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はじめに

春から夏へ、アクティブに過ごすのが楽しい季節がやってくる。この時期はどうしても美術館をはじめとした屋内施設への足が遠のきがちになる。海に山に、自然を求めて出かけるときに、ぜひ旅先に美術館がないか気にかけてみていただきたい。そうしたリゾートの多くにはきっと美術館があるはず。旅先で出会うアートは都心の美術館とはまた違った感覚で出会え、心に深く刻まれる。

軽井沢や那須高原など、首都圏から近いリゾートには数え切れない数の美術館や博物館がある。その中でもとりわけ、“アートリゾート”と言っても過言ではないのが「箱根」だ。
今回は都心を離れて、箱根にある美術館を訪ねる。

第6回となるWeekend Museumは数ある箱根の美術館の中でも、作品を数多く所蔵し、都心の美術館ではできないようなユニークな企画展を展開している『ポーラ美術館』と『岡田美術館』の二つの美術館を巡る。旅をナビゲートするのは、チェリストとして活躍する小林奈那子さん。それでは、アートと緑を求めて、いざ。


自然とのふれあいも箱根の美術館ならでは

美術館巡りで箱根の魅力を再発見

箱根は箱根山と総称される複数の火山により形成された外輪山と中央火口丘、芦ノ湖を中心としたカルデラによる複雑な自然環境により、戦国の世にあっては東西を分ける天然の要害を成し、古くからの交通の要衝として、江戸時代には関所や宿場が置かれた。火山性の自然により数多くの温泉が湧出し、明治に入ってからは外国人向けの保養地として、別荘やホテルなどが設けられた。これにともない鉄道など交通の整備も進み、観光地・リゾート地として大いに発展してきた。

複雑な自然環境のため、アクセスが多岐にわたり、旅程そのものが箱根の旅の醍醐味ともなっているのも大きな特徴だ。もっとも一般的なのが、小田急や東海道新幹線で小田原、箱根湯本に行き、そこから世界的にも珍しいスイッチバックで急勾配を登る箱根登山電車で山深くに入っていく旅程だろう。ケーブルカー、ロープウェイと乗り継げば、それだけで箱根の魅力を十分堪能できる。箱根湯本からは多方面に登山バスが出ているので、目的地に直接行くにはそれも便利だろう。意外に知られていないのが、高速バスやマイカーで御殿場から箱根に入るルートだ。雄大な富士山を眺めながらの旅はぜひ一度経験してみたい。


箱根登山電車は箱根の旅には欠かせない。車窓からの景色もまた楽しみのひとつだ

箱根の旅の目的といえば定番はやはり温泉だろう。江戸時代から知られた「箱根七湯」に加え、今や「箱根二十湯」とも言われ、箱根のいたるところで温泉が楽しめる。スポーツならゴルフやハイキング、キャンプといったところか。そうした中で昨今、注目されているが「美術館巡り」だ。箱根には箱根町だけでも10を超える美術館があり、その周辺も含めればさらに数は多い。

箱根で最も歴史のある1952年開設の「箱根美術館」をはじめ、箱根にある施設全体においても人気の高い「箱根彫刻の森美術館」、「星の王子さまミュージアム」や「箱根ラリック美術館」などテーマ性の高い美術館も多い。箱根にはさまざまなジャンルの美術館があり、どこかひとつ、興味のある美術館に絞って、じっくり楽しむのもいいし、スタンプラリーのように幾つもの美術館を巡って、ちょっとづつ楽しむのもいいだろう。アートを通じて箱根を楽しめば、いつもと違った箱根の魅力が発見できるかもしれない。

国内最大級の西洋絵画コレクション


明るく開放的な空間が心地よいポーラ美術館。2017年に開館15周年を迎えた

『ポーラ美術館』は、2002(平成14)年9月に箱根・仙石原に開館した開館15周年を迎える、財団法人ポーラ美術振興財団が運営する美術館だ。同館のコレクションは、ポーラ化粧品で知られるポーラ・オルビスグループのオーナーが40年余をかけて収集した総数1万点にのぼるもの。

中でも西洋絵画コレクションには、モネ、ルノワール、セザンヌ、シャガール、ピカソといった19〜20世紀の西洋絵画約400点がコレクションの中核を成しており、ポーラ美術館の顔とも言える。「印象派とその周辺 コレクション」には、19世紀のフランス印象派を代表するクロード・モネの「睡蓮の池」(1899年)をはじめとする絵画19点、ピエール・オーギュスト・ルノワールの「レースの帽子の少女」(1891年)など絵画13点をはじめ、多彩な作品が揃う。


ポーラ美術館にきたらクロード・モネの「睡蓮」は必見。左から《睡蓮の池》(1899年)、《バラ色のボート》(1890年)、《睡蓮》(1907年)

さらにフィンセント・ファン・ゴッホの「アザミの花」(1890年)やポール・セザンヌの「砂糖壺、梨とテーブルクロス」(1893〜1894年)といった「ポスト印象派 コレクション」や、レオナール・フジタ(藤田嗣治)やアメデオ・モディリアーニ、マルク・シャガールといったエコール・ド・パリを彩った画家たちの作品で構成された「エコール・ド・パリ コレクション」、“青の時代” の「海辺の母子像」(1902年)などのパブロ・ピカソやアンリ・マティス、ラウル・デュフィなどを集めた「20世紀の絵画 コレクション」といった、世界的にも評価の高い作品の数々が鑑賞できる。誤解を恐れずに言い切れば、まさに “森の中の西洋美術館” と言えるだろう。

展示室は7月のパリの夕暮れ

西洋絵画だけがポーラ美術館の魅力ではない。黒田清輝の「野辺」(1907年)、岡田三郎助の「あやめの衣」(1927年)、藤島武二の「女の横顔」(1926〜1927年)といった名画をはじめ、岸田劉生、佐伯祐三、安井曾太郎といった、錚々たる近代日本の洋画家の作品や、横山大観や小林古径、東山魁夷、杉山寧といった日本画家の所蔵作品から厳選して常設展示を行なっている。

その他のコレクションには、中国、日本、韓国の古陶磁や日本の近現代陶磁のコレクション、エミール・ガレやドーム兄弟といったアール・ヌーヴォーの作品などの繊細で華やかなガラス工芸などユニークなコレクションが目を引く。とりわけ古今東西から集められた化粧道具コレクションは、ガラス工芸のコレクションと共通のものとして、アール・ヌーヴォーの香水などの化粧瓶や、江戸から明治にかけての日本女性の化粧道具、大正・昭和の化粧品の広告や商品パッケージなど、ポーラ化粧品らしい、他に類を見ないものが揃っており、鑑賞者の目を楽しませてくれる。

これらの作品が5つの展示室のうち3室において、企画展と西洋絵画、日本の洋画・日本画の常設展示にあてられ、残り2室で陶磁、ガラス工芸、化粧道具について、毎回、さまざまなテーマの企画展示が行われている。これらの展示室そのものにもユニークな機能が付与されている。美術館での作品展示は照明からの作品の劣化を守ることが重要な課題となるが、同館の展示室では、印象派の作品を美しく鑑賞できるよう、照明に用いられている光ファイバーで「7月のパリの夕暮れ」を再現しているという。


アンリ・マティスの《リュート》(1943年)に見入る小林さん。絵の中にチェリストとしての自分の姿が見える?