2023年 選ばれるオフィスとは?

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目次

オフィス大量供給年となる2023年は、様々な要素を備えたオフィスビルが竣工を迎える。
本特集では、近年のオフィスの選択肢として重視される点や、それに対応した取り組みについて紹介したい。

新たな要素によりオフィスビルの差別化が進む可能性

新型コロナウイルスによる在宅勤務の普及や企業の脱首都圏増加などの影響で、2020~2022年にかけて都心のオフィスの空室率は上昇した。そして2023年は都心のオフィスビルの新築ラッシュが予定されている。
オフィスの大量供給はテナントにとって選択肢が広がる一方、デベロッパーやオーナーにとっては、テナントの移転による2次空室の発生も予測され、厳しい時代ともいえる。しかし、トレンドを読み、テナントのニーズをしっかりと受け止めることで、他との差別化を図ることができる。これは、いわば“選ばれるオフィス”への近道であろう。

ビルに求められる「質」とその基準

オフィスビルの選択には「賃料」や「立地」を条件に挙げることが多い。しかし、コロナ禍以降はその2点だけでなく、ビルの「質」が重視される傾向が強まっている。
重要視されるようになった項目の傾向を見ると、「BCP」「環境配慮」「ウェルビーイング」などに関連している。
それらについて具体的にどのような対策が求められているのか、識者の意見を交えながら解説したい。

オフィスビルの選択条件のうち重要度が高い項目
オフィスビルの選択条件のうち重要度が高い項目

これからの時代に選ばれるオフィスとは

BCP

BCPは、緊急時に中核となる事業を継続させるための計画を指す。地震や水害などの自然災害対策や、それに伴う緊急時の電源確保、備蓄、セキュリティ対策などを兼ね備えたオフィスへの入居が損害を最小限に食い止める際に、重要なカギとなる。

環境配慮

ESGやサステナビリティを動機とした企業の環境問題に対する取り組みは一般化してきており、環境配慮もオフィスビルを選ぶ基準の一つとなってきている。それに対応して様々な設備の開発・導入が進んでいる。

CO2排出量の削減

エネルギー消費を低減させる技術

二重ガラスの間の空気層に室内空気を循環させ外部からの熱負荷を軽減する「エアーフローウィンドウ」や、屋上に遮熱塗料を塗布することで日射による室内温度上昇を低減させる「クールルーフ」などがある。

再生可能エネルギー

自然エネルギーによる発電

普及が進む太陽光発電機の他、屋上を吹き抜ける風のエネルギーを活用した小型風力発電機もある。

環境負荷の低減

間伐材の活用

国産の間伐材を使用したCLT※の導入が進んでいる。また、フロアや案内板、ベンチ、テーブルなどに保全森林の間伐材を活用する例もある。

※Cross Laminated Timberの略称で、木の板を繊維方向が直交するように積層接着して強度を安定させた建材。

ウェルビーイング

コロナ禍以降、テレワークの普及など働き方の多様化が進み、オフィスの在り方が見直されるようになった。コロナ収束後も、オフィスの快適性を追求する流れは続いており、コミュニケーションや福利厚生、ワークライフバランスなどの観点から新しい要素を備えたオフィスビルが人気を得ている。

インタビュー識者が読み解く 建物の価値を裏付ける認証制度

ビルの開発や運営を行う企業(オーナー)とそこに入居する企業(テナント)はそれぞれの事業目的が異なるため、建物の構造に関わることやインフラ(電力、上下水道など)の基本的な考え方において、これまで連携することは難しかった。
しかし、ESGの考え方が広まり、ビルの設備や機能は、オーナー、テナントともに企業の環境的、社会的価値を体現するものとして脚光を浴び始めている。
さらに、第三者による認証制度の整備は、双方のメリットとなり、今後のオフィス選びの新たな指標となることが予測される。
今回は、このような動きに詳しい一般財団法人日本不動産研究所 業務部 次長 古山 英治氏にお話を伺った。

一般財団法人日本不動産研究所
業務部 次長

古山 英治氏

オフィスが立地、賃料以外の要素を重視して選ばれるようになっている背景について教えてください。

2011年に発生した東日本大震災以降、自然災害による建物の被害が注目を集めるようになりました。命を守ることが第一ではありますが、事業継続(BCP)への関心が高まっていることが大きいと思います。
さらに、カーボンニュートラルが世界的に考えられるようになったことがとても大きな要因です。ZEB※や再生可能エネルギーの活用などオーナー側の意識が高くなりました。一方、テナント側も「事業を行う場所」というだけではなく、ESGに即した要件を満たしたオフィスに入ることによりビジネスのうえでの付加価値があるとともに、省エネで水光熱費のコスト削減になるなどメリットを感じるようになったことが大きいです。そのような中で、賃料が高くとも災害リスクが考慮された安全性の高いオフィスビルに入居することは、長い目で見ると経済的にも良いといえるとともに、テナントとして入る企業にとってはメリットの大きいものになるのです。

※Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。

これらの背景を踏まえて、昨今のオフィスビルが備える要素にはどのようなものがありますか。

オフィスビルはESGに含まれる環境(Environment)と社会(Social)に関連する部分に特に影響します。労働環境に関するものでは、可視光線を遮断する機能によりガラスから入る光と熱の量をコントロールする「スマート調光ガラス」やパソコンやサーバなどの事務用機器すべてを再エネだけで電源調達する「再エネ100%ビル」は優れた環境整備です。
入居するそれぞれの企業にとってのメリットだけではなく、緊急時に近隣にもひらかれた避難場所になることができる「耐震性能Sグレード」や「免震構造」をもっていることも大きな要素です。それに伴い、数日間の滞在を想定した「防災備蓄」や「非常用電源」を備えていることも挙げられます。特に2019年の台風19号による水害で都心の建物にも大きな被害が出たことから、設備の高層設置や防水板、逆流防止弁の設置などへの関心が高まりました。

入居企業のオフィス選びは企業が抱える様々な課題を解決する選択肢となるため、優先順位や意思決定プロセスなどが複雑化し、オフィス移転の判断が長期化するなどの障害はないのでしょうか。

事業形態によって建物の使い方は様々ですが、企業が目指す姿に近づける手段として、入居するオフィスを選ぶことが増えてきています。数年前までは総務部や管財部などの管理部門が選んでいましたが、近年では経営者が中長期的な経営の視点で入居オフィスを選ぶことも増えてきました。さらに2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に署名をしてからはESGへの重視が加速化し、LEEDやCASBEEなどの認証物件への入居が進んでいます。特に外資系の企業はそのような認証のあるオフィスへの入居を基準化しているところが多いです。テナントへの事業者税免除や補助金獲得などのメリットがないといわれていますが、水光熱費のコスト削減や企業価値向上など、国内企業も同様の動きになりつつあります。建物の価値を第三者が裏付ける認証制度はオフィス移転を検討するうえで、大きな指標といえます。

オフィス選びを行うテナントやユーザーにとってこれから注目される要素など、オフィスに必要とされる要素の展望をお聞かせください。

近年では人材の流動化が起きているうえ、人材採用においてオフィスの環境整備の重要度が高まっていることから、オフィス環境を優秀な人材を確保するための手段としている企業も少なくありません。コスト削減に直接的に影響する省エネ性能よりも生産性向上に結び付く可能性が高いウェルネスを目指し、ワーカー向けラウンジや光や音への配慮をした設計のオフィスが好まれることもあります。このような場合は、健康やウェルビーイングに焦点を当てたWELL認証がオフィス選びの後押しとなります。
また、市場の7~8割は築古物件といわれており、それらをリニューアルして不動産価値を維持させる動きがあります。建物そのものを長く使い続けることに価値を見出し、技術開発も進んでいます。複数の要素をもつビルがオフィス選びの主流となっていくことが予測されます。

オフィス選びを後押しする建築物の認証制度例

CASBEE、ResReal(レジリアル)、DBJ Green Building認証、LEED、WELL
CASBEE、ResReal(レジリアル)、DBJ Green Building認証、LEED、WELL
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