ

ウェルビーイングで企業の成長を

コロナ禍によって働き方は大きな変革期を迎えています。これまで企業中心で考えられていた経営戦略は従業員中心へと変化しており、さらには「ウェルビーイング経営」へとシフトしつつあります。 オフィス環境におけるウェルビーイングへの対応は企業の成長につながります。業種や現状、目的によって様々な対応が考えられますが、オフィス戦略を見直す際にウェルビーイングに取り組んでみてはいかがでしょうか。

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