路線価から見る不動産動向。企業は動くべきか静観するべきか。
地域別に見る地価変動の傾向とは
──今回の路線価における、東日本・西日本それぞれの特徴を見てみましょう。
東日本における注目エリア
- 山中
- 東日本を見渡してみても、前述の傾向は顕著にみられます。
都内はインバウンドのペースも予想を超え、実需も伴っています。また金融緩和が続くことで、投資チャンスとして資金が流入する点も追い風となり、現在見られる上昇傾向は当面続くでしょう。海外情勢等の特殊要因を除けば、地価が下がる要素は現在見当たらない印象です。
上昇のきっかけとしては、東京オリンピック開催決定による影響が挙げられますが、オリンピック以降の人口が減少する局面では、国内だけでなく海外からどれだけ人を呼び込めるか、定住に結びつけられるかという国策にも繋がっていて、今後はこれによって地価も変わっていくと考えます。
首都圏近郊の埼玉・大宮と言ったターミナル駅もインバウンド需要によるホテル建設ラッシュが続いてはいますが、今後も安定的に上昇するか、都心の余波が浸透しつつある一時的な現象かは、まだ見極めなければいけない段階と言えるでしょう。
また、物流施設の開発が進む圏央道沿いの地域については、交通インフラ整備と物流施設の需給バランスの影響を受けています。最近は、物流施設の供給が満たされている状況なので、特筆すべき上昇は見られません。
再開発の影響が見られる横浜は、駅西口の再開発が進められていることや、三菱地所グループも開発に力を入れているみなとみらいエリアにも企業の進出が進んでおり、今後注目すべきエリアだと言えます。
東日本でさらに特徴的なエリアとして、北海道のニセコと、仙台が挙げられます。
以前過熱的な値上がりを見せたニセコは、昨今では目を見張るものがあります。リゾートマンションでも都内の分譲マンションの価格と変わらないケースも見られ、一時的な過熱感によるものではなく外国人向けのリゾート地として定着してきた印象があり、地価の上昇傾向は継続すると考えます。
仙台は地下鉄整備も進み、市街地は上昇の流れが顕著で、震災復興のステージから、成長や発展という次のステージへ移行していると言っていいでしょう。
西日本における注目エリア
- 高垣
- 西日本では、再開発の影響が強く現れているようです。
リニア新幹線の開業を控え駅前の再開発が進む名古屋では、地価の上昇率が収益性を考慮しても説明ができない程高く、局所的なバブルのような印象を受けます。以前から高い水準を誇っていた中区栄エリアを逆転し、昨今では名古屋駅周辺エリアの方が高くなっています。
うめきた2期の再開発が進む大阪でも、御堂筋・難波は関西空港が近いことからインバウンドの影響で大型ホテルの取引が続いています。また夢洲の万博誘致やIR(統合型リゾート)構想が進行し、景気の先行き見通しが明るく投資シナリオが描きやすい状況です。
オフィスの新規供給が少ない大阪において賃料は上昇していますが、梅田エリアに一極集中しており、本町、堺筋本町、淀屋橋エリアはやや苦戦しています。今後はキタとミナミを繋ぐエリアをどう活性化していくかが課題となってくるでしょう。
九州の博多周辺や天神エリアでも、高さ制限が緩和されたことで再開発が進み、地価に反映されています。その他の都市でも、熊本・鹿児島等、新幹線の駅周辺は交通インフラの影響によって上昇しました。
交通インフラの影響を受けたエリアでは、新幹線開通により東京からのアクセスが便利になった金沢にも注目できます。ここでもインバウンドを含めた観光客の増加に伴い、地価の上昇が見られます。
その他西日本の今年の特徴として、神戸市の三宮や広島の上昇率が大きいことが挙げられます。都市部が既に上昇域にあるので、利回りを求めて大阪・名古屋等の大都市圏から政令指定都市に拡大していくといった傾向が見られます。
──上記以外にもインバウンド需要として注目されるエリアはありますか。
- 山中
- 九州・沖縄は今後も安定的に推移すると思います。特に、長崎は文化財指定が進んでいるので、今後観光需要が伸びる可能性を秘めていると思います。また昔からモノ作りが進む地方の企業は、クールジャパンや日本酒ブームの事例のように、産業で消費を高める事業を育てること、ひいては地域に経済効果をもたらすことが期待できるでしょう。
地価変動を積極的に企業戦略に活かす
──不動産鑑定の立場から見て、企業は今どのように動くべきでしょうか。
- 高垣
- 現在は不動産価格が上げ止まりにある状態。売り手と買い手の価格目線が合わないケースも多くなってはいますが、企業戦略として所有不動産を売却するタイミングとしては好機と言えます。
- 山中
- 日本の産業構造も変化しているなか、購入をお考えの企業様にとっては慎重にならざるをえない側面もありますが、ベンチャー事業等様々な事業が立ち上がっていく業種では、価格が下がらないのであれば、早めに対策を講じるべきでしょう。
さらに、都市部は価格が下がる要因がないとすれば、企業としては動きやすく、動いても価値が高められる要素が強い状況と言えます。不動産を企業戦略の一部として考えた時、積極性を持って検討してみてはいかがでしょうか。
──最後に、鑑定部の今後の取り組みについてお聞かせください。
- 山中
- これまで多く取り扱ってきた法人が所有する比較的規模の大きな不動産はもちろんのこと、昨今では個人がお持ちの不動産のご相談についても、積極的に受け付けています。特に相続に関わる不動産評価のご相談が増加しています。不動産の評価についてお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。

三菱地所リアルエステートサービス
鑑定部 次長 一課長 兼務
山中 英明
法人に特化した総合不動産コンサルタントとして日々全国を飛び回る。モットーは「正確かつ迅速なサービス対応」で、お客様からの信頼も厚い。

三菱地所リアルエステートサービス
鑑定部 関西鑑定課長
高垣 勇喜
幅広いアセットタイプを取り扱ってきた経験をベースにお客様へ的確なソリューションを展開し高い評価を得ている。物腰柔らかい対応も好評でお客様からの相談は部内で随一の件数を誇る。モットーは「一隅を照らす」。

-
vol.10
駐車場から始まる街づくりの未来
新会社「三菱地所パークス」が描く
次世代の駐車場事業
(三菱地所パークス コンサルティング本部
平川 修一 / 荻田 健之
三菱地所リアルエステートサービス
経営企画部 富田 剛史) -
vol.09
経年ビルを効率的にバリューアップ
ビルが持つ個性を活かした付加価値により
資産価値を最大化する「ビルプラス」
(ビル受託営業部 ビルプラス営業課
近藤一成 / 佐々木亮太 / 佐藤佑樹) -
vol.08
理想のオフィスを実現するために。
最適なソリューションをご提供する「Office Well」
(ビル営業一部 カスタマーリレーションチーム 池田 顕治 / 長政 亮 / 東海林 翼) -
vol.07
M&Aで活かす不動産
投資助言部がご提案する
M&Aソリューションの新たな活用手法
(投資助言部 三好 実 / 小原 慎司) -
vol.05
最新のオフィス事情から考える
借りるニーズの多様性。
(ビル営業部 蓮山 正志 / 小笠原 啓史 / 柴 理沙子) -
vol.04
CRE戦略の最新事情。
担当者の声から見えてくる
企業価値の行方。
(企業不動産部 大塚 裕一 / 齊藤 嘉久 / 手塚 優子) -
vol.03
路線価から見る不動産動向。
企業は動くべきか静観するべきか。
(鑑定部 山中 英明/高垣 勇喜) -
vol.02
働き方改革、働くことの意義や働きやすさを
考える上で移転は改革推進のエンジンとなる。
(本社移転プロジェクトメンバー) -
vol.01
リアルな現場キックオフ!
お客様へのトータルソリューションの体現
(代表取締役社長 田島 穣)