明海大学 山本教授 寄稿 会計ファイナンスからのCREアプローチ 第2回 遊休不動産はなぜ発生するのか?

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目次

要旨

企業には遊休・投資不動産等を保有する企業もあれば、ほとんど保有しない企業もある。その差がなぜ発生するのか疑問となる。実証分析の結果として、疑問に対する答えとして、以下のようなことが明らかになった。

  • 「製造業」では、「外国人持株比率」、「研究開発費比率」の高い企業ほど、企業への監視度・本業度が高まるため遊休不動産を保有しない傾向が確認できた。
  • 「建設・運輸・倉庫・不動産業」では、近年全般的に、投資不動産保有の拡大が抑えられている可能性がある。テナント運営等に対するリスクを意識し、借入による資金調達をしてまで不動産を購入するという傾向が弱まっている。

問題意識

企業不動産は企業活動の重要な基盤である。企業不動産を拡大させることにより、事業展開を促進させることが可能となり、結果的にキャッシュフローを多く生み出すことにつながり、企業価値を高めることが可能となる。しかし、企業不動産の購入は、財務の流動性を低めたり、借入れにより負債比率を高めることにもつながり、財務体質を不安定にさせる。そのようななか、取得した不動産が遊休状態となれば、余分な経費が支出されるため、企業価値が低減するリスクも高まる。近年では、企業が遊休不動産を抱える問題点がクローズアップされており、その検証が重要視されてきている。このような背景から、本稿では、会計ファイナンスの手法を用いて、遊休不動産保有の決定要因を探る。遊休不動産を多く抱える企業がある一方、それを有しない企業もある。その差はどこにあるのだろうか。それを決定づける要因が明らかになれば、企業不動産戦略のヒントとして活用することができる。

遊休不動産とは何か?

遊休不動産とは、一般的には、企業の保有する不動産のうち企業活動にほとんど使用されていない状態にあるものをいう。この遊休不動産の概念を、広義にとらえた場合に、①個人遊休不動産型、②企業遊休不動産型、③公的遊休不動産型に分類することができる。

① 個人遊休不動産型:個人所有の土地のうち遊休化したものであり、住居等の利用が想定される空き地、空き家と呼ばれるものである。
② 企業遊休不動産型:事業使用目的として取得されたものの、何らかの理由により使用や稼働を休止されている不動産のことである。
③ 公的遊休不動産型:地方公共団体において公共的および公益的な目的のために保有する不動産のうち、遊休化しているものである。

本稿では、②企業遊休不動産型に焦点をあて、話を進める。

遊休不動産を放置するデメリット

(1)維持管理のためのコストが生じる

遊休不動産を放置した場合に、維持管理等に要するコストがかかり、企業利益にブレーキをかける。具体的には、定期的に雑草を刈り取るコスト等が該当する。また、固定資産税等の保有税も面積や評価額に応じて税額が左右される。都市部で面積の大きい遊休地を抱える場合には、支払うべき税額も大きいものになる。一般に、遊休地であると固定資産税の税額が高くなると言われることが多いが、住宅があることを前提とした小規模住宅用地の特例(200㎡まで課税標準額は、価格の6分の1の額とする措置)が適用にならないことを指している場合が多いと考えられる。

(2)減損リスクが高まる

日本では、2006年より減損会計が本格的に導入されている。減損会計とは、固定資産について、帳簿価額といわゆる時価(回収可能額)を比較して、時価が帳簿価額を下回る場合、その下回る金額を損失として損益計算書に計上されることが求められる会計処理である。
遊休不動産は、減損の可能性が疑われる資産に位置付けられている。仮に減損を計上した場合に、固定資産の切下げに加えて利益が減じられるため、企業業績の落込みや負債比率が高まることによる財務構成の悪化が懸念される。

(3)地域社会に外部不経済を与える

遊休不動産が、適切に管理されない場合に、安全性の低下、公衆衛生の悪化、景観の阻害等の生活環境に影響を及ぼし、管理者責任を問われる可能性もある。また、事業所・工場等が閉鎖、取壊されて遊休地になった場合には、就業機会の消失や、その地域周辺の経済活力への影響が進行する。その結果として、地域社会が衰退する懸念が生じる。

会計上の企業不動産概念

会計上の企業不動産概念を整理すると図-1のとおりとなる。

図-1 企業の不動産概念の整理

出典:山本(2021、図1-6)

企業不動産は、事業用不動産と投資不動産に分類される。後者の投資不動産は、さらに、本来の意味での狭義の投資不動産と遊休不動産に分類される。ここで狭義の投資不動産とは、主として不動産業で保有されている賃貸事務所ビル等が該当する。そして、遊休不動産とは、製造業では工場跡地等が、商業では店舗跡地や青空駐車場等が該当し、最有効使用の状態に供せられていない不動産を指す。投資不動産の概念は幅広いものになっているが、これは基づく会計制度の投資不動産の定義が幅広く設定されているため、その影響によるものである。不動産分野の専門家からすると、この会計上の投資不動産の定義に違和感がある。しかし、実証分析に活用する会計データとの一貫性を保つ必要があるため、本稿では図-1による不動産の分類・定義に基づくものとする。なお、本稿の主たる読者である不動産分野の専門家へのわかりやすさの観点から、これら不動産概念の表現は、会計上の投資不動産との整合性を崩さない範囲において、適宜柔軟に行う。

実証分析の着眼点

2010年度より、賃貸等不動産会計基準が適用になった。このことにより、企業には賃貸等不動産(遊休・投資不動産)がどの程度あるのか、ある場合には時価がどのくらいかを把握することが可能になった。この場合、製造業における賃貸等不動産は、工場跡地等の遊休不動産である場合が多く、不動産業においては、オフィスビル等の投資不動産である場合が多いとみなされる。
本稿では、これらのデータを活用し、トービット回帰分析という手法を活用し、保有の決定要因を探る。トービット回帰分析は、回帰分析の一つであり、分析対象企業について、賃貸等不動産を有しない企業と有していた場合の総資産に対する比率を被説明変数とすることが可能である。この分析を通じて、賃貸等不動産の保有を促進する要因の抽出と影響の度合いを探ることが可能となる。

サンプルおよび分析手法

実証分析に用いるサンプルは、旧東証1部上場企業のうち、1984年期から2018年においても継続して上場している企業521社を本件のサンプルとしている。サンプル企業521社のうち、賃貸等不動産の注記情報として開示している企業は115社である。なお、財務データについては「日経NEEDS財務データ」より、持株比率データについては「会社四季報」(東洋経済新聞社)より収集した。持株比率は、発行済株式数に対するある特定の株主が持っている株式の保有割合であり、その多寡により企業経営に与える影響が左右される傾向を持つ。記述統計量および相関係数は以下の表-1および表-2に示している。なお、相関係数(2種のデータ間の関連性の強さを示す指標)について、変数間で強い相関のものはみられない。
ここで賃貸等不動産を保有する企業としない企業の企業属性を比較することにより、賃貸等不動産保有の決定要因を浮き彫りにする。具体的な分析方法として、以下①式のトービット回帰分析によって検証作業を行う。

表-1 記述統計量

出典:山本(2021、表4-1)

表-2 相関係数

出典:山本(2021、表4-2)

「賃貸等不動産/総資産(0,正値)」=a1+a2「総資産(Ln)」+a3「ROA」+a4「役員持株比率」+a5「特定株比率」+a6「金融機関持株比率」+a7「外国人持株比率」+a8「有利子負債比率」+a9「売上高変化率」+ε(①式)

<変数の定義>
「賃貸等不動産/総資産」:2018年度に賃貸等不動産会計基準が非適用のサンプルは「0」が割り当てられ、適用企業については、期末の賃貸等不動産(原価)を総資産で除した数値を採用
「総資産(Ln)」:2018年度、各企業の総資産の自然対数変換値
「R O A」:2018年度、各企業の総資産利益率(当期純利益/総資産)
「役員持株比率」:2018年度、各企業の役員持株比率
「特定株比率」:2018年度、各企業の大株主上位10位までと役員持株・自己株式の単純合計の比率
「金融機関持株比率」:2018年度、各企業の金融機関持株比率
「外国人持株比率」:2018年度、各企業の外国人持株比率
「有利子負債比率」:2018年度、各企業の有利子負債比率(有利子負債/総資産)
「売上高変化率」:2012年から2018年までの変化率を採用

分析結果

トービット回帰分析の分析結果は、表-3に整理されている。

表-3 東証1部上場企業の賃貸等不動産保有の決定要因分析結果(トービット回帰分析)

(注)*は10%水準で、**は5%水準で、***は1%水準で有意であることを示す。出典:山本(2021、表4-3)

分析結果の見方について説明する。係数の符号がマイナスの変数は、賃貸等不動産の保有に対して、負の影響を与える。例えば2010期について「総資産(Ln)」が大きくなると、賃貸等不動産は保有されにくくなるとみることができる。仮に、符号がプラスの場合には、正の影響を与えることが推定され、賃貸等不動産は保有されやすくなると解釈できる。
また、t値とは統計的な検定の結果を示した数値であり、これは一定以上であると分析結果に意味を持つというシグナルとなる。例えば、1%水準で有意ということは、この分析結果が偶然起こったという確率は、1%以下ということで、99%起こるべくして起こったという意味となる。そこで、検定の結果として、一定レベルの有意水準にある変数は、解釈上尊重すべきものであるといえる。 
表-3について、2010年期では、「製造業」では、「総資産(Ln)」、「特定株比率」、「金融機関持株比率」が大きい企業ほど賃貸等不動産(主として工場跡地等の遊休不動産)の保有が控えられている。一方、「建設・運輸・倉庫・不動産業」では、「外国人持株比率」、「有利子負債比率」、「売上高変化率」が高い企業ほど、賃貸等不動産の保有が促進されている。
2018年期において、「製造業」では、「外国人持株比率」が大きい企業ほど、遊休・投資不動産の保有が控えられている。一方、建設・運輸・倉庫・不動産業では「役員持株比率」の高い企業ほど遊休・投資不動産の保有が促進されている。
「製造業」では、外国人持株比率の高い企業ほど、株主重視の経営になる傾向があるものと考えられ、慎重な投資意思決定のうえで、効率的な事業運営がなされるため、遊休不動産は発生しにくい傾向にあるものと考えられる。
「建設・運輸・倉庫・不動産業」では、2010年期と比較し、「売上高変化率」および「有利子負債比率」が有意でなくなっている。「建設・運輸・倉庫・不動産業」の土地資産額は、2010年に比較し減少傾向にあるため、遊休・投資不動産保有の拡大が抑えられている可能性が考えられる。また、負債額も減少傾向にあることから、テナント運営等に対するリスクを意識し、借入による資金調達をしてまで不動産を購入するという傾向が弱まっている可能性が考えられる。
「製造業」「建設・運輸・倉庫・不動産業」ともに、「売上高変化率」がマイナス傾向を示している。「製造業」では、コスト削減を目的とした物流機能のアウトソーシングを背景に遊休化している不動産が増加している可能性も考えられる。また、「運輸・倉庫業」では、電子商取引の普及により、流通システムの一元化にともない、新たな物流施設等が建設されている。一方で、既存の物流施設については物流拠点の集約化にともない事業の用に供されなくなった不動産が増加している可能性も考えられる。

製造業の研究開発費に着目した追加的分析

前節では、賃貸等不動産(遊休・投資不動産)保有の決定要因を分析した。本節では、「製造業」に限定し研究開発費の要因を考慮して追加的な分析を行う。具体的な方法として、以下②式のモデルを設定し、前節同様のトービット回帰分析を適用している。
サンプルについては、前節において抽出された旧東証1部上場企業の全体サンプル(521社)のうち製造業サンプル(413社)についてトービット回帰分析によって検証作業を行う。

「賃貸等不動産/総資産(0,正値)」=b1+b2「総資産(Ln)」+b3「ROA」+b4「役員持株比率」+b5「特定株比率」+b6「金融機関持株比率」+b7「外国人持株比率」+b8「有利子負債比率」+b9「売上高変化率」+b10「研究開発費率」+ε(②式)

<変数の定義>
「賃貸等不動産/総資産」:2018年度に賃貸等不動産会計基準が非適用のサンプルは「0」が割り当てられ、適用企業については、期末の賃貸等不動産(原価)を総資産で除した数値を採用
「総資産(Ln)」:2018年度、各企業の総資産の自然対数変換値
「R O A」:2018年度、各企業の総資産利益率(当期純利益/総資産)
「役員持株比率」:2018年度、各企業の役員持株比率
「特定株比率」:2018年度、各企業の大株主上位10位までと役員持株・自己株式の単純合計の比率
「金融機関持株比率」:2018年度、各企業の金融機関持株比率
「外国人持株比率」:2018年度、各企業の外国人持株比率
「有利子負債比率」:2018年度、各企業の有利子負債比率(有利子負債/総資産)
「売上高変化率」:2012年から2018年までの変化率を採用
「研究開発費率」:2018年度、各企業の研究開発費比率(研究開発費/総資産)

表-4によると、2010年期同様に2018年期においても「研究開発費率」は有意に負の数値が得られ、「研究開発費比率」が低い企業では遊休・投資不動産を保有が促進されていることが確認できる。一方で、「研究開発費比率」の高い企業では、遊休・投資不動産を保有していないことが確認でき、本業事業への集中度の高い企業においては、資金をまわせる余裕度が低く、遊休・投資不動産の保有が控えられることが推定できる。

表-4 製造業における賃貸等不動産保有の決定要因分析結果(トービット回帰分析)

(注)*は10%水準で、**は5%水準で、***は1%水準で有意であることを示す。出典:山本(2021、表4-4)

CREへの示唆

本稿では、企業の不動産事情の変化に焦点を定め、賃貸等不動産(遊休・投資不動産)保有の決定要因を明らかにした。主要な発見事項は以下のとおりである。

  • 「製造業」では、「外国人持株比率」、「研究開発費比率」の高い企業ほど、遊休・投資不動産を保有しない効率的な経営が促進されていることが確認できた。
  • 「建設・運輸・倉庫・不動産業」では、近年、遊休・投資不動産保有の拡大が抑えられている可能性が考えられる。また、負債額も減少傾向にあることから、テナント運営等に対するリスクを意識し、借入による資金調達をしてまで不動産を購入するという傾向が弱まっている可能性が考えられる。

以上のことから、遊休・投資不動産保有の決定要因は、業種、株式所有構造に左右されることが明確になった。とりわけ製造業では、遊休不動産の保有状況は研究開発費の支出状況が重要な要因であることが明らかになった。CREを目的に、企業を分析するに際して、これらの会計情報に着目することで、より実態に即し、効率的な調査が可能となる。

参考・引用文献

[1]山本卓(2021)『ストック型社会への企業不動産分析-上場企業遊休不動産の財務的検証を中心に-』創成社
[2]古川傑・山本卓(2019)「企業活動における投資不動産保有の決定要因と投資家評価 ‐2010 年期との比較分析を中心に‐」『日本不動産学会学術講演会論文集(オンラインジャーナル)』第35号
[3]古川傑・山本卓(2018)「遊休不動産情報の有用性の検証-東証1部上場企業製造業の減損データに基づいた分析を中心に-」『証券アナリストジャーナル』第56巻第2号、pp.68-79。
[4]山本卓(2010)「投資不動産時価情報の有用性について-賃貸等不動産会計基準の実証的検証を中心に-」『証券アナリストジャーナル』第48巻第11号、pp.90-101。

寄稿者

明海大学不動産学部教授

山本卓 やまもとたかし

埼玉大学大学院経済科学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)、不動産鑑定士。一般財団法人日本不動産研究所を経て、2014年より現職。大学では、「不動産経営戦略」、「不動産会計財務論」等を講じている。企業不動産を取り巻く広範な関係者(経営者、投資家、債権者、地域住民等)に対しての意思決定支援手法の開発を専門にしている。近著に『投資不動産会計と公正価値評価』[2015年、創成社](2016年資産評価政策学会著作賞)、『グローバル社会と不動産価値』[2017年、創成社](2018年日本不動産学会著作賞(実務部門))、『ストック型社会への企業不動産分析』[2021年、創成社](2022年都市住宅学会著作賞)等がある。

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