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世界で急拡大する「ESG投資」 日本のオフィスビルに与える影響とは

2018.04.06

2017年6月、アメリカのトランプ大統領がパリ協定からの離脱を宣言したのは記憶に新しいが、国内外の多くの政治家のみならず、グーグル、アップル、エクソンモービルなど、多くのアメリカの世界的企業は協定への残留を望んだ。

そのうちの一つ、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、ツイッターへの投稿で、パリ協定離脱は間違った決定であると指摘し、自社のスタンスとしては「気候変動との闘いにコミットしており、決して揺らぐことはない」と、政府にとらわれない行動規範を世界中に発表している。

このような気候変動以外にも水やエネルギー問題、人権や教育の格差、地方と都市間格差など、世界はさまざまな社会問題を抱えている。これらを解決し、持続可能な社会を作っていくために、企業の在り方が今まで以上に厳しく問われている。

そこで、環境や社会に対する取り組みをその企業の投資価値として考える「ESG投資」が注目を集めている。

(写真= Jacob_09/Shutterstock.com)

ESG投資とは何か?

2015年9月の国連総会で持続可能な開発目標(SDGs)が採択された。

その加盟国である日本では2017年に①ソサエティー5.0の推進、②地方創生と街づくり、③次世代や女性の人材育成、の3本柱を特色とする具体的なアクションプランを策定したが、その持続発展型社会の担い手として、現在、企業の役割が重要視されている。

そこでこのSDGsを実現するために、これを企業戦略そのものと捉え、E(Environment:環境)、S(Society:社会)、G(Governance:企業統治)に対して配慮している企業を選別し、その企業に投資を行うのが「ESG投資」であり、特に株式市場で注目が高い。

それは伝統的な投資判断指標であるPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)とは大きく異なり、短期的な収益にとらわれるのではなく、長期的なリターンを目指す指標であるといえる。環境、社会、企業統治を重視する経営を行う企業こそが安定的な収益を生み、ひいては企業を取り巻く持続型の社会そのものを作っていくという考えのもと判断するのである。

不動産とESG投資の関係

不動産投資市場においてもESG投資への関心が高まっている。欧州の主要年金基金グループが、世界の不動産事業者のESG投資への取り組みを評価するベンチマークとして、「GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)」を2009年に策定した。

2017年にGRESBが公表した評価結果によると、GRESBの不動産評価参加者は、世界で850社に及び、日本からは53社が参加した。このうちREITは34社。時価総額ベースで上場REIT市場の約8割を占めているものの、一般の上場不動産企業に関しては参画企業が多いとはいえない状況にある。

しかし、日本の不動産市場がグローバル化する今日においては、このベンチマークを欧米・アジアの主要機関投資家が投資先を選定する際などに活用するため、その存在価値は徐々に高まる傾向にあるだろう。

ESG投資とこれからのオフィスビル

この不動産とESG投資の考えについて、2017年12月に国土交通省が「健康性、快適性等に優れた不動産に係る認証制度のあり方について」の中間とりまとめを発表した。ESG投資の普及・促進のための認証制度の大枠を示し、評価内容を「基本性能」「運営管理」「プログラム」の3つに分類し、それぞれの評価要素をあげている。

「基本性能」については、高効率な空調設備やテナント向けのリフレッシュスペースが確保されているのか、情報インフラや耐震性能などが一定基準以上であるか、非常用電源を確保しているかなど設備部分への配慮が中心の評価要素となっている。

さらに、テナント満足度やBCPを評価項目とする「運営管理」、メンタルヘルス対策や運動促進・交流促進プログラムが講じられているかを評価項目とする「プログラム」などの評価要素も満たすことが、ESG投資の対象ビルには必要になると想定されている。

これらの要素は、供給者となる企業が保有するビルに対して充実させていくポイントであり、このようなESGに配慮した取り組みが企業の成長や信頼性の向上につながると考えられている。

一方で、このような評価要素を満たすビルにオフィスを構えることはテナント企業、さらにはその従業員にとってもメリットがある。電気代の削減、BCP対策の強化、各種プログラムに参加できることによる付加価値の享受、ひいては従業員満足度向上にも寄与すると考えられる。

ESG投資の基礎となる「持続可能な開発目標」を実現するうえで、重要なステークホルダーであるのはビルの供給者となる企業のみではなく、そのサービスを受けるテナントがESG投資の対象となるビルを選ぶ役割も大きいことを忘れてはならない。ESG投資の普及促進は、供給者側、受給者双方にとってメリットがある取り組みであり、不動産市場の今後の成長においては必要不可欠な考え方といえるだろう。

日本においてESG投資はまだ黎明期といえ、CO2の削減等の省エネルギーに対する積極的な取り組みは喫緊の課題だ。不動産に対する環境への取り組みが、テナントの満足度を向上させ、従業員のモチベーションや健康意識に影響を与え、労働生産性の向上や働き方改革につながることは想像に難くない。

不動産市場におけるESG投資は、自社ビルや投資用物件を所有している企業だけの考え方ではない。オフィスを賃借する企業においてもこのESG投資の観点を物件選択の基準の1つとすることで、将来の企業価値向上につながる可能性は十分期待できるのではないだろうか。また、適切な物件を峻別することで、環境や社会に役立つ街づくりにも参画できるだろう。