ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム アンケート調査から読み解く物流施設利用の現状と方向性(1)

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目次

はじめに

昨今、企業の「物流戦略」は重要な経営課題のひとつに位置づけられている状況を踏まえ、弊社は、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で、日本国内の主要荷主企業および物流企業を対象に「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」(以下、本調査)を実施した[1]

前2回のレポート[2]では、本調査結果の一部を紹介し、企業の物流戦略の現状と課題について概観した。

本レポートでは、前回に続いて、本調査結果の一部を紹介し、物流施設の所有形態や、エリア別にみた物流施設の利用状況、物流施設に求める立地条件等を概観したうえで、物流施設利用の現状と方向性等について考察する。

[1]アンケート送付数;日本国内の主要荷主企業および物流企業 4,486社 [荷主企業3,513社・物流企業973社]
・回答数;234社(回収率:5%)
・調査時期;2024年7月~9月
・調査方法:郵送・E-mailによる調査票の送付・回収
調査概要は以下プレスリリースを参照。
(株)ニッセイ基礎研究所リリース記事はこちら。三菱地所リアルエステートサービス(株)リリース記事はこちら
[2]第1回はこちら、第2回はこちらを参照。
(株)ニッセイ基礎研究所掲載コラム第1回はこちら、第2回はこちらを参照。

物流施設の所有形態

これまで、物流施設の所有形態について、各企業が自社で保有し自社で使用する形態が主流であった。しかし、国土交通省の資料によれば、「減損会計の適用や、キャッシュフローを意識した経営等を求められるようになり、企業は資産圧縮を進め、物流施設については、自社保有から賃貸への流れが加速している[3]」との指摘がある。また、近年、大手デベロッパー等による大規模な賃貸物流施設の開発が活発であり、施設所有の選択肢の幅が広がっている。そこで、本章では、物流施設の所有形態について概観する。

本調査において、現状、賃貸施設を利用している[4]との回答は、荷主企業では82%、物流企業では87%となった。また、3年後までに利用予定があるとの回答は、荷主企業では84%、物流企業では89%となった。このうち、「100%(全て賃貸施設を利用)」との回答は、荷主企業、物流企業ともに約2割を占めた(図表-1)。荷主企業、物流企業ともに賃貸施設の利用が広く定着していることがうかがえる。

一方、「0%(全て自社保有施設を利用)」との回答は、荷主企業では2割弱(現状18%・3年後16%)、物流企業では約1割(現状13%・3年後11%)を占めた。CBREのレポート[5]によれば、自社施設のメリットとして「長期で考えると賃貸よりトータルの支出が少ない」や「賃料の値上げ交渉がない」、「建物使用上の制約がない」等の理由が挙げられている。一定数の企業は、上記のメリットなどを比較検討したうえで、物流施設を自社で保有する方針を採用しているものと考えられる。

図表-1 物流施設利用面積に占める賃貸施設の割合

(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査

次に、賃貸施設の割合について、現状と3年後を比較すると(図表-2)、荷主企業、物流企業ともに、増やすとの回答(荷主企業17%・物流企業13%)が、減らすとの回答(荷主企業7%・物流企業9%)を上回った。今後も、賃貸施設の利用は緩やかに増加すると見込まれる。

賃貸施設の割合を増やす企業にその理由を質問したところ、「貨物量変動への対応」(51%)が最も多く、「移転自由度の確保」(32%)、「建設コストが高い」(32%)、「希望するエリアで用地取得が困難」(25%)、「自社保有倉庫(物流施設)の老朽化」(24%)との回答が上位であった(図表-3)。

「貨物量変動への対応」と「移転自由度の確保」との回答が上位に挙がっていることから、賃貸施設の利用において、ビジネス環境の変化に対して柔軟に対応できる点を高く評価しているようだ。

また、「建設コストが高い」と「希望するエリアで用地取得が困難」との回答も多かった。建設物価調査会「建築費指数」によれば、「倉庫(東京)」の建築費は、2021年以降、大きく上昇しており、2024年10月には「135.0」(対2020年末比+30%)に達した(図表-4)。加えて、国土交通省「令和6年地価公示」では、「eコマース市場の拡大を背景に、大型物流施設用地等に対する需要が旺盛」と指摘している。建設コストの高騰や物流施設適地の減少等により、自社で物流施設を新設することが困難で、賃貸施設利用を選択する企業が増えているものと考えられる。

「自社保有倉庫(物流施設)の老朽化」に関して、東京都市圏交通計画協議会「第5回東京都市圏物資流動調査」によると、東京圏では1979年以前に建設された物流施設が総ストックの約3割を占める。同調査では、老朽化した施設は近年の物流ニーズに合致していない可能性があり、災害時の安全性も確保できていない懸念があると指摘している。ニーズに合致しない老朽施設が増加しているものと考えられる。

図表-2 賃貸施設の割合(現状と3年後の比較)

(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」

図表-3 賃貸施設の割合を増やす理由(上位5項目)




(注)荷主企業と物流企業の合計
(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」

図表-4 「倉庫(東京)」建築コスト(2015年=100)

(資料)建設物価調査会「建築費指数」から作成


[3]国土交通省「物流不動産の隆盛の背景や理由」
[4]本調査では、「物流施設利用面積に占める賃貸施設の割合」について質問した。賃貸施設の割合が、「1-20%」,「21-40%」,「41―60%」,「61-80%」,「81-99%」,「100%」との回答の合計。
[5]CBRE「自社倉庫と賃貸倉庫の違い│セール・アンド・リースバック取引の概要やメリット」2012年2月14日

物流施設の利用状況

物流施設利用の現状

本章では、エリア[6]別にみた物流施設利用の現状と今後の利用方針について概観する。

「物流施設の現在の利用状況」について荷主企業に質問したところ、利用施設がある[7]との回答は「福岡・佐賀エリア」(48%)が最も多く、次いで「愛知エリア」(46%)、「北海道・東北地方」(44%)の順に多かった(図表-5)。

物流企業では、「関西圏湾岸エリア」(58%)が最も多く、次いで「愛知エリア」(51%)、「関西圏内陸エリア」(49%)の順に多かった。

また、荷主企業では、利用面積が「10,000㎡以上」との回答割合が10%を超えたエリアはなかった。一方、物流企業では、「九州・沖縄地方(福岡・佐賀エリアを除く)」を除く「13」エリアで、回答割合が10%を超えた。

物流企業は、配送効率向上等のスケールメリット獲得を目的とし、数多くの貨物を扱う。また、インターネット通販市場の拡大等を背景に、多頻度かつ迅速な入出荷対応等を求められており、1フロアあたりの面積の広さと、多数のトラックバースを備えた施設の利用ニーズが強い。こうした背景から、物流企業では、大規模物流施設の利用が特に進んでいると考えられる。

図表-5  物流施設の現在の利用状況

 (資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」

物流施設利用の今後の予定

「利用面積の3年後の予定」について荷主企業に質問したところ、いずれのエリアも「現状維持」との回答が最も多かった(図表-6)。各エリアの物流施設の拡張意欲を把握すべく,「物流施設利用面積DI[8]」を作成した(図表-7)。物流施設利用面積DIをみると、「圏央道エリア」(11%)が最も大きく、次いで、「16号線沿線エリア」(7%)と「関西圏内陸エリア」(7%)が多かった。首都圏および関西圏のこれらのエリアでは、荷主企業の施設拡張意欲が高いと考えられる。

物流企業でも同様に、いずれのエリアも「現状維持」との回答が最も多かった(図表-6)。物流施設利用面積DIをみると、「愛知エリア」(25%)が最も大きく、次いで、「福岡・佐賀エリア」(23%)が多かった。10%を超えたエリアは「10」に上った(図表-7)。物流企業は、首都圏や関西圏以外の地域でも、施設拡張意欲が高いことがうかがえる。

図表-6  利用面積の3年後の予定

(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」

図表-7 「物流施設利用面積DI」

(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」

図表-8に「新規供給率[9]」を縦軸、「物流施設利用DI[10]」を横軸にした散布図を示した。多くのエリアで、「新規供給率」と「物流施設利用DI」は近い水準であった。デベロッパーは、テナント企業のニーズを踏まえたうえで物流施設を開発しているといえよう。

このうち、「圏央道エリア」は、「物流施設利用DI」が15%と高位であるのに対して、「新規供給率」は8%となっている。「圏央道エリア」の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2024年第4四半期、CBRE調査)は現在14.8%と高水準だが、今後は拡張ニーズ等に支えられて、需給バランスが改善に向かう可能性がある。

また、「関西内陸エリア」は、「物流施設利用DI」が13%と高位であるものの、「新規供給率」は23%と主要エリアの中で最も高い。今後、需給環境が緩和する可能性もあり、注視が必要であろう。

図表-8 新規供給率と物流施設利用DIの関係

(注)黒字:「新規供給率」、赤字:「物流施設利用DI」
(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」および
日本ロジスティクスフィールド総合研究所のデータをもとに作成

利用面積を見直す理由

「利用面積を見直す理由[11]」について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに「取引物流量増減への対応」(荷主企業67%・物流企業64%)が最も多く、次いで「物流の効率化(共同配送など)」(荷主企業59%・物流企業36%)が多かった(図表-9)。本調査の「物流2024年問題への対策(物流業務)」に関する質問で、「共同配送による積載率の向上」との回答は上位にあがっており(荷主企業48%・物流企業41%)、共同配送等の物流効率化の取り組みとともに、物流施設利用を見直す企業が多いことがうかがえる。

「保管拠点の分散配置の必要性」との回答も上位にあがった(荷主企業23%・物流企業11%)。東日本大震災等の自然災害時に物流の停滞が発生した経験から、「止まらない物流」への取り組みを行う企業は多い[12]。本調査の「物流業務における課題」に関する質問でも、「物流に関連したBCP(事業継続計画)の作成」との回答は多く(荷主企業30%・物流企業21%)、BCP対応の一環として物流施設利用の見直しが進んでいるようだ。

また、「保管コストの削減(荷主企業23%・物流企業14%)」や「施設の老朽化(荷主企業18%・物流企業25%)」との回答も多くあがった。

図表-9 利用面積を見直す理由

(注1)回答は3つまで
(注2)回答割合が10%以上の項目を抜粋して記載
(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」

[6]エリア区分の定義は、ページ下部記載の「エリア区分の定義」を参照されたい。
[7]「物流施設の現在の利用(面積)」について、利用面積が「5,000㎡未満」、「5,000㎡以上10,000㎡未満」、「10,000㎡以上」との回答の合計
[8]「物流施設利用面積DI」の算出式;「増加」-「減少」[単位は回答割合(%)]
値が大きいエリアほど、物流施設の拡張意欲が強いと判断される。
[9]「新規供給率」の算出式;(「2025年から2027年に供給予定の物流施設面積」÷「2024年の物流施設総ストック面積」)÷3
[10]荷主企業の物流施設利用面積DIと物流企業の物流施設利用面積DIの平均値
[11]いずれかのエリアで、3年後に利用面積を増やす(減らす)予定と回答した企業が対象。エリア区分の定義は、ページ下部「エリア区分の定義」を参照。
[12]東洋経済ONLINE「大震災受け物流分散化に動く流通企業、調達力を求め業界再編の加速も」(2011年6月2日)

物流施設に求める立地条件

「物流施設に求める立地条件」について荷主企業に質問したところ(図表-10)、「重視」(「とても重視している」と「重視している」の合計)が6割を超えた立地条件は、「主要幹線道路へのアクセス」(79%)、「高速道路ICへのアクセス」(77%)、「消費地へのアクセス」(72%)、「広い用地・施設が確保できる」(67%)、「生産拠点へのアクセス」(63%)であった。

物流企業では、「重視」が6割を超えた立地条件は、「主要幹線道路へのアクセス」(85%)、「高速道路ICへのアクセス」(83%)、 「広い用地・施設が確保できる」(83%)、「生産拠点へのアクセス」(69%)、「消費地へのアクセス」(63%)、「地方自治体から補助金が出る」(63%)であった。

物流業務において、ジャストインタイムでの対応が求められるなか、荷主企業、物流企業ともに、輸送の始点(生産拠点)および終点(消費地)へのアクセスや、高速道路ICおよび主要幹線道路へのアクセスを特に重視している。また、効率性や利便性を高めるため一定規模以上のスペースを求めている状況がうかがえる。

また、物流施設の誘致を目的とした補助金を設置する地方自治体が増えている(図表-11)。物流企業は、物流施設の選定にあたり、こうした補助金の有無を重視している模様だ。

図表-10 物流施設に求める立地条件

(資料)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」

図表-11 物流施設立地に関する地方自治体の補助金の事例

(資料)各地方自治体HP等から作成

おわりに

本稿では、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で実施したアンケート調査の一部を紹介し、物流施設利用の現状と方向性について概観した。

物流施設の所有形態に関して、荷主企業、物流企業ともに賃貸施設の利用が広く定着している。今後も、環境変化への柔軟な対応や、建設コストの高騰等から自社で物流施設を新設することが難しいこと等から、賃貸施設利用を選択する企業が増加すると見込まれる。

物流施設利用の現状をみると、物流企業では、大規模物流施設の利用が特に進んでいる。また、荷主企業、物流企業ともに物流施設の拡張意欲が高い。特に、物流企業は、首都圏や関西圏以外の地域での拡張意欲の高さがうかがえる。共同配送等の物流効率化の取り組みやBCP・施設老朽化への対策等により、施設利用面積の見直しを検討する企業は引き続き増加すると考えられる。

物流施設に求める立地条件に関して、荷主企業、物流企業ともに、輸送の始点(生産拠点)および終点(消費地)へのアクセスや、高速道路ICおよび主要幹線道路へのアクセスを特に重視している。また、一定規模以上のスペースを求めているほか、物流企業は地方自治体による補助金の有無を重視している。

次回のレポートでは、物流施設に求める機能や施設仕様、施設設備の状況(災害対策設備、自動倉庫関連、環境配慮・省エネ型設備)を概観した上で、物流不動産市場への影響等について考察したい。


[エリア区分の定義]

「北海道・東北」;北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
「関東」;埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、茨城県、栃木県、群馬県
「中部」;新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県
「近畿」;三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
「中国・四国」;鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県
「九州・沖縄」;福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
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三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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