一般財団法人 日本立地センター 寄稿コラム アンケート調査から読み解く企業の立地動向

目次
一般財団法人日本立地センターでは、毎年国内の製造業1万5千社、物流業(道路貨物運送業、倉庫業、こん包業、卸売業の4業種)5千社の計2万社を対象に、事業拠点の立地(新設・増設・移転)を中心とした立地意向の把握を目的とするアンケート調査を実施している。2024年度は、8月15日~9月6日で調査を実施した(回収率は、13.2%)。以下に結果について概説する(図表11までは立地計画があるとした企業、図表12以降はアンケート回答企業を対象にしている)。
<要約>
本調査では、立地計画を有する企業の割合が4年ぶりに前年度と比べ低下したが、2021年度以降の高水準の状況は続いており、依然として企業の新規立地意欲は底堅いものと考えられる。
その要因として、①サプライチェーンの強化に伴う立地の促進、②AIやデータセンターなど半導体分野(半導体製品・部素材・製造装置等)への積極投資、③脱炭素(GX)・DXなどの分野における新たな投資、④人材確保や働き方改革への対応など、国内外の社会経済環境の変化があげられる。
立地計画の理由・背景は、「需要増への対応」が5割を超えており、それに加えて、製造業では「手狭感の解消」や「老朽化」が高く、物流業では「手狭感の解消」や「市場開拓」が高い。また、立地環境において重視する要素は、「用地価格」や「交通アクセス」が7割を超えており、次いで、製造業では「災害リスク」や「豊富な労働力」が高く、物流業では「取引先・市場との近接性」が高かった。
昨今の旺盛な立地意欲がみられる反面、産業用地や企業立地に適した土地の不足感は強まっている。また、製造業よりも物流業が用地取得に難航している状況も確認できた。
このようなことから、自治体等に対しては、「優遇制度の充実」、「用地等の受け皿の整備・供給」、「域内外の交通アクセスの向上」、「人材確保・育成の支援」を特に求めている。政府等に対しては、「資金面の援助」、「地権者への譲渡所得に対する税制優遇」、「土地利用調整の円滑化」、「工業用水等インフラ整備」を特に期待している。
依然として企業の立地意欲は底堅い
事業拠点の立地計画(新設・増設・移転)の有無については(図表1)、「計画がある」21.3%、「未定」10.5%、「計画はない」67.6%であった。コロナ禍以降3年連続で増加してきた「計画がある」企業の割合(以下、立地計画割合とする)は、前年度から3.7ポイント減少した。業種別でも、製造業が3.9ポイント、物流業が4.3ポイントの減少となった。このように立地計画割合は、前年度より低下したものの、2021年度以降の高水準の状況は続いており、依然として企業の立地意欲は底堅いものと考えられる。

図表1 立地計画割合の推移
製造業について業種別構成比(日本標準産業分類・中分類)をみると(図表2)、例年と同様に金属製品15.6%、食料品13.0%、生産用機械器具11.1%の3業種が上位となっている。

図表2 立地計画ありと回答した製造業業種別構成比の推移
計画における立地形態(新設・増設・移転)については、図表3のとおりで、物流業の「新設」が中心の傾向は続いている。

図表3 立地形態
立地計画の着工予定時期について(図表4)、全体では「5年以内」までで81.9%とほとんどを占めている。業種別では、これまで同様に、物流業の方が製造業よりも「早急に」の割合は高いものの、「3年以内」、「5年以内」までを加えると、製造業が前年度比1.4ポイント増加し、逆に物流業は10.1ポイント減少して、ともに81.6%となっており、以前に比べて物流業による早期着工の意向が低下している。

図表4 着工予定時期
立地を計画している主な施設は(図表5)、製造業で「工場・生産施設」、物流業で「倉庫・物流施設」と、ほぼ例年どおりの結果となった。そのなかでも、「本社施設(機能)」が、全体で前年度比3.5ポイント、製造業で同4.2ポイント、物流業で同5.0ポイントと増加している。製造業は、この項目を追加した調査を実施した2020年度から最も高い割合となった。

図表5 対象施設
立地計画に係る用地の入手状況は(図表6)、「入手済」が、全体では前年度比8.6ポイント、製造業が同8.9ポイント、物流業が同5.8ポイントの減少となり、「入手済」が大きく減少している。この背景には、全国的な用地の供給不足により、用地確保に苦労している状況がみられる。

図表6 用地の入手状況
従来どおり3大都市圏が人気
製造業の候補地域では(図表7)、「東海」に続き、「南関東」、「近畿臨海」と3大都市圏が例年同様に上位となっている。これに続いて、「近畿内陸」、「甲信越」、「北関東」・「四国」となっている。なお、候補地域について、具体的な都道府県名をあげた回答では、神奈川が9件、埼玉が8件、静岡・愛知・大阪が7件などとなっている。「海外」はベトナムなど東南アジアがあげられた。
候補地域を本社所在地と同じ域内に検討する傾向が高く、その割合は、78.7%であった。これを本社所在地別にみると、「北海道」、「北東北」、「北陸」、「北部九州」、「南部九州」では、100%が域内への立地を志向しているのに対し、企業数が多い「南関東」や「近畿臨海」はその割合が低い。ただし、本社が「南関東」の企業は「北関東」8件、「南東北」7件と他地域への立地意向も有する。本社が「近畿臨海」の企業は、「近畿内陸」12件と他地域も志向しているが、近隣地域が多い。

図表7 製造業の本社所在地と候補地域
<本調査における候補地域の分類>
〇北海道:北海道 ○北東北:青森・岩手・秋田 ○南東北:宮城・山形・福島
○北関東:茨城・栃木・群馬 ○南関東:埼玉・千葉・東京・神奈川 ○甲信越:新潟・山梨・長野
○東海:岐阜・静岡・愛知・三重 ○北陸:富山・石川・福井 ○近畿内陸:滋賀・京都・奈良
○近畿臨海:大阪・兵庫・和歌山 ○山陰:鳥取・島根 ○山陽:岡山・広島・山口
○四国:徳島・香川・愛媛・高知 ○北部九州:福岡・佐賀・長崎・大分
○南部九州:熊本・宮崎・鹿児島・沖縄
物流業の候補地域は(図表8)、「東海」、次いで「南関東」、「近畿臨海」・「北部九州」となっている。
本社所在地と候補地域を同じ地域とする割合は、69.0%で近年では最も高い割合となった。これを本社所在地別にみると、「北海道」、「甲信越」、「北陸」、「山陰」で域内への立地意向が100%だったのに対し、「近畿内陸」、「近畿臨海」の企業は、5割以上が域外を志向している。その他、「南関東」、「四国」、「南部九州」なども他地域を志向している割合が高い。また、製造業に比べて、本社の近隣地域だけではなく、本社から遠い地域も候補地域となっている。

図表8 物流業の本社所在地と候補地域
「小規模」な用地「購入」の傾向
用地の入手方法について(図表9)、全体では「購入」が3年連続で増加し、7割近くが回答している。
業種別では、製造業の方が物流業よりも「購入」の割合が高い。前年度4分の1程度あった物流業の「賃借」は8.0ポイント減少した。「どちらでも可」は、全体、製造業、物流業のいずれでも前年度よりも割合を下げた。

図表9 用地の入手方法
想定される用地規模は(図表10)、全体では「0.5ha未満」が最も多く、次いで「1~3ha未満」、「0.5~1ha未満」となっており、想定規模は小さくなっている。
業種別には、例年同様、物流業が相対的に大きな面積を想定しており、「1~3ha未満」、「3~6ha未満」ともに製造業の割合よりも高くなっている。逆に製造業が、「0.5ha未満」、「0.5~1ha未満」と小さな面積の割合が物流業より高くなっている。

図表10 規模別用地面積
立地計画の理由・背景
立地計画の理由・背景については(図表11)、製造業では、多い順に「手狭感の解消」、「需要増への対応」、「老朽化」となっている。物流業と比較して、「手狭感の解消」、「周辺の宅地化」が高い。
物流業では、多い順に「需要増への対応」、「手狭感の解消」、「市場開拓」となっている。製造業と比較して、「需要増への対応」、「市場開拓」、「働き方改革への対応」、「サプライチェーンの再編」が高い。国土交通省の宅配便等取扱実績によると、2013年は約36億個であったものが、2023年は約50億個となるなど荷物の取扱量が増加していること、また、働き方改革関連法に基づく2024年問題への対応が背景にあるものと考えられる。

図表11 立地計画の理由・背景
用地価格と交通アクセスを重視
立地先の選定時に重視する要素は(図表12)、製造業では例年と同様に、「用地価格」、「交通アクセス」が7割を超える大きな割合を占め、以下、「災害リスク」、「豊富な労働力」、「取引先・市場との近接性」、「既存拠点との近接性」と続いている。物流業と比較すると、「豊富な労働力」、「質の高い人材」、「優遇制度」、「災害リスク」、「原材料調達先との近接性」、「工業用水・地下水」などの割合が高く、これらを重視しているといえる。
物流業でも、「用地価格」、「交通アクセス」と製造業同様これら2項目が大きな割合を占め、「取引先・市場との近接性」が続いている。この3項目のうち、特に「取引先・市場との近接性」は、製造業よりも割合が高く、物流業が荷主および荷物の確保などを目的とした用地の先行取得を行う傾向を示していると考えられる。

図表12 立地先の選定時に重視する要素
自治体等には人材、域内外の交通アクセス向上、受け皿整備を期待
自治体に求められる立地環境向上への取組については(図表13)、製造業では「優遇制度の充実」が前年度比で5.4ポイント増加して最も多く、4年連続の増加で6割を超えた。次いで「人材確保・育成の支援」が同3.7ポイントの増加、「域内外の交通アクセスの向上」が同14.9ポイントの増加、「用地等の受け皿の整備・供給」が同9.1ポイントの増加となっており、前年度よりも人材不足、用地不足等の課題がより反映されている。
物流業では「域内外の交通アクセスの向上」が同9.9ポイントの増加で、前年トップで同4.0ポイント増加した「優遇制度の充実」を上回った. 次いで同6.5ポイント増加した「用地等の受け皿の整備・供給」、同2.9ポイントの減少となった「人材確保・育成の支援」が続いている。物流業は、前項の重視する立地環境で「交通アクセス」、「取引先・市場との近接性」を製造業よりも重視していたことと同様に「域内外の交通アクセスの向上」、また、製造業と同様に用地不足を反映して、「用地等の受け皿の整備・供給」の期待が強まっている。逆に、「人材確保・育成の支援」は製造業より低くなっている。

図表13 自治体等に求める立地環境向上への取組
10年前の2014年と比較してみると(図表14)、「地域間(域内)交通アクセスの向上」、「人材確保・育成」、「用地等受け皿の整備・供給」、「税制・補助金等優遇策」が大きく増加している。「地域間(域内)交通アクセスの向上」は、高速交通体系がかなり整備されてきている一方、ICと市街地とのネットワークが脆弱であったり、市内の渋滞が深刻化したりしていることが背景にあるものと考えられる。 「人材確保・育成」は、昨今の人材不足の表れであり、「用地等受け皿の整備・供給」は、図表15に見られるように、2014年から2024年の10年で分譲可能な工業団地数が366件、分譲可能面積が約4,200ha減少しており、用地等受け皿の不足の強い表れであるものと考えられる。

図表14 自治体等に求める立地環境向上への取組の変化

出典:日本立地センター「産業用地ガイド」
図表15 全国の分譲可能な工業団地数、分譲可能面積
懸念点はインフラと土地価格、物流業は用地取得に難航
産業用地を取得する際の懸念点は(図表16)、全体で「道路、電力、上下水道等のインフラ整備」が最も多く、次いで「地権者、周辺住民の理解が得られない」、「地権者と土地価格が折り合わない」が続いている。
製造業と物流業の違いは、製造業が「道路、電力、上下水道等のインフラ整備」、「地権者、周辺住民の理解が得られない」、「地権者と土地価格が折り合わない」の順に懸念しているのに対し、物流業は「地権者と土地価格が折り合わない」、「道路、電力、上下水道等のインフラ整備」、「農地転用等の土地利用規制、建築許可等の手続きに時間がかかる」の順に懸念している。これは、自治体の産業団地によっては、誘致対象業種を製造業に限定あるいは優先している場合があることから、物流業が自社で用地開発し確保するケースが比較的多いことが背景にあると考えられる。

図表16 産業用地を取得する際の懸念点
過去に、産業用地の取得に難航したかについては(図表17)、「ある」という回答が、物流業で高く、物流業がより難航していることがわかる。これは前述の物流業が自社で用地開発し確保するケースが比較的多いことが、影響しているものと考えられる。

図表17 取得の難航の有無
難航した理由は(図表18)、全体で「土地の売買金額」が最も多く、次いで「地権者の不同意」となっている。業種別には、製造業が「土地の売買金額」、「地権者の不同意」となっており、物流業は「土地の売買金額」、「地権者の不同意」、「建築価格等の高騰」、「自治体の対応」となっている。

図表18 難航した理由
政府等への期待
政府等に求めたい取組については(図表19)、全体で「資金面の援助」が最も多く、次いで「地権者への譲渡所得に対する税制優遇」、「土地利用調整の円滑化」と続いている。
業種別では、製造業が、多い順に「資金面の援助」、「地権者への譲渡所得に対する税制優遇」、「土地利用調整の円滑化」、「工業用水等インフラ整備」、「工場適地の情報提供」となっている。物流業は、「土地利用調整の円滑化」が最も多くなっており、次いで「資金面の援助」、「地権者への譲渡所得に対する税制優遇」となっている。

図表19 政府等に求めたい取組
おわりに:地方創生2.0での産業用地整備・企業誘致支援
石破内閣では、地方創生2.0を「令和の日本列島改造」として強力に進めようとしている。新たな地方創生を進めるためには、地方での「しごと」を生み出す必要があり、地域産業政策と一体的な取組をしていくことが求められている。そのなかで、特に域外からの投資を呼込むことが重要であるが、本調査でも明らかになったように、全国的に産業用地の不足が顕在化している。このため、速やかな産業用地の新規造成が必要であるが、土地利用調整に時間がかかったり、自治体のノウハウが乏しかったりすることが課題となっている。
このため、日本立地センターでは、政府の産業立地政策とも歩調を合わせ、中小企業基盤整備機構の基金を活用し、全国の自治体等に対して、産業用地整備に向けたアドバイスや適地選定調査などの伴走支援を実施している。また、2025年度からは経済産業省の工場適地調査のデータベースを活用して、日本立地センターが企業の立地候補地を探すサポートとして、対象となる土地を持つ自治体等とのマッチング事業を検討しているところである。
先日閣議決定されたGX2040ビジョンでは、GX産業立地の項が立てられ、「新たな産業用地の整備」と「脱炭素電源の整備」を進め、地方創生と経済成長につなげていくとしている。日本立地センターとしても、GXも含め経済環境変化にも対応しながら、産業用地の創出、企業誘致の実現、豊かで魅力的な地域づくりに向けて、国、自治体、企業の皆様との連携を強化し、きめ細やかな支援をしていくことを考えている。

寄稿者
一般財団法人日本立地センター 企画調査室 副参事
藤田 成裕
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産業立地、工業団地計画等に関する調査、企業誘致や企業立地に関するコンサルティングなどの業務に長く携わる。1991年4月財団法人日本立地センター入所、業務部業務課長・広報課長、産業立地部次長、産業立地部長、2024年から現職。