渡辺弁護士 寄稿コラム 第1回 判例から学ぶ「自然由来の土壌汚染に対する責任の有無」

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目次

問題点と結論

【問題点】
土地の売主は、売却した土地の土壌が有害物質で汚染されていた場合、汚染の原因が自然由来であっても買主に対して責任を負う必要があるのでしょうか。

【結論】
土地の土壌が有害物質で汚染されている場合、たとえその汚染が自然由来であっても、売主は買主に対して責任を負う必要があります。

名古屋高等裁判所の判決(2017年8月31日)

名古屋高等裁判所  2017年(平成29年)8月31日判決
判タ 1447 号 108 頁

事案の概要

売買契約の背景

売主Yは、2014年11月25日に愛知県A市内の土地と建物を買主Xに1億7,000万円で売却しました。契約には「契約後引渡し前に、買主の費用負担で土壌汚染調査を行い、汚染が検出された場合は契約を白紙解約できる」という特約がありました。

土地の過去の使用状況

本件土地は、売主Yが1986年にA市土地開発公社から購入し、1989年に建物を新築して賃貸していました。建物は可燃性のウレタンを保管する倉庫として使用されていました。

買主Xの購入目的

買主Xは一般廃棄物処理を生業とする会社で、新たな作業場および駐車場用地として本件土地を取得しましたが、引渡し前に土壌汚染調査を行ったところ、環境基準値の2倍以上のヒ素が検出されました。

訴訟の経緯

買主Xはこの結果を受けて契約を解約し、手付金の返還を求めて訴訟を提起しました。売主Yはこれに対し、人為的ではなく自然由来のヒ素であるため、解約は無効と反論しました。

裁判結果

名古屋地方裁判所は解約を有効と認め、名古屋高等裁判所もこれを支持しました。

図表1

裁判所の判断

土壌汚染の判断基準

裁判所は、土壌汚染の有無を判断する基準として環境基準を使用し、買主Xが安全で苦情のない土地を希望していたことも考慮し、本件ヒ素が検出されたことが特約に該当すると判断しました。

自然由来の汚染についての責任

自然由来の有害物質による汚染も土壌汚染対策法の適用対象であり、特約に基づく解約事由に該当すると判断しました。

解説

自然由来の土壌汚染の取扱い

①土壌汚染対策法制定当初の考え方

法制定当初、自然由来の土壌汚染は法の対象外とされていました。

②環境省による制度の改正

2009年(平成21年)の法改正により、土壌汚染の環境基準を超える有害物質は人の健康に深刻な影響を与えるため、自然由来の有害物質も土壌汚染対策法の適用対象となり、適用範囲に含まれるようになりました。つまり、健康被害防止の観点から人工的や自然由来といった区別を行わず、対応することが求められるようになりました。

図表2

土地の売却にあたっての土壌汚染の考慮

① 調査実施の有無と調査方法の選択

土地を売却する際、事前に土壌汚染の調査を行うかどうか、またその調査方法をどう選ぶかは重要なポイントです。特に、売買契約に特約を設ける場合は、どのような調査を行うか、調査結果に基づいてどのような対応を取るかを明確にしておくことが重要です。

② 売買代金の決定

土壌汚染の有無やその程度によって、土地の価値は大きく変わる可能性があります。したがって、売買代金を決定する際には、汚染の有無やそのリスクを考慮に入れる必要があります。基本的には、汚染リスクを反映した価格交渉が行われることが一般的でしょう。

③ 特約の設定

土地の売買契約においては、土壌汚染に関する特約を設けることが一般的です。例えば、汚染が発見された場合の契約解除権や、汚染除去の費用負担についての取り決めなどを明確にしておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。

図表3

まとめ

土地の売却においては、土壌汚染のリスクを適切に管理することが重要です。特に、自然由来の有害物質による汚染が発見された場合でも、売主はその責任を免れることはできません。売買契約においては、土壌汚染に関する調査の実施やその結果に基づく対応、特約の設定などを通じて、リスクを適切に管理し、買主との信頼関係を築くことが求められます。
このように、土壌汚染に関する問題は土地の売買において非常に重要な要素であり、適切な対応を取ることが求められます。
かつて企業が所有する不動産は、資金繰りが悪化するなどの特段の事情がない限り、ほとんど売却されることはありませんでした。しかし現在では、不動産は流動化しており、必要なときに購入して、必要がなくなれば売却して資金化するという経済活動が当然になっています。そもそも不動産は、人々の需要に応じて利用されるのが本来のあるべき姿です。土壌汚染は、不動産の流動性向上におけるハードルのひとつではありますが、適切な対策を講じて、不動産市場の流通促進に取り組んでいただきたいと思います。

執筆者

山下・渡辺法律事務所 代表弁護士

渡辺晋

第一東京弁護士会所属。2010年4月~2013年3月に最高裁判所司法研修所 民事弁護教官、2009年3月より国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長、2013年6月~2015年10月に司法試験考査委員、司法試験予備試験考査委員、2015年4月よりマンション管理士試験委員。2002年に山下・渡辺法律事務所を設立し、代表弁護士として民事事件を中心に法律事務(業務)を従事。著書に『不動産最新判例100』『不動産登記請求訴訟』(日本加除出版)、『建物賃貸借』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。

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