「老朽化した本社ビルの対策」第2回 移転先の検討方法

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目次

前コラムで、老朽化した建物を保有している企業は「これからどうするか」について前広に検討する必要性がある事をお伝えしました。
そこで、本コラムでは、老朽化した本社建物を保有している場合に、何から検討しなければならないかについて説明していきます。
第1回はこちら>「老朽化した本社ビルの対策」第1回 老朽化した本社の移転方法
第3回はこちら>「老朽化した本社ビルの対策」第3回 移転元の検討方法

プロには方針が決まってから依頼する

老朽化した本社建物について検討する際、大きく分けると検討する項目は10あります。下図の通り、売買仲介会社に依頼する項目、賃貸借仲介会社に依頼する項目、ゼネコンに依頼する項目があります。

老朽化した建物について検討する項目

老朽化した建物について検討する項目

仲介会社は、売買に強みがある会社もあれば賃貸借に強みがある会社もあります。他にも法人に強い/個人に強い、事務所に強い/物流倉庫に強い、全国エリアに強い/特定のエリアに強い、など会社により強みが異なります。
ゼネコンについても、重量鉄骨造に強い/軽量鉄骨に強い、事務所建物に強い/商業施設建物に強い、など強みが異なります。
つまり「老朽化した本社建物について」というように、複数の会社が関係するような大きなテーマで仲介会社やゼネコンに相談するよりも、「このエリアで1,000坪の賃貸オフィスを探して欲しい」というように具体的な依頼をした方が仲介会社やゼネコンは強みを発揮しやすくなり、企業にとってもより良い結果を得られるという事です。

関係書類の準備

10の項目を絞り込んでいくにあたり、関係書類を準備します。大規模改修工事を行う場合、解体・建て換えを行う場合、売却する場合、賃貸する場合、いずれの場合でも必要となる書類です。①から⑤は企業が所有しているはずのもので、⑥は法務局で取得できます(手数料要)。

書類
建物竣工図
建物検査済証
建物増改築の際の図面
確定測量図
地中杭の配置図
登記事項証明書(土地、建物)

移転先を検討するにあたって確認する項目

次のような項目について確認します。

項目ポイント
概算オフィス面積一人あたり3坪×人数=必要なオフィス面積
車の台数車種毎に集計
希望するエリア社員の通勤、取引先へのアクセス、事業継続計画(BCP)
本社に求める機能紙の書類が多い、一日の実質的な稼働時間、土日出社の有無
財務への影響購入費、賃借料、買い換え特例の適用、解体費用

①概算オフィス面積

正社員だけでなく、派遣社員やパートの方も含めて人数を確認します。集計した人数に一人当たりオフィス面積約3坪を乗じてオフィス算出します。この面積には執務室のほか会議室や応接室も含まれています。約3坪は一般的なオフィスを基にした概算値です。地域やオフィスの使い方、フリーアドレスの採用有無などによって変わってきますので、検討初期段階では一つの目安としてお考えください。
男性と女性の比率についても確認してください。トイレの数などで法令に関わりがあります。

②車の台数

社有車の台数だけでなく、自家用車や自転車での通勤を認めている場合はその分の駐車場や駐輪場も必要になります。最近はセダンだけでなく、ワンボックスカーやハイブリッドカー、電気自動車があると思います。立体駐車場や機械式駐車場の使用を想定する場合は、車種毎に台数を集計します。
機械式駐車場は車高や車重の制限があります。タイプによって車高1.5メートルに設定されていますので、ワンボックスカーは駐車できません。また、車重2トンを超える車も駐車出来ない事が多いです。以前であれば大きな車だけを気にしておけば良かったのですが、ハイブリッドカー、電気自動車は小型車でも結構車重がありますので、駐車できない場合があります。
広い更地に駐車するという事であれば、一台あたり7坪を乗じて土地面積を算出します。

③希望するエリア

社員の通勤

本社移転によって、社員の通勤時間が大幅に伸びてしまう事は回避したいものです。定期券の情報から、どの路線から通勤している社員が多いのかを確認します。
これは社員への配慮だけでなく、会社が負担している通勤費の増加抑制にも関係します。

取引先へのアクセス

本社移転によって取引先へのアクセスが悪くなる事は回避しなければなりません。取引先にとっても来社する負担が増えますし、負担が増えるとどうしても来社回数が減ってしまいます。訪問回数、来社回数が減ってしまうという事は、それだけ情報交換やビジネスの機会が減るという事であり、本業に対して良い影響があるとは言えません。また、繊維会社が多く集まるエリア、IT会社が多く集まるエリアなど、同業が集まるエリアがあります。
これらを考慮して移転するとしたらどのあたりのエリアであれば良いかを検討します。

BCP

阪神・淡路大震災や東日本大震災などの災害や台風が発生する度に見直されるのが事業継続計画「BCP」です。主な交通手段が鉄道である企業は多いと思いますが、一路線が運休してしまうと本社に行けない、という事態を回避するために、複数路線使える場所に本社を構える企業が増えています。

④本社に求める機能

企業によっては高速道路のインターチェンジへのアクセスが重要である、紙媒体で保管している書類が多い、24時間建物に出入りする、土日出勤がある、という個々の事情があると思います。普段の本業の進め方や本社建物の使い方について確認します。

⑤財務への影響

大規模改修工事を行う場合も、既存建物を解体し建て換える場合も費用が必要です。大規模改修工事は過去にどの程度、定期的にしっかりとメンテナンスをしていたかによって費用は大きく変わります。建て換えの場合も、建築規模や工法、スペックにより建築費は変わってきます。既存建物の解体費は、構造体や形状により変わりますが、一般的な建物ですと一坪あたり約7〜9万円です。300坪の建物ですと、7〜9万円×300坪=2,100万円〜2,700万円となります。
移転する場合、賃借するにしても購入するにしても初期費用が必要です。よく勘違いされるのが、購入の場合は多額の初期費用が必要だが、賃借だと初期費用はほとんど不要で毎月の賃料支払いが生じるだけだから負担が少ないという考えです。
確かに購入の場合は、土地を購入し建物を新築するので多額の資金が必要です。しかし、賃借の場合でも、内装工事費や敷金などの初期費用が必要です。賃貸オフィスビルを借りる場合の内装工事費は借主負担です。一坪あたり20万円から場合によっては100万円程度かかる場合があります。例えば人数が100人の場合、3坪×100人で賃借面積は300坪。20万円×300坪で内装工事費は約6,000万円にもなります。これには什器・備品、引越し代などは含まれていません。また敷金は毎月の賃料の数ヶ月〜1年分になります。一坪あたり賃料単価が2万円の場合、2万円×300坪×12ヶ月分で約7,200万円になります。これだけでも合計1億3,200万円です。
これらの予算感から、初期費用としていくらの資金が必要なのか、賃借する場合は一坪あたり何万円の単価までなら毎月の支払いが許容出来るのかを算出します。

どの会社に依頼するか

冒頭説明した通り、仲介会社やゼネコンにより、強みとする分野やエリアがあります。適切な会社に作業を依頼する事が重要です。
第1回コラムで説明した通り、「老朽化した本社をどうするか」と「仮に移転する場合は移転元をどうするか」については、同時期にセットで検討する必要があります。次のコラムで説明するように、移転元を売却や賃貸(有効活用)する場合は8つの選択肢があります。つまり、10×8の80通りの方法があり、売買仲介業務、賃貸借仲介業務、建築請負業務など、様々な業務が組み合わさっています。
選択肢を絞り込んだ後、選択肢に強みを持つ会社を選定し、貴社がコントロールして進めていくことをお勧めします。

次のコラムでは、仮に移転する場合の移転元について何を検討しなければならないかについて説明をします。

※本コラムでは「老朽化した本社建物」について取り上げましたが、工場や物流倉庫の移転は本コラムで検討した以上に確認する項目が増えます。前広にご検討ください。

【筆者プロフィール】

不動産総合コンサルティング株式会社

下市 源太郎

関西学院大学卒。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。法人や企業年金に対する資産運用コンサルティング業務を経て、不動産部門へ。売買仲介のほか、不動産活用コンサルティングと賃貸借仲介(オフィス、商業施設、物流倉庫など)の専任者として、10年超チームを率いる。その後、デロイト トーマツ コンサルティングへ転職し、経営方針や中期経営計画に合致した不動産戦略策定から個別不動産診断、実行まで幅広いサービスを提供する。約450社、2,500人以上にわたる人脈が強み。
2020年3月『図解 会社の「遊休地・老朽化建物」有効活用のすべて』(日本実業出版社)を上梓。趣味はモータースポーツ参戦とゴルフ。

公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト
一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
宅地建物取引士

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