「老朽化した本社ビルの対策」
第3回 移転元の検討方法

2022.03.31

前コラムで、老朽化した本社建物を保有している企業は「これからどうするか」について前広に検討し、選択肢に相応しい会社を選定し依頼、スケジュールを管理する必要性がある事をお伝えしました。
そこで、第3回目となる本コラムでは、移転元の不動産についてどのように検討していくかについて説明します。
第1回はこちら>「老朽化した本社ビルの対策」第1回 老朽化した本社の移転方法
第2回はこちら>「老朽化した本社ビルの対策」第2回 移転先の検討方法

移転元について「売却する」「賃貸する」事が決まっていても、「8つの選択肢」について検討する事をお勧めしています。

移転する場合に検討する8つの選択肢

移転する場合に検討する8つの選択肢

なぜなら「売却する」と言っても、「既存建物のまま売却する」「既存建物をリノベーションしてから売却する」「既存建物を解体し、更地にしてから売却する」「既存建物を解体し、更地にした後に建物を建築してから売却する」という方法があるからです。それぞれ買主候補者が変わりますし、売却価格も変わる可能性があります。買主候補者が変われば、相談をする仲介会社も変わってくる事になります。
同様に、「賃貸する」場合も複数の選択肢があります。

メリット・デメリットを比較しながら一から検討する場合でも、「売却する」「賃貸する」事が決まっている場合でも、次のような事前準備をする事をお勧めします。詳細は拙書(『図解 会社の「遊休地・老朽化建物」有効活用のすべて』(日本実業出版社))をご参考にして頂きたいですが、主な項目は次のとおりです。

事前準備

項目

ポイント

書類

確定測量図、建物竣工図、公図、登記事項証明書(土地、建物)、地図(広域図、詳細図)

公法規制調査

用途地域、建蔽率、容積率、路線価

現地簡易調査

前面道路の幅員、接道している長さ、最寄駅までの徒歩分数

書類
土地を購入した時の書類、建物を建築した時や大規模修繕・増改築を行なった時の図面や資料を用意します。建物を解体する費用算出のためですが、大規模改修工事により再び使えるようにしたり、別の用途に変更して使えるようにしたりすることも検討したいからです。自社が使わなくても他社に賃貸したり売却したりする選択肢を増やす事が出来ます。

公法規制調査
「用途地域」「建蔽率」「容積率」という言葉を聞いた事はあるでしょうか。その土地にどんな建物(事務所、商業施設、物流倉庫など)をどんな大きさで建てて良いかが決まっています。これらの公法規制は各市区町村で確認出来ます。ホームページで開示している市区町村もあります。

現地簡易調査
鉄道最寄駅から現地まで、徒歩で実際に何分かかるかを計ります。インターネット地図でも時間を算出する事はできますが、信号機での待ち時間などが含まれていない場合があります。また人一人しか歩けないような細い生活道路はルート表示されない場合があります。

土地に接している道路の幅を測ります。歩測で結構です。車1台が通れるだけの道路幅の場合、建てられる建物に制限がかかる場合があります。

建築可能な建物をリストアップする

用途地域を調べたら、「用途地域による建築物の用途制限の概要」を参考に建築可能な建物用途をリストアップします。
「用途地域による建築物の用途制限の概要」は各都道府県で確認出来ます。ホームページで開示している都道府県もあります。

※参考東京都市整備局より「用途地域による建築物の用途制限の概要」

買主や借主をイメージする

「事務所など」の場合、「①事務所用地として売却する」「②賃貸オフィスビルを建築して賃貸する」「③賃貸オフィスビルを建築して賃貸し、収益物件として売却する」などの方法があります。「住宅」も可能であれば、「④住宅用地として売却する」「⑤賃貸マンションやアパートを建築して賃貸する」「⑥賃貸マンションやアパートを建築して賃貸し、収益物件として売却する」などの方法があります。①④であればデベロッパー、②⑤であれば法人、③⑥であれば投資家が買主候補者または借主候補者となるように、方法によって買主や借主が変わります。そうしますと相談する仲介会社も変わります。建物建築を依頼するゼネコンも変わります。収益物件にする場合は、サブリース契約を締結している方が良い場合があるので、サブリース会社も相談相手になります。

8つの選択肢を絞り込む

老朽化した本社建物をどうするかという検討初期段階からの「全体スケジュール」、初期投資額や得られる賃料収入などの「財務的な視点」などから、8つの選択肢を絞り込みます。
選択肢を絞り込んだら「募集要項」を作成します。「募集要項」には、貴社が大切にしたい事、スケジュール、リスク負担などについて記載します。特に「賃貸する」「収益物件にする」場合は記載する項目が多岐にわたりますので、できる限り作成される事をお勧めします。これにより相談する仲介会社は買主や借主の探索を、ゼネコンはどのような建物を提案したら良いか、イメージがしやすくなります。

相談する

第1回コラムで触れたとおり、仲介会社やゼネコンは強みとする分野やエリアが異なります。各社の強みを把握し、適切な会社を選定し相談します。
多くの場合、複数の会社に相談する事になりますので、プロジェクト全体をコントロールする司令塔の役割を貴社内の誰に任せるかを決めておきます。

3回にわたって説明をしてきましたが、イメージを掴んで頂けたでしょうか。今回は、「老朽化した本社建物」を題材に説明しましたが、物流倉庫や工場を移転する場合は検討する項目が更に増えます。機会がありましたら本コラムで説明させて頂きたいと思います。

不動産総合コンサルティング株式会社
下市 源太郎

【筆者プロフィール】
関西学院大学卒。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。法人や企業年金に対する資産運用コンサルティング業務を経て、不動産部門へ。売買仲介のほか、不動産活用コンサルティングと賃貸借仲介(オフィス、商業施設、物流倉庫など)の専任者として、10年超チームを率いる。その後、デロイト トーマツ コンサルティングへ転職し、経営方針や中期経営計画に合致した不動産戦略策定から個別不動産診断、実行まで幅広いサービスを提供する。約450社、2,500人以上にわたる人脈が強み。
2020年3月『図解 会社の「遊休地・老朽化建物」有効活用のすべて』(日本実業出版社)を上梓。趣味はモータースポーツ参戦とゴルフ。

公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト
一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
宅地建物取引士