第2回 不動産価値向上のために把握すべきリスク情報

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目次

概要

2020年年初より流行が拡大した新型コロナウイルス感染症の影響により、オフィスの在り方に変化が見られました。具体的にはリモートワークへの切り替えに伴う拠点の集約化や、企業の財務体質強化のため自社所有の本社ビルを売却する動きなどが起こったことは新聞等でも数多く取り上げられています。
一般的に売買の対象となる不動産は、その時点における「適正な価格」を求めるために多面的な調査が行われます。そのため自己保有時には潜在していたリスクが、売却時に顕在化し売買価格に影響を及ぼすケースは少なくありません。
そこで本コラムでは、物理的調査、経済的調査、法的調査によって顕在化する不動産に係る主なリスクについて2回に分けてご紹介します。第1回は大きく不動産リスクに関する総論的な内容、第2回は個別のリスクについての各論的な内容としています。今回は第2回・各論のご紹介です。

第1回はこちら>

不動産リスクの詳細

第1回・総論で既述した通り不動産に係るリスクの多くは、物理的調査・経済的調査・法的調査によって把握することができます。以下に各リスクについて詳述します。

物理的調査によって顕在化するリスク

不動産は実物資産であるため物理的リスクを内在し、顕在化した場合には不動産の経済的価値にマイナスの影響を及ぼします。個別の不動産に係るリスクであるため、複数不動産の保有もしくは分散投資によってリスクを低減(ポートフォリオ効果)することができます。ここでは、物理的調査でチェックされる主なリスクについて述べますが、これらのほかに火災リスク、地下埋設物リスク、看板落下などに伴う第三者への損害賠償リスクなどがあります。

自然災害リスク

自然災害リスクのうち、物理的調査では主に地震リスクの評価が行われています。具体的には地震の発生に伴う建物の損傷リスクや地盤の液状化リスクなどを評価しており、一般的には、地震による予想最大損失率(Probable Maximum Loss、以下「PML」)を推定します。PMLは不動産の再調達価格に対して、建物の使用期間中(一般的には50年で評価)に想定される最大規模の損失額の割合と定義されています。地震リスクが顕在化した場合には不動産の価値に極めて大きな影響を及ぼすため、証券化対象不動産等については地震保険を付保する判断基準としてPMLが利用されています。特に大規模地震の発生が懸念される地域の建物や現行の耐震基準を満たしていない、いわゆる旧耐震設計の建物ではPMLは大きくなる傾向があります。したがって、建築士などの専門家による耐震診断・補強工事および地震保険付保によるリスク低減・移転などを行うことが望ましいと考えられます。
また、近年国内外で頻発する風水害リスクの評価および対策の重要性については注目が増しており、物理的調査の必須項目の一つとして追加される動きがあります。
自然災害リスクについては複数の不動産をポートフォリオとして評価をすることも可能です。この場合、不動産が特定の地域に集中している場合よりも分散配置されている方がポートフォリオ効果によりリスクは小さくなります。投資対象としてのリスク管理のみならず、企業のBCM(事業継続マネジメント)の観点からもポートフォリオ効果を意識した不動産の地理的な配置について考慮することは重要です。

遵法性リスク

遵法性リスクとは対象不動産が建築基準法および消防法など建築基準関係規定、地方自治体の定める条例などに対し適合しないというガバナンスリスクです。建物を新築する場合、通常、建築確認申請手続きの中で法適合性について審査され、検査済証の交付をもって対象不動産の遵法性が担保されます。しかし、不動産を利用していく中で改修工事やテナントの入れ替えによる使用方法の変更によって法適合性が損なわれる場合があります。
売買時には、一般的に買主側によって遵法性調査が行われ、その是正費用は売主負担もしくは売買価格から控除されることがあるため、事前に建築士などの専門家の調査により遵法性リスクを把握することが望まれます。また、売買を前提としない自己保有期間中においても、企業ガバナンスの観点から不動産の法令遵守については常に留意が必要です。
建物全体を自己使用している不動産の売却を検討する際には、経済価値を最大化するためにマルチテナント仕様への変更やオフィスビルから店舗への用途変更などの改修工事が必要となる場合があります。このような改修工事の際には、各種法令への適合が必要なため、その可能性や難易の程度について事前に検討しておくことも不動産管理の観点では重要となります。
なお、後述します「法改正リスク」にも関連しますが、竣工時には適法であった建物について建築基準法等の改正により一部の規定が不適合となってしまった、いわゆる既存不適格事項については、増改築、用途変更などの改修工事の際に現行法に適合させるため、追加費用の負担が発生する可能性があります。わかりやすい例で言いますと、旧耐震基準により建てられた建物の耐震補強工事がこれにあたります。一方で、竣工時に建築可能であった建物が、その後の法改正により同じ大きさで建築できなくなった場合、例えば容積率や高さ制限が厳しくなった場合などでは、それに見合った収益力の差を不動産鑑定評価などの経済的評価にプラス要因として反映することもあります。

法改正により最大限建築できる建物の容積率が減少した場合
(例:指定容積率800%→600%)

そのため、経済的評価の判断材料として既存不適格事項についても遵法性調査において把握しておくことが望まれます。

修繕リスク

不動産の維持管理・修繕に必要な費用が予測した額を超えるリスクが修繕リスクです。不動産価格は、その収益性に着目した場合に「対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和」ということができます。そのため、現実の修繕費用が予測した額を超える場合、不動産から得られる純収益は小さくなるため不動産評価額も低くなります。この修繕費用は、一般的に建物の再調達価格に対する割合として予測されることが行われています。しかし、対象建物の立地・環境・用途・構造・使用材料、過去の修繕履歴や現在の劣化状況など多くの要因により変動するリスクであることから、事前に建築士などの専門家による調査・診断により適切な修繕費用予測を行う必要があります。
また、保有不動産についても適正な修繕計画を策定し実施することにより、ライフサイクルコストの低減、雨漏りや停電といった突発的な事故対応費用の発生や社会的信用の低下リスクの低減にも寄与するとともに、会計上の修繕引当金の根拠としても利用することができます。

土壌汚染リスク

不動産に土壌汚染が存在する場合に、当該汚染の除去および拡散の防止等の措置に要する費用や土地利用上の制約が発生するリスクが土壌汚染リスクです。土壌汚染対策は、ほかのリスクに比較して相対的に多額の費用を要するため、財務上または売却時の価格に重大な影響を及ぼす可能性があります。
一般的な土壌調査では、フェーズ1調査として地歴調査を行い土壌汚染が存在する可能性を評価します。フェーズ1調査の結果から土壌汚染が存在する可能性が否定できない場合には、必要に応じて土壌のサンプリング分析を行うフェーズ2調査を実施して土壌汚染の有無や範囲を把握します。
フェーズ1・フェーズ2調査を行った後、実際の対策工事(フェーズ3)を行う場合には対策費用の変動リスクとそれに伴う不動産の売買価格の変動リスクは残るため、土壌汚染対策工事のコストキャップ保険などのファイナンス手法によりリスク移転が図られるケースも増えつつあります。

土壌調査フロー

有害物質リスク

不動産にアスベスト[1]やPCB[2]などの有害物質が存在するリスクです。アスベストは、現在使用が禁止されていますが、規制前に建てられた鉄骨造の建物の耐火被覆材[3](写真1)などの建材に含まれている場合があり、除去・封じ込めなどの対策費用や建物解体時の費用増加などの可能性があります。PCBについても、同様に現在使用が禁止されていますが、規制前に設置された変電設備などに含まれている場合があり、当該設備廃棄時の費用増加などの可能性があります。
一般的に有害物質のリスク評価は、まず建物の設計図書および現地の確認を行い、使用されている建材や機器の製造年から、有害物質含有の可能性を評価します。これにより有害物質が存在する可能性が否定できない場合には、必要に応じて試料のサンプリング分析を行い有害物質の有無を特定します。

SOMPOリスクマネジメント株式会社撮影

写真1 耐火被覆

建物環境リスク

建築物衛生法では、一定規模の興行場・店舗・事務所の建物所有者等は、建築物環境衛生管理基準(以下「環境基準」)に従って建物を維持管理することが定められています。また、これらの用途以外であっても多数の人が利用する建物では、同様の維持管理を行うように努めることとされています。環境基準では、建物内で使用されている飲料水、室内の空気環境、給排水設備の管理、害虫・ねずみ等の防除等の項目に関する基準が示されています。
特に飲料水の水質汚染や空調設備に使用されている水のレジオネラ菌汚染は、建物利用者の健康被害につながるため、事故が発生すると社会的に大きく取り上げられることもあります。さらに、近年は新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)対策としても、「換気の悪い密閉空間」の改善が重要視されています。
このように建物環境リスクは人的・社会的にも影響が大きいため、基準に則した管理の実施状況を確認することが必要です。
なお、建物環境リスクは、後述する「不動産管理運営リスク」とも関連しています。

[1] 耐火被覆の材料などとして用いられていたが、人体に悪影響を及ぼすため現在は0.1%を超えて含有する建築材料の使用が原則禁止となっている。
[2] ポリ塩化ビフェニルの略称。電気機器の絶縁油や熱交換器の熱媒体に使用されていたが、現在は製造・輸入ともに禁止されている。
[3] 火災から鉄骨を保護する断熱材を指す。

経済的調査によって顕在化するリスク

経済的調査によって明らかになるリスクは上述した物理的調査によって明らかになるリスクと異なり、不動産の経済的価値にマイナスの影響だけでなくプラスの影響も与えることがあります(経済的価値の変動リスク)。原則として一般経済社会の情勢に連動した、不動産市場全体に係るリスクとなるため、複数不動産の保有もしくは分散投資によるリスクの大きな低減効果は期待できません。

不動産市場変動リスク

不動産市場変動リスクとは、不動産の価格や賃料、空室率等の不動産市場の変化に伴い、収益性が変動するリスクです。不動産市場は常に変動するものであり、また収益性は不動産の経済価値の本質的なものであることから、当該リスクの影響は極めて大きいといえます。不動産市場変動リスクへの対応としては、対象不動産と類似した不動産の売買動向、新規供給、売買および賃料の募集価格と成約価格の乖離などのモニタリングや定期的な不動産鑑定評価書の取得などが必要となります。
コロナ前、長期にわたり下げ止まっていたオフィス空室率はコロナ流行の影響により大きく上昇に転じました。コロナ収束後、マクロ経済の回復に伴いオフィス需要は増えたものの東京都心部などでは新規供給が増えたことから空室率としては大きく変わらないものと予測されています。また、市場ニーズの変化に対応したサテライトオフィス向けシェアオフィス、リモートワーク対応住宅といった新たな形態の不動産開発も見られるようになってきています。このように市場変動リスクに係る各要因が変化しつつあり、当該リスクに対応する重要性は増しています。

金利リスク

金利リスクは、不動産の取得・新築・改修・運営などを行う際の借入金の金利変動リスクであり、資金調達費用の変動リスクです。また、借入金利は不動産を賃貸する際の期待利回りや収益性を基に不動産評価額を求める際の還元利回りや割引率とも関連しており、収益性や不動産評価額にも影響を及ぼします。
金利リスクへの対応方法としては、スプレッドの定期的なモニタリング実施、資金調達の適切なバランス検討等が求められます。

流動性リスク

流動性リスクとは、希望する時期に必ずしも適切な価格で換金できないリスクをいいます。不動産は地理的位置の固定性、不動性、非代替性等の特徴を有するため、他の金融資産に比較して流動性リスクは大きいといわれています。特に不動産市場の成熟していない地域や、外観・設備など特殊な仕様で設計された自己使用不動産については、買主が限定されることによる市場性減退が生じる可能性がある点に留意が必要です。
流動化リスクの対応方法としては、対象不動産と類似した不動産の売買動向、新規供給、借入金利、売買募集価格と成約価格の乖離などのモニタリングや不動産鑑定評価書等の取得などが考えられます。

不動産管理運営リスク

管理運営リスクとは、不動産のアセットマネジメント・プロパティマネジメント・ビルディングマネジメントなど管理運営業務の良否により、その不動産の収益性や快適性が変動するリスクです。
事務的なミス・システム障害などによる損失が発生するリスクはマイナス要因ですが、一方で賃貸用不動産の場合、平均的な水準を超える貸室の稼働率・賃料を維持するなど良好な運営管理を行っている場合にはプラス要因にもなり得ます。

法的調査によって顕在化するリスク

権利関係リスク

不動産に関する権利には所有権・地上権・地役権・抵当権などの物権、賃借権・使用貸借権などの債権があり、それらは土地・建物それぞれに設定することができるため、不動産の権利義務関係は複雑になることが多くなります。そのため、取得した権利が公法上の制限を受ける可能性や第三者の権利を侵害していることが後になって判明するリスクがあります。
具体的には、隣地所有者との境界確認・越境物に関する紛争、賃貸借に関する紛争、共有・区分所有に関する紛争など、不動産使用上の制限や費用負担が発生する可能性があるため、事前に弁護士等による確認が望まれます。

法改正リスク

法改正リスクとは、不動産関連の法規制・税制・会計制度の改正等によるリスクです。具体的には、国際会計基準導入による減損会計や二酸化炭素削減義務に関する法令の制定など、所有者等にとって不動産評価額の変動や追加的な費用負担が発生するリスクとなります。
法改正の将来予測は現実的には困難なため、関連制度改正動向の継続的なモニタリングを行うことが必要となります。

おわりに

J-REITなどの証券化対象不動産では、投資法人が投資家に対してリスクを開示する責任を有することから積極的に不動産のリスク管理が行われています。
一方で、一般事業会社においては保有不動産のリスク管理に対する意識は低い傾向にあります。これは企業経営層において、不動産の潜在リスクを把握するための調査・分析費用は直接的に収益につながらないと判断されているためだと考えられます。しかし、実際には積極的なリスク管理を行うことで、不動産による収益の向上、延いては総資産に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示すROA(総資産利益率)やPBR(株価純資産倍率)などの財務分析指標を向上させることにつながります。特にPBRについては、2023年3月末に東京証券取引所がPBRの低迷する上場企業に対して改善策を開示・実行するよう要請したことにより注視されています。
また、近年ではCSRやESG投資の社会的浸透により投資家はそれら取組の情報を判断材料として投資対象の適格性を判断しています。不動産の適切な維持管理、先進的な環境対応を発信することは一般事業会社が投資家から資金を調達する観点でも有効といえます。さらに、企業会計制度のIFRSへのコンバージェンスに伴い不動産の時価、つまり適正な経済価値の算定が必要となる場面が増えていくものと考えられます。
このような社会的背景を基に、不動産に係るリスク把握は企業経営において、ますます重要となってきており、一般事業会社も収益を拡大するために不動産のリスク管理を実施し、不動産価値を高めていくことが期待されます。

参考文献

総務省 令和4年通信利用動向調査報告書(企業編)
国土交通省 2030年を目途とする今後の不動産のあり方について(2018年7月)
国土交通省「不動産リスクマネジメント研究会」作成「不動産リスクマネジメントに関する調査研究」(2010年3月)

執筆者紹介

中村 伸吾 Shingo Nakamura

SOMPOリスクマネジメント株式会社
HPはこちらSOMPOリスクマネジメント株式会社
リスクマネジメント事業本部 リスクソリューション開発部
上級コンサルタント
不動産鑑定士/一級建築士
専門は建築・不動産一般

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