ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(1)

目次
はじめに
昨今、企業の物流業務を取り巻く社会情勢は、「物流2024年問題」をはじめとして、大きく変化している。こうしたなか、企業の「物流戦略」は重要な経営課題のひとつに位置づけられており、戦略の立案にあたって、業務の多様化への対応や、人手不足、防災対応、環境規制等の多様な要素を考慮する必要があり、物流施設に求められる機能や設備等についても高度化している。
こうした状況を踏まえて、弊社は、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で、日本国内の主要荷主企業および物流企業を対象に「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」(以下、本調査)を実施した。[1]
本稿では4回に分けて、本調査の集計結果の一部を紹介し、企業の物流戦略や物流施設利用の方向性等について考察したい。まず、前半の2回では、企業の物流戦略の現状と課題について概観する。続いて、後半の2回では、物流施設利用の現状を概観し、物流不動産市場への影響等について考察する。
[1] アンケート送付数;日本国内の主要荷主企業および物流企業 4,486社 [荷主企業3,513社・物流企業973社]
・回答数;234社(回収率:5%)
・調査時期:2024年7月~9月
・調査方法:郵送・E-mailによる調査票の送付・回収
調査概要は以下プレスリリースを参照。
(株)ニッセイ基礎研究所リリース記事はこちら。三菱地所リアルエステートサービス(株)リリース記事はこちら。
企業の物流体制
物流施設の配置方針
本章では、企業の物流体制の現状を概観する。まず、本調査で「物流施設の配置方針」について荷主企業に質問したところ、「各都市圏に配置」(55%)との回答が最も多く、次いで「各地域(都道府県よりも小さい単位)」(33%)、「各都道府県に配置」(12%)の順に多かった。物流企業でも同様に、「各都市圏に配置」(60%)との回答が最も多く、次いで「各地域(都道府県よりも小さい単位)」(30%)、「各都道府県に配置」(11%)の順に多かった(図表-1)。
多くの企業は、都市圏毎に、輸送・配送範囲を広域でカバーする物流施設を配置していることがうかがえる。一方、全国でビジネスを展開している大手物流企業や、製造業および小売業の物流機能の一部を担っている商社・卸売業等は、よりきめ細やかな物流サービスを実現するため、地域毎に物流施設を配置している模様だ。
図表-1 物流施設の配置方針

物流施設(拠点)数の方針
次に、「物流施設(拠点)数の方針」について荷主企業に質問したところ、「物流拠点の数は現状維持」(65%)が最も多く、次いで「物流拠点の数を増やす」(20%)、「物流拠点の数を減らす」(15%)の順に多かった。物流企業でも同様に、「物流拠点の数は現状維持」(51%)が最も多く、次いで「物流拠点の数を増やす」(45%)、「物流拠点の数を減らす」(4%)の順に多かった(図表-2)。
物流企業では、物流拠点数を「増やす」との回答が「減らす」との回答を大幅に上回った。ネット通販市場の拡大等に伴い、物流需要が堅調に推移していることを受けて、物流企業は物流拠点を拡大(増加)する意向が強いことがうかがえる。
図表-2 物流施設(拠点)数

物流業務の外部委託
荷主企業においては、物流業務の高度化等に伴い、各業務を専門事業者に外部委託することで効率的な物流網を構築する意向が強まっている。
本調査で、物流の各業務[(ⅰ)配送・輸送業務・(ⅱ)包装・流通加工業務・(ⅲ)保管業務]について「現在の外部委託の割合」を荷主企業に質問したところ、いずれも「外部委託比率が100%」(業務を全て外部委託)が最も多く、(ⅰ)配送・輸送業務では79%、(ⅱ)包装・流通加工業務と(ⅲ)保管業務ではそれぞれ38%を占めた(図表-3)。物流業務における外部委託が進んでいる現状がうかがえる。
一方、(ⅱ)包装・流通加工業務では、「外部委託比率が0%」との回答が26%を占めた。食品の二次加工や家具等の組み立て、ギフト包装(ラッピング)等、包装・流通加工業務において独自のスキルを要する企業では、全ての業務を自社で担っているようだ。
図表-3 現在の外部委託の割合

(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」
次に、「外部委託先」について質問したところ、(ⅰ)配送・輸送業務では「専業輸送企業(68%)」、(ⅱ)包装・流通加工業務では「3PL[2]企業(39%)」、(ⅲ)保管業務では「専業倉庫企業(44%)」が最も多かった(図表-4)。
現状、配送・輸送業務についてはトラック運送業者に、保管業務については倉庫業者に委託する等、それぞれの専門事業者に委託するケースが多い模様だ。一方、「3PL企業」との回答が各業務で約4割を占めており、物流業務サービスを包括的に提供する「3PL企業」に一括で委託する企業も増えていると考えられる。
続いて、「今後の外部委託方針」について質問したところ、いずれの業務でも「現状維持」が多くを占めた(図表-5)。ただし、(ⅰ)配送・輸送業務では「増加」が16%、「減少」が4%、(ⅱ)包装・流通加工業務では「増加」が14%、「減少」が6%、(ⅲ)保管業務では「増加」が18%、「減少」が11%となり、いずれの業務でも「増加」が「減少」を上回った。今後も、物流業務の外部委託が緩やかに進展することが見込まれる。
図表-4 各業務の外部委託先

(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」
図表-5 今後の外部委託方針

(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」
[2]「3PL」とは、「Third Party Logistics」の略。詳細な定義については以下のレポートを参照されたい。
吉田 資『3PL事業者が求める物流機能と物流不動産市場への影響(1)~拡大する3PLビジネスの現状~』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2022年1月19 日)
物流業務における課題
「物流業務における主な課題」について荷主企業に質問したところ、「コスト削減のための在庫圧縮」(49%)が最も多く、次いで「トラックドライバーの確保」(41%)、「輸送・配送時間の短縮」(40%)の順に多かった(図表―6)。
荷主企業においては、物流の恒久的な課題であるコスト削減を目的した在庫圧縮に次いで、トラックドライバーの確保が喫緊の課題となっている。トラック運送業界の労働需給を示す「労働力の不足感の判断指標」をみると、2024年第3四半期は「+79.4」とコロナ禍前の水準に戻っており、トラックドライバーの労働需給は逼迫した状況が続いている(図表―7)。
また、物流企業では、「トラックドライバーの確保」(57%)、「倉庫内作業(包装・仕分け)人員の確保」(57%)、「働き方改革の推進」(57%)が上位を占めた。
2017年に実施されたアンケート調査[3]によれば、物流企業の33%、荷主企業の26%が「倉庫内作業人員の確保」を物流業務の課題にあげていた。トラックドライバーや倉庫内作業人員の不足が加速するなか[4]、労働環境の改善など「働き方改革」を推進したいと考える企業が増えている模様だ。
図表-6 物流業務における課題

(注2)回答割合が20%以上の項目を抜粋して記載
(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」
図表-7 トラック運送業界の雇用状況(労働力の過不足)

(注2)回答社数構成比
(資料)公益財団法人全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感」から作成
また、「物流施設の自動化への対応」(荷主企業32%・物流企業38%)との回答も上位にあがっている(図表―6)。前述の通り、人手不足が深刻化する中、物流施設の自動化・機械化を推進し、施設内作業の省力化や現場作業の負担軽減を図る取組みが進められている。国土交通省「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「物流業務の自動化・機械化、デジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革などの効果を定量的に得ている事業者」の割合を2025年度までに70%に高める目標を掲げている。また、2024年6月に経済産業省が公募を始めた「中小企業省力化投資補助金」は、国土交通省が所管する物流業界にも適用され、物流施設の自動化もその対象となった[5]。
「環境配慮の取組」(荷主企業28%・物流企業26%)との回答も一定数あがった。2021年4月の気候変動サミットで、2030年度に温室効果ガス排出量を46%削減(2013年度比)する目標が示されて以降、物流分野においても環境配慮の取り組みが一層求められている。
こうしたなか、脱炭素社会の実現に向けて、トラックから鉄道や海運などに輸送手段を変更する「モーダルシフト」への期待が高まっている。「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「モーダルシフト」に関して、鉄道による貨物輸送量を184億トンキロ(2019年度)から209億トンキロ(2025年度)に、海運による貨物輸送量を358億トンキロ(2019 年度)から389億トンキロ(2025 年度)に増やす目標を掲げている。本調査でも、物流企業において、「モーダルシフトの推進」(21%)との回答が一定数あがっている。
[3] 吉田資『これからの物流不動産に求められる機能・役割~「物流不動産の活用戦略に関するアンケート調査」に基づく考察~』三井住友トラスト基礎研究所Report、2017 年4 月21 日
[4] 日本経済新聞電子版「物流施設、人手不足強く 11月派遣時給「軽作業」最高に」(2021 年12月15 日)
[5] 東京新聞 「35%の荷物が運べなくなる?「物流2024年問題」 規制強化に人手不足…荷主側企業の対応は」(2023 年4月18日)
「物流2024年問題」について
本章では、働き方改革関連法の改正により、2024年4月から自動車運転業務に対して、時間外労働時間の上限規制(年間960時間)が適用されたことに伴う諸問題(「物流2024年問題」)の影響について、概観したい。
「物流2024年問題」の影響およびその対策状況
「物流2024年問題」の影響について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに「輸送コストの高騰」(荷主企業92%・物流企業71%)との回答が最も多く、次いで「集荷時間などの輸送スケジュール」(荷主企業60%・物流企業50%)が多かった(図表―8)。
「物流2024年問題」は当初、荷物が運べなくなることが懸念されていた[6]。「荷物が運べない、配送遅延」(荷主企業47%・物流企業33%)との回答は一定数みられたものの、足元では、人手不足等に伴う輸送コストの上昇が課題として強く意識されているようだ。
「特に影響はない」との回答は、荷主企業では5%、物流企業では8%にとどまっており、「物流2024年問題」が、各企業の物流業務に広く影響を及ぼしていることがうかがえる。
図表-8 「物流2024年問題」の影響

また、「物流2024年問題」への対策状況について、「対策は実施しているが、まだ十分でない」(荷主企業68%・物流企業63%)との回答が最も多く、次いで「すでに対策を実施済み」(荷主企業15%・物流企業25%)が多かった(図表―9)。
CBREが時間外労働時間の上限規制適用前(2024年2~3月)に行った調査によれば、「2024年問題対応の実施状況」は、「対策は実施しているが、まだ十分でない」との回答が、荷主企業では48%、物流企業では58%、「すでに対策を実施済み」との回答が荷主企業では4%、物流企業では14%であった。
2024年4月の時間外労働時間の上限規制適用を経て、対策が進められているものの、その対応状況は十分でないとの認識を持つ企業が多いと言える。
また、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「時間外労働960時間規制に対するトラックドライバーの意識調査アンケート結果」(調査:2024年3月末)によれば、「時間外労働時間の上限年間960時間」について、22%のドライバーが認識していないと回答した。また、27%のドライバーが月に80時間以上の時間外労働[7]を行っていると回答している。時間外労働時間の上限規制は、輸送の担い手であるドライバーにおいても、十分には浸透していない模様だ。
以上を鑑みると、荷主企業、物流企業ともに、引き続き「物流2024年問題」への対策が求められているといえよう。
図表-9 「物流2024年問題」への対策状況

「物流2024年問題」への対策(「物流業務」に関する対策)
「物流業務に関する対策」について荷主企業に質問したところ、「輸送・配送ルートや納品スケジュールの見直し」(75%)が最も多く、次いで「運送事業者との連携強化」(73%)、「ドライバーの待機時間、荷役作業時間等の見直し」(57%)の順に多かった(図表―10)。
物流企業では、「ドライバーの待機時間、荷役作業時間等の見直し」(77%)が最も多く、次いで「輸送・配送ルートや納品スケジュールの見直し」(73%)、「運送事業者との連携強化」(64%)の順に多かった。
物流の現場では、慣行としてドライバーが荷物の積み下ろしや積み込みを行っており、労働時間の長期化を招いていることが従来から問題となっている。物流施設に到着し入荷する際に、待機時間が長く発生していることも問題視されている。また、本来、ドライバーに支払われる運賃は、運送の対価に限定するべきところ、積み下ろしや荷待ち等の運送以外の役務の対価の範囲が不明確になっているケースもみられた[8]。
国土交通省「R3年度トラック輸送状況の実態調査」(実施時期:令和4年1~2月)によれば、荷積み・荷下ろしの際の荷待ちについて、実運送事業者の約7割が「発生している」と回答した。また、全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題2024」によれば、大型トラックドライバーの年間労働時間(2023年)は2,544時間と、全産業平均(2,136時間)を約2割上回っている。ドライバーの長時間労働の主な要因として、荷待ち時間や荷役作業等が指摘されている[9]。
こうした背景から、「物流2024年問題」への対応を契機に、輸送ルートやスケジュールの見直しとともに、「荷待ち時間」等の短縮に取り組む企業が多いようだ。
また、ドライバー不足やCo2排出量削減の観点から、より少ないトラックで多くの貨物を運ぶ「共同配送[10]」の必要性が高まっている。本調査でも、「共同配送による積載率の向上」(荷主企業48%・物流企業41%)との回答も上位にあがっている。
図表-10 「物流2024年問題」への対策(「物流業務」に関する対策)

「物流2024年問題」への対策(「物流施設」に関する対策)
「物流施設に関する対策」について荷主企業に質問したところ、「保管施設の増設」(30%)が最も多く、次いで「保管施設の集約」(29%)、「配送拠点の集約」(27%)の順に多かった(図表―11)。
物流企業では、「中継拠点の増設」(44%)が最も多く、次いで「保管施設の増設」(41%)、「配送拠点の増設」(23%)の順に多かった。
トラックドライバーの拘束時間短縮を目的として「中継輸送」(1つの輸送行程を複数のドライバーで分担し貨物を輸送する形態)が注目されるなか、中継拠点の整備も進んでいるようだ(図表-12)。
また、物流企業では、「配送拠点」、「保管施設」、「中継拠点」、「共同配送拠点」いずれも、「増設」が「集約」を大きく上回った。「物流2024年問題」への対応を契機に、物流拠点を拡大(増設)したいと考える物流企業が多いようだ。
図表-11 「物流2024年問題」への対策(「物流施設」に関する対策)

図表-12 「物流2024年問題」に伴う中継拠点の整備事例

[6] 日本経済新聞 「建設・物流の省力化後押し 2024年問題受け支援策首相指示へ、投資補助金の対象に 3年で5000億円」(2024年5月30日)
[7] 時間外労働時間の上限年間960時間を12か月で割ると1月あたりの上限は80時間。
[8] 上記の状況を受けて、国土交通省は、2017 年11 月に標準貨物自動車運送約款の改正を行った。約款の改定により、トラック運賃が運送の対価のみであることが明確化され、積込みや荷待ち時等を行った場合は対価が発生することとなった。
[9] 国土交通省総合政策局物流対策課(令和5年7月)「貨物輸送の現状について(参考データ)」
[10] 複数の荷主が、同じ配送先の荷物を持ち寄り、共同で配送を行う取り組み。
おわりに
本稿では、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で実施したアンケート調査の一部を紹介し、企業の物流戦略の現状と課題について概観した。
企業の物流体制に関して、多くの企業は都市圏毎に、輸送・配送範囲を広域でカバーする物流施設を配置しており、一部の大手物流企業や商社・卸売企業等は、よりきめ細やかな物流サービスを実現するため、地域ごとに物流施設を配置している。また、物流企業では、物流拠点を拡大(増加)する意向が強いことが確認された。荷主企業では、物流業務の外部委託が進展しており、今後も緩やかに拡大する見通しである。
また、物流業務において、荷主企業、物流企業ともに、トラックドライバーの確保が喫緊の課題となっている。また、倉庫内作業人員の不足も大きな課題となっているようだ。
「物流2024年問題」は当初、荷物が運べなくなることが懸念されていたが、足元では、人手不足等に伴う輸送コストの上昇が課題として強く意識されている。2024年4月の時間外労働時間の上限規制適用を経て、対策が進められているものの、その対応状況は十分でないとの認識を持つ企業が多いと言える。
「物流2024年問題」の対策として、輸送ルートやスケジュールの見直しとともに、「荷待ち時間」等の短縮に取り組む企業が多い。また、物流企業では、トラックドライバーの拘束時間短縮を目的として「中継輸送」を行うべく、中継拠点等を拡大(増設)したい意向が強い模様だ。
政府は、「物流2024年問題」等の対応に向け、2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を公表し、我が国の物流を支えるための環境整備を進めている。
次回は、上記の政策パッケージに示された具体的な施策が物流業務に与える影響や、物流戦略の中期計画の策定状況、物流戦略に影響を与える社会潮流等を概観したうえで、企業の物流戦略の方向性等について考察する。

寄稿者
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員
吉田 資 よしだ たすく
HPはこちら
三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
(ご注意)本記事記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。
また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。