ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム 大阪不動産市場レポート(2024年3月時点)

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目次

要旨

  • 大阪市は、「梅田地区」と「淀屋橋・本町地区」で大規模オフィス開発計画が進行中である。今年は新規供給量が約8.7万坪に達し、過去最大となる見込みである。
  • オフィスビルの成約賃料は、新規供給の増加等に伴う空室率の上昇に伴い、下落基調で推移すると予想する。2023年の賃料を100とした場合、2024年の賃料は「98」、2025年の賃料は「95」、2028年は「94」に下落すると予想する。ただし、2023年対比で▲6%下落するものの、2019年と同程度の賃料水準に留まり、大幅な賃料下落には至らない見込みである。
  • 大阪市では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は2020年を底に増加傾向で推移しているが、建築コストの高騰が下押し要因となり、大幅に増加する可能性は低いと見込む。一方、人口の転入超過数は回復していることから、需給環境が悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き堅調に推移することが予想される。
  • J-REITによる2023年(1~12月)の物件取得額(大阪府)は1,308億円(前年比+1%)となり前年と概ね同水準であった。アセットタイプ別では、都心部の大型オフィスビルや郊外部に所在する大規模物流施設の取得が複数確認された。
  • 大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、大阪においても不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、大阪市に所在する大規模オフィスビルの還元利回りを推計すると、2022年は3.4%となり前年比▲0.1%低下した。同様に、住宅のキャップレートは3.8%(前年比▲0.2%)、商業は3.6%(同±0.0%)、ホテルは4.5%(同±0.0%)、物流施設は4.0%(同▲0.2%)となった。
  • 大阪は、地方主要都市のなかで、都市の魅力度や市場規模の観点から投資エリアとしての優位性が高く、海外投資家の関心は高い。今後、2025年4月に大阪・関西万博が開催予定で、梅田駅や淀屋橋駅を中心に大規模開発が進行中である。投資家の期待がさらに高まる可能性があり、その動向を注視する必要があるだろう。

大阪のオフィス開発計画

三鬼商事によれば、大阪ビジネス地区(2023年12月時点)で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「梅田地区(34.5%)」で、次いで「淀屋橋・本町地区(30.9%)が多い(図表-1)。現在、両エリアでは大規模開発計画が進行中であり、オフィス市場における存在感がさらに高まる見通しである。以下では、「梅田地区」と「淀屋橋・本町地区」のオフィス開発計画を概観する。

図表-1 大阪ビジネス地区の地区別
オフィス面積構成比(2023年)

(出所)三鬼商事のデータを基にニッセイ基礎研究所作成

「梅田地区」

「梅田地区」では、北区梅田3丁目の「大阪中央郵便局」跡地で、日本郵便、JR西日本、大阪ターミナルビル、JTBおよび日本郵政不動産が「JPタワー大阪」(地上 39 階建て・延床面積約22.7万㎡)を開発中で、2024年7月に開業予定である[1](図表-2 ①)。このうち、オフィスは11階から27階の17フロアで、賃貸面積は約6.8万㎡、基準階面積は西日本最大級の約4千㎡となる予定である。

また、JR西日本は、JR大阪駅の混雑緩和等の観点から、新たな改札口を西側高架下に整備している。同時に、新改札口に隣接した地上 23 階建ての複合ビル「イノゲート大阪」(延床面積約6万㎡、オフィス賃貸面積約2.3万㎡)を開発中で、2024年秋に開業予定である[2](図表-2 ②)。

さらに、JR大阪駅前では、三菱地所を代表企業とする開発事業者JV9社が、うめきた2期地区開発プロジェクト「グラングリーン大阪」(地区面積約9.1ha)を開発中である(図表-2 ③)。北街区のホテル、商業施設および都市公園の一部が2024年9月に先行開業し、2027年頃までに全面開業する予定である。このうち、オフィスは、南街区で「パークタワー」(6~27階・貸室面積約9.3万㎡)と「ゲートタワー」(5~17階・約2万㎡)が2024年11月末に竣工予定である[3]

図表-2 「梅田地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

「淀屋橋・本町地区」

「淀屋橋・本町地区」では、ダイビルが中央区南久宝寺町4丁目のオフィスビル(旧「御堂筋ダイビル」)の建て替えを行い、「御堂筋ダイビル」(地上20階建て・延床面積約2.0万㎡)が2024年1月に竣工した[4](図表-3 ①)。また、NTT都市開発が中央区淡路町4丁目で「アーバンネット御堂筋ビル」(地上21階建て・延床面積約4.2万㎡[賃貸オフィス面積約2.3万㎡])を開発し、2024年2月に竣工した[5](図表-3 ②)。

その後も、複数の大規模開発が計画されている。中央日本土地建物と京阪ホールディングスは、淀屋橋駅東地区の「日土地淀屋橋ビル」と「京阪御堂筋ビル」を共同で、地上31階建ての複合ビル「(仮称)淀屋橋駅東プロジェクト」(延床面積約7.3万㎡)に建て替えを行い、2025年5月末に竣工予定である[6](図表-3 ③)。

また、淀屋橋駅西地区では、大和ハウス工業、住友商事、関電不動産開発が、3社が所有する敷地・建物を共同化し、地上29階建てのオフィス主体の複合ビル(延床面積約13.2万㎡)を開発中で、2025年12月に竣工予定である[7](図表-3 ④)。

図表-3 「淀屋橋・本町地区」における
オフィス開発計画

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成

[1] 日本経済新聞「梅田の中央郵便局跡地に「JPタワー大阪」 24年7月開業」2023/3/7
[2] 大阪ターミナルビル株式会社「イノゲート大阪HP」
[3]「グラングリーン大阪」HP
[4] ダイビル株式会社「「御堂筋ダイビル」竣工のお知らせ」(2024年1月31日)
[5] NTT都市開発株式会社「関西最高水準のウェルネスオフィス「アーバンネット御堂筋ビル」竣工~2024年6月中旬グランドオープン予定~」(2024年3月6日)
[6]「(仮称)淀屋橋駅東プロジェクト」HP
[7] 淀屋橋駅西地区市街地再開発組合(大和ハウス工業株式会社、住友商事株式会社、関電不動産開発株式会社)「御堂筋・玄関口の新たなランドマークとなるオフィスビルが誕生 「淀屋橋駅西地区第一種市街地再開発事業」着工」(2022年11月1日)

大阪の賃貸オフィス市場

空室率および賃料の動向

大阪市のオフィス空室率は、2020 年4月の緊急事態宣言の発令以降、上昇基調で推移していたが、2023年に入り改善に向かった。三幸エステートによると、2024年3月時点の空室率は4.0%(前年比▲0.5%)となった(図表-4)。空室率をビルの規模[8]別にみると、「大規模3.1%(前年比▲0.8%)」、「大型3.7%(同▲0.3%)」、「中型5.9%(同▲0.2%)」、「小型6.6%(同▲0.1%)」となり、すべての規模が前年から低下した(図表-5)。2023年は大規模ビルの新規供給が少ないなか、立地改善や建物設備のグレートアップ等を目的とした移転が増加し、空室の消化が進んだ。

図表-4 主要都市のオフィス空室率

(出所)三幸エステート

図表-5 大阪オフィスの規模別空室率

(出所)三幸エステート

空室率が回復した一方で、成約賃料には頭打ち感がみられる。2023年下期の大阪市の成約賃料は、前期比▲4.6%、前年比▲3.1%となった(図表-6)。

図表-6 主要都市のオフィス成約賃料
(東京都心5区除き)
(オフィスレント・インデックス)

(出所)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」を基にニッセイ基礎研究所が作成

2023年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、大阪市が低下、都心5区、名古屋市、札幌市が概ね横ばい、仙台市と福岡市は上昇した。また、成約賃料は、大阪市が下落、福岡市が概ね横ばい、その他都市は上昇となった(図表-7)。
賃料と空室率の関係を表した大阪市の賃料サイクル[9]は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いていたが、2020年下期から「空室率上昇・賃料上昇」局面へ移行し、現在は、次の「空室率上昇・賃料下落」局面に差し掛かりつつある(図表-8)。

図表-7 2023年の主要都市のオフィス市況
(前年比)

(出所)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

図表-8 大阪オフィス市場の
賃料サイクル

(出所)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

大阪オフィス市場の需要見通し

オフィスワーカーの見通し

2023年の大阪府の就業者数は467.1万人(前年比+1.9万人)となり、2年連続で増加した(図表-9・左図)。
就業者を産業別にみると、2019年を100 とした場合、オフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が138、「学術研究,専門・技術サービス業」が108、「金融業,保険業」が105 となり、コロナ禍以降、全体(102)を上回るペースで増加している(図表-9・右図)。

図表-9 大阪府の就業者数

就業者数(全体)

(出所)大阪府「大阪の就業状況」を基にニッセイ基礎研究所作成

産業別 就業者数(2019年=100)

(出所)大阪府「大阪の就業状況」を基にニッセイ基礎研究所作成

次に、大阪のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「近畿地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認する。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI[10]」(近畿地方)は、コロナ禍の影響により2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した後、一進一退を繰り返しながら回復し、2023年第4四半期は「+6.0」となった(図表-10)。
また、「非製造業の従業員数判断BSI[11]」(近畿地方)は、「+25.5」(2020年第1四半期)から「+2.7」(同第4四半期)へ大幅に低下した後、回復が続いている。2023 年第4四半期は+28.3 となり、コロナ禍前の水準を大きく上回った(図表-11)。
大阪府の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、大阪ビジネスエリアの「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。

図表-10 企業の景況判断BSI(非製造業)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-11 従業員数判断BSI(非製造業)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

在宅勤務の進展に伴うオフィスの見直し

パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によれば、大阪府のテレワーク実施率は、概ね2割から3割の範囲で推移しており、2023年7月調査では22%となった。(図表-12)。大阪市においても、「在宅勤務」を取り入れた働き方が一定程度定着している模様である。
大阪府商工労働部の調査によれば、「テレワーク等の取り組み度合い」に関して、卸売業やサービス業では、「導入初期と比べてテレワークやリモートワーク等は縮小」との回答は半数を占めたが、オフィスワーカーの割合が多い情報通信業では、「導入初期と比べてテレワークやリモートワーク等は拡大」との回答が約3分の2を占めた(図表-13)。

こうしたなか、オフィスの見直しに着手する企業は増えている。また、大阪府商工労働部の調査によれば、「既存の自社オフィスに関する取り組み」に関して、「レイアウトの変更(61%)」との回答が最も多く、次いで、「フリーアドレス等の導入・拡大(27%)」、「自社オフィスの縮小(19%)」との回答が上位であった(図表-14)。大阪でも、フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態に変更する企業が増えている模様だ。また、一部の企業は、賃貸面積の縮小や、自社オフィスからサードプレイスオフィス利用への変更[12]等を実施するとみられる。今後、大阪でもオフィスの見直しが更に進むことが予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。

図表-12 大阪府 テレワーク実施率

(出所)パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク
調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-13 テレワーク等の取り組み度合い

(出所)大阪府商工労働部「コロナ禍等を契機とする企業活動の変化について」をもとにニッセイ基礎研究所作成 

図表-14 既存の自社オフィスに関する
取り組み

(出所)大阪府商工労働部「コロナ禍等を契機とする企業活動の変化について」をもとにニッセイ基礎研究所作成 

大型イベント開催(大阪・関西万博)の経済波及効果への期待

2025 年4月から開催予定の大阪万博による経済効果への期待は大きく、ビジネス拡大の機会と捉える企業は多い。

大阪府・大阪市万博推進局が2023年12月に行ったアンケート調査によれば、「万博の内容について、興味や関心があるもの、実際に会場まで見に行きたいと思うもの」に関して、「空飛ぶクルマ・無人運行船・自動運転車などの次世代型モビリティ(34%)」との回答が最も多く、次いで、「海外参加国・国際機関のパビリオン(26%)」、「人と共存するロボットやアンドロイドなどの技術(21%)」、「民間企業のパビリオン(21%)」との回答が上位であった(図表-15)。万博には、最先端技術・知見の提供が期待されている。
また、大阪観光局によれば、2023年に大阪府を訪れた訪日外国人客の消費総額は、9,210億円となり過去最高水準を更新した[13]。万博に伴う国内外の観光客の増加による関西経済の活性化を期待する声も大きい[14]
アジア太平洋研究所の推計[15]によれば、万博の経済波及効果は、2022年推計の2兆5,276 億円から2兆7,457億円へと上方修正された(図表-16)。このうち、大阪府への波及効果は2兆621億円(2022年推計:1兆8,496 億円)と試算しており、オフィス需要に対してもプラスの効果が期待されている。

一方、大阪府・大阪市万博推進局の調査によれば、大阪・関西万博への来場意向は全体で33.8%(前年比▲7.4%)、大阪府内では36.9%(同▲9.5%)、府外では27.6%(同▲3.3%)となり、前年調査から低下した[16]
また、大阪シティ信用金庫「中小企業における大阪・関西万博に関する意識調査」(2023年7月)によれば、大阪・関西万博の大阪経済活性化への期待度に関して、「期待できる」との回答した企業は62.6%となり、前回(2022年7月)調査から▲10.0%減少した。同調査では、「長引く原材料価格の上昇や人手不足等により、工期に遅れが生じるなど先行きの不透明感から期待度が低下したもの」としている。

想定よりも、来場者が大幅に下回る、あるいは工期に遅れが生じる場合、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向を注視したい。

図表-15 万博の内容について、
興味や関心があるもの、
実際に会場まで見に行きたいと思うもの

(出所)大阪府・大阪市万博推進局「令和5年度大阪・関西万博機運醸成事業KPI把握のための調査・分析」をもとにニッセイ基礎研究所作成 

図表-16 大阪・関西万博の経済波及効果

(出所)アジア太平洋研究所「大阪・関西万博の経済波及効果 -最新データを踏まえた試算と拡張万博の経済効果-」をもとにニッセイ基礎研究所作成

大阪オフィス市場の供給見通し

2023年の新規供給量は約0.7万坪となり、大規模ビルの竣工が相次いだ2022年(約5.0万坪)の1割程度の水準に留まった。
しかし、2024年は「JPタワー大阪」や「イノゲート大阪」、「グラングリーン大阪」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は約8.7万坪に拡大し、過去最大となる見込みである。翌2025年も淀屋橋駅周辺等で大規模ビルが竣工する予定で、新規供給量は約2.7万坪となる見通しである(図表-17)。

図表-17 大阪のオフィスビル新規供給見通し

(出所)三幸エステート

大阪のオフィス賃料見通し

前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2028年までの大阪のオフィス賃料を予測した(図表-18)。

大阪府の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、大阪ビジネスエリアの「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと予想される。
一方、大阪でも、フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態に変更する企業が増えている。企業は、賃貸面積の縮小や、自社オフィスからサードプレイスオフィス利用への変更等を実施するとみられる。
また、万博の経済波及効果は2兆7,457億円と試算され、オフィス需要に対してもプラスの効果が期待されるが、想定よりも、来場者が大幅に下回る、あるいは工期に遅れが生じる場合、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向に注視が必要である。
一方、新規供給については梅田駅や淀屋橋駅を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2024年に過去最大の大量供給を控えるなか、今後、大阪の空室率は上昇すると予想する。

このため、大阪のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。2023年の賃料を100とした場合、2024年の賃料は「98」、2025年の賃料は「95」、2028年は「94」に下落すると予想する。ただし、2023年対比で▲6%下落するものの、2019年と同程度の賃料水準に留まり、大幅な賃料下落には至らない見込みである。

図表-18 大阪のオフィス賃料見通し

(注)年推計は各年下半期の推計値を掲載。
(出所)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などを基にニッセイ基礎研究所作成

[8] 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
[9] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
[10] 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。
[11] 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。[12] JLL日本によれば、大阪におけるフレキシブルオフィスの総賃貸面積(2023年)は、58,070㎡(対2019年末+40%)に増加。
[13] 日本経済新聞「大阪インバウンド消費最高に 23年、伝統文化体験で魅了」2024/1/23
[14] 関西生産性本部「第35回KPC 定期調査結果」
[15] アジア太平洋研究所「大阪・関西万博の経済波及効果 -最新データを踏まえた試算と拡張万博の経済効果-」
[16] 大阪府・大阪市万博推進局「令和5年度大阪・関西万博機運醸成事業KPI把握のための調査・分析」2024年1月

大阪の賃貸マンション市場

大阪市の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、大阪市の転入超過数(日本人)は、2021年(+9,252人)を底に回復している。2023年の転入超過数は+14,785人となり、2010年以降の平均値(約1.1万人)を大きく上回った(図表-19)。
転入超過数を区別にみると、「北区」と「中央区」と「西区」は、一貫して高水準のプラスを維持している。2023年は、「中央区」(+1,821人)が最も多く、次いで「浪速区」(+1,806人)、「福島区」(+1,480人)、「北区」(+1,379人)が多かった。特に、「浪速区」は2010年以降の最高値を更新した(図表-20)。

図表-19 主要都市の転入超過数(日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-20 大阪市 区別転入超過数
(2010年~2023年・日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

大阪市の建築コストの動向

次に、建築コストの動向を確認する。建設物価調査会「建築費指数」によれば、大阪の「集合住宅(RC 造)」の建築費は、長期的に上昇基調で推移している。2023年12月は「130.5」(前年比+6%)となり2015 年対比で+30%上昇した(図表-21)
国土交通省「建設労働需給調査」によれば、建設業の労働需給を示す「建設技能労働者過不足率」(近畿)は、概ねプラス(人手不足)で推移しており、2023年12月は「+0.5」となった(図表-22)。このように、常態化した人手不足を背景に建築コストの上昇が続いている。

図表-21 主要都市の「集合住宅(RC造)」
建築コスト(2015年=100)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-22 建設技能労働者過不足率(近畿)

(出所)国土交通省「建設労働需給調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
※8職種計

大阪市の住宅着工戸数の動向

続いて、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、大阪市の住宅着工戸数は、2020年を底に回復傾向で推移している。2023年は、前年比▲6%の約1.7万戸となり、2012年以降の平均値(約1.5万戸)を上回った(図表-23)。
規模別に住宅着工戸数をみると、大阪市では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が2012年以降、一貫して最も多く供給されており、全体の約7割を占めている。2023年は、シングルタイプ(~30㎡)が前年比▲27%、コンパクトタイプが同▲4%、ファミリータイプ(61㎡~)が同+31%増加した(図表-24)。
また、区別では、「浪速区」と「淀川区」と「中央区」の供給量が長期的に高水準となっている。2023年は、「淀川区」(約2.7千戸)に次いで「中央区」(約2.1千戸)、「浪速区」(約2.0千戸)が多かった。特に「淀川区」は、2012年以降の最高値を更新した(図表-25)。

図表-23 主要都市の住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-24 大阪市 規模別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-25 大阪市 区別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)[2012年~2023年]

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

大阪の賃貸マンション稼働率・賃料の動向

大阪市に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、2018年をピークに低下傾向で推移し、2021年には95.7%まで落ち込んだが、その後回復に転じ、2023年は97.0%となった(図表-26)。
また、大阪市のマンション賃料は堅調に推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第3四半期は前年比でシングルタイプが+1.3%、コンパクトタイプが+3.2%、ファミリータイプが+13.2%となった。(図表-26)。

図表-26 J-REIT物件の平均稼働率
(大阪市・住宅)

(出所)開示データを基にニッセイ基礎研究所が作成 
※各年下期の値

図表-27 大阪市のマンション賃料

(出所)三井住友トラスト基礎研究所・アットホーム「マンション賃料インデックス(総合・連鎖型)」を基にニッセイ基礎研究所作成

このように、大阪市では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は2020年を底に増加傾向で推移しているが、建築コストの高騰が下押し要因となり、大幅に増加する可能性は低いと見込む。一方、人口の転入超過数は回復していることから、需給環境が悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き堅調に推移することが予想される。

大阪の不動産投資市場

大阪の地価動向

大阪の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2023年第4四半期)」によると、西梅田(商業地)、福島(住宅地)ともに前年比「0~3%」の上昇となった(図表-28)。同レポートでは、「商業地では、オフィス等への投資意欲は依然として旺盛であり、取引利回りが低下傾向で推移し、地価が上昇している。住宅地でも、マンション賃料の上昇等に伴い、法人投資家等による賃貸マンションの取得意欲は旺盛であり、地価が上昇している」としている。

図表-28 大阪の地価動向
(地価LOOKレポートより)

西梅田(商業)

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区が位置する梅田エリアは、大阪駅、西梅田駅から徒歩圏内のオフィスビルが集積する高度商業地域であり、大規模な再開発等が計画されていることから、今後も商業集積度が一層増していくと期待されている。人流の回復により、店舗等の売上高は回復傾向が続いており、店舗賃料は安定的に推移して横ばい傾向が続いている。オフィス賃貸市場においては、令和6年以降に大阪市内において新規オフィスの大量供給が予定されているため、前期に続いて当期もオフィス賃料は緩やかな下落傾向で推移した。不動産投資市場においては、資金調達環境に大きな変化がないことから、当地区等のオフィスを対象とした投資意欲は依然として旺盛であり、前期同様に取引利回りの低下傾向が当期も続いている。以上のように、取引市場においては取引利回りの低下傾向が続いたことによって当期も取引価格の緩やかな上昇傾向が続いており、当地区の地価動向はやや上昇で推移した。

人流が回復するなかで店舗賃料は安定的に推移しているが、オフィス市場においては大量供給が予定されていることから、オフィス賃料の緩やかな下落傾向が今後も続くと懸念されている。しかし、当地区では将来的に商業集積度が増して賃貸オフィス市場においても優位性が更に高まることが期待されており、投資環境も大きな変化がなく、良好な状態が当面続くと見込まれることから当期の市況が当面継続し、将来の地価動向はやや上昇が続くと予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR大阪駅、大阪メトロ四つ橋線の西梅田駅の西側周辺。高層、超高層の事務所が建ち並び、周辺では再開発も盛んに行われている高度商業地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2023年4Q」

福島(住宅)

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区はJR福島駅から徒歩圏に位置し、同駅周辺には多数の飲食店等が分布しているとともに、大阪市中心部のオフィスエリアにも近接していることから、生活利便性が高い。また、当地区の東方に位置するうめきた2期区域では、JR東海道線支線地下化や令和13年度開業予定の「なにわ筋線」等のインフラ整備が進んでおり、公園・オフィス・商業施設・ホテル・高層マンション等の大規模複合開発が進捗している。直近では、令和5年3月にJR大阪駅(うめきたエリア)が開業したほか、令和6年夏頃には先行まちびらきが予定されている等、これらの開発効果が当地区に影響を与える状況は継続している。うめきた2期区域の進捗等を背景に、引き続きマンション需要は強い状況が続いており、マンション分譲価格は当期も上昇傾向で推移している。そのため、デベロッパー等によるマンション開発素地の取得意欲は強く、取引価格は引き続き上昇傾向にある。また、当地区のマンション賃料は上昇傾向にあり、法人投資家等による賃貸マンションの取得意欲も旺盛な状況にあることから、取引利回りは当期も低下傾向が続いている。以上より、当期の地価動向はやや上昇で推移した。

「うめきた2期地区開発プロジェクト」等の工事の進捗に伴い、当地区の利便性はより一層の向上が見込まれることから、マンション需要は強い状況が続くと予想される。また、マンション開発素地に対する取得意欲も強い状況が続くと見込まれることから、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR大阪環状線の福島駅からの徒歩圏。梅田地区までも徒歩移動可能な地域で、中高層事務所、マンションが建ち並ぶ住宅地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2023年4Q」

J-REITによる物件取得額(大阪)

J-REITによる2023年(1月~12月)の物件取得額(大阪府)は1,308億円(前年比+1%)となり、2022年の取得額(1,289億円)と概ね同水準であった(図表-29)。アセットタイプ別では、オフィス(35%)・物流施設(30%)・住宅(14%)・ホテル(14%)・商業施設(7%)となり、都心部の大型オフィスビルや郊外部に所在する大規模物流施設の取得が複数確認された。

図表-29 J-REITによる物件取得額(大阪)

(注)引渡しベース。ただし、新規上場以前の取得物件は上場日に取得したと想定
(出所)開示データをもとにニッセイ基礎研究所が作成

大阪のキャップレートの動向

大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、大阪市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2022年は3.4%となり前年比▲0.1%低下した(図表-30)。
同様に、住宅のキャップレートは3.8%(前年比▲0.2%)、商業は3.6%(同±0.0%)、ホテルは4.5%(同±0.0%)、物流施設は4.0%(同▲0.2%)となった。

図表-30 大阪のキャップレート推移

(出所)J-REITの開示データをもとに推計 
(注)オフィス:延床面積3万㎡以上、築年5年未満、最寄り駅から3分未満のオフィスビル
住宅:築年5年未満、最寄り駅から15分未満、シングルタイプの住宅
商業:築5年未満、延床面積3千㎡未満、長期契約でない商業専門店ビル
ホテル:最寄り駅より3分以内、築5年未満、延べ床6千㎡未満のビジネスホテル
物流施設想定物件:建築後5年未満で延べ床面積6万㎡以上の物流施設

ところで、森記念財団都市戦略研究所「日本の都市特性評価[17]」(2023年)によれば、東京23区を除く主要136都市において大阪市は総合スコアが3年連続で第1位となった(図表-31)。分野別にみると、「経済・ビジネス」と「交通アクセス」について特に評価が高い。
また、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の調査によれば、日本の「収益不動産(約289.5兆円)」の約1割が大阪府に集積しており、地方主要都市のなかで、市場規模の観点から投資エリアとしての優位性は高い。
こうした背景から、CBRE「日本投資家意識調査2022」によれば、海外投資家が選ぶアジア太平洋地域の魅力的な都市として大阪は第10位にランクインするなど、海外投資家の関心も高い。
前述の通り、2025年4月に大阪・関西万博が開催予定で、梅田駅や淀屋橋駅を中心に大規模開発が進行中である。投資家の期待がさらに高まる可能性があり、その動向を注視する必要があるだろう。

図表-31 日本の都市特性評価(総合スコア)

(出所)森記念財団都市戦略研究所「日本の都市特性評価」をもとにニッセイ基礎研究所作成

[17] 「経済・ビジネス」「研究・開発」「文化・交流」「生活・居住」「環境」「交通・アクセス」の6つの分野に関して、各指標を設定してデータを収集したものを指数化してスコアを算出。東京23区を除く主要136都市が対象。

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
HPはこちら 三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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