公的データで知る企業のBCP取組状況と見直し時に検討すべき企業不動産視点のポイント

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中小企業庁のホームページにおいて、BCPとは「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画」と定義しています。
近年では、従来の災害や事故といったリスクのほか、新型コロナウイルスをはじめとした感染症の拡大や法令遵守違反、サイバー攻撃による情報漏洩やシステム障害など、企業を取り巻く多様なリスクに備えるための計画として、BCPの見直しが進められています。

この記事では、公表済みの公的データを基に企業のBCPの取組状況や見直し時に検討すべき不動産視点のポイントをまとめました。

企業のBCP策定状況

内閣府の調査によると、 調査を開始した平成19年以降、BCPを策定している企業が増加していることがわかります。
令和3年度の調査結果では、大企業では70.8%、中堅企業では40.2%が既に策定済みであり、策定中・予定を含めると大企業では96.1%、中堅企業では80.1%とほとんどの企業がBCPに取り組んでいます。
特に平成23年度以降、大企業・中小企業共に策定済み・策定中・策定予定の割合が大きく増加し、東日本大震災をきっかけにBCP対策について具体的に検討する企業が増えたと思われます。その後も、気候変動の影響により激甚化・頻発化している豪雨災害や土砂災害などが契機となり、BCP策定は着実に進んできています。


BCP策定状況 大企業

BCP策定状況 大企業


BCP策定状況 中堅企業

BCP策定状況 中堅企業

※出典:内閣府「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査

企業が重視しているリスクと見直し頻度(規模別)

企業が重視しているリスクについては、大企業・中堅企業ともに「地震」、「感染症(新型インフルエンザ、新型コロナなど)」、「火災・爆発」が上位を占めており、共通した回答結果となっています。令和3年度の最新の調査結果では感染症の回答に新型コロナウイルス感染症の記載が含まれ、前回調査から回答率が大きく増加しています。企業の働き方や社会の在り方が大きく変わるタイミングであり、その影響の大きさがうかがえます。


重視しているリスク

また、BCP策定済みの企業の内、大企業では36.3%が「毎年必ず見直している」と回答しており、中堅企業・その他企業と比べて高い結果となっています。会社組織の変更や事業の新設・廃止、また新型コロナウイルス感染症のように社会の大きな変化など、一度BCPを策定してもその内容の変更が必要となるタイミングは断続的に発生します。毎年・隔年など定期的な見直しを行うことが重要です。

企業が重視しているリスク上位3項目の解説

では、見直しを行う場合どのようなことに着目するとよいのでしょうか。
企業が重視しているリスクの上位3つに挙げられた「地震」「火災・爆発」、「感染症」について、不動産の視点から解説します。

見直しの際に各項目で検討すべき点

①地震、火災・爆発

1:建物の耐震対策

日本は世界有数の地震国であり、近年では南海トラフ地震や首都直下地震の発生リスクも高まっています。地震は建物や設備、社会インフラへ大きな影響を及ぼすため、建物の耐震性向上が対策の一つとして挙げられます。
以下は、国内における住宅の耐震化率の推移を示したグラフです。住宅においては平成15年が約75%、平成20年が約79%、平成25年が約82%、平成30年が約87%と耐震化率が着実に上昇しており、令和7年を目途に耐震性の不足する耐震診断義務付け対象建築物をおおむね解消する目標を掲げています。東日本大震災では、耐震化された建物の多くは被害を免れているなど耐震化の有効性が確認されており、様々な公的支援を行いながら耐震化への取り組みが進められています。


住宅の耐震化の状況

住宅の耐震化の状況
※出典:内閣府「令和5年版 防災白書

また、東京都では、昨年10年ぶりに首都直下地震の被害想定を見直し、対策強化に向けた具体的取組を横断的に推進することで、想定される被害を2030年度までにおおむね半減させるという目標を示しました。修正された地域防災計画では、耐震診断や耐震改修などの助成を実施するといった、耐震化を促進するための支援策も盛り込まれています。
国や自治体が耐震化に取り組む建物所有者への支援を進めている状況下で、法人が所有する建物の耐震化の状況はどのようになっているのでしょうか。国交省の土地基本調査総合報告書によると、昭和55年以前に建てられた、いわゆる「旧耐震」と呼ばれる建物(※工場を除く)に限定して行った調査では、平成30年1月1日時点で新耐震基準を満たしているか未確認と答えた割合が過半数を占めており、法人においても同様に耐震化への迅速な対応が迫られています。

2:建物・設備点検の実施、防災訓練の実施

火災時にスプリンクラーが作動しない、消化器の期限切れなど、点検を怠ったが故の被害拡大もあります。建物・設備の法定点検や、日常的な点検業務を怠らないことは必須となります。また、被害拡大の防止のため、隣地及び道路向かいの建築物などへの延焼予防として、延焼の恐れのある開口部に防火・耐火戸あるいは網入りガラスを設けることなども対策として挙げられます。木造の住宅密集地などは特に危険性が高く、建替えが容易ではない場合は、拠点分散も視野に入れることをお勧めします。そして、災害が発生した時に適切な行動ができるよう、防災訓練を定期的に実施し備えておくことも大切です。

3:拠点分散の検討

1、2に挙げたような防災対策を施した上で、災害が発生した後に事業継続・復旧へスムーズに移行できるよう、拠点分散の検討も対策の一つとなります。地震などの自然災害は建物や設備、社会インフラへの被害が大きく想定されるため、特に分散化は被災地域一帯のインフラ停止による影響を回避できることが大きなメリットとなります。被災地域の拠点が事業継続困難となったとしても非被災地域の拠点にて事業を継続することができるよう、本社が被災した際に代替の機能を担える支店やセカンドオフィスを構える、エリアの一極集中リスクを軽減するため拠点を広域に分散するなど、企業は自社の不動産戦略を検討することが大切です。

②感染症

1:拠点の分散化、働き方改善(リモートワークなど)

建築や設備、インフラなどに甚大な被害を及ぼす自然災害と異なり、感染症は人への健康被害が大きく、感染防止策が最も重要となります。(下記図参照)
新型コロナウイルス感染症ではオフィスや店舗内でのクラスター発生が相次ぎ緊急事態宣言が発令されるなど、人的被害が事業継続に支障をきたしました。そのため、拠点の分散化や、いざという時に従業員全員がリモートワーク可能な状態にあるなど、柔軟な働き方へのシフトがBCP対策の一つとなります。


新型コロナウイルス等感染症と地震災害との違い
(厚生労働省 「事業者 ・ 職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」 に加筆)

新型コロナウイルス等感染症と地震災害との違い
(厚生労働省 「事業者 ・ 職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」 に加筆)
2:オフィス内の環境改善

コロナ禍では多くの企業がオフィス内での感染を防止するために様々な施策を講じていましたが、「非接触」というキーワードがトレンドとして頻繁に取り上げられ、関連する製品・サービスも多く提供されました。非接触型のタッチ操作パネルや体温検知システム、エレベーターのボタンやドアノブをカードリーダーやスマートフォンで操作する製品など、テクノロジーを活用したサービスを導入することも有効です。このような製品・サービスを予め導入しておく、または機動的にサービスを導入できる体制を築いておくことが感染リスクの低減につながります。

緊急事態発生時には多くの従業員が一時就業不能となる可能性もあり、BCPの発動が必要となります。そのため、BCPは策定しておけばそれでよいというものではなく、緊急時に有効に機能するためには、日ごろからBCPや防災に関するリテラシーを高めたり、定期的に防災訓練を実施するなど、BCPへの前向きな姿勢を各人がもつことも、併せて重要となります。
有事の際にサプライチェーンを途切れさせない事業継続力を有することはBCP対策の一環として大切であり、結果として企業価値向上へとつながります。これを機に、企業不動産戦略の視点からBCPの見直しを行ってみてはいかがでしょうか。

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