オフィスビルの木造・木質化

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昨今のオフィス事情でよく耳にするESG投資やWELL認証。「地球環境」や「働く人」への配慮がオフィストレンドとして注目を浴びるなかで、「オフィスビルの木造・木質化」も新たな手段のひとつといえる。
一方で「2023年問題」といわれる都心部における大規模ビルの建設ラッシュや、中小ビルの老朽化などが大きな波としてオフィス業界全体に押し寄せているのも確かだ。
市況変化に対応すべく、木造・木質化といった環境改修がオフィスにどのような価値をもたらすのかを見ていく。

木材を利用したオフィス価値向上と社会貢献

木造化と木質化のちがい

木造化とは?

木造化とは建物の梁・桁・壁などの構造体を木造でつくること。鉄筋コンクリート造や鉄骨造と比べて軽量。コストや工期が短縮できることがメリット。

木質化とは?

木質化とは構造を鉄筋コンクリートや鉄骨でつくり、内装や外装などの見える部分を木で仕上げること。リラックス効果や生産性向上、室内の湿度調整、消臭抗菌やダニの防除など環境改善効果も期待される。

環境認証を取得済みの中小ビルは少ない

SDGs、ESG、サステナブル経営、カーボンニュートラル。このような地球環境に関する社会課題への対応はオフィストレンドにも影響し、オフィスビルへの入居を決める際の条件のひとつになりつつある。東京区部におけるオフィスストック合計に対する環境認証取得ストック量の割合を見ると、大規模ビルだと全体の15%だが、中小ビルは全体のわずか3%に過ぎない。
「環境への配慮」というトレンドを考慮したときに、環境認証の取得につながる建替え・リニューアルは、大規模ビルや他の中小ビルとの競争に勝つ選択肢のひとつとして挙げられる。

東京区部における
環境認証取得ストック量・割合

出所:日本政策投資銀行、DBJアセットマネジメント、価値総合研究所、日建設計による共同調査

なぜ木を使うのか?

SDGsや地球規模の環境対策に大きく貢献

日本は国土面積の3分の2を森林が占める森林大国だ。しかし林業や製造業の就労人口の減少や、安価な外国産材への輸入依存により、国産木材は伐採適齢期(35~50年)を超えても伐採が進んでいない。とくに人工林(スギやヒノキなど)の50%は50年生を超えており、こうした状況が国内の森林循環の停滞を招いている。
ビルの木造・木質化といった環境改修は森林循環の促進だけでなく、木の持つ炭素貯蔵効果によるSDGs目標の達成やカーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に貢献できる。

※伐採されても幹や枝といった木の内部に二酸化炭素を貯蔵し続ける特性のこと

出典:「木材の利用の促進について」(農林水産省)https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/kidukai/ を加工して作成

ウッド・チェンジを後押しする国の施策

「ウッド・チェンジ」は、国産木材の活用推進をアピールする運動。公共建築物だけでなく民間建築物にも利用促進を普及させるための法整備や、木造化技術を活用したプロジェクトへの事業支援を林野庁など各省庁が主体となり推進している。

2010年:公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律 制定
2021年:脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律 施行
2022年:サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)及び優良木造建築物等整備推進事業 募集開始

木材利用を促進する民間の建築技術

中大規模の建築物を木造・木質化するためには、新たな建築技術が必要不可欠。各建設会社から多くの技術が開発されている。性能面では、耐火性、耐震性、施工性、そして経済性などが鉄骨造と同等、または優れているケースもある。

耐火性

日本で初めて2、3時間耐火の国土交通大臣認定を取得。

株式会社シェルター
木質耐火部材
「COOL WOOD®」

耐震性

免震構造との組み合わせで大地震時にも弾性状態を保持。想定外の地震に対しても倒壊を防止。

施工性

工場でユニット化して現場に搬入。1フロア当たりの施工期間は鉄骨造と同程度の7日間。都心の狭小スペースでも作業可能。

株式会社大林組
十字形の接合法
「剛接合仕口ユニット」

経済性

大型資材の搬入が不要であるため、工期も短縮へ。鉄骨造・鉄筋コンクリート造とほぼ同等の耐震性能を確保しながら、騒音や振動が少ないため、建物を使いながら改修工事も実現できる。

株式会社竹中工務店
耐震補強技術 木のブレース
「T-FoRest® Light」

木造・木質化を実施した例

東京海上ホールディングス株式会社および東京海上日動火災保険株式会社は、ビル本館および新館を国産木材を使用した高さ100mの「木の本店ビル」への建替えを発表。
屋上庭園だけでなく、ビルを支える柱の多くに木材を使用。床の構造材にCLT(直交集成板)を用いるなどして、木材の使用量は世界最大規模となる予定だ。エントランス付近にも樹木を植え、働く人だけでなく訪れる人にも自然に触れる機会を提供する。
サステナブルな社会の実現だけでなく、地上部分を全館免震とするなど高い災害対応力も備えている。こうした木造・木質化のビル建築を通じて、経済面や企業価値向上だけでなく、日本の林業再生や地方の雇用機会の創出を促し、地域循環型経済の構築への貢献が期待される。

画像提供:東京海上日動火災保険株式会社
画像提供:東京海上日動火災保険株式会社

東京海上日動ビル建替計画

所在地:東京都千代田区丸の内1丁目6-1(地番)
延床面積:約130,000㎡
構造:S造/木造/SRC造(免震構造)
階数:地上20階、地下3階、塔屋2階
高さ:約100m
竣工:2028年度予定

インタビュー : 木造・木質化でESGの“EとS”を意識したオフィスづくりへ

株式会社 価値総合研究所(日本政策投資銀行グループ)
不動産投資調査事業部長
主任研究員

室 剛朗 氏

CASBEE®やLEED®といった環境認証は、オフィス価値を端的に表す、いわば“物差し”となっています。新築・大規模ビルでは積極的に取得していますが、中小ビルでは取得コストがネックとなり取得が進んでいない状況です。しかし、テナントを対象にした意識調査によると、テナントの意識は徐々に変化していることが判明しました。
2022年に実施した『オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査』※1によると、環境配慮対応ビルに対して「5%以上の賃料上昇を許容する」と回答したテナントは4割を超える結果でした。対外的に情報開示の必要性が少ない中小企業においてはまだ認知度が低いものの、環境対応ビルの賃料がそうでないビルの賃料よりも上昇する、いわゆる“グリーンプレミアム”も散見され、今後この流れは不可逆的なものとなるでしょう。
一方で、慢性的な人手不足が続く日本の労働市場において、人材は売り手市場です。コロナ禍の影響でライフスタイルが変化し、優秀な人材はリモートワークやサードオフィスなど場所にとらわれない働き方ができる企業を選択する傾向にあるようです。こうした状況も相まって、テナント側は従業員のウェルビーイングやリテンション(人材確保)を意識したオフィスビルへのシフトチェンジが見られます。
オフィスビルの木造・木質化はESGの“E(Environment:環境)・S(Social:社会)”を満たすため注目を集めています。国産木材利用の観点からもオフィスビルの木造・木質化は進展が期待されますが、そのためにはAM※2・テナント・デベロッパー、各ステークホルダーが同じ方向を向くための施策や、それを後押しする制度が増えていくことが必要となります。建替えやリニューアルに踏み切りにくい中小ビルのケースでも、「木造・木質化したスペースを複数のビルやオフィスで共有する」などウェルビーイング効果を図ることで、大規模ビルの“点”に対して、“面”で市場のニーズに応えていくことができるかもしれません。

※1 作成元:株式会社日本政策投資銀行、株式会社価値総合研究所
※2 アセットマネージャーの略。アセットオーナー(資産保有者)からの委託を受けて資産の運用を行う組織(投資顧問会社等)

環境配慮対応に対する賃料上昇許容度/期待度

テナント(n=197)・デベロッパー等(n=17)・AM(n=34)  ※単回答
※テナントには許容できるかどうか、デベロッパー等・AMには期待できるかどうか質問している
※デベロッパー等、AMは1企業につき大規模・中規模・小規模ビル別で回答した結果を単純合計して割合を算出しているため、回答者数全体よりもサンプル数が多くなる場合がある。
出所:日本政策投資銀行、DBJアセットマネジメント、価値総合研究所、日建設計による共同調査
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