• スペシャリストの智
  • The Watch
  • 不動産の税金ガイドブック
  • オフィスジャーナル
  • APPRAISAL NEWS
  • 空室率レポート

スペシャリストの智 CREカンファレンス・レポート クラウド化がもたらした加速する社会基盤。今の企業価値を考える。

パネルディスカッション 「顧客の時代」に対応するため新たな企業価値の創造が求められている

──本日のパネラー各位は、「スペシャリストの智」にもコメントされている各分野の専門家の方々です。基調講演で小出会長がキーワードとして挙げられていた「顧客の時代」。保科さんはどう認識されていますか。

保科
 かつては企業が豊富な情報量を元に一方的に情報を提供したり、ブランディングするという流れでした。しかし、インターネット、SNS、モバイルの発展で、顧客が企業よりも多くの情報をもつ「顧客の時代」が到来するようになりました。企業と消費者の立場が逆転しつつあるのです。ネットを通して顧客と企業がつながる一方、消費者の購買の大半がネットで行われる。顧客のニーズを先取りしてつかむことの重要性は増す一方です。
南黒沢
 顧客ニーズの多様化、産業のグローバル化から商品・サービスのライフサイクルが短期化し、それに合わせてビジネスサイクルも高速回転させていかなくてはならない時代になりました。そこに IoT(モノのインターネット)やビッグデータ解析、AI(人工知能)などのテクノロジーの進化が拍車をかけています。知性や知識だけに基づいて競争優位を維持することはかつてないほど難しくなっています。
 企業にとってはなかなか先が見えない時代ともいえます。3年以上の中期経営計画を作る企業は減り、短期の決算予想さえ開示しない企業も増えています。
 顧客の時代を見越したビジネスの変化はさまざまな業界で起こっていますが、その一つの例が駐車場ビジネスです。かつては1社が寡占する市場だったのですが、参入が相次いでいます。なかでも、全国の空いている月極駐車場や個人の駐車場と利用者のニーズをネットでマッチングさせるベンチャー企業に注目しています。2~3年後のこの業界がどうなっているか私たちさえ予測するのが難しいというのが実感です。

──顧客と企業の関係が変化するということは、企業と社会のかかわりも変化するということですね。

百嶋
 その通りです。顧客だけでなく従業員、取引先、株主、債権者、地域社会、行政など多様なステークホルダーからの共感を得て、志の高い社会的ミッションの実現に取り組む企業、つまり真のCSR(企業の社会的責任)経営を誠実に実践する企業こそが、顧客からの支持を得る時代になってきているのではないでしょうか。

──CRE(企業不動産)の分野でもこの間、企業体質の変化が見られるのでしょうか。

前田
 これからの時代に備えて、企業は体質を柔軟に保ち、変化対応力を高める必要がありますね。これはバブル崩壊やリーマンショックから得た教訓でもあります。最近はROE(株主資本利益率)やROA(総資産利益率)が重視されるようになりましたが、これらの数字を高めるためにも、企業不動産の価値の見直しが進んでいます。たとえば不動産を売却し、その資金を最新の設備投資に回し、生産効率を高める、あるいは、完全自社利用している支店ビルを一部外部に賃貸することで、総資産はそのままに、利益率を高めるなどCREの戦略的な活用が考えられます。昨今は、歴史のある企業であればあるほど、事業所設備が老朽化しているという現状が目立ちます。これをどうするかもCRE戦略の観点では今後の課題となるでしょう。
南黒沢
 2014年8月のいわゆる「伊藤レポート」では、上場企業はROE8%を目指すべきだということが指摘されました。これが企業評価の一つの指標になってきつつあります。しかし、ROEは当期純利益を純資産で算出される数字ですので、ROEで月次の計数管理は出来ない。多くの企業はROEを分解し、自社に即した計数管理を行っているのが実情です。
 また、借入を増加させ財務レバレッジを上げればROEはアップしますが、無尽蔵に借金を増やすわけにもいきません。そのため一定の財務レバレッジに達した後は、企業価値向上のためにROAを上げることに注力せざるをえないことになります。ROAは資本も負債も含めて集めた資金をどれだけ効率的に運用しているかを示す数字です。不要な不動産を売却し、使用効率を改善することもROA改善に資するはずです。
百嶋
 日本企業のROEは欧米企業に比べて低水準にとどまっていますが、その主因は売上マージンであるROS(売上高純利益率)の低さ、つまり「稼ぐ力」そのものの低さにあります。ROSを中長期的に高めるためには、小手先の固定費削減ではなく、設備投資、研究開発投資、M&Aなど攻めの経営戦略が欠かせません。戦略的投資の継続により稼ぐ力を取り戻しROAを高めれば、結果としてROEも向上するのです。
前田
 ROE向上の施策について、CREの観点でいえば、自社の不動産を可視化することがまず重要です。どこにどんな不動産があるのかは固定資産管理台帳を見ればわかるとは思いますが、それぞれが今後どんな価値をもち、どんな活用法があるのかまで徹底して把握している企業はそう多くはありません。不動産を所有すべきか、手放すべきか。たとえ所有したとしても、それを自社で使うか、あるいは賃貸に回すべきか、リースバックのような形で運用すべきなのか。そうした将来にわたる課題を可視化することが、合理的・効率的なCRE戦略の実行と事業判断の見通しを速くするのです。
 こうした企業不動産可視化のためにはITの活用も必要でしょう。当社では「CRE@M」という、クラウドで利用できる不動産管理システムを提供しています。
保科
 いま不動産について「持つ」、「持たない」の選択の時代が来ているというお話がありましたが、これはITでも同様です。例えば自社でハード・ソフト・システムを保有するオンプレミスで行くのか、それとも一切をクラウドに任せるのかといった問題です。私は、事業継続の基盤を支えるようなコアのシステムはオンプレミスでもよいと思いますが、スピードや柔軟性が求められる業務系のシステム、例えばCRM(顧客管理システム)などはクラウドに任せてもよいと考えます。
 こうした考え方の背景にあるのは、企業のシステム投資の重点が変わりつつあるという事実です。かつてシステム投資は、社内でやりとりされるデータを管理するSoR(Systems of Record)が中心でした。それは今でも必要ですが、最近はむしろ顧客との関係を強めるSoE(Systems of Engagement)へ重点がシフトしていきている。さらに今後はIoTを含むあらゆるデータを収集・活用するSoI(Systems of Insight)へと変わっていくだろうと思います。過去・現在の「見える化」の後に来るのが「先の見える化」。過去のデータを記録しておくこと以上に、次の打ち手や戦略を考える仕組みが必要なのです。そうした変化にスピーディーに対応するためにも、クラウドでシステムを運用するという選択が重要になります。

バックナンバー

  1. vol.14
    変革の時代に日本企業の強みを生かす
    CRE戦略を通した「稼ぐ力」の向上
    今後10年の企業ビジョンとCRE戦略の重要性
    (冨山 和彦氏)
  2. vol.13
    企業価値向上のカギを握る
    CREプロフェッショナルの社内育成
    社内外の専門家のネットワークを最大限に活用する
    (村木 信爾氏)
  3. vol.12
    企業価値を高める
    CRE戦略の一環としての
    ワークプレイス改革
    (齋藤 敦子氏)
  4. vol.11
    中堅中小企業が今取り組むべきCRE戦略とは
    不動産の棚卸しから、
    事業継続、相続・承継問題まで
    (平川 茂氏)
  5. vol.10
    リノベーションによる耐震、省エネ、環境保全で
    企業価値の向上
    求められる多様なニーズに対応した
    オフィスビルのリノベーション
    (河向 昭氏)
  6. vol.09
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス・レポート
    クラウド化がもたらした加速する社会基盤。
    今の企業価値を考える。
  7. vol.08
    企業価値向上のカギとなる
    クラウド導入で進めるシステム改革
    顧客のビジネス価値を高める企業姿勢
    (保科 実氏)
  8. vol.07
    クラウドを利用した動産管理と企業価値の向上
    「e-Leasing」と「CRE@M」が目指すもの
    (長谷川 善貴氏)
  9. vol.06
    環境保全しながら
    経済合理性のある土地活用を
    (西村 実氏)
  10. vol.05
    不動産を流動化させて経営の劇的な改善を
    バイアウト投資市場からみた企業のCRE戦略
    (南黒沢 晃氏)
  11. vol.04
    現在において考えるべき
    リスクマネジメントとCRE戦略
    (渡部 弘之氏)
  12. vol.03
    企業の成長に欠かせないM&A戦略。
    CRE(企業不動産)の位置づけが重要に
    (大山 敬義氏)
  13. vol.02
    未来に向けたCRE戦略
    外部の専門企業との連携が鍵に
    (百嶋 徹氏)
  14. vol.01
    不動産市況が好転した今年こそ
    CRE戦略再スタートの元年に
    (土岐 好隆氏)