BCPの見直しポイント
目次
大規模災害や企業へのサイバー攻撃などの緊急事態に備えるための企業の体制、および具体的な行動計画であるBCPの策定率は、年々上昇傾向にあり、企業の意識が高まっている。
多くの企業において、BCPは策定後も定期的に見直し、更新していく必要がある。近年、新たにBCPの対象項目で追加された、または見直されたポイントを紹介する。これらの見直しポイントには、企業自らが対応すべきものと、ビルオーナー・デベロッパー、行政・自治体の取組みでうまく活用することで対応可能なものがある。どのような観点でBCPを見直していくべきか、その具体例を取り上げる。
多様化するリスクに対応するためのBCP見直し
内閣府が行った「令和5年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」では、大企業のBCP策定率はこの15年間ほどで2割から8割近くに増加している。
同調査で、大企業においては4割近くが毎年見直しを行っており、企業のBCPは新たなリスクに対応すべく頻繁に更新されていることが分かる。
内閣府や中小企業庁がそれぞれ発行した最新版のBCP策定ガイドラインの内容を紐解くと、従来、BCPのメインであった自然災害リスクに加えて、「感染症対策」や「サイバー攻撃や情報セキュリティ」に関する項目などが加わった。
企業の安定した事業継続のためには、こうしたリスクの多様化をふまえ、定期的にBCPを見直すことが企業には求められる。BCPを見直す際に、どのようなポイントが重要か見ていこう。
BCPの見直しポイントと3つの視点
下記のポイントは、近年注目されているリスクに対して、押さえておくべき取組み上のポイントとして取り上げられることが多い。
BCPを見直す際に押さえておくべきポイント
BCP見直し実践のための3つの視点
企業によっては新たなリスクとして認識しBCPに追加すべき項目もあれば、従来のBCPに含まれている項目でも最新の内容に反映すべき項目もある。事業継続上、重要度・緊急度の高い対策は何か見極め、より良いBCPにアップデートできるよう取り組もう。
なお、企業が単独で全てのポイントを網羅することが難しいケースもある。その場合、優先順位によっては外部の取組みを上手く活用し自社のBCPに取り入れることで、ある程度カバーできる可能性もある。
ここでは、『企業(自社)』の取組みに加えて、『行政・自治体などの地域コミュニティとの連携』、『ビルオーナー・デベロッパーなどのオフィスビルの防災性能や設備』の観点を含め、3つの視点からBCPを見直すうえで活用できる内容を具体例と共に紹介する。
行政・自治体:地域コミュニティとの連携
地震や豪雨、河川の氾濫や土砂災害などで人命に関わる被害が想定される場合、常に最新情報を把握することが事業継続のための意思決定に大きな影響を与える。行政や自治体の中には、利用者への正確・迅速な情報提供を目的として、施設内で情報を発信する取組みを行っており、有事に想定していたインフラの使用が難しい場合など、選択肢の一つとして押さえておこう。
また、映像やクイズを通じて防災知識を向上させる取組みや、サイバーセキュリティ対策の実践を後押しするなど、企業をサポートするリソースの用意や訓練を実施している。
ビルオーナー・デベロッパー:ビルがもつ防災性能や設備の理解
日中に災害が発生すると、多くの従業員が社内で被災する可能性が高い。また、パンデミックのような事態が長期間続く場合、安全なオフィス環境を提供できていることが出社する従業員の安心感に繋がり、事業停止のリスクも低くなる。
最新のオフィスビルでは、大規模な地震に強い構造や非常用電源・自然換気システムなどの充実した設備を備えており、テナントとして入っている企業や施設利用者は、その機能を享受することができる。
企業(自社):個別性の高いリスク対応
個別性の高いリスクの対応は外部リソースに頼ることが難しいため、企業は自ら対策を行う。例えば、多くの個人情報を扱う企業では、情報漏洩による被害を防ぐため、日々高度化するサイバー攻撃に対して、高いセキュリティレベルを維持することや、万が一ウイルスの侵入によりデータが改ざんされた場合に備えて重要なデータを定期的にバックアップできるよう備えておく。
また、物流の現場において、競争力のある独自のサプライチェーンを構築できた場合でも、多様なリスクに対応できるシナリオを事前に考え、対策を講じることで、事業継続の安全性や柔軟性を高められる。
事例:企業におけるBCPの取組み
「BCPの見直しポイント」に対応するような企業のBCPへの取組みはどのようなものだろうか?
3つの視点から、実例を紹介する。
Case Study 1 行政・自治体:地域コミュニティとの連携
関東大震災の発生から3年後の1926年以来、飲料水の提供や帰宅困難者対策など災害対策に積極的な三菱地所。
災害時の情報連携プラットフォームとして千代田区、東京消防庁などと公民連携した大規模な実証実験や訓練を実施し、大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)全体の防災にも貢献している。
千代田区と三菱地所が、公民連携して避難者へ提供する「災害ダッシュボード」
都心南部直下地震を想定し、東京駅周辺(大丸有エリア)では、平日15時で4万2千人の帰宅困難者が発生する想定である。帰宅困難者対策として、“国内初”の公民連携による情報連携プラットフォーム「災害ダッシュボード」の先行機能の社会実装を実現した。千代田区は発災時に運用を担い、区と協定締結した帰宅困難者など一時受入施設の開設・満空状況などをリアルタイムに配信する。
また、NHK総合テレビも含む「デジタルサイネージ版」に加え、鉄道15駅(22路線)や施設内では、スマホ・QRコードから「デジタルマップ版」で避難者へ情報提供する。三菱地所は、災害ダッシュボードの開発をおこない、管理および保守を担う。災害ダッシュボードは2024年2月に運用を開始し、今後も発災時を想定した訓練や新機能導入の検討などを公民連携して推進する予定である。
Case Study 2 ビルオーナー・デベロッパー:ビルがもつ防災機能や設備の理解
2026年度に予定されている今回の移転は、大震災や風水害も考慮したBCPの視点が色濃く反映されている。
大規模地震や風水害などに強い構造をもつビルへの移転
味の素社は2026年度第1四半期を目途に、中央区京橋に立地するTODA BUILDING内に新オフィスを移転することを決定した。働き方の多様化やDE&I※1への順応を目的としながらも、「大規模地震や風水害などに備えた非常用インフラ設備などのBCP機能に優れていること」も要因となった。
TODA BUILDINGのビル性能を見ていく。耐震面では、「特級レベル」のコアウォール免震構造となっているため、地震時の揺れ・変形を一般的な免震構造の1/2に抑えられる。
電力供給では、災害に強い中圧ガスを利用したCGS※2と大容量オイルタンクを設置した非常用発電機により、ビル共用部とテナント専用部に電力の供給が可能だ。
空気循環においては、外装の自然換気口から新鮮な空気を取り込み「エコボイド」から排気する自然換気によりオフィスに必要な換気量を賄え、災害時における感染症対策にも大きく貢献する。
※1 「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」の頭文字をあわせた略語であり、あらゆる状況の人が活躍できる環境を提供する取組みを指す。
※2 コージェネレーションシステムの略。熱と電気を同時に供給する仕組みのことで、無駄なくエネルギーを利用できるメリットがある。
参考:味の素株式会社 「プレスリリース 2024_06_07」、 TODA BUILDING 「オフィス賃貸情報」
Case Study 3 企業(自社):個別性の高いリスク対応
法人会員向けに与信管理サービスなどを提供するリスクモンスターグループは、2003年にBCPを策定して以来、定期的に訓練の実施とBCPの見直しを継続。
サイバー攻撃に備えた訓練の実施とBCPの見直し
リスクモンスターグループでは、会員企業のサービスの提供や事業継続に支障をきたす危機的な事象が発生した場合でも、主要なサービスの継続あるいは早期復旧ができるよう、BCPの見直しを継続的に行っている。
2024年8月に実施したシステム障害復旧訓練においては、技術面では主要サーバーでの障害発生を想定した復旧訓練を実施。例えば、データベースサーバー障害に対してバックアップツールからデータの復旧を進める訓練を行った。運用面では、外部からの不正アクセスを原因とした数日間にわたるサービス停止の発生を想定し、社内外への情報共有・連絡・告知の模擬訓練を実施した。
訓練の計画、実施から得た気づきを計画書へ反映し、継続的にBCPの見直しを行うことによって有事の際のリスクを低減させ、会員企業へのサービス供給責任を果たしている。
出典:リスクモンスター(株)ホームページより。https://www.riskmonster.co.jp/pressrelease/post-17644/