データ統合が可能にするオフィスDX戦略

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目次

「オフィスDX」とは、デジタル技術の導入により、オフィスを改革し、企業のあり方に変革をもたらすことを指す。オフィスDXで蓄積されたオフィスデータは、多様化するオフィスでの働き方や経営戦略の可視化に役立ち、企業間の競争に勝つためにも有効だろう。こうしたデータの活用が、ビジネスモデルの改革や、企業の中長期的な経営戦略にどのように貢献していくのかを紹介する。

企業におけるDX化の高まり

少子高齢化が進行し、労働人口が減少していく日本。業務に対する労働力(従業員)の不足に対応するためには、業務効率化が必要となる。一方で、IoT・ICTといった技術進化は目覚ましく、業務への導入も増えている。
中小企業の DX 推進に関する調査によると、DXに期待する成果・効果の上位回答は、「業務効率化」が64.0%、「コスト削減」が50.5%につづき、「データに基づく意思決定」が31.0%で前回比10%以上大きく増加した。このように企業のデジタル化への意識は高まっているといえる。
オフィスでデジタル化が促進されると、オフィス環境の快適性や業務の生産性が向上するだけでなく、働き方やビジネスモデルまでもが変革する 「オフィスDX」がもたらされる。

DXに期待する成果・効果(n=491 複数回答)

出典:「中小企業のDX推進に関する調査(2023年)アンケート調査報告書」(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)を加工して作成

オフィスDXの可能性

多様化する従業員の働き方に対応するため、「オフィスDX」が欠かせない。オフィスが快適、かつ便利になるだけでなく、ここで得られたデータはオフィスという“資産”を活かす材料となる。
会議室の予約を例にとると、予約ツールにより参加人数・使用頻度などの情報がデータで正確に適宜把握できる。オフィスレイアウトの変更が生じた場合などに、取得したデータがオフィスを最適化するうえで貴重な判断基準となる。
オフィスに関する「ヒト・モノ・カネ・情報」に関するデータが集積・可視化され、さらに一元化して管理できると企業の成長戦略を支えることにもつながる。DXで働き方はどのように変革していくのか、その可能性を探る。

オフィスDXによるメリット

オフィスDXは、テナント側とオーナー側に分けて考えられる。テナント側では「オフィススペース」や「オフィス業務」のデータ可視化によりDXが進むと、従業員の働き方に変革をもたらし、従業員の満足度向上や経営判断に役立つ。一方でオーナー側においては、オフィスビルに関わるデータ可視化によりDXが進むと、ビル経営の改善が見込まれる。

オフィスDX(テナント側)

オフィススペースのDX

ワークプレイスへのIoT導入がオフィススペースDXへの前提。ワークプレイスの状況をデータ化することで、可視化が可能になる。
身近な例を挙げるならば、会議室の利用状況、執務室内の温度・空気環境、人感センサー・人流モニターによる施設利用のモニタリングだ。オフィスの有効活用が期待できるだろう。

経営にもたらすメリット

コロナ禍で浸透したABWは従業員の増減によるレイアウト変更が必要となった際でも、オフィスの執務環境の変化に対して、柔軟に対応できる。
「一人当たりの面積にかかるお金」ではなく、「スペースの費用対効果」を測定して、経営判断(コストから投資へ)が可能に。さらに、CO2排出量の測定などから、ESG評価や脱炭素経営(カーボンニュートラル)の実現にも結びつく。

オフィス業務(ワークオーダー)のDX

人事・総務・財務といった社内バックオフィス業務から取得するデータ。これらはいわゆる「ワークオーダー」と呼ばれる。
来客・社員用ドリンクやコピー用紙などのオフィス備品を在庫システムで管理すること。さらに社員のアカウント管理や勤怠管理をクラウド上で行うことも対象となる。

従業員の仕事への影響力

業務管理の「見える化」により、各担当者はリアルタイムでオフィスの在庫状況や使用状況などを確認できる。 
アナログ作業によるヒューマンエラーを起こす可能性も低くなる。業務の効率化ができ、従業員の業務内容に大きな影響を与える。

ビルDX(オーナー側)

ビル情報を一元管理するためのシステム

BIM

設計・施工の図面情報を
3Dモデリング

  • ライフサイクルの管理
  • 建物維持

※建設だけではなく運用・解体も含めた建物の“生涯”に着目した考え方

CAFM

建物情報を一元化した
不動産情報管理システム

  • 設備投資検討
  • ライフサイクルコストの低減・改善
BEMS

エネルギー消費量を
分析・管理

  • サステナブル経営
  • カーボンニュートラル対応

オフィスDXはテナント・オーナー間に好影響をもたらす

テナントがオフィスDXを進めると従業員満足度が向上し、テナント企業の成長は入居するビルの価値を高める。一方で、オーナーがビルDXを活用しビル経営の改善や社会貢献に取り組むことで、テナントがオフィスを選択し続ける理由にもなる。データ統合によるオフィスDXの実現は、自社のみならずステークホルダーにも好影響をもたらすことが期待できるだろう。

インタビュー : イクスピリエンスを生み出すファシリティーマネジャー
~DXの未来をつくるIWMS~

株式会社ファシリテイメント研究所
代表取締役マネージングダイレクター

熊谷 比斗史 氏

私は若い時にオフィス移転の経験からFM(ファシリティマネジメント)に興味を持ちました。そして、1996年にオランダのFMに出会いました。当時の日本におけるFMの考え方は、建築や設備、スペースデザインなどを前提にした“ハードウェア”中心の考え方でした。しかし、オランダでは「FMは『ホスピタリティ』を提供するための“ソフトウェア”である」という考えが主流でした。つまり、施設や設備ありきでサービスや運営、維持管理を考えるのではなく、最初に社員が使い勝手のいい環境、心地よいサービスがあり、それを実現するための施設や設備を後から考えるのです。

会議室にセンサーを設置して使用状況を感知し、照明や空調を調節するといったDXはコスト削減や環境配慮のわかりやすい事例で、日本でも多くあります。しかし、海外では、社員の健康促進やコミュニケーション促進のためにDXを活用しています。たとえば、オフィスの階段使用が一定数以上あった週には、金曜の午後におやつが提供されるなどの仕掛けがあるのです。センサーを使って人数や移動を数値化して割り出しているのですが、これにより達成のために声を掛け合うなどの交流が生まれ、社員の満足度が向上します。この満足感を味わった瞬間を「イクスピリエンス」と呼んでいます。一見経営とは無関係に見える取り組みですが、ちょっとした楽しみやワクワク感を生むことにより、会社があるべき姿に向かうためのきっかけを作り出しているのです。

近年、日本でもセンサーやアプリで取得できるデータ情報をより経営判断に役立てる動きが高まっています。IWMSの導入はその手段のひとつとして有効だと考えます。しかし、IWMSのデータを活用して従業員(ユーザー)のイクスピリエンスを生み出すには、経営的なゴールを理解し、イクスピリエンスを生む仕掛けを提案できるクリエイティブなファシリティマネジャーが必要です。日本ではまだ管財担当というイメージが強いファシリティマネジャーですが、海外では人事部直下に配置している例も多く見られます。イクスピリエンスを生み出せるファシリティマネジャーの存在やIWMSの普及、またそれを受け入れられる遊び心をもった経営者の存在こそが、オフィスDXの普及のカギといえるかもしれません。

※Integrated Workplace Management Systemの略称で、統合型職場管理システムを指す。オフィス空間・施設管理・不動産契約・エネルギーといった情報を一元管理できるソフトウェア・プラットフォームの総称

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