企業所有の事業用不動産、その売却時の注意点とは?

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企業が所有する事業用不動産のなかには、うまく活用できていない不採算不動産、遊休不動産があることは少なくない。それらの事業用不動産は、固定資産税はもちろん、適切な維持管理費用がかかる、所有者責任(工作物責任)等の責任問題が発生するなど、企業経営の負担となる。そこで、不動産売却を検討することも視野に入れることもあるだろう。今回は、企業が所有する事業用不動産を売却する時のポイントについて解説する。

企業が持つ事業用不動産を売却する時の扱いは、一般の住宅用不動産とは違う?

企業が所有する事業用不動産の売却を検討するシーンは珍しくない。工場や倉庫などは、事業転換や規模の縮小、あるいは事業拡大でより利便性が高い施設に移転するなど、所有する不動産を活用しなくなるというケースも考えられる。それらの不動産が用途転用で収益を上げることができればいいのだが、工場や倉庫の場合、立地の問題などで他の用途で生かせないこともありえる。
そういった場合、固定資産税や維持管理費を負担し続けるのではなく、売却することも検討するだろう。その場合、一般的な住宅用の不動産取引とは異なる点がいくつかある。

おおまかな不動産売却の流れは「『不動産売却』の注意点とは?重要なポイントを解説」にあるとおりで、住宅用不動産と大差はない。しかし、不動産の査定、相場の算出、売却先探しなどは時間を要することも想定できる。また、物件規模や売却額も大きくなり、住宅と違い様々な設備が存在していることを考えると、価格を含めた条件交渉でも時間がかかると思われる。そして住宅と比較すると事業用不動産は物件の状況確認の難易度が高いことも注意すべき点である。

企業の不動産売却時には、売却時期にも注意が必要

不動産売却で気になる点としては「税金」の話がある。個人の住宅用不動産の売却時には、不動産売却で得られた利益に対して「譲渡所得税」という税金がかかる。利益に対して3,000万円の控除があり、それ以上の金額に対して、所得税が15%、住民税が5%の合計20%がかかることになる※。

※所有期間が5年以上の場合。5年以下の場合は、「短期譲渡所得」となり、所得税が20%、住民税が9%の合計39%となる。

一方で企業が所有する不動産の売却時には、上記の「譲渡所得税」はかからない。そのかわり、企業の事業所得として扱われ、他の事業の所得と合算して、そこで得られた利益に対して「法人税」が課されることになる。つまり、不動産売却で利益が出ても、事業そのものが赤字だった場合は利益が相殺される。逆に、事業が黒字だった場合、不動産売却時の利益も合算されて利益が膨らみ、法人税の負担が大きくなる。

そこで重要となるのが、売却時期となる。不動産売却によって売却益が出る時期が、会計上いつになるかによって、法人税の額が変わってくるからだ。
例えば、3月決算の企業の場合、3月に売却するか、4月に売却するかで状況が変わる。今期では本業の利益はあまり出ていないが、来期は利益が出る見込みが大きい場合、売却益が出るような不動産売却を今期中に済ませておくという工夫もできる。逆に今期に大きく利益が出る場合は、売却損が出るような不動産の売却に適した期とも考えられる。

ここでポイントになるのが、「不動産売却益は、いつ計上されるのか」という問題だ。これは、個人の住宅用不動産を売却した場合、「不動産を引き渡した日」となる。これが企業所有の不動産の場合、原則として「不動産を引き渡した日」になるが、「契約を締結した日」も選ぶことができる。例えば、3月末決算の会社で、3月16日に不動産売却の契約を締結し、引き渡しが4月10日だった場合、どちらの日付で計上してもいいことになる。ただし、売却先の企業の都合もあるので、それも踏まえた交渉が必要となる。
また、同期中に別の不動産を購入することで、売却益を相殺することも可能だ。

売却時に確認しておかなければならないポイントとは?

企業が不動産を売却する際、注意すべき点としては、「売却する不動産の状況を正確に把握すること」がある。特に長く所有している不動産の場合は、所有する不動産について、正確に把握できていないことも多い。以下、物件の確認点の一部である。

建物について

●「既存不適格」になっていないか?

増改築が行われている、用途変更がされていない、法改正がされたなどの理由で、現状の法令に沿っていない建築物になっている可能性がある。

●建物のメンテナンス、劣化状況、耐用年数の把握

建物を購入者が利用する予定があるときは外壁のクラック等細かい部分まで確認しておきたい。

※古い建物の場合はアスベストの利用の有無やPCBが利用されている設備についても購入者への告知事項と規定されている

土地について

●隣接地との境界は正確か

測量によって土地面積などは正確に把握されているかは重要なポイントだ。隣接地との境界が曖昧だと、トラブルが起こった場合に解決に時間を要することが多くなる。また、建物施設を使用しているうちに設備を増やしていく中で、隣接地との境界を越境していることもあるので注意したい。

●施設利用による汚染はないか

施設利用の結果土壌汚染や水質汚濁の問題がないかも確認しておかなければならない。

●古い井戸や使用していない浄化槽といった地中埋設物があるか

これらの造作物は、購入者の利用用途次第では妨げとなってしまう可能性がある。建物の荷重や地下水のくみ上げによる地盤沈下もその後の利用にかかわるため注意したい。

これらの項目は「告知書(物件状況報告書)」として、売却先に提示する必要がある。これに記載漏れがあると、「契約不適合責任」となり、売主が責任を持って対処しなければならないことになる。場合によっては売買契約の解除さえありえる。

「古くから持っている不動産で、詳しいことはわからない」というケースもあるが、だからといってわからなかったでは済まないのが現実だ。専門家による鑑定や調査が必要になるだろう。

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