ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム 東京不動産市場レポート(2024年2月時点)

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目次

要旨

  • 東京都心部では、多くの大規模開発計画が進行中である。2024年は、Aクラスビルの新規供給が一旦落ち着くものの、2025年と2028年は20万坪程度の大量供給が予定されている。
  • Aクラスビルの新規供給面積は高水準で推移するものの、人手不足等を背景としたオフィス環境整備に支えられた需要も底堅く、空室率の上昇は限定的なものに留まると見込まれる。成約賃料についても、現時点(2023年第4四半期)と同水準となる2 万5千円台で推移すると予測する。
  • 東京23区では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は2019年を底に増加しているが、人口の転入超過数も回復していることから、需給環境が悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き堅調に推移することが予想される。
  • J-REITによる2023年(1~12月)の物件取得額(東京)は4,158億円となり、前年比+41%増加した。アセットタイプ別では、都心部に所在する大型オフィスビルの取得が複数確認された。
  • 大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、東京都心部に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2022年は2.8%となり前年比▲0.1%低下した。同様に、住宅のキャップレートは3.3%(前年比▲0.2%)、商業は3.2%(同±0.0%)、ホテルは3.9%(同±0.0%)、物流施設は3.4%(同▲0.2%)となった。
  • ニッセイ基礎研究所の「不動産市況アンケート」(2024年1月実施)において、「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「建築コスト」(68%)との回答が最も多く、次いで「国内金利」(59%)との回答が多かった。これまで不動産投資市場は堅調に推移してきたが、建築コストの高騰や金融政策の変更等に伴う金利上昇が、市場に及ぼす影響について、引き続き注視する必要がある。

東京都心部のオフィス開発計画

三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(2023年12月時点)で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区(32.2%)」で、次いで「千代田区(29.0%)」、「中央区(17.8%)」の順となっている(図表-1)。現在、これらのエリアでは大規模開発計画が進行中である。以下では、「港区」・「千代田区」・「中央区」のオフィス開発計画を概観する。

図表-1 東京ビジネス地区の区別
オフィス面積構成比(2023年12月)

(出所)三鬼商事のデータを基にニッセイ基礎研究所作成

「港区」の開発計画

「港区」では、2023年に大規模ビルの竣工が相次いだ。3月に三田3丁目で地上42階建ての「住友不動産東京三田ガーデンタワー」(延床面積約20万㎡)が竣工した(図表-2 ①)。また、6月に麻布台1丁目で、330mと日本一の高さとなる地上64階建ての「麻布台ヒルズ森JPタワー」(延床面積約46万㎡)が竣工し(図表-2 ②)、7月に虎ノ門1・2丁目で地上49階建ての「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」(延床面積約24万㎡)が竣工した(図表-2 ③)。

今後も、複数の大規模開発が計画されている。赤坂1・2丁目で、森トラストとNTT都市開発が地上 43階建ての「赤坂トラストタワー」(延床面積約22万㎡)を開発中で、2024年8月に竣工予定である[1](図表-2 ④)。また、芝浦1丁目の浜松町ビルディング跡地に、野村不動産と東日本旅客鉄道がオフィス2棟(S棟:地上43階建て・2025年2月竣工予定、N棟:地上45階建て・2030年度竣工予定)を開発中で(図表-2 ⑤)、延床面積は合計約55万㎡に達する計画となっている[2]

また、高輪2丁目では、JR東日本が「TAKANAWA GATEWAY CITY」を開発中で、複数のオフィスビルが竣工予定である[3](図表-2 ⑥)。2025年3月に「複合棟ⅠSouth(地上30階建て)」と「複合棟ⅠNorth(地上29階建て)」が竣工予定で、延床面積は約46万㎡に達する見通しである。その後も、2026年3月に地上31階建て「複合棟Ⅱ」(延床面積約21万㎡)が竣工予定である。

図表-2 「港区」におけるオフィス開発計画

虎ノ門地区

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成 

三田・高輪地区

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成 

「千代田区」の開発計画

「千代田区」では、内幸町1丁目のみずほ銀行内幸町本部ビル跡地で、第一生命保険、中央日本土地建物、東京センチュリー、東京電力パワーグリッド、TF内幸町特定目的会社が、地上46階建ての複合ビル(延床面積約29万㎡)を開発中で、2027年に竣工予定である[4](図表-3 ①)。

また、大手町2丁目では、三菱地所が地上62階建ての「Torch Tower(B棟)」(延床面積55万㎡)を開発中で、2028年3月に竣工予定である[5](図表-3 ②)。同ビルは、前述の「麻布台ヒルズ森JPタワー」を超えて日本一の高さ385mとなる計画である。

「中央区」の開発計画

「中央区」では、八重洲1丁目で東京建物が、地上51階建ての複合ビル(延床面積約23万㎡)を開発中で、2025年度に竣工予定である[6](図表-3 ③)。また、東京建物、東京ガス不動産、大成建設、明治安田生命保険は、「新呉服橋ビルディング」の跡地で地上44階建ての複合ビル(延床面積約19万㎡)を開発予定で、2028年度までに完成予定である[7](図表-3 ④)。

また、日本橋1丁目で、三井不動産と野村不動産が、MICE 施設を含む地上52階建ての複合ビル(延床面積約37万㎡)を開発中で、2026年度に竣工予定である[8](図表-3 ⑤)。

図表-3 「千代田区」・「中央区」における
オフィス開発計画

東京駅周辺

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成 

新橋・内幸町周辺

(出所)新聞・雑誌記事、各社公表資料を基にニッセイ基礎研究所作成 

[1] NTT都市開発HP:事業案内
[2]「SHIBAURA PROJECT」HP
[3]「TAKANAWA GATEWAY CITY」HP
[4] 第一生命保険株式会社・中央日本土地建物株式会社・東京センチュリー株式会社・東京電力パワーグリッド株式会社・東電不動産株式会社「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業 施行認可のお知らせ」(2022年8月10日)
[5] 三菱地所株式会社「「Torch Tower」新築工事着工」(2023年9月27日)
[6] 東京建物HP「東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業」
[7] 繊維新聞社「東京建物、八重洲1丁目北地区の再開発を本格化 水辺空間を活用した街づくり」(2023年9月20日)
[8] 三井不動産株式会社・野村不動産株式会社「「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」着工」(2021年12月7日)

東京都心部Aクラスビル市場

空室率および賃料の動向

三幸エステートによれば、東京都心部Aクラスビル[9]の空室率は、2020年第4四半期以降、上昇基調で推移している。2023年第4四半期は6.9%(前期比+0.2%)となり、2013年第3四半期以来となる7%台が間近に迫る。
また、Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス[10])は、需給バランスの緩和に伴い、下落基調で推移していたが、2023年第4四半期は25,240円(前期比+2.4%、前年同期比▲11.7%)と下げ止まり感がみられる。(図表-4)。

図表-4 都心部Aクラスビルの
空室率と成約賃料

(出所)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

Bクラスビル及びCクラスビルについては、空室率は改善し、成約賃料は底打ちから回復に向かいつつある。2023年第4四半期の空室率はBクラスビルで4.3%(前期比▲0.5%、前年同期比▲0.3%)、Cクラスビルで4.4%(前期比▲0.1%、前年同期比▲0.4%)となり(図表-5)、成約賃料はBクラスビルで18,918円(前期比+4.4%、前年同期比+5.3%)、Cクラスビルで17,202円(前期比+5.3%、前年同期比+6.2%)となった(図表-6、図表-7)。
賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル[11]」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続している(図表-8)。

図表-5 東京都心部の空室率

(出所)三幸エステート

図表-6 東京都心部の成約賃料

(出所)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

図表-7 東京都心部の成約賃料
(前年同期比)

(出所)三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

図表-8 東京都心部Aクラスビルの循環図

(出所)空室率:三幸エステート、賃料:三幸エステート・ニッセイ基礎研究所

また、三鬼商事によれば、エリア別の空室率(2023年12月時点)は、「千代田区3.2%」(前年比▲1.5%)、「新宿区5.1%」(同▲0.8%)、「中央区7.0%」(同▲1.0%)が低下した一方、「渋谷区4.3%」(同+0.7%)と「港区8.9%」(同+0.7%)は上昇した(図表-9左図)。コロナ禍以降、エリア間で空室率の格差が拡大傾向にある。
募集賃料は、「渋谷区(前年比+5.1%)」が上昇した一方、「中央区(同▲2.7%)」、「千代田区(同▲1.8%)」、「港区(同▲1,6%)」、「新宿区(同▲1.8%)」は下落した(図表-9右図)。

図表-9 東京ビジネス地区の
地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

<空室率>

(注)東京ビジネス地区(都心5区)の基準階面積100坪以上の主要賃貸事務所ビル
(出所)三鬼商事のデータを基にニッセイ基礎研究所作成

<募集賃料(2013.1=100)>

(注)東京ビジネス地区(都心5区)の基準階面積100坪以上の主要賃貸事務所ビル
(出所)三鬼商事のデータを基にニッセイ基礎研究所作成

東京都心部Aクラスビル市場の需要見通し

オフィスワーカー数の動向

総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は、2021年第3四半期から9期連続で前年同期比プラスとなり、2023年第3四半期は839万人(前年同期比+7.2万人)となった(図表-10・左図)。
就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が124、「学術研究,専門・技術サービス業」が115、「金融業,保険業」が111となり、全体(107)を上回るペースで増加している(図表-10・右図)。

図表-10 東京都の就業者数

就業者数(全体)

(出所)東京都「東京の労働力」をもとにニッセイ基礎研究所作成

産業別 就業者数

(出所)東京都「東京の労働力」をもとにニッセイ基礎研究所作成

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI」(全産業) は、2020年第2四半期に+4.6へ大きく低下した後、回復が続いている。2023年第4四半期は+24.5となり、コロナ禍前の水準(+20.3)を大きく上回り、過去最高値を更新した(図表-11)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2023年第4四半期は「製造業」が+14.0、「非製造業」が+29.3となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、過去最高値を更新し、人手不足感がより強いと言える。

図表-11 従業員数判断BSI(関東地方)

(出所)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

在宅勤務の状況

新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、2022年までは緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発令期間(2021年1~3月、4~6月、7~9月、2022年1~2月)は60%台、それ以外の期間は50%台で推移していた。2023年に入り、40%台で推移するなか2023年12月は46%となった。テレワーク(在宅勤務)実施率は、コロナウィルス感染拡大時と比べて低下したものの、一定の水準を維持している。(図表-12)。
公益財団法人日本生産性本部「テレワークに関する意識調査」(2023年8月時点)によれば、テレワークでの働き方に対する満足度合いについて、「満足」との回答はテレワーカー[12]では83%、管理職では78%を占めた。また、今後のテレワーク継続意向について、テレワーカーでは88%、管理職では85%を占め、在宅勤務を取り入れたワークスタイルを希望する就業者は多い。
また、ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023」によれば、「現在の働き方で感じている不満・課題」について、「通勤が苦痛に感じる(49.8%)」との回答が最も多く、次いで「テレワークでできる仕事でも出社を要求される(45.1%)」、「在宅勤務が禁止になった・制限されるようになった(20.3%)」が多かった(図表-13)。在宅勤務(テレワーク)がオフィスワーカーの職場への満足度に大きな影響を及ぼしている。
首都圏のオフィスワーカーを対象とした調査[13]によれば、「テレワークとオフィス出社を使い分けている」との回答が47%、「完全テレワーク」との回答が4%を占めた。「在宅勤務」を取り入れたハイブリッドな働き方が定着しつつあることがうかがえる。

こうしたなか、「在宅勤務」を取り入れた働き方に対応すべく、オフィス戦略を見直す動きは継続している(図表-14)。見直しの事例をみると、拠点集約等に伴い、借床面積を縮小する企業が多い一方で、借床面積を拡張する企業も確認することができる。

図表-12 都内企業のテレワーク実施率

(出所)東京都公表資料をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-13 現在の働き方で感じている
不満・課題

(出所)ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023 ②働き方の評価編」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-14 「在宅勤務」を取り入れた働き方に
対応するオフィス戦略の見直し事例

(出所)新聞・雑誌記事、各社リリース資料等をもとにニッセイ基礎研究所作成

また、在宅勤務が急速に普及し、働き方の多様化を進んだ結果、「サテライトオフィス[14]」を設置する企業が増加している。ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、大都市圏[15]における「サテライトオフィス」の導入率は、2017年秋の10.2%から2023年秋の30.9%へと約3倍に増加した。
「サテライトオフィス」を開設する場所として、「レンタルオフィス[16]」や「シェアオフィス[17]」、「コワーキングスペース[18]」等の「サードプレイスオフィス」を利用するケースが増えている。ニッセイ基礎研究所の調査[19]によれば、市区町村別にみた「サードプレイスオフィス」の拠点数は、「港区」(261拠点)が最も多く、次いで「千代田区」(210拠点)、「渋谷区」(179拠点)が多かった。「中央区」と「新宿区」も100拠点を超えており、東京都心5区合計で、全国の約4分の1(24%)を占めている。
在宅勤務を取り入れた働き方が定着するなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大が見込まれ、都心5区のオフィス需要を下支えすると考えられる。

フリーアドレスの導入状況

コロナ禍で「在宅勤務」が定着しオフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。森ビル「東京23区オフィスニーズに関する調査」(以下、「森ビル調査」)によると、「フリーアドレスの導入状況」に関して、「既に導入している」との回答は、19%(2019年)から42%(2023年)に増加した(図表-15)。
ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、オフィススペースの利用状況について、「固定席」との回答が95%(2019年春)から79%(2023年秋)に減少した一方、「フリーアドレス席」は、25%から44%に増加した(図表-16)。また、「オープンなミーティングスペース」との回答が58%、「リモート会議用ブース・個室」との回答は40%を占めた。コロナ禍以降、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されるなか、ミーティングスペース等を充実させる企業は多い[20]。フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態に変更する企業が増えている。

ただし、フリーアドレスを導入する効果として、「オフィススペースの有効活用」や「コミュニケーションの活性化」等が実感される一方で、「誰がどの座席にいるかわからない」や「座席が足りないときがある」等の課題も指摘されている[21]

今後も、企業がフリーアドレスの割合を高め、フレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態への変更を更に進めるのか、引き続き注視が必要である。

図表-15 フリーアドレスの導入状況

(出所)森ビル「東京23区オフィスニーズに関する調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-16  オフィススペースの利用状況

(出所)ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023秋」をもとにニッセイ基礎研究所作成

企業のオフィス環境整備の方針 

森ビル調査によると、「新規賃貸する理由」は、「立地の良いビル(33%)」との回答が第1位となり、次いで「設備グレードの高いビルに移りたい(27%)」と「賃料の安いビルに移りたい(27%)」が多かった(図表-17)。
コロナ禍前(2019年)と比較して、「立地の良いビル(28%⇒33%)」や「設備グレードの高いビルに移りたい(18%⇒27%)」、「耐震性能の優れたビル(18%⇒24%)」、「セキュリティーの優れたビル(15%⇒23%)」、「優秀な人材を確保するため(16%⇒22%)」との回答が増加している。前述の人手不足を背景に、人材確保や従業員満足度の向上などを目的として、立地改善や建物設備のグレートアップが進んでいる。
また、「賃料の安いビルに移りたい」との回答は、コロナ禍で大幅に増加した後、減少傾向で推移している(2019年19%⇒2020年37%⇒2023年27%)。コスト削減への意識は依然として高いものの、その優先度は低下している。
一方、「1フロア面積が大きいビルに移りたい」との回答は、コロナ禍で大幅に減少した後、増加(回復)に向かっている(2019年27%⇒2020年18%⇒2023年24%)。

図表-17 新規賃借する理由

(出所)森ビル「東京23区オフィスニーズに関する調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

コロナ禍以降、施設利用者の健康に配慮した対応が求められるなか、大企業を中心に、従業員の「Well-being」に配慮したワークプレイスの構築が進んでいる[22]。日本政策投資銀行・価値総合研究所「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査」(2023年)によれば、「オフィスビル選択基準のうちウェルビーイング対応に関する重要度」との質問において、「重要」との回答は、東京23区に所在する大企業で44%、中堅・中小企業で17%を占めた。
また、森ビル調査によれば、従業員300人以上の企業を対象に「本社オフィスの存在意義や、求められる機能・役割」を質問したところ、「従業員のエンゲージメント向上(67%)」との回答が最も多く、次いで「部門を超えた偶発的な出会いやコミュニケーション(64%)」、「活発な議論やアイデア創出(56%)」が多かった。
以上の状況を鑑みると、今後も、人手不足等を背景に、従業員間のコミュニケーション促進や「Well-being」に配慮し、従業員満足度およびエンゲージメントの向上を目指すオフィス環境の整備は続くと考えられる。引き続き、立地改善や建物設備のグレートアップを図る企業の増加が見込まれる。

Aクラスビルの新規供給見通し

三幸エステートの調査によれば、2023年は、港区虎ノ門地区で複数棟の大規模ビルが竣工し、新規供給は約19万坪に達した。2024年は約6万坪と、前年の3分の1程度の水準に留まるが、翌2025年は港区高輪地区等で大規模開発が予定されており、新規供給量は再び約19万坪に達する見通しである。2026年と2027年は一旦落ち着くが、2028年は、東京駅周辺などで複数棟の大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給は約23万坪に達する(図表-18)。
新規供給予定面積(2024年から2028年の合計)を区別にみると、「港区」が最も多く半数を占め、次いで「千代田区(18%)」、「中央区(14%)」が多い(図表-19左図)。供給時期別にみると、2024年と2025年は「港区」が7割を、2026年は「中央区」が3割強を、2027年と2028年は「千代田区」が4割を占め、時期により供給エリアに偏りがみられる(図表-19右図)。

図表-18 東京都心部Aクラスビル
新規供給見通し

(出所)三幸エステート

図表-19 東京都心部Aクラスビル
新規供給見通し(エリア内訳)

2024年~2028年の合計

(出所)三幸エステートのデータを基にニッセイ基礎研究所作成

2024年~2028年

(出所)三幸エステートのデータを基にニッセイ基礎研究所作成

Aクラスビルの空室率および成約賃料の見通し

東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、東京都心部の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。
一方、「在宅勤務」を取り入れた働き方に対応すべく、オフィス戦略を見直す動きは継続すると考えられる。拠点集約等に伴い借床面積を縮小する企業が多いが、業績拡大ともに貸床面積を拡張する企業の増加が想定される。在宅勤務の普及に伴い、働き方の多様化を進むなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大も見込まれる。
また、フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、ミーティングスペースを充実させる等、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態に変更する企業が増えている。
今後も、従業員間のコミュニケーション促進や「Well-being」に配慮し、従業員満足度およびエンゲージメントの向上を目指すオフィス環境の整備は続くことから、立地改善や建物設備のグレートアップを図る企業の増加が見込まれる。
以上の状況を踏まえると、都心5区のオフィス需要は底堅く推移すると考えられる。

こうしたなか、都心5 区では、多くの大規模開発が進行中である。2024 年は、新規供給が一旦落ち着くものの、2025年と2028年は20万坪程度の大量供給が予定されている。
以上を鑑みると、東京都心部A クラスビルの空室率は、2024 年にやや改善した後、6%台で推移することが予想される(図表-20)。また、成約賃料(2023年=100)は、2024 年に「101」、2025年に「99」、2028年に「102」となる見通しである(図表-21)。

Aクラスビルの新規供給面積は高水準で推移するものの、人手不足等を背景としたオフィス環境整備に支えられた需要も底堅く、空室率の上昇は限定的なものに留まると予測する。成約賃料についても、現時点(2023 年第4四半期)と同水準となる2 万5千円台で推移する見通しである。
一方、コロナ禍以降、エリア間で空室率の格差が生じている。今後5年間の新規供給面積の5割が港区に集中するなど、新規供給エリアに偏りがみられることから、エリア格差が拡大する可能性もあり、注視が必要である。

図表-20 東京都心部Aクラスビルの
空室率見通し

(注)年推計は各年第4四半期の推計値を掲載。
(出所)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などをもとにニッセイ基礎研究所が推計

図表-21 東京都心部Aクラスビルの
成約賃料見通し

(注)年推計は各年第4四半期の推計値を掲載。
(出所)実績値は三幸エステート・ニッセイ基礎研究所「オフィスレント・インデックス」
将来見通しは「オフィスレント・インデックス」などをもとにニッセイ基礎研究所が推計

[9] 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
[10] 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
[11] 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、①空室率低下・賃料上昇→②空室率上昇・賃料上昇→③空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
[12] 直近3ヵ月にテレワークを実施しており、管理職ではない就業者
[13] ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023 ①働き方の実態とニーズ編」
[14] 企業または団体の本社、本拠から離れた所に設置されたオフィス(支社や支店、営業所等)。
[15] 東京都、大阪府、愛知県、福岡県、神奈川県、埼玉県、千葉県
[16] 会議室などを共用部分に設置して共有し、専用の個室をそれぞれ持つ、いわば合同事務所のようなオフィス形態。
[17] フリーアドレスでデスクを共有して利用するオフィス形態。
[18] オープンなワークスペースを共用し、各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献しあう「ワーキング・コミュニティ」の概念およびそのスペース(コワーキング協同組合による定義)。
[19] 吉田資『わが国のサードプレイスオフィス市場の現況 -2023年-(1)~東京23区での集積が進む一方、主要政令指定都市以外の割合も4割に達する』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023 年11 月30日
[20] 森ビル調査でも「オープンなミーティングスペース」に関して、「既に導入している」との回答は、41%(2019年)から62%(2023年)へ大幅に増加。また、「Web会議用スペース」に関しても、40%(2020年)から54%(2023年)へ増加。
[21] oVice株式会社「フリーアドレスに関する実態調査」によれば、「フリーアドレス導入により効果があったと感じること」について、「オフィススペースの有効活用(39%)」との回答が最も多く、次いで「コミュニケーションの活性化(31%)」との回答は多かった。また、「フリーアドレスの課題」について、「誰がどの座席にいるか分からない(56%)」との回答が多く、次いで「座席が足りないときがある(51%)」との回答が多かった。
[22] イトーキ「ITOKI WORKPLACE DATA BOOK 2024」によれば、「ワークプレイス構築にあたり対応した課題」との質問に対し、「コミュニケーション強化(95%)」と「オフィス環境の最適化(95%)」との回答が最も多く、次いで「Well-beingへの取り組み(88%)」が多かった。

東京の賃貸マンション市場

東京23区の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京23区の転入超過数(日本人)は、2021年(▲7,983人)を底に回復している。2023年の転入超過数は+47,591人となり、2010年以降の平均値(約4.6万人)を上回った(図表-22)。
転入超過数を区別にみると、2023年は、すべての区でプラスとなり、「足立区」では2010年以降の最高値を更新した(図表-23)。

図表-22 主要都市の転入超過数(日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-23 東京23区 区別転入超過数
(2010年~2023年・日本人)

(出所)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」を基にニッセイ基礎研究所作成

東京23区の住宅着工戸数の動向

次に、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、東京23区の住宅着工戸数は、2019年を底に増加している。2023年は、前年比+3%の約5.2万戸となり、2012年以降の最高値を更新した(図表-24)。
規模別に住宅着工戸数をみると、東京23区では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が2012年以降、一貫して最も多く供給されており、全体の6割程度を占めている。2023年は、シングルタイプ(~30㎡)が前年比▲1%、コンパクトタイプが同▲6%、ファミリータイプ(61㎡~)が同+67%増加した(図表-25)。
また、区別では、「足立区」と「大田区」と「世田谷区」の供給量が長期的に高水準となっている。2023年は、「足立区」(約4.7千戸)に次いで「大田区」(約3.7千戸)、「世田谷区」(約3.6千戸)が多かった。また、「新宿区」と「江戸川区」は、2012年以降の最高値を更新した(図表-26)。

図表-24 主要都市の住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-25 東京23区 規模別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

図表-26 東京23区 区別住宅着工戸数
(貸家・共同住宅)[2012年~2023年]

(出所)国土交通省「建築着工統計調査」を基にニッセイ基礎研究所作成

東京の賃貸マンション稼働率・賃料の動向

東京23区に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、コロナ禍以降、低下傾向で推移したが、2022年はやや回復した。「都心5区」は96.2%、「東京住宅地5区」は95.9 %、「その他都区部」は97.2%となった(図表-27)。
また、東京23区のマンション賃料は、概ね堅調に推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第3四半期は前年比でシングルタイプが+4.3%、コンパクトタイプが+3.2%、ファミリータイプが+3.5%となった。(図表-28)。

図表-27 J-REIT物件の平均稼働率
(東京・住宅)

(出所)開示データを基にニッセイ基礎研究所が作成 
※各年下期の値
※東京住宅地5区:文京、品川、目黒、世田谷、太田

図表-28 東京23区のマンション賃料

(出所)三井住友トラスト基礎研究所・アットホーム「マンション賃料インデックス(総合・連鎖型)」を基にニッセイ基礎研究所作成

このように、東京23区では、住宅着工戸数(借家・共同住宅)は2019年を底に増加傾向にあるものの、人口の転入超過数も回復していることから、需給環境が悪化する懸念は小さく、マンション賃料は引き続き堅調に推移することが予想される。

東京の不動産投資市場

東京の地価動向

東京の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2023年第3四半期)」によると、銀座中央(商業地)は前年比「3~6%」、番町(住宅地)は前年比「0~3%」の上昇となった(図表-29)。同レポートでは、「商業地では、外国人観光客の増加等に伴い、飲食や物販テナントの出店意欲は回復傾向であることから、法人投資家の収益不動産への需要は強く、地価が上昇している。住宅地でも、マンション開発素地に対するデベロッパーの取得意欲は依然として強く、地価が上昇している」としている。

図表-29 東京の地価動向
(地価LOOKレポートより)

銀座中央(商業)

総合評価 3〜6%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区は日本を代表する商業地であり、当期においては、国内の富裕層等に加えて、台湾・韓国・香港等の東南アジアや欧米からの外国人観光客による消費が旺盛な状況で、特にラグジュアリーブランドや宝飾品、高級時計等の高額商品を扱う百貨店や商業施設の好調ぶりは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大以前の売上を凌ぐ勢いとなっている。賃貸市場では、飲食や物販テナントによる出店への引き合いが回復傾向で、空中階や規模が大きめの物件についても徐々に成約するケースが見られている。また、路面店については好条件の供給物件が限定されており、ラグジュアリーブランドを中心に出店需要が底堅いことから、店舗賃料は強含みで推移している。取引市場では、依然として売り物件の供給が少ない状況であるのに対し、買い手側による当地区への選好性や開発期待が非常に高く、当期は国内外の投資家等による利回り水準も低下傾向で推移したことから、当期の地価動向は上昇となった。

今後については、インバウンドによる更なる商況等の回復が期待されるほか、当地区の主要通り沿いで建替計画が進捗し、将来的に街並みの更新が進むことにより、中心部だけでなく外縁部にも広く好影響を及ぼすことが期待されている。また、物件供給が少ないなかで当地区の不動産に対する取得需要は強い状況が続いており、賃貸需要とともに、このような需給関係が当面継続すると見込まれることから、将来の地価動向は上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 銀座四丁目交差点周辺。東京メトロ銀座線の銀座駅に近接し、中央通り沿いを中心に専門店や飲食店、百貨店等の高層ビルが建ち並ぶ繁華性の極めて高い高度商業地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2023年3Q」

番町(住宅)

総合評価 0〜3%上昇(前期0〜3%上昇)
鑑定評価員コメント 当地区は東京都心部に位置し、住環境及び立地条件が優れた国内有数の高級住宅地域である。新築分譲マンションが高価格で竣工前に完売する等販売状況は依然として当期も好調であるほか、中古マンションも、ブランド力のある高級マンションを中心に国内外の富裕層からの購入需要は引き続き堅調である。このようなマンション市場を背景に、当地区のマンション分譲価格は、当期も引き続き高水準で推移している。また、当地区は自己使用目的のマンション需要が中心であり、法人投資家等が主導する投資用マンションの取引が少ないエリアである。賃貸マンションについては、供給が少ない一方で、特にファミリー層を中心に需要は旺盛であることから空室率は当期も低く、賃料も高水準を維持している。当地区の立地特性等からマンション開発素地の供給は限定的であり、デベロッパーによる需要は競合する状態が続いているため、取引利回りは概ね横ばいとなったものの依然として低水準であり、取引価格の緩やかな上昇傾向は続いていることから、当期の地価動向はやや上昇で推移した。

当地区は国内外の富裕層からの根強い住宅需要や周辺で見込まれる開発への期待感を背景に、デベロッパーによるマンション開発素地の需要は強い状態が続いている。また、マンション開発素地の供給は限定的で競合が続くと見込まれることから、将来の地価動向はやや上昇で推移すると予想される。
路線、最寄駅、地域の利用状況など地区の特徴 JR中央線の市ヶ谷駅、東京メトロ有楽町線の麹町駅等から徒歩圏。高層のマンションを主体としつつ、駅前商業地域の影響を受けて事務所、店舗等も混在する住宅地区。
詳細項目の動向
△:上昇・増加
□:横ばい
▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス
賃料
店舗賃料 マンション
分譲価格
マンション
賃料
詳細項目の動向
△:上昇・増加 □:横ばい ▽:下落・減少
取引価格 取引利回り オフィス賃料
店舗賃料 マンション分譲価格 マンション賃料
(出所)国土交通省「地価LOOKレポート2023年3Q」

J-REITによる物件取得額(東京都)

J-REITによる2023年(1月~12月)の物件取得額(東京都)は4,158億円(前年比+41%)となり、昨年の取得額(2,957億円)を上回った(図表-30)。アセットタイプ別では、オフィス(51%)・住宅(23%)・ホテル(13%)・商業施設(5%)・ヘルスケア(4%)・物流施設(2%)・底地(1%)となり、都心部に所在する大型オフィスビルの取得が複数確認された。

図表-30 J-REITによる物件取得額
(東京都)

(注)引渡しベース。ただし、新規上場以前の取得物件は上場日に取得したと想定
(出所)開示データをもとにニッセイ基礎研究所が作成

東京のキャップレートの動向

大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入するなか、不動産利回りが低下している。J-REITの開示データをもとに、東京都心部に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2022年は2.8%となり前年比▲0.1%低下した(図表-31)。
同様に、住宅のキャップレートは3.3%(前年比▲0.2%)、商業は3.2%(同±0.0%)、ホテルは3.9%(同±0.0%)、物流施設は3.4%(同▲0.2%)となった。

図表-31 東京のキャップレート推移

(出所)J-REITの開示データをもとに推計 
(注)オフィス:延床面積3万㎡以上、築年5年未満、最寄り駅から3分未満のオフィスビル
住宅:築年5年未満、最寄り駅から15分未満、シングルタイプの住宅
商業:築5年未満、延床面積3千㎡未満、長期契約でない商業専門店ビル
ホテル:最寄り駅より 3分以内、築5年未満、延べ床6千㎡未満のビジネスホテル
物流施設想定物件:建築後5年未満で延べ床面積6万㎡以上の物流施設

ところで、ニッセイ基礎研究所の「不動産市況アンケート」(2024年1月実施)において、「東京の不動産価格のピーク時期」について質問したところ、「2023年あるいは現時点(既に価格はピーク)」(35%)との回答が最も多く、次いで「2024年」(30%)、「2025年」(25%)との回答が多かった(図表-32)。
前回調査(2023年1月実施)では、2023年までにピークアウトするとの見方が約8割を占めていたが、今回は価格ピーク時期に対する見解がやや後ろ倒しの結果となった。
また、「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「建築コスト」(68%)との回答が最も多く、次いで「国内金利」(59%)との回答が多かった。
「建築コスト」に関して、資材価格の高騰や労務費の上昇などにより、建築費指数 は「事務所」で前年比+5%、「住宅」で前年比+6%と上昇が続いており、建築コストの上昇リスクが強く意識されている。
「国内金利」に関して、ニッセイ基礎研究所は、今年春にも長短金利操作(YCC)の撤廃とマイナス金利の解除が行われて金融政策の正常化が進むと予想している。今後、金融政策の変更等に伴う金利上昇が想定され、不動産投資市場への影響が懸念されている。

これまで不動産投資市場は堅調に推移してきたが、建築コストの高騰や金融政策の変更等に伴う金利上昇が、市場に及ぼす影響について、引き続き注視する必要がある。

図表-32 東京の不動産価格のピーク時期

(出所)ニッセイ基礎研究所「不動産市況アンケート」(調査時点;2023年1月および2024年1月)

寄稿者

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

吉田 資 よしだ たすく

ニッセイ基礎研究所
HPはこちら 三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など。一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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