法人が特定資産を買換える場合の特例・圧縮記帳とは?

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法人が特定の不動産を売却して、一定期間内に新しい不動産に買い換えるときには、譲渡益を圧縮記帳し法人税を繰り延べできるという特例があります。とはいえ、無条件ですべての課税を繰り延べられるわけではありません。ここでは、法人が圧縮記帳を用いた「特定資産の買換えの特例」の基本や注意点、メリット・デメリット、ケーススタディについてご紹介します。

※本記事では法人が不動産(土地・建物)を買い換える場合について説明いたします。
※令和5年度税制改正を反映した内容です。
※実際のお取引での税法上の適用の可否につきましては、お近くの税務署や税理士等へご相談ください。

特定資産の買換えの特例とは何か

買換えの特例、圧縮記帳とは

特定資産の買換えの特例とは、法人が一定の条件を満たした資産を買い換えるとき、圧縮記帳(圧縮限度額の範囲内でその帳簿価額を減額して損金算入する経理)が認められることにより原則譲渡益の80%を繰り延べできる制度です。
令和5年の税制改正により、本特例の適用期限が3年延長(令和8年3月31日まで)されることとなりました。

圧縮記帳とは、法人が不動産を譲渡し譲渡益(益金)が生ずる場合に、取得した不動産(買換資産)について圧縮限度額の範囲内で、帳簿価額を損金経理により減額するなど一定の方法で経理したときは、その減額した金額を損金に算入することにより、譲渡益を圧縮することができる制度をいいます。

譲渡益を圧縮できることにより課税対象となる所得が減少しますが、その分の税金が軽減されるものではありません。取得した建物などの減価償却資産については圧縮記帳したあとの帳簿簿価を基に減価償却することとなり、圧縮記帳によるマイナスはその後の減価償却によって取り戻されるという仕組みです。その為、あくまでも取得した年の税負担を軽減し納税のタイミングを延期しているものであり、免税・非課税になる制度というわけではない点に注意が必要です。

特例の対象となる組み合わせ

特例の適用を受けるには、譲渡資産と買換資産が一定の組み合わせに当てはまる必要があります。
この組み合わせの代表的なものとして、次のものが挙げられます。これは3号買換えと呼ばれ、令和5年度税制改正前は4号買換えと呼ばれていました。

譲渡資産 国内にある土地・建物・構築物などで、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えるもの。
買換資産 国内にある土地・建物・構築物などが対象となり、土地の場合は事務所・工場などの特定施設の敷地の用に供されるもので、その面積が300㎡以上のもの。
※土地面積が300㎡を超えない場合でも、建物については条件を満たした場合適用となります。
圧縮限度割合 原則 80%
東京23区→集中地域外
(本店・主たる事務所の所在地の移転)
90%【改正】
集中地域外→東京23区
(本店・主たる事務所の所在地の移転)
60%【改正】
集中地域外→東京23区 70%
集中地域外→集中地域(東京23区除く) 75%
※土地には借地権が含まれます。
※集中地域は、地方再生法に基づきます。

特例が適用される条件

特例の適用を受けるためには、以下のような細かい要件をクリアする必要があります。

  • 譲渡資産が棚卸資産でないこと
  • 譲渡資産が長期所有(10年超)であること
  • 買換資産として取得する土地などの面積が、譲渡資産の土地などの面積の5倍以内であること
  • 譲渡の前年~翌年中には買換資産を取得すること
  • 買換資産を取得日から1年以内に事業用資産として使用すること
  • 同一期中に資産を買換える場合、所定の期間内に届出書を提出すること【改正】

譲渡資産が棚卸資産でないこと

買換えの特例を利用するためには、譲渡資産は棚卸資産でないことが条件になります。
棚卸資産は販売目的で仕入れた商品や製造品が該当するため、例えば不動産業者の所有する土地や建物は、固定資産ではなく棚卸資産に該当する場合があります。

譲渡資産が長期所有(10年超)であること

譲渡資産として、国内にある土地や、建物、構築物で、取得した日から引き続き10年超(取得した日の翌日から譲渡した年の1月1日までの所有期間)所有されたものである必要があります。
また、買換えによって取得した資産が土地などである場合には、特定施設(福利厚生施設を除く)の敷地の用に供されるもの(その施設に係る事業の遂行上必要な駐車場の敷地を含む)で、その面積が300平方メートル以上であることも条件の一つです。

買換資産として取得する土地などの面積が、譲渡資産の土地などの面積の5倍以内であること

買換資産が土地などである場合は、譲渡資産の土地面積に対して5倍以内の部分にのみ特例が適用されます。
ただし、5倍を超える土地へ買い換えた場合は特例が受けられないというわけではなく、5倍を超える範囲については特例の対象外となり、通常通り課税されます。

譲渡の前年~翌年中には買換資産を取得すること

原則として、譲渡資産を譲渡した日を含む事業年度に取得した資産であることが条件です。なお、譲渡資産を譲渡した日を含む事業年度の前後1年以内(やむを得ない事情がある場合には税務署長が認定した期間内)に取得した資産も含みます。

買換資産を取得日から1年以内に事業用資産として使用すること

買換資産を前後1年以内に取得するのに加えて、取得した日から1年以内に事業用途で資産を使用するまたは使用する見込みである必要があります。また、最初は事業用として使っていたとしても、取得してから1年以内に事業に使用しなくなった場合は、特例の適用は受けられなくなるので注意が必要です。

同一期中に資産を買換える場合、所定の期間内に届出書を提出すること【改正】

同一期中に資産の買換えを行った場合、譲渡資産を譲渡した日、または買換資産を取得した日のいずれか早い日の属する3月期間(その事業年度をその開始の日以後3月ごとに区分した各期間のこと)の末日の翌日以後2月以内に、本特例を受ける旨の届出が必要となりました。

こちらは、令和6年4月1日以後に譲渡資産を譲渡し、同日以降に買換資産の取得をする場合のその買換資産について適用され、先行取得の場合、特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例及び特定の資産を交換した場合の課税の特例を除きます。

届出書の提出について

交換以外で譲渡資産を譲渡した日と買換資産を取得した日が同一事業年度内の場合には、本特例の適用を受ける旨等の届出をすることが適用要件に加えられました(措法65の7①⑨、65の8⑦⑧、65の9二、措令39の7②)。

※1 譲渡資産の譲渡日又は買換資産の取得日のいずれか早い日の属する四半期(その事業年度をその開始の日以後3月ごとに区分した各期間(最後に3月未満の期間を生じたときは、その3月未満の期間))の末日をいいます(措令39の7②)。
※2 令和6年4月1日以後に譲渡資産の譲渡をし、同日以後に買換資産の取得をする場合において本特例の適用を受ける資産について適用されます(改正法附則46③)。
※1 譲渡資産の譲渡日又は買換資産の取得日のいずれか早い日の属する四半期(その事業年度をその開始の日以後3月ごとに区分した各期間(最後に3月未満の期間を生じたときは、その3月未満の期間))の末日をいいます(措令39の7②)。
※2 令和6年4月1日以後に譲渡資産の譲渡をし、同日以後に買換資産の取得をする場合において本特例の適用を受ける資産について適用されます(改正法附則46③)。

買換えの特例による圧縮記帳のメリット・デメリット

特例を利用し課税を先送りにすることで、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。具体的な計算事例と併せて見ていきたいと思います。

【メリット】一時的に手元に現金を残せる

特定資産の買換えの特例を適用し圧縮記帳を行うことのメリットとして、一時的に現金を手元に残せることが挙げられます。

通常、法人が資産を買い換えた場合は、原則として譲渡した資産の譲渡対価(時価)を益金に算入し、その資産の帳簿価額と譲渡経費を損金の額に算入します。この結果生じた差額について法人税等が課税されます。
そこで、特例を利用することにより課税対象となる所得を圧縮することができるため、通常よりも負担額を抑える形で資産の入れ換えを行い、手元にある現金を本業に投資するなど活用することができます。
また、買い換えた際の一時的な税負担が増大することにより資金繰りが悪化することを防止する効果もあります。

具体的に、法人が下記資産を買い換えた場合の圧縮限度額(繰り延べられる所得金額)及び取得金額の計算事例を見てみましょう。
譲渡資産と買換資産の内訳は以下の通りです。

  • 譲渡資産:土地
  • 譲渡資産の譲渡価額:100,000万円
  • 譲渡資産の帳簿価額:20,000万円
  • 譲渡経費額:3,000万円
  • 買換資産:土地建物
  • 買換資産の取得価額(土地):75,000万円
  • 買換資産の取得価額(建物):35,000万円

買換えの特例が適用された場合、圧縮限度額(繰り延べすることのできる所得金額)は以下の式より求められます。

圧縮限度額=圧縮基礎取得価額(注1)×差益割合(注2)×80/100(注3)

(注1)買換資産の取得価額又は譲渡資産の譲渡価額のうち、いずれか少ない金額

(注2)差益割合={譲渡価額-(譲渡資産の帳簿価額+譲渡経費額)}/譲渡価額

(注3)長期所有資産の買換えについては、下記地域での取引の場合には、それぞれ割合が異なります。
譲渡資産:集中地域外 ⇒ 買換資産:東京都特別区域内(本社移転) 60/100
譲渡資産:集中地域外 ⇒ 買換資産:東京都特別区域内 70/100
譲渡資産:集中地域外 ⇒ 買換資産:集中地域内(東京都特別区域を除く) 75/100
譲渡資産:集中地域内 ⇒ 買換資産:集中地域外(本社移転) 90/100

圧縮基礎取得額は、買換資産の取得価額と、譲渡資産の譲渡価額のうち、いずれか少ない方の値を用います。

圧縮基礎取得価額:100,000万円<(75,000万円+35,000万円)= (1)100,000万円

差益割合は、譲渡価額から譲渡資産の帳簿価額と譲渡経費額を合わせた値を引いて、譲渡価額で割り戻します。

差益割合:{100,000万円-(20,000万円+3,000万円)}/100,000万円= (2)0.77

上記(1)(2)を用いて、圧縮限度額を算出します。

(1)×(2)×80/100=61,600万円・・・圧縮限度額

また、所得金額は以下の式にて算出します。

譲渡価額 -(譲渡資産の帳簿価額+譲渡経費額+圧縮限度額)

よって、本事例の場合、所得金額は15,400万円となります。
なお、特例を使用しない場合は、圧縮限度額の値を引くことができないため、所得金額は77,000万円となります。

【デメリット】買換資産の取得価額は譲渡資産の取得価額を引き継ぐ

反対にデメリットとして特例の活用を検討する前に考えておきたいのが、買換資産の取得価額は譲渡資産の取得価額を引き継ぐということです。

はじめに述べたように、この特例は買換資産を売却するまで課税を猶予されている課税の繰延べ制度であり、買換資産の税務上の取得価額は、実際の購入金額ではありません。
つまり、買換えの特例により圧縮記帳を適用した場合、取得価額は新しく手に入れた買換資産の購入代金ではなく、売却した譲渡資産の取得価額をベースに計算するということです。
これにより生ずるデメリットが2つあります。こちらも上記買換事例をもとにした計算と併せて見ていきましょう。

①買換資産を「将来売却する際の譲渡益」に注意
将来、買換資産を譲渡する際、買換資産の取得価額は譲渡資産の取得価額を引き継ぎます。その為、取得価額が減額(=簿価が圧縮)されていることにより譲渡益が大幅に増えてしまう可能性があります。

■上記買換事例をもとにした、買換「土地」の取得価額

※取得価額の減額は、土地から優先して行うものとします。

75,000万円-
75,000万円×0.77×0.8(取得土地に対する圧縮限度額)28,800万円

今回の買換えにより取得した土地を将来手放した場合、計算上の取得価額は実際に取得した金額の75,000万円ではなく、28,800万円が基準となります。その為、譲渡益が増えることにより税負担が増加することとなります。

②「減価償却費」の減少
将来譲渡する際の譲渡益への影響だけではありません。不動産を保有している間の減価償却費にも影響を与えます。
減価償却とは、時間によって資産価値が減っていく固定資産(車や不動産など)に対し、購入費を耐用年数で割って毎年少しずつ計上していく処理方法のことです。

減価償却費は、「不動産の取得価額×償却率」で算出します。しかし、特例を利用した場合、取得価額は購入代金ではなく、「譲渡資産の取得価額」をもとに計算されるため、買換資産が建物等の減価償却資産だった場合、その後に計上される減価償却費も減ってしまいます。
毎期計上する減価償却費が小さくなることにより、特例を使わない場合より毎年の法人税等の支払額が増加する可能性があります。
そのため、あえて特例を適用しないほうが得策となるケースもあります。

上記買換事例をもとにした、買換「建物」の取得価額

35,000万円-
25,000万円(注1)×0.77×0.8(取得建物に対する圧縮限度額)19,600万円

※(注1)100,000万円(圧縮基礎取得額)-75,000万円(買換土地の取得価額)=25,000万円

今回の買換えにより取得した建物について毎年減価償却費を計上する際、計算上の取得価額は実際に取得した金額の35,000万円ではなく、19,600万円が基準となります。その為、償却費が減少し税負担が増加することとなります。

なお、土地は減価償却の対象とならないため、買換資産として取得した土地を再度譲渡しない限りは、課税の繰り延べ効果を長く継続することができます。

特定資産の買換えの特例を検討する際は専門家に相談を

事業拡大を計画している企業等にとっては、本社や工場の移転のため買換えを行う際、課税が繰り延べられることより資金調達が容易となり本業への積極的な投資が可能となることが考えられます。一方、会社の状況によっては取得年度に一括納税を行っても資金繰りに余裕がある場合もあるかもしれません。
特例を利用し圧縮記帳を行うことが有利になるか不利になるかについては、売却・購入の目的などによって変わってくるため、経営・資金計画やキャッシュフローを確認の上検討し、専門家も交えて慎重に判断することをおすすめします。

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