資産流動化の鍵 不動産信託での「信託受益権」とは?

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資産流動化が促進される現在、不動産信託にも注目が集まっている。もともと不動産は売買にも手間がかかり、流動化されにくく、不動産による資金調達も見送られる傾向があった。しかし、不動産を信託しそこで発生する「信託受益権」の売買という形式で、資産の流動化が進むことが見込まれる。今回は、不動産信託、そして信託受益権について解説する。

資産の流動化を加速する「信託受益権」とは?

資産も持っているだけでは、なかなか収益をあげにくい側面がある。そこで、金融資産ならば株式や為替市場への投資で収益をあげようとする向きも多い。その一つが「投資信託」だ。専門知識が必要な金融投資をそのプロフェッショナルに任せ、収益を得る方法である。その収益を得る権利を「信託受益権」という。
これと同様に不動産でも信託を行うことが可能だ。それが「不動産信託」である。所有する不動産を「受託者」に所有権を移転、その運用を任せる。そしてそこで上がった利益を「受益者」が受け取ることができる。運用を依頼した委託者はもともと所有していた不動産の所有権を受託者に移転するのだが、信託契約を解除すると所有権を戻すことになる。運用には「売却」も含まれ、受託者は委託者兼受益者の同意のもと、不動産を売却する場合もある。運用にせよ、売却にせよ、そこで得られた収益は、契約に基づいて「受益者」のものになる。

「信託受益権」とは

※1 委託者 財産を所有し、その財産を一定の目的を付して受託者に引き渡す
※2 受託者 信託する財産を受け、信託財産を管理・運用・処分する
※3 信託受益権 信託に基づいて収益を受け取る権利
※4 受益者 信託財産から生じた経済的利益を享受する(委託者と受益者は一致しない場合もある)

不動産信託する理由と「信託受益権」の特徴

不動産を信託化する目的は「資産の流動化」、つまり資金調達をしやすい状態にすることと節税効果が望めることだと言える。通常、不動産の管理運用には専門知識が求められ、企業が所有不動産を有効活用するにも、専門の部署があり知識を有するスタッフがいればともかく、うまく活用できていないケースが少なくない。しかし、不動産信託を行えば不動産運用の専門知識がある受託者(信託銀行や不動産会社など)に不動産の管理運用を任せることができる。ここでポイントとなるのが、所有する不動産をそのまま事業者に賃貸して活用してもらう手法だ。似たような不動産の管理手法に見えるが、最大の違いは「不動産の名義」。通常の賃貸の場合、名義は不動産所有者のままだが、不動産信託での名義は受託者に移転する。つまり、固定資産税が発生しないことになる。

また、信託受益権の売買も可能だ。不動産ではなく、金融商品として扱われるため、不動産取得税はかからない。信託受益権を分割して売買できるので、収益を残したまま、信託受益権売買によるキャピタルゲインを得ることも可能だ。また、信託受益権を担保に資金調達したり、質権を設定したりすることもできる。不動産から得る収益の多様化、その簡略化が実現し、資産流動化が実現する。

不動産信託受益権の売買実物不動産の売買
特性みなし有価証券(金融商品)不動産
関連法令金融商品取引法
金融商品の販売等に関する法律
宅地建物取引業法
免許第二種金融商品取引業(登録)宅地建物取引業
売買時の税金・不動産取得税:非課税
※信託解除の場合:実物不動産と同様

・登録免許税
受益者変更:一件1,000円

・売買契約書の印紙税:200円
・不動産取得税:課税
→評価額×3/100または4/100

・登録免許税:
所有権保存→評価額×4/1000
移転(土地)→評価額×15/1000
移転(建物)→評価額×20/1000

・売買契約書の印紙税:契約金額による。
例:1億円超5億円以下は10万円(2022年3月末までは6万円)

不動産信託で信託受益権を有するメリットとは?

実物不動産で収益を得るのに比べて、不動産を信託し信託受益権を保有すると、いくつかのメリットが生まれる。

  • 不動産売買および譲渡時のコストを安くできる
  • 維持管理を専門家に任せることができる
  • 信託された財産は万が一の委託者と受託者どちらの倒産時にも財産保全される
  • 信託期間終了後、不動産の所有権は受託者に戻される

不動産売買、譲渡時のコスト削減についてはすでに説明したように「信託受益権」として、金融商品の扱いで売買できるため、不動産取得税がかからないなどのコスト面でもメリットがある。維持管理を専門家に任せられる点でも、受託者が不動産の名義人になることもあり、賃貸よりも負担が減少する。また、万が一倒産などの事態に陥っても、実物不動産は保全されないが、不動産信託を行っていると信託財産として財産保全される。
気になるのは、不動産の名義が受託者になることかもしれない。しかし、信託期間が終了した場合、名義が委託者に戻ることを確約できるので、不動産の所有権を維持したい場合も対応は可能だ。

不動産による資金調達でメリットが大きい不動産信託だが、信託化には一定の専門知識が求められ、信頼できる受託先を探すのも大変だ。その点は、不動産取引の専門知識があり、幅広いネットワークと豊富な経験を積んでいる不動産会社に相談すべきだと言える。

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