ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム 横浜不動産市場レポート(2024年3月時点)

「横浜不動産市場レポート(2024年3月時点)」のアイキャッチ画像

目次

要旨

  • 横浜市は、「みなとみらい21地区」や「関内地区」を中心に大規模開発計画が進行中である。今年は、「横浜シンフォステージ」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は約3.1万坪に達する見込みである。
  • オフィスビルの成約賃料は、新規供給の増加等に伴う空室率の上昇を背景に下落基調で推移すると予想する。2023年の賃料を100とした場合、2024年は「96」、2028年は「86」に下落する見通しである。ただし、2023年対比で▲14%下落するものの、2018年と同程度の賃料水準に留まり、大幅な賃料下落には至らない見込みである。
  • 横浜市では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は2017年をピークに減少傾向で推移している。加えて、建築コストの高騰が下押し要因となり、大幅に増加する可能性は低いと見込む。一方、人口の転入超過数は、一貫してプラス(転入超過)で推移しており、需給環境が悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き堅調に推移することが予想される。
  • J-REITによる2023年(1~12月)の物件取得額(神奈川県)は968億円(前年比▲12%)となり3年連続で減少した。アセットタイプ別では、新横浜エリアの大型オフィスビルや郊外部に所在する大規模物流施設の取得が複数確認された。
  • 大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、横浜においても不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、横浜市に所在する大規模オフィスビルの還元利回りを推計すると、2022年は3.5%となり前年比▲0.1%低下した。同様に、住宅のキャップレートは3.9%(前年比▲0.1%)、商業は4.0%(同▲0.1%)、ホテルは4.6%(同±0.0%)、物流施設は3.8%(同▲0.2%)となった。
  • 日本銀行は、2024年3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除と長短金利操作(YCC)の撤廃を決定した。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。 

横浜のオフィス開発計画

三鬼商事によれば、「みなとみらい21地区」と「関内地区」がそれぞれ、オフィス面積全体の3割強と2割強を占める(図表-1)。現在、両エリアでは大規模開発計画が進行中であり、オフィス市場における存在感が高まる見通しである。以下では、「みなとみらい21地区」と「関内地区」のオフィス開発計画を概観したい。

図表-1 横浜ビジネス地区の地区別
オフィス面積構成比(2023年)

(出所)三鬼商事のデータを基にニッセイ基礎研究所作成

「みなとみらい21地区」

「みなとみらい21地区」では、みなとみらい21中央地区37街区で、パナソニックホームズ、鹿島建設、ケネディクスが「横浜コネクトスクエア」(地上 28階建て・延床面積約12.2万㎡・オフィス貸室総面積約6.3万㎡)を開発し、2023年1月に竣工した[1](図表-2 ①)。また、みなとみらい21中央地区60・61街区で、ケン・コーポレーションが音楽アリーナ、ホテル、オフィスを併設した「ミュージックテラス」(オフィス部分「Kタワー横浜」:地上 21階建て・延床面積約2.7万㎡)を開発し、2023年9月に開業した[2](図表-2 ②)。

そして、2024年以降も、複数の大規模開発が計画されている。みなとみらい21中央地区53街区で、大林組、京浜急行電鉄、日鉄興和不動産、ヤマハおよびみなとみらい53EASTが「横浜シンフォステージ」(地上 30階建て・延床面積約18.3万㎡)を開発し、2024年3月に完成予定である[3](図表-2 ③)。また、みなとみらい21中央地区53街区で、大和ハウス工業と光優が世界初のゲームアートミュージアム、地域熱供給プラント、オフィスを併設した施設(延床面積約11.4万㎡・オフィス棟:地上29階建・ミュージアム棟:3階建て)を開発し、2027年7月に開業予定である[4](図表-2 ④)。また、前述の「ミュージックテラス」の隣地でケン・コーポレーション、SMFLみらいパートナーズ、鹿島建設、および学校法人岩崎学園が、西側に専門学校、東側に商業施設、ホテル、ミュージアム、オフィスなどから構成される複合施設(延床面積約13万㎡)を開発し、2029年2月の竣工を予定している[5](図表-2 ⑤)。

1983年11月に事業着工した「みなとみらい21地区」の開発進捗率は、前述の開発計画を含めて99%となる[6]。2022年時点の進出企業数は1890社、就業者は13万人を超える。横浜市の推計(2020年時点)によれば、MM21地区の都市稼働による横浜市内への経済波及効果は、年間約2兆 846 億円に達している[7]
今後、「みなとみらい21地区」のまちづくりが完了することで、横浜の地域経済およびオフィス市場への影響力が一層高まることが予想される。

図表-2 「みなとみらい21地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

「関内地区」

「関内地区」では、大同生命が中区港町2丁目の「大同生命横浜ビル」および隣地ビルを一体で建替えを行い、地上13階のオフィスビルを開発し、2024年4月に竣工予定である[8](図表-3①)。

その後も、複数の大規模開発が計画されている。中区港町1丁目の横浜市旧市庁舎跡地に、三井不動産等8社がオフィスや大学、アリーナ等を併設した施設(総延床面積約12.9万㎡)を開発し、2026年春に開業予定である[9](図表-3 ②)。また、日本郵船、三菱地所、鹿島建設が共同で設立した中区海岸通デベロップメント特定目的会社が中区海岸通3丁目でオフィス、ホテル、インキュベーション施設等を併設した複合施設(地上21階建て・延床面積約7.1万㎡)を開発し、2027年1月に竣工予定である[10](図表-3 ③)

図表-3 「関内地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

[1] 鹿島建設「横浜コネクトスクエア」HP
[2] ケン・コーポレーション「大規模複合開発 – ミュージックテラス-」HP
[3] 株式会社大林組・京浜急行電鉄株式会社・日鉄興和不動産株式会社・ヤマハ株式会社・みなとみらい53EAST合同会社「みなとみらい21中央地区53街区開発事業の街区名称を 『横浜シンフォステージ(YOKOHAMA SYMPHOSTAGE)』 に決定」2022/8/29
[4] 大和ハウス工業株式会社・株式会社光優「世界初のゲームアートミュージアム、地域熱供給プラント、オフィスを併設「みなとみらい21中央地区52街区開発事業」着工」2024/2/21
[5] 横浜市「みなとみらい21中央地区60・61街区の事業予定者が決定しました」2024/2/5
[6] 日本経済新聞 「横浜みなとみらい21開発 着工40年、最終段階「53街区」、「60・61街区」始動 新たなにぎわい拠点に」(2024年3月15日)
[7] 横浜市都市整備局横浜駅・みなとみらい推進課「みなとみらい21地区の開発や事業活動がもたらす横浜市内への経済波及効果を推計しました!」(2023年5月20日)
[8] 大同生命「「大同生命横浜ビル建替え計画」新築工事に着手」(2022年3月30日)
[9] 三井不動産株式会社・鹿島建設株式会社・京浜急行電鉄株式会社・第一生命保険株式会社・株式会社竹中工務店・株式会社ディー・エヌ・エー・東急株式会社・星野リゾート「JR「関内」駅前に「横浜市旧市庁舎街区活用事業」着工 旧市庁舎行政棟を保存・活用し、横浜の歴史や文化を継承 「新旧融合」の新たな街が2026年春グランドオープン」(2022年7月12日)
[10] 建設通信新聞 「【横浜・郵船ビル隣に7万平米複合ビル】4月着工、完成は27年1月」(2023年11月2日)

横浜の賃貸オフィス市場

空室率および賃料の動向

横浜市のオフィス空室率は、2020 年4月の緊急事態宣言の発令以降、上昇基調で推移している。三鬼商事によると、2024年2月時点の空室率は6.5%(2020年4月対比+4.6%)に上昇した(図表-4)。
また、需給バランスの緩和に伴い、成約賃料は弱含んでいる。三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」によれば、横浜市の成約賃料は、2021年上期をピークに下落傾向で推移しており、2023年下期は前年比▲5.6%となった(図表-5)。

図表-4 主要都市のオフィス空室率

(出所)三鬼商事のデータを基にニッセイ基礎研究所が作成

図表-5 主要都市のオフィス成約賃料
(オフィスレント・インデックス)

(出所)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」を基にニッセイ基礎研究所が作成 ※東京都心5区除き

賃料と空室率の関係を表した横浜市の賃料サイクル[11]は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面から「空室率上昇・賃料上昇」の局面を経て、2022年上期からは「空室率上昇・賃料下落」の局面へ移行している(図表-6)。

図表-6 横浜オフィス市場の賃料サイクル

(出所)空室率:三鬼商事、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

横浜オフィス市場の需要見通し

オフィスワーカーの見通し

総務省「労働力調査」によれば、2023年の神奈川県の就業者数は570.6万人(前年比+4.8万人)となり、2年連続で増加した(図表-7)。
また、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、横浜市の生産年齢人口は、2020年以降横這いで推移しており、2023年は238.2万人(前年比+0.2%)となった(図表-8)。
しかし、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」によれば、横浜市の生産年齢人口は2025年の239.6万人をピークに減少に向かい、2035年は222.4万人(2025年対比▲7%)、2045年は201.5万人(同▲16%)となる見通しである(図表-9)。

図表-7 神奈川県の就業者数

(出所)総務省「労働力調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-8 横浜市の生産年齢人口

(出所)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-9 横浜市の年齢帯別人口(予測)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口
(令和5(2023)年推計)」をもとにニッセイ基礎研究所作成

以下では、横浜のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「雇用環境」と「企業の経営環境」について確認したい。
横浜市経済局・横浜商工会議所「横浜市景況・経営動向調査」によれば、「雇用人員BSI[12]」(全産業) は、2020 年第2四半期に+5.7 へ大きく上昇した後、低下(回復)が続いている。2023 年第4四半期は▲35.9 となり、コロナ禍前の水準(▲31.9)を下回り人手不足感が強まっている(図表-10)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2023 年第4四半期は「製造業」が▲24.1、「非製造業」が▲43.8となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、人手不足感がより強い状況にあると言える。

図表-10 雇用人員BSI(横浜市)

(出所)横浜市経済局・横浜商工会議所「横浜市景況・経営動向調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

一方、「企業の経営環境」に関して、横浜市経済局・横浜商工会議所の調査によれば、「新型コロナウイルス感染症による現時点の企業活動への影響」について、「マイナスの影響がある」が約半数を占めた(図表-11)。また、「最近の物価などの高騰(エネルギー高・原材料高・人件費の高騰など)の業績への影響」に関して、「悪い影響を受けている」(「かなり悪い影響を受けている」、「悪い影響を受けている」、「やや悪い影響を受けている」の合計)との回答は約8割を占めた(図表-12)。

図表-11 新型コロナウイルス感染症による
現時点の企業活動への影響(2023年5月実施)

(出所)横浜市経済局・横浜商工会議所「横浜市景況・経営動向調査(令和5年3月実施)(特別調査)」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-12 物価高騰の影響等
(2023年12月実施)

(出所)横浜市経済局・横浜商工会議所「横浜市景況・経営動向調査(令和5年12月実施)(特別調査)」をもとにニッセイ基礎研究所作成

神奈川県の就業者数は増加しているものの、今後、生産年齢人口は減少に向かう見通しである。また、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強い一方、企業活動はコロナ禍からの回復は鈍く、物価高騰のダメージも受けている。これらのことを勘案すると、横浜ビジネスエリアの「オフィスワーカー数」の増加はやや力強さに欠ける懸念がある。

在宅勤務の進展に伴うオフィスの見直し

パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によれば、神奈川県のテレワーク実施率は、3割から4割の範囲で推移しており、2023年7月調査では33%となった(図表-13)。テレワーク実施率は全国平均を上回っており、横浜市でも「在宅勤務」を取り入れた新たな働き方が一定程度定着しているようだ。
また、帝国データバンクの調査によれば、「新型コロナ感染拡大に伴う働き方改革の取り組みの変化」について、「オフィスの移転」との回答が実施予定を含めて約1割を占めた[13]。横浜市では「在宅勤務」が定着するなか、オフィスの見直しに着手する企業が徐々に増えていることがうかがえる。

在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方が普及するなか、「コワーキングスペース」等の「サードプレイスオフィス」市場が全国的に拡大している。横浜市経済局の調査によれば、横浜市内に拠点をもつコワーキング運営事業者に「横浜市内に新たな拠点を開設したいか」を尋ねたところ、「開設したいと考え、具体的に検討している(42%)」との回答が最も多く、次いで、「具体的には検討していないが、横浜市内で開設したいと考えている(31%)」との回答が多かった(図表-14)。また、「新たな拠点を検討しているエリア」に関して、「横浜駅周辺(39%)」との回答が最も多く、次いで、「みなとみらい21(31%)」、「関内、山下町周辺(28%)」の順に多かった(図表-15)。横浜でも、「横浜駅周辺」や「みなとみらい21地区」を中心に「サードプレイスオフィス」の出店意欲は強いようだ。
今後も、フレキシブルな働き方に即したオフィスの拠点配置や利用形態を検討する企業の増加が予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。

図表-13 神奈川県 テレワーク実施率

(出所)パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-14 新たな施設の設置に関する意向

(出所)横浜市経済局企業誘致・立地課「市内コワーキングスペース等に関するアンケート調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-15 新たな拠点の開設を
検討しているエリア

(出所)横浜市経済局企業誘致・立地課「市内コワーキングスペース等に関するアンケート調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

神奈川県(横浜市・川崎市)の新規供給予定面積

2023年の新規供給面積は、「横浜コネストスクエア」や「Kタワー横浜」等の大規模ビル竣工に伴い、前年の約4倍の約2.6万坪に増加した。
2024年も「横浜シンフォステージ」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は約3.1万坪に達する見込みである。2025年は一旦落ち着くものの、2026年は「みなとみらい21地区」等で大規模ビルが竣工予定で、新規供給量は約2.7万坪となる見通しである(図表-16)。

図表-16 神奈川県のオフィスビル
新規供給見通し

(出所)三幸エステート

横浜のオフィス賃料見通し

前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2028年までの横浜のオフィス賃料を予測した(図表-17)。

神奈川県の就業者数は増加しているものの、今後、生産年齢人口は減少に向かう見通しである。また、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強い一方、企業活動はコロナ禍からの回復は鈍く、物価高騰のダメージも受けている。これらのことを勘案すると、横浜ビジネスエリアの「オフィスワーカー数」の増加はやや力強さに欠ける懸念がある。
また、横浜市でも「在宅勤務」を取り入れた新たな働き方が一定程度定着している。フレキシブルな働き方に即したオフィスの拠点配置や利用形態を検討する企業の増加が予想される。
一方、新規供給は「みなとみらい21地区」や「関内地区」を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2024年と2026年に約3万坪の新規供給を控えるなか、今後、横浜の空室率は上昇することが予想される。

このため、横浜のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。2023年の賃料を100とした場合、2024年は「96」、2028年は「86」に下落すると予想する。ただし、2023年対比で▲14%下落するものの、2018年と同程度の賃料水準に留まり、大幅な賃料下落には至らない見込みである。

図表-17 横浜のオフィス賃料見通し

(注)年推計は各年下半期の推計値を掲載。
(出所)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などを基にニッセイ基礎研究所作成

[11] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
[12] 雇用人員が「過剰気味」と回答した割合から「不足気味」と回答した割合を引いた値。プラス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
[13] 帝国データバンク「働き方改革の取り組みに関する神奈川県内企業の意識調査」(2021年9月実施)。「新型コロナ拡大で取り組み始めた」との回答が3.1%。「今後取り組む予定」との回答が6.3%

横浜の賃貸マンション市場

横浜市の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、横浜市の転入超過数(日本人)は、一貫して、プラス(転入超過)で推移している。2023年の転入超過数は+7,543人となり、2010年以降の平均値(約5.6千人)を上回った(図表-18)。
転入超過数を区別にみると、「中区」と「港北区」は、一貫して高水準のプラスを維持している。2023年は、「南区」(+1,654人)が最も多く、次いで「中区」(+1,305人)、「神奈川区」(+784人)、「港北区」(+780人)が多かった。特に、「南区」は2010年以降の最高値を更新した(図表-19)。

図表-18 主要都市の転入超過数(日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-19 横浜市 区別転入超過数
(2010年~2023年・日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎
研究所作成

建築コストの動向

次に、建築コストの動向を確認する。建設物価調査会「建築費指数」によれば、東京の「集合住宅(RC 造)」の建築費は、長期的に上昇基調で推移している。2023年12月は「127.7」(前年比+6%)となり2015 年対比で+27%上昇した(図表-20)
国土交通省「建設労働需給調査」によれば、建設業の労働需給を示す「建設技能労働者過不足率」(関東)は、概ねプラス(人手不足)で推移しており、2021年下期以降、プラス幅は拡大傾向にある。2023年12月は「+2.0」となった(図表-21)。このように、常態化した人手不足を背景に建築コストの上昇が続いている。

図表-20 主要都市の「集合住宅(RC造)」
建築コスト(2015年=100)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-21 建設技能労働者過不足率(関東)

(出所)国土交通省「建設労働需給調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
※8職種計

横浜市の住宅着工戸数の動向

続いて、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、横浜市の住宅着工戸数は、2017年をピークに減少傾向で推移している。2023年は、前年比▲13%の約0.9万戸となり、2012年以降の平均値(約1.0万戸)を下回った(図表-22)。
規模別に住宅着工戸数をみると、横浜市では、シングルタイプ(~30㎡)とコンパクトタイプ(31㎡~60㎡)がそれぞれ4割程度を占めている。2023年は、シングルタイプ(~30㎡)が前年比▲6%減少、コンパクトタイプが同▲24%減少し、ファミリータイプ(61㎡~)が同+10%増加した(図表-23)。
また、区別では、「鶴見区」と「神奈川区」と「港北区」の供給量が長期的に高水準となっている。2023年は、「神奈川区」(約1.3千戸)に次いで「鶴見区」(約1.2千戸)、「港北区」(約1.2千戸)が多かった(図表-24)。

図表-22 主要都市の住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-23 横浜市 規模別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-24 横浜市 区別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)[2012年~2023年]

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

横浜の賃貸マンション稼働率・賃料の動向

横浜市および川崎市に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、2017年以降97%台で推移しており、2023年は97.3%となった(図表-25)。
また、横浜・川崎エリアのマンション賃料は堅調に推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第4四半期は前年比でシングルタイプが+0.3%、コンパクトタイプが+4.3%、ファミリータイプが+1.5%となった。(図表-26)。

図表-25 J-REIT物件の平均稼働率
(横浜市及び川崎市・住宅)

(出所)開示データを基にニッセイ基礎研究所が作成 
※各年下期の値

図表-26 横浜・川崎のマンション賃料

(出所)三井住友トラスト基礎研究所・アットホーム「マンション賃料インデックス(総合・連鎖型)」を基にニッセイ基礎研究所作成

このように、横浜市では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は2017年をピークに減少傾向で推移していることに加えて、建築コストの高騰が下押し要因となり、大幅に増加する可能性は低いと見込む。一方、人口の転入超過数は、一貫してプラス(転入超過)で推移しており、需給環境が悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き堅調に推移することが予想される。

横浜の不動産投資市場

横浜の地価動向

横浜の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2023年第4四半期)」によると、横浜駅西口(商業地)、都筑区センター南(住宅地)ともに前年比「0~3%」の上昇となった(図表-27)。同レポートでは、「商業地では、JR横浜駅等の集客力や周辺部における再開発事業によって発展性が見込まれており、投資適格物件に対する取得需要は根強く、地価が上昇している。住宅地でも、子育て世代等のマンション需要は当面安定した状態が続くと見込まれ、地価が上昇している」としている。

図表-28 横浜の地価動向
(地価LOOKレポートより)

横浜駅西口(商業)

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 前期に引き続き、当期も横浜駅周辺は活況を維持している。ホテルの営業状況については、高稼働率が続く等によって当期も好調な状況である。オフィスについては、令和5年11月末時点の空室率は3%台前半で、全体的に稼働率は安定しているが、オフィス賃料の上昇傾向は確認されず、概ね横ばいで推移している。再開発事業による施設建築物「THEYOKOHAMA FRONT TOWER」では、高級分譲マンションが完売となり、竣工に向けて工事も最終段階である。また、南幸地区では令和5年12月に大型商業施設が全館開業した。当地区に係る不動産市場では、JR横浜駅等の集客力や周辺部における再開発事業によって発展性が見込まれており、当地区の不動産の取得需要は強まって取引価格は緩やかな上昇傾向が続いていることから、当期の地価動向はやや上昇で推移した。

企業業績や金利動向等の影響による懸念から、当地区の不動産市場には引き続きやや不透明感が残る。そのため、オフィスの空室動向等には注視する必要があるものの、当地区の最寄り駅は東京都区部の各駅を除くと従来から首都圏随一のターミナル駅となっており、人流の回復や旺盛な消費意欲を背景とした店舗の出店需要や営業所等の需要が当期も認められることから、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR東海道本線の横浜駅西口周辺。高層の店舗事務所ビルが建ち並ぶ高度商業地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2023年4Q」

都筑区センター南(住宅)

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区は港北ニュータウンの中核であるセンター南駅周辺に位置している。大規模商業施設等の生活利便施設への接近性に優れるほか、都市公園も点在し、閑静な住環境を兼ね備えたエリアとして子育て世代の需要が特に強い。都筑区内の人口は概ね増加基調で、全体的にマンション等の住宅需要は堅調さを維持しており、当地区とその周辺エリアでは分譲中及び分譲予定の新築マンションが数棟確認された。昨今の建築費の高騰はマンション開発に大きな影響を与えており、マンション開発素地の取得に当たっては、立地条件や住環境等による競争力が従来以上に厳しく選別要因となる傾向が見られるため、立地条件等が優れる当地区においてはマンション開発素地の需要は引き続き旺盛である。しかし、当地区ではマンション開発素地の供給が少ないことから、立地条件等の整ったマンション開発素地が供給された場合には需要が競合する市況が続いている。以上から、取引価格は緩やかな上昇傾向が続き、当期の地価動向はやや上昇で推移した。

当地区において、子育て世代等のマンション需要は当面安定した状態が続くと見込まれる一方で、マンション開発素地の供給が少ない状況も当面続くと予想されるため、当地区でマンション開発素地が供給された場合は相応の稀少性が認められ、需要が競合することが見込まれる。以上から、当期の市況が当面続き、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 横浜市営地下鉄3号線のセンター南駅(横浜駅まで地下鉄で約21分)からの徒歩圏。マンションが建ち並ぶ住宅地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2023年4Q」

J-REITによる物件取得額(神奈川県)

J-REITによる2023年(1月~12月)の物件取得額(神奈川県)は968億円(前年比▲12%)となり3年連続で減少した(図表-28)。アセットタイプ別では、物流施設(33%)・オフィス(27%)・商業施設(10%)・住宅(9%)・ホテル(9%)・底地(7%)・ヘルスケア施設(5%)となり、新横浜エリアの大型オフィスビルや郊外部に所在する大規模物流施設の取得が複数確認された。

図表-28 J-REITによる物件取得額
(神奈川県)

(注)引渡しベース。ただし、新規上場以前の取得物件は上場日に取得したと想定
(出所)開示データをもとにニッセイ基礎研究所が作成

横浜のキャップレートの動向

大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、横浜市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2022年は3.5%となり前年比▲0.1%低下した(図表-29)。
同様に、住宅のキャップレートは3.9%(前年比▲0.1%)、商業は4.0%(同▲0.1%)、ホテルは4.6%(同±0.0%)、物流施設は3.8%(同▲0.2%)となった。

図表-29 横浜のキャップレート推移

(出所)J-REITの開示データをもとに推計 
(注)オフィス:延床面積3万㎡以上、築年5年未満、最寄り駅から3分未満のオフィスビル
住宅:築年5年未満、最寄り駅から15分未満、シングルタイプの住宅
商業:築5年未満、延床面積3千㎡未満、長期契約でない商業専門店ビル
ホテル:最寄り駅より 3分以内、築5年未満、延べ床6千㎡未満のビジネスホテル
物流施設想定物件:建築後5年未満で延べ床面積6万㎡以上の物流施設

森記念財団都市戦略研究所「日本の都市特性評価[14]」(2023年)によれば、東京23区を除く主要136都市において横浜市は総合スコアが第2位となった(図表-30)。分野別にみると、「文化・交流」と「経済・ビジネス」について特に評価が高い。また、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の調査によれば、横浜市は三大都市に次ぐ「収益不動産」の市場規模を有しており、地方主要都市のなかで、市場規模の観点から投資エリアとしての優位性は高い。

ところで、ニッセイ基礎研究所の「不動産市況アンケート」(2024年1月実施)において、「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「建築コスト」(68%)との回答が最も多く、次いで「国内金利」(59%)との回答が多かった。
日本銀行は、2024年3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除と長短金利操作(YCC)の撤廃を決定した。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。

図表-30 日本の都市特性評価(総合スコア)

(出所)森記念財団都市戦略研究所「日本の都市特性評価」をもとにニッセイ基礎研究所作成

  

[14] 「経済・ビジネス」「研究・開発」「文化・交流」「生活・居住」「環境」「交通・アクセス」の6つの分野に関して、各指標を設定してデータを収集したものを指数化してスコアを算出。東京23区を除く主要136都市が対象。

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
HPはこちら 三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(ご注意)本記事記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。
また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。

お問い合わせ・ご相談はこちら
トップ > コラム > 横浜不動産市場レポート(2024年3月時点)