ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム アンケート調査から読み解く物流施設利用の現状と方向性(2)

目次
はじめに
昨今、企業の「物流戦略」は重要な経営課題のひとつに位置づけられている状況を踏まえ、弊社は、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で、日本国内の主要荷主企業および物流企業を対象に「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」(以下、本調査)を実施した[1]。
前3回のレポート[2]では、本調査結果の一部を紹介し、企業の物流戦略の現状と課題や、物流施設の所有形態や、エリア別にみた物流施設の利用状況等について概観した。
本レポートでは、前回に続いて、本調査結果の一部を紹介し、物流施設に求める施設仕様や、利用施設が備えている機能や設備の状況(災害対策設備、自動倉庫関連、環境配慮・省エネ型設備)を概観した上で、物流不動産市場への影響等について考察したい。
[1] アンケート送付数;日本国内の主要荷主企業および物流企業 4,486社 [荷主企業3,513社・物流企業973社]
・回答数;234社(回収率:5%)
・調査時期;2024年7月~9月
・調査方法:郵送・E-mailによる調査票の送付・回収
調査概要は以下プレスリリースを参照。
(株)ニッセイ基礎研究所リリース記事はこちら。三菱地所リアルエステートサービス(株)リリース記事はこちら。
[2] 第1回はこちら、第2回はこちら、第3回はこちらを参照。
(株)ニッセイ基礎研究所掲載コラム第1回はこちら、第2回はこちら、第3回はこちらを参照。
物流施設に求めるスペック(施設仕様)
まず、荷主企業および物流企業が、物流施設に求めているスペック(施設仕様)について概観する。物流施設のスペックについて荷主企業に質問したところ、「重視」(「とても重視している」と「重視している」の合計)が6割を超えた施設仕様は、「BCP対応(免震等の構造)」(81%)、「BCP対応(非常用発電機等の設備)」(75%)、「トラックバースの多さ」(75%)、「空調設備の充実」(73%)「1.5t/㎡以上の床荷重」(65%)、「5.5m以上の梁下有効天井高」(65%)であった(図表-1)。
多くの企業が自然災害等への対策を重視している。また、多頻度輸送への対応から、トラックバースの数も重視している。多くの荷役運搬機械を設置する施設も増えており、一定水準以上の床荷重および天井高が求められている。施設内で働く従業員の健康配慮から空調設備も重視している模様だ。


また、物流企業で「重視」との回答が6割をこえた施設仕様は、荷主企業で挙がった項目に加えて、「10m以上の柱スパン」(65%)と「環境対応(太陽光発電等の設備)」(61%)であった(図表-1)。荷主の様々な配送ニーズに対応するため、物流施設内のレイアウトを自由に変更できるように、一定程度の広さ(柱スパン)を求めているようだ。また、前述の「物流業務における課題」に尋ねた質問でも、「環境配慮の取組」との回答は上位にあがっており、太陽光発電等の設備へのニーズは高い模様だ。
物流施設の機能
物流業務の高度化が進むなか、物流施設が果たす役割・機能は保管機能を超えて、多岐にわたりつつある。そこで、本章では、物流施設の機能を概観する。
「利用施設の標準的な機能」について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに、「集配送機能」(荷主企業70%・物流企業62%)が最も多く、次いで「保管(ドライ機能)」(同58%・57%)が多かった(図表-2)。
また、「事務・サービス機能」との回答も上位にあがった(荷主企業53%・物流企業50%)。近年、開発された大規模物流施設は、オフィスフロアを併設する事例が増えている。インターネット通販の貨物を扱う施設のなかには、撮影スタジオ等を併設しているケースもある。2017年に実施されたアンケート[3]によれば、事務・サービス機能が利用施設の標準的な機能であるとの回答は3割未満であった。業務効率化等の目的から物流拠点にオフィスを併設する企業が増加しているようだ。
「今後、強化・拡充したい機能」について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに、「倉庫管理システム機能(WMS)」(荷主企業55%・物流企業43%)が最も多かった。インターネット通販の市場拡大等を背景に、貨物の多頻度小口化が進んだことで、WMS(倉庫管理システム)を拡充し、一連の庫内作業(入出荷、検品、ピッキング、梱包、施設内の労務管理など)を効率化したい企業の意向がうかがえる。
また、「保管(冷蔵・冷凍機能)」との回答も一定数みられた(荷主企業34%・物流企業35%)。新型コロナウイルス感染症拡大時に、外食が大幅に減少して内食が増えたこと等に伴い、冷凍食品市場の拡大が続いている。総務省「家計調査」によれば、1世帯当たりの「冷凍調理食品」の年間支出金額は増加しており、2024年には8,233円(2019年比+42%)に達している(図表-3)。市場拡大等に伴い、冷蔵・冷凍機能を拡充したい企業が増えている模様だ。
また、冷蔵・冷凍倉庫の冷媒は、フロン類(CFC、HCFC、HFC)が多く用いられてきたが、オゾン層破壊および地球温暖化防止の観点から段階的に生産・消費量が規制されている[4]。自然冷媒(CO2、NH3等)への転換が求められており、今後、冷蔵・冷凍倉庫の建て替え等が進む可能性がある。



[3] 三井住友トラスト基礎研究所『「物流施設の利用意向に関するアンケート調査」~調査結果~』2017年11月14日
[4] CFCとHCFCは2020年1月で製造禁止、HFCは2036年までに段階的に製造を85%削減。
注目される設備の状況
本章では、物流施設が備えている設備に関して、近年、特に関心が高い(1)災害対策設備、(2)自動倉庫関連、(3)環境配慮・省エネ型設備の状況を概観する。
(1)利用施設の災害対策設備
「利用施設の標準的な災害対策設備」について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに、「耐震構造」(荷主企業78%・物流企業83%)が最も多く、次いで「AED[5]」(同67%・65%)が多かった(図表-4)。
また、「今後、強化・拡充したい災害対策設備」について荷主企業に質問したところ、「免震構造」(57%)が最も多く、次いで「耐震構造」(55%)、「災害用自家発電機」(54%)、「予備電源」(50%)の順に多かった。物流企業では、「災害用自家発電機」(59%)が最も多く、次いで「耐震構造」(49%)、「予備電源」(46%)、「免震構造」(41%)の順に多かった。上位4項目は、荷主企業と同一であった。
東日本大震災等の災害時に、物流が滞った経験を持つ企業は多く[6]、また、今後発生が予想されている首都直下地震や南海トラフ巨大地震等において物流を停滞させないため、建物の地震対策および災害時の電源確保は、特に重視されている模様だ。


[5] AED(自動体外式除細動器):心臓がけいれんし血液を流すポンプ機能を失った状態になった心臓に対して、電気ショックを与え、正常なリズムに戻すための医療機器
[6] 国土交通省港湾局「東日本大震災による産業・物流機能への影響」2011年5月23日
(2)利用施設の自動倉庫関連の設備
政府は、人手不足等を背景に、物流施設の自動化を推進して、施設内作業の省力化や現場作業の負担軽減を進める方針を示している。国土交通省「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「物流業務の自動化・機械化やデジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革などの効果を定量的に得ている事業者」の割合を2025年度までに70%に高める目標を掲げている。また、国による自動化設備導入に対する支援制度(環境省「社会変革と物流脱炭素化を同時実現する先進技術導入促進事業」(国土交通省連携事業)[令和2年度~令和7年度])も開始されている。図表-5に、物流業務の工程と自動化機器の例を示した。上記の施策等の後押しを受けて、物流施設の自動機器導入が一層進むと予想される。

そこで、「標準的に導入している自動倉庫関連の設備」について荷主企業に質問したところ、「格納・保管:自動倉庫」(53%)が最も多く、次いで「荷下ろし:デパレタイザー」(40%)が多かった。物流企業では、「格納・保管:自動倉庫」(56%)が最も多く、次いで「荷下ろし:デパレタイザー」(32%)と「搬送:無人フォークリフト」(32%)が多かった(図表-6)。格納・保管や荷下ろしの工程においては、自動化・機械化が一定程度進んでいる。
また、「今後、強化・拡充したい自動倉庫関連の設備」について、荷主企業に質問したところ、「ピッキング:ピッキングロボット」(56%)が最も多く、次いで「格納・保管:自動倉庫」(53%)、「搬送:無人フォークリフト」(52%)の順に多かった。物流企業では、「棚移動:自動搬送機(AGV)」(45%)と「ピッキング:ピッキングロボット」(45%)が最も多かった。
標準的に導入している設備と今後、強化・拡充したい設備の関係をみると、荷主企業では、「ピッキング:ピッキングロボット」(29%・56%)、「搬送:無人フォークリフト」(24%・52%)、「棚卸:棚卸ロボット(RFID)」(22%・45%)、「荷上げ:パレタイザー」(25%・45%)を導入している施設は比較的少なく、今後拡充したいと考える企業が多い。物流業務において、搬送・棚卸・ピッキング・荷上げの工程の自動化が今後の課題のようだ。
同様に、物流企業では、「棚移動:自動搬送機(AGV)」(24%・45%)、「ピッキング:ピッキングロボット」(8%・45%)、「仕分け:自動仕分け機」(12%・36%)を導入している施設は比較的少なく、今後拡充したいと考える企業が多い。物流企業では、棚移動・ピッキング・仕分けの工程の自動化を今後、進めたい模様だ。



(3)利用施設の環境配慮・省エネ型設備
「標準的に導入している環境配慮・省エネ型設備」について、荷主企業、物流企業ともに、「LED照明」(荷主企業85%・物流企業82%)が最も多く、次いで「外壁・屋根断熱」(同52%・54%)が多かった(図表-8)。エネルギー効率の良いLED照明は、24時間稼働の物流施設等では、消費電力・コストやCO2の大幅な削減効果[7]ができることから、多くの施設で導入されている。また、施設内の温度上昇および低下を抑える「外壁・屋根断熱」も導入が進んでいる。
また、「今後、強化・拡充したい環境配慮・省エネ型設備」について荷主企業に質問したところ、「LED照明」(52%)が最も多く、次いで「庫内空調管理システム」(50%)が多かった。物流企業では、「庫内空調管理システム」(68%)が最も多く、次いで「屋上太陽光発電システム」(47%)が多かった。施設内の温度管理により省エネを実現する「庫内空調管理システム」は、施設内の労働環境の改善にも寄与することから、導入に積極的な企業が多いものと思われる。


[7] 大和ハウス工業HP「ディーズ スマート ロジスティクス」によれば、蛍光灯と比較して、LED照明によるCO2削減量は約45%、ランニングコスト削減量は約45%。
物流施設に関わるコスト(許容できる支払い賃料水準)
「許容できる支払い賃料の水準」について荷主企業に質問したところ、「東京湾岸エリア」、「外環道エリア」、「16号線沿線エリア」、「圏央道エリア」では「4,000円以上5,000円未満」が最も多く、それ以外のエリアでは、「3,000円以上4,000円未満」が最も多かった(図表-9)。
物流企業では、「東京湾岸エリア」、「外環道エリア」、「16号線沿線エリア」では「4,000円以上5,000円未満」が最も多く、それ以外のエリアでは、「3,000円以上4,000円未満」が最も多かった。また、物流企業は、荷主企業と比べて、「6,000円以上」との回答割合が多かった。好立地、高機能な物流施設に対して、相応の賃料負担を許容する意向であることが回答結果に反映していると考えられる。


企業の物流施設利用の方向性
本レポートでは、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で実施したアンケート調査の一部を紹介し、物流施設利用の現状と方向性について概観した。
物流施設のスペック(施設仕様)に関して、①BCP対応、②多頻度郵送への対応(トラックバースの数)、③一定水準以上の床荷重および天井高、④従業員の健康配慮(空調施設)を重視している。
物流施設の機能では、集配送機能と保管(ドライ)機能が中心であるが、WMS(倉庫管理システム)を拡充し、一連の庫内作業を効率化したい企業の意向がうかがえる。また、冷凍食品市場の拡大等に伴い、冷蔵・冷凍機能を拡充したい企業が増えていると考えられる。
施設の災害対策に関して、建物の地震対策および災害時の電源確保は、特に重視されている模様だ。また、施設の自動化について、荷主企業は、搬送・棚卸・ピッキング・荷上げの工程を、物流企業は、棚移動・ピッキング・仕分けの工程について、拡充したい意向が強い。
環境配慮・省エネ対策に関して、荷主企業、物流企業ともに、LED照明と外壁・屋根断熱の導入が進んでいる。庫内空調管理システムは、施設内の労働環境の改善にも寄与することから、導入に積極的な企業が多い。
また、物流施設に関わるコストについて、物流企業は、好立地、高機能な物流施設に対して、相応の賃料負担を許容する意向がうかがえた。
結びに
本稿では、4回にわたり、本調査結果をもとに、企業の物流戦略の現状と課題を確認した上、物流施設利用の現状と方向性について考察した。
企業は、「2024年問題」で顕在化した人手不足および輸送コスト高騰等への対策に着手するも、まだ十分でないと認識している。今後、長期的なビジョンを持って、商慣行の是正や共同配送、パレット等の規格統一、物流DX等を推進し、対策に本格的に取り組むことが求められている(図表-10)。
こうしたなか、物流効率化・BCP・施設老朽化への対応と相まって、物流施設の見直しが進むと考えられる。本調査によれば、見直しに伴い利用面積を増加する企業が多く、賃貸施設の利用が進み、地方都市で拡張意欲が高まっている模様だ。以上を鑑みると、物流施設需要は引き続き堅調に推移すると見込まれる。
一方、物流施設に求める機能や設備は高度化している。企業は、庫内作業を効率化するWMS(倉庫管理システム)と冷蔵・冷凍機能を拡充したい意向が強い。また、BCP対応(地震対策・電源確保等)と従業員の健康配慮に対応した施設を求めている。物流施設の自動化についても本格的に取組みが進展することが見込まれる(図表-11)。
日本ロジスティクスフィールド総合研究所によれば、大型物流施設の新規供給面積は、2025年に700万㎡、2026年に約600万㎡と高水準で推移する見通しである。施設選択の幅が広がるなか、施設仕様や設備等により、需給格差が拡大する可能性があり、注視が必要であろう。



寄稿者
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員
吉田 資 よしだ たすく
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三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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