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シェアードサービス型戦略としてのCRE戦略の役割

 シェアードサービス型戦略としてのCRE戦略の役割は3つある。1つは日々の事業活動における不動産のニーズや問題点に対するソリューションの提示である。
 2つ目は、中期的な経営戦略の遂行をサポートするための不動産マネジメントの立案・実行であり、これを筆者は「マネジメント・レイヤーのCRE戦略」と呼んでいる。中期経営計画において経営トップが掲げるコミットメント事項をCRE戦略に翻訳し、CREの実行戦略に落とし込むことが重要となる。経営層の意思決定に資するマネジメント・レイヤーのCRE戦略を構築することこそが、CRE戦略のコア機能であり、最も重要な業務だ。この戦略構築のための意思決定は外部委託できるものではなく、社内のCRE 部門が行うべき業務である。
 経営のコミットメントの中には、一見するとCRE戦略と関係が薄いように思われるものもあるだろうが、CRE部門ではすぐに「関係ない」と判断するのではなく、経営のコミットメントとCREの関係性を徹底的に考え抜き、マネジメント・レイヤーのCRE戦略を導き出す努力を怠らないことが何よりも重要だ。
 社内のCRE部門にとって、さらにもう1つ重要な業務は、外部の不動産サービスベンダーとのインターフェースを担って、社内の事業部門のニーズと外部ベンダーのサービスをつなぐ「リエゾン(橋渡し)機能」を果たすことだ(図1)。不動産サービスベンダーを使いこなす「ベンダーマネジメント機能」と言い換えることもできる。CRE戦略には不動産や建築分野にとどまらず、経営戦略、コーポレートファイナンス、会計、税務、IT、HRMなどを含む高度な横断的専門知識が必要になるため、戦略的パートナーたりうる外部の専門機関の力を借りつつ、それらをコーディネートして、より高度なCREソリューションを社内顧客に提供していくことが求められる。

社内CRMとベンダーマネジメントの重要性

 社内のCRE部門がリエゾン機能を十分に果たすためには、経営層、事業部門、従業員など不動産サービスの「社内顧客」から、不動産に関わる問題意識やニーズを的確に吸い上げることが不可欠だ。外部の不動産サービスベンダーが素晴らしいサービスメニューを持っていたとしても、CRE部門が社内の不動産ニーズを十分に把握し、そのニーズに対応するために社内に不足している知見・サービスを明確に特定した上で、外部ベンダーにサービス内容を発注しなければ、よりよいCREソリューションをコーディネートすることはできないためである。
 その意味で、社内顧客の不動産ニーズを十分に把握し、社内の顧客満足度(CS:Customer satisfaction)の向上につなげるための社内顧客との関係構築、言わば「社内CRM(Customer Relationship Management)」が極めて重要となる。社内CRM機能とベンダーマネジメント機能は、社内のCRE部門が果たすべきリエゾン機能の「クルマの両輪」を成すと考えられる(図2)。
 このクルマの両輪がうまくかみ合うためには、社内CRMでは社内顧客とCRE部門、ベンダーマネジメントでは外部ベンダーとCRE部門の間の信頼関係・人的ネットワークが十分に醸成されていることが必要だ。各々の信頼関係・人的ネットワークが十分に醸成されるためには、社内CRMでは社内顧客とCRE部門の間のインフォーマルなコミュニケーション、ベンダーマネジメントでは外部ベンダーとCRE部門の間の戦略的パートナーシップの各々構築・深化が重要となるだろう。
 インテルのFM部門では、2007年頃から、これまでのコスト・効率重視から転換し、FMサービスの品質や顧客満足度とのバランスをとることが強調され始め、この流れはその後加速し、現在はホスピタリティビジネスの一流企業とのベンチマークや、顧客サービスに特化したリーダーシップ研修なども行われている(注4)。そして究極の目標は、顧客である社員への「WOW」体験の提供であるという。WOWというのは、特に良い意味で驚いた時に欧米人が発する感嘆の言葉であり、そのような驚きや喜びをファシリティやオフィス・サービスの提供によってもたらすことを目指しているという。最終的には、それにより社員のモチベーションを上げ、イノベーションを促進して持続的な成功を収めていくことが目的だ。
 また、日々のサービスを提供する上で一番多く社員と接点を持っているのは、FM業務を委託しているサプライヤーであるため、「WOW」体験の提供にはサプライヤーとの関係も重要であると考えられている。サプライヤーに対して、対等なパートナーシップを維持するために努力と注意が払われ、「WOW」体験を提供することの意義への理解・実践をサプライヤー側にも求めているという。
 このようにインテルのFM部門は、信頼関係・人的ネットワークを重視した社内CRMとベンダーマネジメントを構築・実践する先進事例である。

(注4)インテルに関わる以下の記述は、大森崇史(インテル株式会社)「サービスは、そしてFMは世界を変えられる」『JFMA JOURNAL』2013 SUMMER №171に拠っている。

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