ダンコンサルティング 寄稿コラム 第2回 CRE戦略を考えるための基本パターン図の読み方

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執筆:株式会社ダンコンサルティング
全5回のうち、今回は、「第2回」のご紹介です。
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不動産有効活用の選択肢

「不動産の有効活用」とは、その呼び方の通り、不動産を有効に活かすことに最大の意義があります。不動産の中でも主としては、土地の活かし方ということです。また、昨今は、古い建物をどう活かすかという視点で建物の有効活用「リノベーション」も脚光を浴びてきました。いずれにしても、企業であれば今後の経営計画、個人であれば将来の生活設計という大きな流れの中で、「資産」としての不動産をどのように活かしていくのかというわけです。
土地は一度手放してしまえば同じものは二度と手に入りません。また、売却すれば売却益に課税されるなど、基本的には手放さずに済めばそれに越したことはないとも言えます。
それでも、十分な検討を行った結果、将来にわたってあるいは現時点で、土地を売却するのが最良の選択であるという結論に達したなら、「売却」も幅広い意味では「有効活用」の一つと言えるでしょう。
第1回の冒頭の例のように、新型コロナウイルス感染症による社会変革を意識した大手企業が戦略的に自社所有物件を売却しているのも、まさに有効活用なのです。その土地の持っているポテンシャルを「一時期にまとめて顕在化させる」という「売却」が最善の経営判断であると方針を定めたというわけです。
ちなみに、通常言われている有効活用という手法は「中長期的に引き出す」ことであり、現状のまま凍結するというのは「ポテンシャルが上がるのを待つ」戦略だということです。
いずれにしても「活かす」とは「使う」とイコールではありません。有効活用と言うと、「その土地から何らかの収益を上げること」というイメージが強いのですが、著者はこれを「狭義の有効活用」と呼んでいます。したがって、広義の有効活用に「売却」や「現状維持」などという戦略があるというわけです。
こうした不動産有効活用の選択肢を列挙し、パターン化してまとめたものが図表①です。

図表① 不動産活用のパターン図

これらは、不動産所有者からみた不動産活用の選択肢と言えます。企業、あるいは個人が不動産戦略を実行するにあたって、自社(あるいは自分)の戦略に最もフィットする手法を見つけ出すマニュアルとも言えます。
この不動産有効活用のパターン図は、筆者が1985年に作成したものですが、その後、新しいビジネス形態や、借地借家法の改正などにともない、企画賃貸(需要創造型)ビジネスや定期借地部分を付け加えています。
パターン図の左側が、不動産所有者が所有している不動産をどのように活用していくかを考えるためのスタート地点です。不動産を所有している現状がどのような状況であれ、その不動産を今後どのように活用していくかについては、図表のように大きく4つのタイプに分かれます。
前述したように、広い意味の不動産活用には、現状は何も利用していない、また、今後も利用しない、または売却してしまうことなども全て含まれます。企業が重要な経営資源の一つである不動産資産を何の意味もなく空地にしていたり、売却したりすることはないという前提があるからです。
そのため、いくつかの不動産活用を行う選択肢を考える前に、不動産所有者の思いや意志が最も重要であることを理解しておく必要があります。
一方、右側は、それぞれの不動産ビジネスにかかわる企業グループの商品群であるといっても過言ではありません。等価交換が得意な企業や借地権ビジネスで成長している企業、あるいは土地を借りて事業を生み出したいと考える各種のテナント企業からみた位置付けです。
このパターン図を理解しておくとCRE戦略(不動産活用)の立案が比較的容易になってくるでしょう。

不動産活用とCRE戦略の違い

「CRE戦略」と「不動産の有効活用」の最大の違いは、このような視点の違いにあります。図表②のように、企業の所有する不動産という所有者の戦略的な視点から考えるか、不動産という立地環境をベースにした視点から考えるかの違いであるということです。
つまり、企業(個人)の所有する「経営資源としての不動産」という立場から戦略的な不動産の活用法を考えていくのか、それとも、「その不動産」にとっての最適の活用法を考えていくのかの違いです。不動産単体としての最適の活用法と経営戦略(個人にとっては生活設計など)の中で不動産をどう活かしていくのかという場合には明確な違いがあるということです。
そのため、企業の持つ他の様々な経営資源を上手にドッキングさせて不動産の付加価値を高めていくための戦略こそがCRE戦略というわけです。

図表② 不動産活用のための調査要因とその優先順位

不動産所有者の考え方を知る

不動産を活かすということは立地や面積、あるいは周辺環境などという不動産そのものに関する様々な要素の調査が必要であることは間違いありません。ただ、それ以上に重要なポイントが2つあります。
一つは、不動産を所有しているオーナー(企業や個人)の考え方や背景をしっかり理解しておかなければならないということです。 なぜなら、当然のことですが、どう活用するかの意思決定を行うのは「不動産」ではなく「不動産所有者」だからです。
もう一つは、現状における社会の正しい姿の確認とこれからの時代の方向性をどのように読み解いていくかということです。
戦略的に不動産を活用するということは、本来、図表②のように左側(所有者要因)からスタートしなければなりません。ところが、ほとんどの不動産活用に関わるプロフェッショナルは、右側(立地要因)からスタートしていた時代が続いていました。
1980年代から筆者は、企業や個人が所有する不動産という経営資源は、所有者である企業の継続、発展と個人の生活設計のために上手に活かすことが、結果として、社会の役に立つという姿勢を貫いてきました。不動産に新しい付加価値を生み出すための利他的循環型ビジネスとして捉えていたということです。
CRE 戦略を極めて簡単に言うと、不動産を所有者の視点、社会や時代からの視点という2つのモノの見方を重視しながら新しい価値を生み出すということです。活かしきれていない不動産をどう活かすかは、不動産の個性からではなく「不動産所有者の個性」 や「社会、時代の背景」を理解していくべきだというわけです。
ただ現実的には、不動産は「所有者の意識」と「土地の立地」という2つの個性をどのように組み合わせるかがポイントになります。「所有者」も「土地」もいずれも2つとない個性であり、その活かし方を現実の社会と時代の流れに問うことが重要なのです。そのためにも、所有者要因は不動産活用を考える場合の第一義にならざるを得ないのです。
所有者要因とは不動産所有者(企業や個人)自身の問題のことです。
たとえば、企業が所有している不動産の場合、自社の経営資源(ヒト、モノ、カネ、ノウハウなど) の活性化につなげることで、シナジー効果を得られるのかどうかがポイントになってきます。
一方、個人の土地所有者なら将来の生活設計や生き方への支援、あるいは、相続対策などに不動産をどう活かしていくべきかを考えるということです。
個人所有地の場合は、ファミリー全体やファミリーカンパニーなど、同族関係者全体が対象となってきます。近隣地が同族関係者なら近隣用地も企画の対象として考えておかなければなりません。
要するに、いずれにしても不動産所有者が考えている不動産活用の動機、目的、ビジョンをまず明確にしておくことが最大の鍵になるのです。
そうすると、所有者要因の分析には所有者らとの直接交渉による徹底したヒアリング (聴く力) が要求されてきます。提案者は聞き役に徹しながらも、狭い範囲で形成されている概念や発想に対してはさりげなく否定し、その代案を論理的に、倫理的に提言していく人間力が要求されます。
不動産所有者と一体となって幅広い視点から的確な質問を繰り返すことで、初めて不動産所有者の意識の中にあるウォンツ(wants)がニーズ(needs)に変換して言葉として返ってきます。所有者要因の分析こそが企画提案の前提条件にならざるを得ないのです。

未来の社会を意識する

「所有者要因」と共にもう一つの重要な要素である「社会要因」のベースは、「これからの社会にとって必要となるものは何か、どういう切り口が要求される社会になるか」ということです。
ここで言う社会とは、目の前にある現実の社会を意識しながら未来を考えていくというスタンスが求められてきます。要するに、過去(歴史)の蓄積である現在の社会をどのように理解しておくのか、その結果として現実の社会が今後どういう方向に向かっていくのかを読み取っていくというわけです。
不動産を活用して新しい事業を構築するということは、まさに「投資」です。 それも通常は多額の資金を投入し、 その建物は仮設でない限りかなりの長期間にわたって影響を与えます。
ここで言う影響とは、建築物が地域社会に与える影響、建築物が社会に貢献することによって収益を得る相手への影響、地域社会が建築物に与える影響などのことをいいます。そのためには、社会や経済の潮流を常に定点観測しておかなければなりません。これは既存建物をリフォーム・コンバージョンする場合も同様です。
時代の流れや社会の動向をきちんと捉えながら、単なるブームではなく、法律、税制、都市計画などをベースに、様々な角度から分析、検討し、企画にまとめ上げるための一要因が社会要因ということです。
ただ、仮設ビジネスとして提案する場合には大口の投資を行うことは少ないため、ブームを活用することは極めて重要になってきます。なぜなら、投資が少ないだけでなく活用期間も短期で計画するため、近未来の見通しが立てやすいからです。同時に、仮設ビジネスの投資計画には近い将来の撤去費用も含めてROI (Return On Investment:投資利益率)を考えておく必要があります。
そこで、社会要因を調べるためのメインとなる8つの項目を図表③にまとめておきましたので参考にしてください。

図表③ 8つの社会要因

  1. 社会経済情勢
  2. 経営・金融環境情報 (業界・業態の推移を含む)
  3. 法規制 (開発規制や建築規制を含む)
  4. 税制
  5. トレンド分析
  6. 都市計画の検証
  7. 近隣対策
  8. 生活者動向

「需要創造」の考え方が必要に

これまで土地の有効活用は、一般賃貸事業が主流でした。これは、初めのうちは比較的、条件に恵まれた土地で有効活用を図ることが多く、事業を行うにあたっての手間暇を考えれば、テナントさえ確保できれば安定的な収入に結び付く賃貸事業が効率的であることが最大の理由だったのでしょう。
本業の不振を補うための手っ取り早い多角化事業として有効活用に取り組むケースが多かったことも要因の一つです。事業を拡大するというよりもマイナスの補填などに重点があったため、安定性にウエートがかかっていたというわけです。
賃貸事業は安定性が魅力ではありますが、あらかじめ規模と賃料によって最大限得られる収入は決まってしまいます。そして、収益を決定する要因である賃料は、立地や土地の条件によってほぼ決まってしまうのです。その意味では賃貸事業は「立地環境型事業」と言えるでしょう。
コロナ禍でも企業の屋台骨をフォローしたのも、あるいは、未来戦略として新たに収益不動産事業に参入されだしているのも、まさに、「安定収益の確保」であり、今後も有効活用としての賃貸事業が「基本形」となっていくことは間違いありません。
しかし、十分な収益が見込める好条件の土地は限られています。さらに社会情勢などを考えると、今後は不動産にかかわる税負担や管理維持コストが増大していきます。そのため、所有する不動産自体の収益性を高めていかなければならない環境にあることも事実です。単に建物や施設を作っただけでは集客ができにくいところでも有効活用を考えなければなりません。
こうした社会の大きな変革の中で事業を成り立たせるには、当然、何らかの工夫を凝らす必要があります。つまり、「立地環境型事業」ではなく「需要創造型事業」を考えなければならなくなるというわけです。
また、立地環境型の事業が成立する土地でも需要創造型の取り組みをすれば事業収益性は高まる可能性があります。したがって、人口減少、環境劣化といった変革した時代における有効活用は、いかに「その土地に需要を引き付けるか」を考えることが最重要になりだしているわけです。
「不動産活用」が「CRE戦略」というフレーズに変わったのはまさに「社会要因」によるものと言えるでしょう。

個人のCRE戦略 = FRE(ファミリーリアルエステート)戦略

日本にある土地は時価にして70%近くは個人所有(個人的企業所有も含む)のため、こうしたケースはCRE戦略には該当しません。ただ現実には、個人所有の不動産もCRE戦略と同じように不動産単体での活用を考えるのではなく、その所有者のビジョンや想い(つまり、何のために活用するのか)をベースとして長期的なスタンスから活用を考えなければなりません。そういう意味では、戦略的発想が必要なのは企業も個人も変わらないということなのです。
個人所有の場合は相続などが生じますので、家族や親族単位(ファミリー)での戦略的な提案が必要になります。したがって、FRE(ファミリーリアルエステート)戦略とも呼ばれています。FREもCREと同じように不動産を戦略的に捉える時代に入っているのです。

執筆者

ダンコンサルティング株式会社 代表取締役
経営戦略コンサルタント(税理士)・建築企画プロデューサー

塩見 哲 しおみ さとし

ダンコンサルティング株式会社
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公認会計士事務所を経て、1976年に税理士資格を武器として中小企業経営戦略コンサルタントとして独立。以後、48年にわたり中小企業の目的である「継続」をテーマとして、企業哲学、理念、風土を軸とした経営戦略の立案や企業診断・再生支援・出店企画・資金戦略・人材教育など、経営資源の活性化に関する戦略的コンサルティング業務を一貫して行っている。同時に、法人や個人の所有する不動産の有効活用法や建築企画プロデュース業務、及び、法人や個人の事業継承や相続戦略なども40年以上実践している。 講演、講義、研修講師などは2,000回を超え、経営、資金、不動産、相続、人材などに関する著書は63冊を出版している。

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