「老朽化した本社ビルの対策」第1回 老朽化した本社の移転方法

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企業が所有する不動産は、事務所、工場、物流倉庫、社宅、寮など様々です。本業で利用している不動産が老朽化した場合、事業に影響を与えず、または事業に活用できる手段は何があるのか・・・
今回は企業が所有する老朽化した本社ビルの対策を観点に、不動産総合コンサルティング株式会社の下市氏のコラムを3回にわたって紹介します。

はじめまして 不動産総合コンサルティング株式会社の下市と申します。
私は大手信託銀行に20年超在籍し、10年超不動産部門に所属し、「売買仲介」「不動産活用コンサルティング(有効活用)」「賃貸借仲介(オフィス、商業施設、物流倉庫など)」の専任者としてお手伝いをさせて頂きました。
具体的には「遊休地を貸したい」「オフィスを借りたい」「物流倉庫を借りたい」という実務的なご相談や、一番多かったのが「本社や物流倉庫の移転を検討したいが、何を検討して、誰に依頼すれば良いか分からない。実行に移す前の段階までをコンサルして欲しい。」というご相談でした。
例えば次のような企業や、企業と取引する銀行や商社からご相談頂きました。

  • モノを大切にされる経営者がいる企業
  • 社歴が25年以上の企業
  • 経営者が高齢化してきて世代交代を検討しなければならない企業
  • M&A(企業売却)を検討している企業
  • 上場企業と取引がある企業
  • 上場企業の傘下にあるグループ企業
  • 海外企業と取引がある企業
  • 製造業、商社、小売・流通業の企業

つまり、本業で使用している事務所、工場、物流倉庫が老朽化してきている企業です。

老朽化した不動産が事業継続を阻む

建物を使い続ける事、大切にする事は良い事だと思います。ところが建物の老朽化が原因で人身事故が発生してしまったり、大手企業との取引が中止されてしまったり新規契約が取れなくなったり、財務諸表に影響が出るとなると話が変わってきます。

  • 経営責任を問われる
  • 取引ができなくなる
  • 財務面で負担増となる

経営責任を問われる

記憶に新しいところでは、商業テナントの看板が落下し歩道を歩いていた方に直撃し意識不明の重体にしてしまったというニュースがありました。

運良く人身事故にならなくても、建物の壁やタイルが落下したという報告を受けた事はないでしょうか。経営者はすべての企業行動について責任があるとは言え、老朽化した建物が原因の事故で経営責任を取って辞任しなければならなくなったという事は想定されていますでしょうか。

また、経営者が高齢化したのでご親族にバトンタッチ、M&Aによる企業売却を行う際、企業デューデリジェンスが終わり株式評価で折り合いがつきそうであったのに、不動産がネックとなり難航・破談になってしまった案件を数多く見てきました。いずれも前広に検討・取り組んでいれば回避できた案件でした。

取引ができなくなる

建物を長年使用していますと、使い勝手を優先し現場の判断で増改築をしてしまっている場合があります。その増改築工事は、きちんと図面を残しているでしょうか。届出が必要であれば届出を行っているでしょうか。消防検査に通っているから大丈夫という事ではありません。
今、法令遵守(コンプライアンス)が問われています。法令遵守意識の高まりを受けて、法令違反をしている企業との取引は行わないと表明する企業も増えてきています。ある企業では、取引を始めるにあたり法令違反をしていない旨を表明する事が契約締結の条件だと言われた事があるそうです。特に、上場している企業やそのグループ会社と取引をしている企業は要注意です。
バブル景気が弾けて「売れる不動産は売ってしまった」企業が多く、いま保有している建物は本業で使っている本社、工場、倉庫だけという場合があります。その建物が原因で取引が出来なくなってしまうとなると本末転倒と言わざるを得ません。

財務面での負担増

「建物のライフサイクルコスト」という言葉を聞いた事はありますでしょうか。これは建物の建築時から解体するまでに生じる費用を合計したものです。様々な会社からデータが発表されていますが、費用合計を100とした場合、建築費にかかる費用は15程度です。相見積もり、価格交渉を行なって、希望するスペックの建物を極力安い費用で新築されたと思いますが、ライフサイクルコストに占める割合は15程度です。残りは維持・管理費などなのです。例えば、建築費が10億円だった場合、維持・修繕費などは約50億円という事になります。特に維持・修繕費は築20年を超えるあたりから大幅に増える傾向にあります。
つまり、使えるものは使い続けるというモノを大切にする経営者のお考えが、実は知らず知らずのうちに多額の資金流出を生み出し、損益計算書やキャッシュフロー計算書を悪化させてしまっているという場合もあります。将来負担するであろう見えない多額の支払債務を負っているとも言えます。

ビルのライフサイクルコスト

ビルのライフサイクルコスト

本業で使用している建物は、事務所、工場、物流倉庫などがありますが、本コラムでは老朽化している本社を題材に検討します。

老朽化した建物をどうするか

老朽化した建物について検討する項目

老朽化した建物について検討する項目

仮に老朽化した建物から本社機能を移転した場合、残った本社についてどうするか

移転する場合に検討する選択肢
移転する場合に検討する選択肢

「移転先の検討方法」については第2回コラムで、「移転元の検討方法」については第3回コラムで説明します。
移転元についても検討が必要なのかと思われる企業もいらっしゃいますが、財務面も考慮すると重要ですので検討される事をお勧めしています。
是非ご一読ください。

【筆者プロフィール】

不動産総合コンサルティング株式会社

下市 源太郎

関西学院大学卒。三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。法人や企業年金に対する資産運用コンサルティング業務を経て、不動産部門へ。売買仲介のほか、不動産活用コンサルティングと賃貸借仲介(オフィス、商業施設、物流倉庫など)の専任者として、10年超チームを率いる。その後、デロイト トーマツ コンサルティングへ転職し、経営方針や中期経営計画に合致した不動産戦略策定から個別不動産診断、実行まで幅広いサービスを提供する。約450社、2,500人以上にわたる人脈が強み。
2020年3月『図解 会社の「遊休地・老朽化建物」有効活用のすべて』(日本実業出版社)を上梓。趣味はモータースポーツ参戦とゴルフ。

公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト
一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
宅地建物取引士

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