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120年ぶりの民法改正で賃貸借契約はどう変わる?

2018.03.29

2017年5月、「民法の一部を改正する法律」が成立した。その内容は賃貸借にかかわる事業者にとって影響を受ける部分もある。実際にどのような対応を取るべきなのか。ここからは、民法改正による影響を詳しく見ていこう。

(写真=PIXTA)

120年ぶりに改正される経緯とその内容

民法は1896(明治29)年に制定された私人間(しじんかん)の取り決めを規定した法律である。これまでも、古すぎる表現を現代語に書き直したり、戦後の日本国憲法制定に合わせた家族法関連を改正したりするなど、部分的にいくつかの改正が行われてきた。

しかし、今回は財産法の分野を抜本的に見直す内容となり、実質、初の大改正となる。合理的で公平なルールを定めている民法だが、制定から長い年月を経て、その条文を見ただけでは解釈が難しい状態になっており、裁判例や通達でその内容が逐一補完されてきた。それらをまとめてすっきりさせることが、今回の改正の趣旨となっている。すでに採択されていたことを明文化する部分と、条文に落とし込むことで新たなニュアンスが備わる部分もある。

この改正は、一部の規定を除き2020年4月1日から施行される。改正されたのは主に次の項目だ。

・消滅時効…債権の種類によってさまざまだった時効期間の統一化など。
・詐害行為取消権…債務者の財産や経営状況が悪化した場合の処分行為について、詐害行為取消の
 対象となる範囲を限定して明文化。
・保証…無制限な保証債務を回避する規定など。賃貸借契約の保証人にも関連する。
・債権譲渡…対抗要件規定の明文化。
・法定利率…法定利率5%から3%へ引き下げ。商法利率の廃止。変動制の導入。
・定型約款…インターネット上のサービスやソフトウェアの利用規約にも適用される。
・債務不履行…履行不能・履行遅滞・不完全履行を含めた債務不履行全般の消極要件として、債務
 者の帰責事由が要件となることを明文化。
・売買…瑕疵(かし)があった場合に、履行追完請求権や代金減額請求権も認められるようになる。
・消費貸借…金銭等の受け取りで成立している現行法から、書面による場合では諾成契約へ。
・賃貸借…敷金返還時期や原状回復の範囲について規定が明文化。

債権法は、企業法務や不動産などの取引に関連する部分の多い項目だ。債権譲渡や債務不履行の項目では、今まで条文に明記されていないことによって解釈に齟齬が生じていた部分について、明文化がなされる。その他にも、判例や学説上異論なく認められ、実際に活用されているが条文に規定がない項目について調整が行われる。

また、いくつもの通説や判例があった部分についてわかりやすく一本化される項目もある。消滅時効に関する内容や瑕疵(かし)担保責任については、一部分の規定廃止と一本化がなされた項目である。今回注目しておきたいのは、不動産の賃貸事業に関連してくる賃貸借と保証についてだ。

連帯保証人の規定に注意

賃貸借契約に関係してくる改正では、敷金返還及び原状回復についてのルールが条文で明文化される。この2点については係争の絶えない部分であるため、通説や判例が多い。取り扱い実務においては、すでに採用されているそれらの内容を今回の改正でまとめたことになる。ただし、改正前の賃貸借契約が改正後に更新を迎えた場合に、どちらのルールが適用されるのか明文化されていないため、今後の動向が気になるところである。

一方で、連帯保証人については新しい規定が創設された。不動産の賃貸借契約では、個人の連帯保証人を付ける際に、極度額(連帯保証人の責任限度額)を定め契約書に明記することが義務化となり、明記されていない連帯保証契約を締結しても無効になる。

さらに、事業用の賃貸借契約で個人が連帯保証人になる場合には、その賃借人(主債務者)は財務状況についての情報を連帯保証人に提供することが義務付けられる。もし、情報提供を怠っていた場合に、賃貸人がその事実を知っていたり、知らないことについて過失があったりする場合、連帯保証人は連帯保証契約を取り消すことが可能だ。

とはいえ、財務状況を賃借人から連帯保証人に提供することが抵抗なく行われるのかと疑問の声も多い。個人の賃貸借契約については、現在すでに保証会社制度の利用が一般的になりつつある。そこで、事業用の賃貸借契約についても、今後はこの保証会社制度が主流になっていくと考える実務家も多い。

与信の低い中小、ベンチャー企業への対策

2020年4月1日施行の改正民法。事業用不動産の所有者やそれを取り扱う不動産仲介会社は、今からこの新設保証人制度への対策を講じておくべきだろう。新規定によって個人の連帯保証人が立てにくくなると、ベンチャー企業や新規起業家たちへの事業用賃貸借契約がうまく取り込めない可能性が出てくる。

民法改正に向けて各社とも新保証料や保証内容で加入者の獲得が活発になるだろう。事業用不動産の所有者としては、今からその保証内容の比較チェックと賃貸借契約条件の内容を精査し、改正に向けて準備しておいたほうが得策だ。