
三菱地所リアルエステートサービスが協賛する恒例イベント「日経産業新聞フォーラム スペシャリストの智 CREカンファレンス」。2021年はコロナ禍での感染症対策ということもあり、オンラインイベントの形で開催されました。コロナ禍で厳しい経営環境が続く日本ですが、そこでも勝ち残る企業があります。その条件とは何か。いま打つべき手は何なのか。現政権の「成長戦略会議」メンバーでもある経済学者、竹中平蔵氏に貴重な提言をいただくと共に、これからの不動産ビジネスのあり方について、経営コンサルタントの藤沢久美氏と当社代表取締役社長である湯浅哲生が語り合いました。(モデレーター:日経 CNBC キャスター瀧口友里奈氏)
──2020年は、日本企業にとってこれまで経験したことのない逆境の1年でしたが、コロナ禍に見舞われる日本経済をどのようにご覧になっていましたか。
結論から申せば2020年の世界経済は4~5%のマイナス成長になるでしょう。日本もまた2020年期4~6月のGDP成長率は年率換算でマイナス29%でしたから、通年で見てもこれが響くことは確かです。日本は企業の倒産件数こそ少ないものの、その6倍程度の数字で休廃業が増えています。政府や日銀の財政措置でなんとか首の皮一枚でつながっているという状況です。
しかしながら、こうした時期だからこそ、バルコニーに駆け上がり、高い位置からあたりを俯瞰するような視点で状況を捉えることが大切です。そうすると、これまでコロナ禍がなくとも、静かに変化していた流れが、コロナ禍によって加速化されているという事態が見えてくると思います。
例えば、コロナ禍によって、やろうと思っていてもなかなか進まなかったデジタル化が加速されました。企業が軒並み業績を落とす中で、4分の1の企業は大きな利益を出していることも見逃してはなりません。デジタル技術やグリーンビジネスに関連する企業はむしろ好調です。企業の明暗がくっきりと浮き彫りになっているのです。
──こうした時期にも生き残れる企業の条件は何でしょうか。
変化を促す強いリーダーシップと、そのリーダーを信頼して行動を起こすフォロワーシップの両方をもつ企業こそが、この時代には強いのです。リーダーとフォロワーの信頼関係をどう醸成するかは難しいところですが、やはり経営者は一時の成功体験にとらわれることなく、どんどん前に行く姿を示すことが重要です。あるアパレル企業の経営者は「成功はその日のうちに忘れてしまえ」と語っています。常に変化を見続けて、それに対応することが今ほど重要な時はありません。
──株価が持ち直し、予想以上の回復をしています。日本経済のポテンシャルをどうご覧になっていますか。
日本経済のポテンシャルですが、これは大いにあると思います。日本企業はテクノロジー、マネー、人材リソースを持っています。ただ、これまではそれを有効に活かせないでいました。規制に象徴される硬直的な仕組みがあったからです。それを取り除いて、ポテンシャルを引き出すような規制改革、構造改革ができるかどうかが、これからの決め手になります。
──コロナ禍ではデジタル化の遅れも表面化してきましたね。
何を成果とするかはもちろん議論が必要です。各企業でそれを検討してほしい。少なくともこれまでのようなメンバーシップ型からジョブ型の働き方に変えることが、デジタル化を進める上で重要なことになります。
──リモートワークの普及は今後どうなるでしょうか。
もう一つ、デジタル化は新しい格差を生み出しかねないことにも注意が必要です。現政権で新たに発足予定のデジタル庁の役割の一つは、デジタル格差を生み出さない仕組みを作ることにあります。スマートネーション構想を進めるシンガポールでは、デジタル技術が不得意で困っている人をサポートするデジタルアンバサダーという制度が機能しています。日本でも地方で一人暮らしのお年寄りなどにはそういうサポートが必要でしょうね。
さらに、デジタル化は5Gという新しい通信インフラ技術と同時並行に進んでいることにも注目したい。5Gによって人とモノ、モノとモノがさらに繫がるようになります。例えば、畑の作物の成長をインターネットで監視することができるようになります。日本のインターネットは、国土の60%しかカバーしていない。そのためのインフラ投資がこれからますます重要です。
5Gの進展で遠隔医療もスムーズに行われるようになります。国家戦略特区構想をさらに強化したスーパーシティ構想もさらに進みます。できれば3月末ぐらいまでに第一次スーパーシティの候補地を決めたい。そこでは企業にも積極的にチャレンジして欲しいですね。構想を推進する主役は民間企業にあるのですから。
──企業が財務体質を強化するためにこれから投資すべき分野として、不動産の価値をどうご覧になっていますか。
投資対象の資産でいえば、有形固定資産だけでなく、もう一つ、無形資産の価値にも注目したいものです。無形資産にはデータベース、研究開発、人材・組織の3つがありますが、この無形資産に着目し、積極的に投資している企業はやはり強いし、リーダーシップとフォロワーシップの信頼関係のベースもそこから醸成されています。
──最後に、2021年の企業経営に取り組む経営者の皆様にメッセージをいただけますか。
そのためには年齢、性別、国籍などの壁を超えた組織のダイバーシティを高める必要があります。経済危機で変化が急速に進む時代は、それだけチャンスがあるということでもあり、同時に、企業間の格差が明確になる時代でもあります。ぜひコロナ禍を乗り越えて、新たな成長に向けてチャレンジしていだきたいと思います。
──コロナ禍で日本企業の経営者のマインドはどう変わりましたか。

ただ、テレワーク一つをとっても、都市部と地方ではまだ差があります。都市部の企業は対応が速やかでしたが、地方ではそうでもない。企業オフィスの地方移転についても、コロナ禍を踏まえて本社を移転させたい企業はまだわずか。社員の転居志向も、いきなり田舎にというより、大都市からそう遠くないところでというのが実態だと思います。

──日本と比べ、世界の経営者のマインドの切り替えはどうだったのでしょうか。




──コロナ禍でも東京の不動産への投資が世界的に注目されています。


──いずれにしても企業はコロナ禍のもとでビジネスを進めるために、オフィス戦略の練り直しを余儀なくされています。日本のオフィスはどう変わりますか。




──企業にとって資産価値の考え方にも影響はあるのでしょうか。



私たちも、いま地方の経済を支えるため、地元の金融機関などと協業して、不動産活用を提言することが大切であり、これは当社のような不動産仲介業の重要な使命だとあらためて感じています。
──2021年、これからも有事という事態がしばらく続きます。有事の際の経営が重視すべきポイントは何だと思いますか。



慶應義塾大学 名誉教授/東洋大学 教授
竹中 平蔵
博士(経済学)。一橋大学卒業。
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て2001年、小泉内閣の経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などを歴任。現在、公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、(株)パソナグループ取締役会長、オリックス(株)社外取締役、SBIホールディングス(株)社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを兼職。

シンクタンク・ソフィアバンク 代表
藤沢 久美
国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。1999年同社を売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。現在代表。2007年ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。政府各省の審議委員や日本証券業協会、Jリーグ等の公益理事といった公職に加え、静岡銀行や豊田通商など上場企業の社外取締役なども兼務。

三菱地所リアルエステートサービス 代表取締役社長
湯浅 哲生
1959年生まれ。1983年三菱地所(株)入社、2008年まで三菱地所ビルマネジメント(株)常務取締役を務めたのち、2009年より三菱地所にてリーシング営業部担当部長、ビル管理企画部長、ビル営業部長を歴任。2014年より常務執行役員としてビル営業、街ブランド推進、xTECH営業等を担当。2019年4月より三菱地所リアルエステートサービス(株)代表取締役社長を務める。三菱地所㈱グループ執行役員、三菱地所パークス(株)代表取締役会長兼務。
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vol.29
スペシャリストの智
CREカンファレンス2021-2022・レポート
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