路線価から見る不動産動向。企業は動くべきか静観するべきか。
目次
国税庁から路線価が発表されました。近年メディアでは不動産景況が活発というニュースを目にしますが、路線価と比べて、その実態はどうなのでしょうか。
今回、「リアルな現場 Vol.03」では三菱地所リアルエステートサービス鑑定部の立場から、今の不動産状況をどう分析するのか。企業にとって、この時期に何をすべきなのか。鑑定の現場から今後の見通しと実践すべき心構えを、誌面上でコンサルティングします。
三菱地所グループ唯一の鑑定部として
──三菱地所リアルエステートサービス鑑定部の成り立ちと三菱地所グループにおける役割についてお聞かせください。
山中
我々鑑定部は立ち上げから今年で10年目になります。元々は、当社の不動産流通事業の一つの機能として、不動産評価や不動産マーケット情報を集める役割を担っていました。企業不動産(CRE)という言葉が世に出始めた頃で、法人営業(ホールセール)を主戦場とする我が社においては、CRE戦略に必要なスキルの一つとして不動産の適正な評価が挙げられるようになりました。当時、有資格者は私1名でしたが、徐々に案件数・相談件数が増加するにつれ、陣容を拡大していきました。
一方、三菱地所グループには、三菱地所の鑑定室を前身とする三菱地所投資顧問の鑑定部門がありました。両鑑定部門はその生い立ちが異なり三菱地所グループ内における別会社の鑑定部門でしたが、4年前に事業統合し、現在ではグループ内唯一の鑑定部門になりました。それぞれ違う顧客層で案件を持ち寄り、よいシナジーが構築できています。今では有資格者8名、補助スタッフ8名の計16名の体制で活動しています。
昨年の取引実績を顧客層別に分布すると、84%が民間法人、16%が個人のお客様でした。当社が関与する案件やプロジェクトの中で鑑定評価が必要とされるケースもあれば、鑑定のご相談だけを受けることもあります。お客様からは、当社の信用力や情報量、グループ内でワンストップで対応できる点が評価されていると感じます。
──今年度に入り、新たに関西鑑定課を立ち上げた背景についてお聞かせください。
高垣 日頃ご相談をいただくなかで、関西のお客様や、お客様が関西に不動産を所有されているケースも多くありました。そのようなご相談にスピーディーに対応するために、またその地域に根付き、地域特性も深く理解したサービスの提供によってお客様の信頼を得るために2018年4月に関西鑑定課を開設しました。名古屋以西の西日本エリアを管轄しています。支店を開業してまだ4ヶ月ですが、お客様から依頼を受けることが多くなるとともに、徐々にではありますが三菱地所グループ関西支店の支援にも役立っていると実感しています。特に関西はその地域の中で経済を発展させていこうという意識が根強いので、当社部門を通じて貢献したいと考えています。
最新の路線価から見えてくる注目のキーワード
──7月に2018年の路線価が公表されました。各地で上昇が見られる中、今年注目される特徴はどのようなところでしょうか。
山中
今年だけでなく大きな流れで見ると、まず「消費」「インバウンド」がキーワードとして挙げられます。
全国で最高路線価を更新した東京・銀座中央通りを例に取りますと、取引として見れば希少性が高く、市場の競争原理で価格が値上がりしていますが、不動産の収益力から見ても、路面店の賃料が高止まりしているので、価格が高くなる条件は揃っています。その背景に、国内やインバウンドによる消費行動が挙げられます。売上が増えることで人気が上がる。それに伴って人が集まるというよいスパイラルが生じています。内でワンストップで対応できる点が評価されていると感じます。
高垣 銀座については、土地のブランド化が進んでいると考えられます。不動産としての採算を度外視したとしても、広告効果を含めて企業全体として価値があると認められれば、強気で買えるエリアなので、高くなる要素があると思います。
山中
更にキーワードを挙げると「再開発」「交通インフラ」「人口流入」といったものになるでしょう。各地方の都市部で再開発プロジェクトが進んでいたり、将来的にも再開発事業を目指す動きが水面下で見られます。そういった観点から見るとこれから上昇する素地も潜在的にあるとみています。
再開発によって作られた環境に企業や人が興味を持って集まり、そこで経済活動が行われることによって、よい循環が各地で展開されています。
──近年の再開発で特筆すべき傾向は見られますか。
山中 千代田区・中央区・港区といった、いわゆる都心3区に集中する傾向があります。また羽田空港の拡大やリニア新幹線の開業を背景に、品川区も将来的にポテンシャルが高いエリアで交通インフラ整備に伴って変貌を遂げることが期待されます。
高垣 東京エリア以外を見ても、日本全体の人口が減少するなか地方の人口流入を増やすためには、地方都市も再開発を行っていかないと経済を維持できなくなります。そういった街づくりができる地域は、今後も地価を維持できると考えます。
──企業に目を向けると、オフィスの拠点変動に大きな動きは見られますか。
山中
働き方改革が叫ばれるなか、企業もより生産性・効率性を高めるため、また優秀な人材を確保するためにもオフィス拠点を見直していく傾向にあります。当社も今年本社移転したように、働く場所や環境をどう作っていくか、多くの企業が今課題として捉えていると感じます。
ベンチャー企業が新しい事業と共に拠点を次々に立ち上げる一方、すでに複数の拠点を構えている昔ながらの企業の中には、最適化を図って拠点の集約を進める動きも見られます。業務効率化や人材採用の効果を考えれば、今後も交通インフラの便利なエリアが注目されると考えられます。
地域別に見る地価変動の傾向とは
──今回の路線価における、東日本・西日本それぞれの特徴を見てみましょう。
東日本における注目エリア
山中
東日本を見渡してみても、前述の傾向は顕著にみられます。
都内はインバウンドのペースも予想を超え、実需も伴っています。また金融緩和が続くことで、投資チャンスとして資金が流入する点も追い風となり、現在見られる上昇傾向は当面続くでしょう。海外情勢等の特殊要因を除けば、地価が下がる要素は現在見当たらない印象です。
上昇のきっかけとしては、東京オリンピック開催決定による影響が挙げられますが、オリンピック以降の人口が減少する局面では、国内だけでなく海外からどれだけ人を呼び込めるか、定住に結びつけられるかという国策にも繋がっていて、今後はこれによって地価も変わっていくと考えます。
首都圏近郊の埼玉・大宮と言ったターミナル駅もインバウンド需要によるホテル建設ラッシュが続いてはいますが、今後も安定的に上昇するか、都心の余波が浸透しつつある一時的な現象かは、まだ見極めなければいけない段階と言えるでしょう。
また、物流施設の開発が進む圏央道沿いの地域については、交通インフラ整備と物流施設の需給バランスの影響を受けています。最近は、物流施設の供給が満たされている状況なので、特筆すべき上昇は見られません。
再開発の影響が見られる横浜は、駅西口の再開発が進められていることや、三菱地所グループも開発に力を入れているみなとみらいエリアにも企業の進出が進んでおり、今後注目すべきエリアだと言えます。
東日本でさらに特徴的なエリアとして、北海道のニセコと、仙台が挙げられます。
以前過熱的な値上がりを見せたニセコは、昨今では目を見張るものがあります。リゾートマンションでも都内の分譲マンションの価格と変わらないケースも見られ、一時的な過熱感によるものではなく外国人向けのリゾート地として定着してきた印象があり、地価の上昇傾向は継続すると考えます。
仙台は地下鉄整備も進み、市街地は上昇の流れが顕著で、震災復興のステージから、成長や発展という次のステージへ移行していると言っていいでしょう。
西日本における注目エリア
高垣
西日本では、再開発の影響が強く現れているようです。
リニア新幹線の開業を控え駅前の再開発が進む名古屋では、地価の上昇率が収益性を考慮しても説明ができない程高く、局所的なバブルのような印象を受けます。以前から高い水準を誇っていた中区栄エリアを逆転し、昨今では名古屋駅周辺エリアの方が高くなっています。
うめきた2期の再開発が進む大阪でも、御堂筋・難波は関西空港が近いことからインバウンドの影響で大型ホテルの取引が続いています。また夢洲の万博誘致やIR(統合型リゾート)構想が進行し、景気の先行き見通しが明るく投資シナリオが描きやすい状況です。
オフィスの新規供給が少ない大阪において賃料は上昇していますが、梅田エリアに一極集中しており、本町、堺筋本町、淀屋橋エリアはやや苦戦しています。今後はキタとミナミを繋ぐエリアをどう活性化していくかが課題となってくるでしょう。
九州の博多周辺や天神エリアでも、高さ制限が緩和されたことで再開発が進み、地価に反映されています。その他の都市でも、熊本・鹿児島等、新幹線の駅周辺は交通インフラの影響によって上昇しました。
交通インフラの影響を受けたエリアでは、新幹線開通により東京からのアクセスが便利になった金沢にも注目できます。ここでもインバウンドを含めた観光客の増加に伴い、地価の上昇が見られます。
その他西日本の今年の特徴として、神戸市の三宮や広島の上昇率が大きいことが挙げられます。都市部が既に上昇域にあるので、利回りを求めて大阪・名古屋等の大都市圏から政令指定都市に拡大していくといった傾向が見られます。
──上記以外にもインバウンド需要として注目されるエリアはありますか。
山中 九州・沖縄は今後も安定的に推移すると思います。特に、長崎は文化財指定が進んでいるので、今後観光需要が伸びる可能性を秘めていると思います。また昔からモノ作りが進む地方の企業は、クールジャパンや日本酒ブームの事例のように、産業で消費を高める事業を育てること、ひいては地域に経済効果をもたらすことが期待できるでしょう。
地価変動を積極的に企業戦略に活かす
──不動産鑑定の立場から見て、企業は今どのように動くべきでしょうか。
高垣 現在は不動産価格が上げ止まりにある状態。売り手と買い手の価格目線が合わないケースも多くなってはいますが、企業戦略として所有不動産を売却するタイミングとしては好機と言えます。
山中
日本の産業構造も変化しているなか、購入をお考えの企業様にとっては慎重にならざるをえない側面もありますが、ベンチャー事業等様々な事業が立ち上がっていく業種では、価格が下がらないのであれば、早めに対策を講じるべきでしょう。
さらに、都市部は価格が下がる要因がないとすれば、企業としては動きやすく、動いても価値が高められる要素が強い状況と言えます。不動産を企業戦略の一部として考えた時、積極性を持って検討してみてはいかがでしょうか。
──最後に、鑑定部の今後の取り組みについてお聞かせください。
山中 これまで多く取り扱ってきた法人が所有する比較的規模の大きな不動産はもちろんのこと、昨今では個人がお持ちの不動産のご相談についても、積極的に受け付けています。特に相続に関わる不動産評価のご相談が増加しています。不動産の評価についてお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。
三菱地所リアルエステートサービス
鑑定部 次長 一課長 兼務
山中 英明
法人に特化した総合不動産コンサルタントとして日々全国を飛び回る。モットーは「正確かつ迅速なサービス対応」で、お客様からの信頼も厚い。
三菱地所リアルエステートサービス
鑑定部 関西鑑定課長
高垣 勇喜
幅広いアセットタイプを取り扱ってきた経験をベースにお客様へ的確なソリューションを展開し高い評価を得ている。物腰柔らかい対応も好評でお客様からの相談は部内で随一の件数を誇る。モットーは「一隅を照らす」。