クラウドを利用した動産管理と企業価値の向上。
「e-Leasing」と「CRE@M」が目指すもの

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 不動産であれ動産であれ、企業が保有する資産管理をいかに効率的かつ一元的に進めるかは経営を左右する重要課題だ。昨今はインターネット技術の進歩でこうした管理業務をクラウド上で提供するサービスが生まれている。三菱地所リアルエステートサービスの不動産Web管理ツール「CRE@M」もその一つ。一方、リース物件などの動産管理では三菱UFJリースが提供する「e-Leasing」が注目を集めている。両者がめざす共通の狙いは何なのか。クラウドサービスを活用することで、企業価値はどのように向上するのか。三菱UFJリース e-ビジネス推進部の長谷川善貴氏に話を聞いた。

管理データが分散したままなので、
資産の有効活用が図れない

前田 企業が保有する不動産では、社内に何らかの管理データをもつ企業は少なくありません。ただ、その重要データが事業所ごとに分散されたまま共有化されていなかったり、取得時・売却時には記帳されるものの、その間の価値評価はなおざりになっている例もよく見られます。その結果、遊休資産が常態化してしまうという問題があります。データはあれどそれが有効に活用されていない。これは、リース物件という動産管理でもよくお感じになっていることではないでしょうか。

長谷川 たしかに固定資産台帳のようなExcelや紙の帳票は存在しますが、その管理が部門ごとにばらばらというのがもっぱらの現状だと思います。リースで導入した資産がいまどこでどのように使われているのか、あるいは使われずに眠っているのか、全体的な把握ができていない。そのため、同じものを余分に購入してしまったり、すでに物件は使われていないのに再リースを繰り返して余分なコストをかけてしまったりということが散見されます。これらが積み重なれば企業の機会損失になりかねません。

前田 データの有効活用ができない理由が社内の人的リソースやノウハウの欠如によるものだとすれば、それを改善するための支援を外部企業が提供する余地はあるでしょう。私たちも、土地・建物の基本情報管理やCREプロジェクトの進捗管理などをクラウド上で管理できるツールがあるべきだと考え、2008年から「CRE@M」(クリーム)というサービスを始めました。すでに大手企業を中心に多数の採用実績をいただいています。
 御社の場合は動産が対象ですが、同じようにクラウドベースで使えるサービスがあって、好評のようですね。

リース物件の契約情報を一元化・共有化する
クラウドベースのシステム

長谷川 リース契約情報──対象物件・数量・設置場所・リース料・リース期間等を、インターネットを介してお客様自身が適宜照会し、設備の移動などの変更手続きや、満了手続きができるWebサービス「e-Leasing Direct(以下、ダイレクト)」を1999年にリリースしました。リースの契約から満了までの一連の情報を、インターネットでいつでも閲覧していただけます。また、電子契約機能をご選択いただくと、リース契約書類のペーパーレス化が図れます。無償提供ということも手伝って、現在、6500社のお客様にご導入いただいています。
 2008年にJ-SOXが導入されて以降、各種の管理体制を見直す企業が増え、リース資産だけでなく、保有資産全てを管理したいというニーズが増えてきました。そこで、リース契約物件だけではなく、お客様が保有する全ての物件のライフサイクル(「買う→使う→捨てる」)を対象とした資産管理プラットフォーム「e-Leasing Direct Platinum(以下、プラチナ)」を、2012年にリリースしました。
 会計部門が管理する「固定資産・リース資産台帳」や、現場が管理する「(資産の)現物台帳」など、企業の各種台帳情報の一元化をサポートするものです。
 プラチナをご採用くださるお客様が増えるに伴い、企業が抱える資産管理の課題は、非常に多岐に亘ることが分かってまいりました。

長谷川善貴が語る

現場のニーズに即した資産管理
「管理のための管理」ではない

前田 それはどんなものですか。

長谷川 業種や部署、さらには物件によって管理する観点が異なります。例えば、設備の所在(設置場所)や稼働状況については、決算期ごとの棚卸し時点で分かればよいのか、あるいは常時、把握する必要があるのかなど、また、会計処理上で必要な固定資産台帳管理のためか、そうではないか、などでも相違します。
 更に、製造業で使われる金型は、工場間の移設や、委託企業へ貸与するケースも多いため、貸与状況の管理も必要になります。工場が管理する機械設備では、メンテナンス情報の一元管理が求められます。情報システム部門が管理するサーバーでは、一つひとつのスペックやセキュリティ対策の管理、ソフトウェアのバージョン管理までもが求められます。こうしたさまざまニーズを、どう解決するかが課題でした。
 「管理のためのツール」になってしまうと、各現場の実態に合わず、結果的に誰も使わなくなる。さらに、現場に「強制されている感覚」を抱かせてしまうことも想定されました。資産の一元管理は経営の全体最適という意味で重要ですが、結果的に現場への負荷が増えてしまうのでは、元も子もありません。
 「管理のための管理に陥らない」ということは、先ほど述べたとおり、資産管理を一元化する上で極めて重要です。管理手法を統一化するのが目的なのではなく、各現場に則した管理目的や手法は活かしたまま、その情報をクラウドに集約することで、結果的に現場の業務そのものの改善にもつながるという点が大切です。
 資産管理システムは、汎用化・標準化ということよりも、各現場の業務に応じてカスタマイズしやすいことが大切であり、またこれを活用する現場の仕組みを作ることが欠かせません。これは私たちが得た極めて重要な教訓です。

単なるコスト削減を超え、資産の「見える化」を
経営戦略に活かしていく発想

前田 たしかに、会計や経理の部署にとっては、資産が一元的に管理されることで減価償却処理や決算書類の作成はやりやすくなるし、経営にとっても資産の「見える化」が進むのはよいことですが、一つひとつの物件の状態を記帳するのは現場ですからね。現場にとってもメリットがないとモチベーションは高まりませんものね。

長谷川 「プラチナ」では機能の一つとして償却計算機能を提供したこともあるのですが、管理手法が経理や会計目線にあまりにも寄りすぎてしまうと、現場部門の管理ニーズとの齟齬が生じてしまいます。決算のためと言われても、現場にとっては遠い話ですからね。そうではなく、資産データを管理することは、現場の業務をよりスムーズにするためにも不可欠なことですし、システムは現場にも役立つものだという位置づけを理解していただくことが重要でした。
 実際、「プラチナ」を導入することで、生産終了後も一定年限の保管を義務づけられている金型について、所在や稼働状況の管理業務がスムーズになったという製造業のお客様がいらっしゃいます。また、工場が水災に合われた際、システムに資産台帳のデータを整備されていたことから、損害保険の請求がスムーズに行えたという報告も伺っています。

前田 実は「CRE@M」も、2011年の東日本大震災をきっかけに導入を検討されるお客様が増えたということがあります。万一、事故や災害が発生した場合でも、資産管理さえしっかりしていれば迅速な復旧が可能です。まさにBCP的な観点からも、両者の資産管理システムは有効であると思いますね。
 ところで、「プラチナ」導入による資産管理コストの低減ということでは、何か数字をお持ちですか。

長谷川 これはお客様、特に経営層の方々にもよく聞かれることです。ただ、私たちはこのシステムを必ずしもコスト削減のためだけのツールとは位置づけていないのです。実際、このシステムで機械のメンテナンスの過不足状況がわかったとしても、それが管理コストにどう反映しているのかは数字的にはわかりにくい。ですから、コスト削減には役立つけれども、より重要なのは管理業務に関する満足度の向上だと、私たちは考えています。資産管理の「見える化」によって、資産を動的に管理する意識を高めることが、経営的には大切ではないか、という考えに至りました。

長谷川善貴が語る

前田 そのお考えは私どもの「CRE@M」でも全く同じです。不動産の状況をたえず「見える化」しておくことではじめて、積極的なCRE戦略が講じられると考えています。

長谷川 管理の最適化・効率化というのはどこかでトップダウンでやらなければならないものです。しかし、実際に資産がどう管理されているかというデータの整備や、全体の把握がされていないまま全社を一元管理しようとすると、現場が困ってしまいます。経営にとっても現場にとってもこのシステムを使って「見える化」を進めることが大切なのです。

前田 「プラチナ」はたえずバージョンアップを続けられているようですが、資産管理ツールは、テクノロジーの進歩を取り入れることで、これからはどんな形に変わっていくとお考えですか。

長谷川 例えば一つひとつの物件にQRコードを貼り付け、それをスマートフォンで読み取ることで物件がどの製造ラインで使われ、どの倉庫に保管されているのかがすぐにわかるような機能があります。将来的には送信機能をもつ小さなICチップを物件につけることで、自動的に位置情報が把握できるというような技術も不可能ではないと考えています。

前田 なるほど物理的に紛失してしまう可能性がある動産を管理するうえでは必要な技術であり、優れた発想だと思います。

クラウドシステム活用に企業価値の向上

企業資産管理のノウハウをもつ企業が
サービスを提供する意義

前田 先ほど「プラチナ」をご紹介いただいた際に、システム導入ですべて解決できるわけではない、その前後のコンサルティングこそが大切なのだと、おっしゃられました。私どもの「CRE@M」でもその点を重視しており、両者の狙いは共通しているように思います。システムの運用一つとっても、「誰が責任をもって記帳するのか」という点が重要です。そのためにはコンサルティングを通して経営や現場の課題をあぶり出し、その改善のために一人ひとりが当事者意識をもって管理にあたるという風土を組織内に醸成していく必要があります。

長谷川 私たちは、長年のリース業務を通して、お客様企業がモノを「買う→使う→捨てる」というサイクルをずっと見てきました。それぞれのサイクルにどのような課題があるのか、どうすれば課題を解決できるのかということについて当社ならではのノウハウを蓄積しています。「プラチナ」はそうしたノウハウを詰め込んだシステムではありますが、それが運用とマッチしなければ、企業価値の向上にはつながりません。システム導入によって、人々の意識を変え、結果的に全社最適のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)につながるものでなくてはなりませんから、コンサルティングや十分な導入教育は不可欠のものだと考えています。「CRE@M」も「e-Leasing」も、ITベンダーではなく、専門の事業会社が提供している。だからこそ現場で使えるし、経営層にとってもわかりやすい、ということはあるのではないかと思います。

前田 たしかに我々はともにITサービス企業ではないけれども、お客様にとっての企業資産管理とそれを戦略的な経営につなげていくという点では、それぞれ深い経験とノウハウを持っています。だからこそより実践的なコンサルティングやツール、サービスを提供できるのではと自負しています。
 本日は動産・不動産という扱う対象の違いを超えて、クラウドベースの資産管理ツールをどのように経営戦略に活かしていくかということについて、貴重な意見交換ができたと思います。ありがとうございました。

Profile プロフィール

三菱UFJリース株式会社
e-ビジネス推進部長

長谷川 善貴

同社に入社後、ファイナンス営業に数年間従事したのち、審査部、情報システム部、企画部等を歴任し、現在に至る。
情報システム部門では、同社の基幹システムの設計デザインを担当。カーリース、不動産リース等のサブシステム構築も手掛け、企画部門ではM&Aや新事業・商品開発などに従事。手掛けた新事業・新商品は、ファイナンス事業から排出権事業や介護施設運営事業に至るまで幅広い。

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