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不動産取引の一形態、不動産M&Aとは?
そのメリットとデメリットを比較

2019.06.03

いま、M&A市場が活性化している。1990年台後半から増え続けているM&A市場は、リーマンショックや東日本大震災の影響で一時縮小するものの、2017年には件数にして3050件と、過去最高を記録している※。M&Aが活性化している背景には、後継者問題や人手不足、国内市場の縮小など様々な要因が関係する。その中で、いま、注目を集めているのが“不動産M&A”だ。一般的なM&Aとは違い、「不動産取引を目的としてのM&A」だが、なぜ、いま注目されているのか、そのメリット、デメリットについて、解説する。

※『2018年版 中小企業白書』「M&A件数の推移」より
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf

不動産取引を主目的とするM&Aに注目が集まる理由は、金銭的メリットか

 そもそもM&Aは企業の合併・買収のことを指す。事業規模の拡大や競争力の強化、事業領域の拡大といった企業の成長を意図するもの、後継者不足や人手不足などによって事業継続が困難になった企業の事業譲渡を意図するものなどが、代表的な目的に挙げられる。会社全てではなく、一部事業の譲渡もM&Aに含まれている。
 そのなかで昨今、話題になっているのが、“不動産M&A”だ。M&Aが行われる際に、売却側企業が不動産を保有している場合、その不動産も一緒に譲渡されるが、この「法人が所有する不動産の取引を主目的としたM&A」が、不動産M&Aと言われる。事業や法人そのものを買収することが主目的ではなく、あくまでも不動産取引の一形態としての位置づけになる。

不動産M&Aのメリットとデメリットをそれぞれの立場で比較

 不動産M&Aに注目が集まる背景には、後継者不足や人手不足で廃業を考える企業が増えていることが挙げられる。廃業する場合、不動産を所有する企業では、不動産の売却もしなければならない。ところが、通常の不動産取引で売却しようとすると、不動産売却益に対して、2割前後の法人税がかかる。さらに、税引き後の金額を経営者に配当として分配すると、最大で45%の所得税もかかる。条件によって異なるが、最終的に手元に残る金額が、想定を下回るケースもあるのだ。しかし、不動産M&Aの場合、法人の株式譲渡で「不動産ごと法人を譲渡する」ので、株式の譲渡益に20%の税金がかかるだけだ。廃業を前提としていなくても、不動産を売却したい企業にとって、不動産M&Aのほうが有利だと言えるケースもある。

 購入する立場で見ても、売却側の手取り金額が増えるために、それを見越した価格交渉が可能となり、通常の不動産取引よりも安く不動産を購入できるチャンスとなりえる。ただし、メリットばかりではない。もちろん、不動産M&Aにもデメリットは存在する。

メリット デメリット
売却側 税務効果が高い
(不動産売却益に対する法人税、所得税がかからない)
廃業コストを削減できる
手間ひまがかかる
売却完了まで時間がかかる
売却先が限られる
購入側 税務効果が高い
(登録免許税、不動産取得税、登記申請、不動産登記費用が不要になる)
購入費用を抑えられる可能性がある
簿外債務など、事業を引き受ける際のリスクが発生する

売却側、購入側、双方にとって、金銭的なメリットが大きいことがわかる。また、単なる不動産売却での税務効果にとどまらず。売却側は「不動産と同時に事業も売却している」ので、廃業コストも掛からないことになる。一方、購入側は、廃業コストの負担はあるものの、そこまで見越して価格交渉が可能であり、売主の大きな税務効果を考慮した割安な価格での不動産購入が見込める。
一方で、通常の不動産取引に比較して、手間ひまがかかる、時間がかかること、また、法人を譲渡することによるリスクも発生する。

不動産取引に関する知識とM&Aに関する知識の両方が求められる“不動産M&A”

 前項で挙げられた不動産M&Aのリスクだが、売主にとっては、事業、企業を譲渡するための手続きが増え、半年から1年程度の時間がかかる。これは一般的な不動産取引の倍程度の期間になる。急いで売却したいときなどは、この点は大きなデメリットとなり得る。また、買い手を選ぶという点もデメリットだ。「不動産取得目的で企業をM&Aできる相手」を探すことは、通常の不動産の買い手を探すよりも難易度は高い。なぜならM&Aの場合、売主は売却に関して高い守秘性を求めるため、幅広く買主を探索することが困難であり、探索は一本釣りに近い作業となるためだ。

 購入側では、事業、企業を買い取るために、不動産取引では生じ得ないリスクが出てくる。企業の簿外債務の存在だ。未払金や回収の見込みがない売掛金、従業員への未払い給与、訴訟リスクなどもまとめて引き受けることになる。こういったリスクについては、一般的なM&Aでは専門家がデューデリジェンス(適正評価手続)を行い、これらのリスクの有無を詳細にチェックする。

 不動産M&Aの場合、M&Aの知識が欠かせない。不動産仲介会社のなかには、一般的なM&Aの経験、知識が不足している企業が少なからずある。この部分が不足していると簿外債務などをチェックできず、リスクが増大する。逆に、一般的なM&A仲介を行う企業では、不動産に関する知識、経験が少ない場合がある。こういったM&Aとは仲介企業では、そもそもの不動産の価値や潜在リスクを適正に見積もることができない。不動産M&Aを成功させるには、次の条件を満たした企業の力を借りる必要があるといえる。

・不動産取引に関する知識、経験が豊富である
・通常のM&Aに関する知識、経験が豊富である
・投資助言業と宅建業を兼業する会社としてM&A関連業務に関する知識・経験が豊富である
・売却側と購入希望企業をマッチングできるネットワーク、タスクフォースを編成できるネットワークを持っている

不動産M&Aを取り組む場合、専門家のアドバイスを受けて検討を進めることが重要である。