自社ビルか賃貸か、企業の動向とそれぞれのメリット・デメリットとは

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立派な自社ビルを一等地に置いていると、その企業の信頼度は高くなるため、大手企業、なかでも特に老舗企業では丸の内や銀座に自社ビルを保有しているケースが多いという印象がある。一方、近年のIT関連を中心とした成長企業は、渋谷や六本木の大規模なスペックの高い賃貸ビルに本社を置くケースが多い印象を受ける。
文字通り、「自社ビル」は建物を企業自らが所有し、「賃貸ビル」はビルオーナーから賃借するわけだが、それぞれの企業経営戦略上のメリット・デメリットについて考えたい。

上場企業の本社の3/4が賃貸ビルに入居

事業用不動産サービス企業CBREが2013年に発表した調査によると、東京本社の上場企業1,720社のうち、本社が自社ビルの比率は1/4、賃貸ビルの比率は3/4だという。業種ごとの特徴を見ていくと、自社ビルの割合が高い業種は「1位:食料品、2位:機械・電気製造、3位:建設」、逆に賃貸ビルの割合が高いのは「1位:情報通信、2位:サービス、3位:金融」となっている。

一概にはいえないが、製造・ものづくりを手がける第二次産業の業種は自社ビルを持ち、情報通信・サービスといった第三次産業の業種は賃貸ビルに入居するケースが目立つ。

これは情報通信・サービス産業の市場の拡大により企業規模が成長過程である場合、賃貸面積を増やすことで人員増などに柔軟に対応できるようにしているからということがある。また、近年は製造業でさえ工場を持たないファブレス企業がビジネスモデルの主流となっているため、「持たざる経営」を目指す企業への意識の変化などが考えられるが、これはBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)の観点からも見逃すことができない。

BCPの観点から見ると災害時は賃貸ビルにメリットあり

賃貸であることは毎月の家賃の発生とそれが増額するリスクはある。そのリスクを措いても賃貸を選好する企業の意識変化の要因として、東日本大震災以降、企業のBCP意識が向上し、ビルの耐震性はもちろん、災害時における非常用電源の確保や備蓄品など非常時における事業継続可能な環境が重要視されるようになったことが大きい。

企業のオフィス移転理由について、東日本大震災前後で比較した調査によると、震災前はほぼ理由にあがっていなかった「耐震性不安」が震災後には大幅に増えている。 自社ビルの場合、いつ発生するかわからない災害に多くのコストをかけて日常的に備えておくことは大きな負担ともなるため、コスト面を考えるとBCP対応の賃貸ビルへ入居するほうが、享受できるメリットは大きいといえる。

そして、このようなBCPに対する意識が低い企業は、企業間の取引におけるコストをはじめとする管理面や成長性に関して、決して良い評価は得られないとも考えられる。

自社ビルを持つメリットは、企業のオフィス計画の自由度の高さとブランディングの向上

自社ビルを保有することは、初期投資費用を含めたイニシャルコストが嵩むのはもちろんだが、その後の維持管理・設備投資にかかるランニングコストも長期にわたり経費を圧迫する項目となる。そして、環境対策やBCPなど、従来では重要度が低かったコストが時代とともに増大する可能性があり、その観点に立てば賃貸のほうが経済的なメリットが多いのかもしれない。

しかし、それでも一定数の企業が自社ビルにこだわるのは、その存在に対して、やはり対外的な信頼度が高まり、企業の評価向上やブランディングにも貢献するためだろう。

たとえば、車がどんなに進化しても実物を見たいというニーズがあれば、企業はインターネットだけでなくショールームで実物を見て触ってもらうことで、商品やサービスを理解してもらう必要があり、それにはやはり自由に間取りを変え運営をできる、自社ビルが高い機能を有している。

また、社員のため、社内託児所やレストランやカフェなどの福利厚生施設を必要に応じてつくることができるのは自社ビルならではのメリットである。このような設備があることによる従業員の帰属意識の高まりはもちろん、人手不足の今日においては貴重な人材の確保がスムーズになるという点で企業への貢献は大きいと考えられる。

従業員の働き方と企業の在り方

賃貸ビルか自社ビルかのいずれかを選択しても一長一短があり、企業によって重視する点も異なる。企業価値を最大化させるための不動産戦略としてCRE(企業不動産)戦略が研究されているが、大切なのはコスト面のみならず、企業を取り巻く消費者(ユーザー)や従業員などのステークホルダーの考えを尊重することだろう。

従業員の働き方に関しては、近年では正社員であっても副業を認め、社内創業を支援している会社が増えている。また、大企業を中心としてテレワークを導入する企業も多く、IT化により働くこと自体は、もはやいつでもどこでもできる時代となった。それでも働く場所を設けて、そこに人々が集まるのは、人同士の出会いや交流が新しいビジネスを生み出すチャンスがあるからに他ならない。

このようにオフィスは経済的なメリットとデメリットのバランスで賃貸か所有かを選ぶ時代から、企業の在り方やまた働く人をどう導くかなどの総合的な企業経営戦略を考えて決定していく時代になったといえるのではないか。

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