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事業会社と外部ベンダーのパートナーシップの形態

 事業会社と外部ベンダーのパートナーシップ関係には強弱の程度があり、企業のCRE戦略に応じて関係の強弱を変えていけばよいだろう。
 パートナーシップが比較的緩やかな場合は、通常の業務委託ベースとなる(図表)。CRE業務の一部分を外部委託するため、その業務に適した外部ベンダーを見極める目利き力が企業になくてはならない。一部分の業務委託であってもCRE戦略全体に影響を及ぼすため、ベンダーマネジメントをしっかりと行い、経営戦略の全体最適化に資するCREサービスの提供を誘導する必要があるだろう。
 一方、パートナーシップ関係が最も強いケースとしては、資本を含めた業務提携を行い、一括で業務委託する方式が考えられる(図表)。ファシリティマネジメント(FM)業務や不動産事業を担う子会社を外部ベンダーとのジョイントベンチャー(JV)に改め、外部ベンダーから過半の出資を仰ぐやり方だ。企業は外部ベンダーに任せきりにするのではなく、パートナーシップにコミットしていく証しとして、マイナー出資を維持することが望ましい。一方、外部ベンダーはリスクを取りつつ、顧客のより深いニーズを把握するチャンスとなろう。このような手法は、IT業務や物流業務において我が国でも多く見られるが、不動産業務では旧三洋電機(現パナソニック)や東芝の事例にとどまっている(注3)。CRE戦略が進化すればするほど、このような事例は今後増える可能性があろう。
 企業のCRE管理業務のバリューチェーンには、不動産仲介会社、ディベロッパー、不動産鑑定・コンサルティング会社、設計会社、プロジェクトマネジメント会社、ゼネコン、設備機器ベンダー、オフィス家具ベンダー、ユーティリティ企業、ビルメンテナンス会社、ITベンダー、監査法人・税理士法人、金融機関など多種多様なプレーヤーが関わっている。このバリューチェーンの中で比較的幅広い事業領域をカバーできる大手ディベロッパーは、CRE戦略支援ビジネスを独自に展開しているケースが多い。ただし、大手ディベロッパーといえども、全領域をカバーすることは難しく、自社で不足している領域については、当該領域を得意とするプレーヤーと戦略提携し補っていくことも必要だろう。例えば、日本企業の海外展開を支援する場合、圧倒的な海外ネットワークを有する海外の大手不動産サービスベンダーと連携することも、戦略オプションの一つと考えられる。
 将来的には、前述のバリューチェーンに関わる多様なプレーヤーが各々の利害を超えてノウハウを結集し、海外の大手サービスベンダーに伍していけるような本格的な総合不動産サービスベンダーを共同出資により設立することも、一考に値するのではないだろうか。

図表 企業と不動産サービスベンダーのパートナーシップの形態

CREの専門人材育成の重要性

 外部ベンダーを効果的に活用するには、自社以外の技術・知見も積極的に取り入れる「オープンイノベーション」の視点が重要になる(注6)。CRE戦略には、不動産や建築分野にとどまらず、経営戦略、コーポレートファイナンス、会計、税務、HRM、ITなどを含む高度な横断的専門知識が求められるからだ。企業は、CRE戦略に関わる幅広い知見を社内だけですべてカバーすることは難しく、外部ベンダーのノウハウを積極的に取り入れていくオープンな姿勢が必要である。オープンイノベーションの視点で見れば、外部ベンダーを単なる外注先や下請けと考えてはいけない。互いのコアスキルを持ち寄ることでシナジーを生む、戦略的パートナーとして活用することが大切である。
 外部ベンダーをうまく使いこなせるかは、最終的には企業側の専門人材の能力にかかってくる部分が大きい。社内顧客と外部ベンダーをつなぐコーディネート能力や、外部ベンダーをコントロールするマネジメント能力を磨いていかなくてはならない。
 CREの専門人材育成の方法としては、外部ベンダーとの人事交流などを行ってもよいだろう。企業の戦略意図と日々のファシリティ管理など現場の実務知見をお互いが共有することで、よりよいCRE戦略の実現につながっていくことが期待される。
 また、CRE専門部署の設置は、人材育成面にも好影響を与える点に着目すべきだ。総務部門の中の管財業務ではなく、財務・経営に直結したCREの専門部署を立ち上げることは、CRE専門人材の職能評価につながり、その人自身のキャリアに価値がつき、モチベーションアップにつながるためだ。さらに、専門人材の職能評価が定着すれば、専門人材の流動化を促し、優秀な人材がヘッドハンティングにより企業間を移動することで、先進的なCRE戦略の考え方・実践が産業界に普及することにつながるだろう。
 既に米国など海外では、このような状況にあるとみられる。すなわち、CRE専門人材の転職市場が形成され、事業会社(ユーザー企業)と外部ベンダー間にとどまらず、事業会社間の人材移動も頻繁に起こっている。例えば、大手ITメーカーのCRE部門のトップがヘッドハンティングにより、別の大手ITメーカーのCRE部門のトップに就くといったことが起こっている。我が国でも外資企業間では、そのようなCRE専門人材の移動が起こっている。
 我が国の産業界においても、外部ベンダーとのパートナーシップやCRE専門部署の設置を契機に、専門人材の人事交流や流動化が進展すれば、CRE戦略のさらなる発展・進化が望めるはずだ。

(注3)旧三洋電機は06年にFM子会社からの営業譲渡により、ジョーンズ ラング ラサール ファシリティーズを設立し、JLL側が90%の株式を取得した(旧三洋電機は10%出資)。東芝は08年に不動産子会社である東芝不動産の株式の65%を野村不動産ホールディングス(野村不動産HD)に798億円で譲渡した(その後、東芝は2015年にNREG東芝不動産(旧東芝不動産)の株式30%も野村不動産HD に370億円で売却し、持株比率は野村不動産HD 95%、東芝5%となった)。

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