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新たな課題が浮上、いま考えたい「企業のBCP」

2019.04.04

東日本大震災を契機に、日本でも認知・導入されるようになった「BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)」。自然災害や大火災、テロといった緊急事態に備え、資産の被害を最小限に抑え、中核事業の継続・早期復旧を実現するため、平常時に行うべき準備や活動、緊急時の対応を取り決めておくことを指し、多くの自治体、医療機関といった公的組織はもちろん、企業も策定するようになった。
従来のBCP対策といえば、自然災害に対する操業インフラの防備、リカバリー対策が主眼であったが、災害用備蓄品の保存切れによる廃棄・入れ替え、といった策定しているが故に生じる新たな課題や、サイバー攻撃・個人情報流出といったITカテゴリーでの事故やいわゆるバイトテロまで、その対策が広範囲に及んでいる。
ここでは、BCPで新たに求められる企業の課題について考えてみたい。

(写真=Word writing text Business Continuity Plan. Business concept for creating systems prevention deal potential threats Clothespin holding turquoise paper note several clothespins wooden floor./Shutterstock.com)

事業の規模縮小や廃業を防ぐため、企業のBCP対策は必要不可欠

中小企業庁の「中小企業BCP策定運用方針」では、「優先して継続・復旧すべき中核事業を特定」「緊急時における中核事業の目標復旧時間」「緊急時に提供できるサービスレベルをあらかじめ顧客と協議」「事業拠点や生産設備、仕入品調達等の代替案の用意」「全従業員と事業継続について事前のコミュニケーション」を、BCPのポイントとして挙げている。策定することで得られるメリットと、策定しないことで生じるデメリットは以下が想定される。

【メリット】
・緊急時の事業継続・早期復旧への対応
・重要、優先すべき事業の把握
・株主、取引先に対する信頼度向上

【デメリット】
・従業員に対する安全配慮義務違反リスク
・取引先に対する債務不履行リスク

策定自体は法律で定められておらず、努力義務に過ぎない。しかしながら、大規模災害などが発生して企業活動が滞ると、その影響は各企業だけではなく地域の雇用・経済、さらには取引関係を通じて他の地域にも及んでしまう。このため、BCPの策定や平時における経営戦略となる「BCM(事業継続マネジメント)」の普及は極めて重要であり、2014年6月に閣議決定された「国土強靭化基本計画」では、企業連携型のBCP/BCMの構築促進等が盛り込まれた。

さらに、この時に国土強靭化推進本部が決定した「国土強靭化アクションプラン2014」では、サプライチェーンを確保するために企業連携型BCPの策定を求めていて、2020年までの目標として、大企業のほぼ100%、中堅企業は50%の策定割合の指標が定められている。

こういったこともあってか、内閣府による「平成29年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によると、アンケートに答えた1985社(大企業724社、中堅企業582社、その他企業679社)のうち、大企業の6割強、中堅企業の3割強がBCPを策定済であり、策定中を含めると大企業は8割強、中堅企業は5割弱が取り組んでいることがわかった。業種別でみると、金融・保険業、電気・ガス・熱供給業・水道事業、情報通信業の策定率が高く、「従業員の安全確保」「災害対応チームの創設」「水、食料等の備蓄」「非常用電源・通信設備等の準備」「サプライチェーン維持のための方策」「二次災害防止対策」などの項目が盛り込まれている。

迫る災害用備蓄品の期限切れ 社会貢献に役立てる動きに注目

BCPに取り組む中で、新たな課題も浮き彫りになってきた。そのひとつが、対策の長期化による水や食料といった災害用備蓄品の期限切れに伴う廃棄だ。「もったいない」の意識が広がる中、社会的姿勢をも問われるし、処分コストもかかってしまう。行政などでは防災訓練などで活用するなど廃棄物にならないよう配慮を求めているケースもあるが、期限切れが近付くと納入業者が新たな備蓄品と入れ替え、古くなったものは産業廃棄物処理業者に費用を支払い処分しているケースも多い。

こういった中、注目されているのが、NPOや公的機関によるフードバンクの活動だ。例えば、一般社団法人防災安全協会では、日本赤十字社や農林水産省フードバンクなどを通じて自治体や企業から保存期限内の備蓄品を無償で引き取り、平時は貧困家庭や福祉施設などに、また災害時には被災地へと供給する「備蓄品循環資源プロジェクト」を2016年に立ち上げている。こういった活動に参加することで企業は期限の迫った備蓄品を社会に役立てることができ、CSRのひとつとしても効果的だろう。米国では早くも1967年に世界初のフードバンクを始めており、寄付すると税制が優遇されるばかりか、意図しない不慮の事故が起きた場合でも寄付した側の責任は問われないという仕組みが構築されている。日本でも行政によるバックアップがあると、より速やかに浸透していくのではないだろうか。

サイバー攻撃や個人情報流出、従業員の悪質行為への対策も急務

一方、昨今の企業のBCPでは、大規模自然災害に加えて、ITの障害発生に備えることも重要度が増している。とりわけ、近年はサイバー攻撃によるウェブサイトの改ざん、ウェブサービス機能の低下・停止、ウイルス感染、ID・パスワードの流出といった被害が散見されていて、事業継続にも害を及ぼしている。また、個人情報が流出してしまうと企業の社会的信用は失墜してしまう。いまやインターネットを使っていない企業はほぼなく、こういった点に対する堅固なBCP策定は必要不可欠だろう。セキュリティ対策はもちろん、OSやソフトウェアのアップデート、データ保管などの共有範囲の設定、パスワードの強化、最新の攻撃・脅威に対する情報収集と対策についても押さえておくべきポイントである。

また、近年は飲食店などの従業員やアルバイトによる不適切動画の投稿など、不用意なSNS利用が企業イメージを深く傷つけたり、中小零細規模の事業者であれば廃業に追い込まれるケースも発生しており、このような悪質行為への対策についても求められており、操業エリアへのスマホ・タブレットの持ち込み禁止、勤務中の動画撮影および投稿禁止を文書で誓約させるといった対策を講じる企業もあるようだ。

BCPが企業の間で定着したからこそ、自然災害だけではなくサイバー攻撃や悪質行為等にカバー範囲を広げていくことは今後の重要課題となるだろう。また、備蓄品はフードバンク等に寄付して大規模食品ロスを低減することによって、循環型社会の実現にも貢献できる。こういった視点を含め、今後のBCPに取り組んでみてはいかがだろうか。