『ESG投資』とは? 世界で主流となりつつある投資手法と不動産投資の関係

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いま、「ESG投資」が話題だ。すでに世界の投資市場では、ESG投資が広く認知され、世界全体の投資額の33.4%を占めるまでになっている。従来の企業の売上や利益といった指標だけではなく、環境や社会への貢献度を重視するこの「ESG投資」は、今後、資産運用において、重要なものとなってくることは間違いない。

ESG投資とは? 近年、急速に増えている最新の投資

ESG投資の「ESG」は、それぞれ、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治/ガバナンス)」を指している。この3つを重視して投資対象を選ぶ投資である、ESG投資に注目が集まったきっかけは、2006年、国連のアナン事務総長(当時)が、機関投資家に対して、「ESG」を投資プロセスに組み入れることを提言したことだ。これは「責任投資原則(PRI、Principles for Responsible Investment)」と呼ばれ、それまで投資家が投資対象を選ぶときに重視していた、キャッシュ・フローや売上、利益といった定量的な財務情報だけではなく、非財務情報である「ESG」の要素を考慮するように求めたものだ。
この背景には、財務情報ばかりを重視し、短期的な利益を求めることに偏重し、リーマンショックのような事態を招いたことへの反省が込められている。また、短期に利益を求めるのではなく、ESGを重視した経営を企業に求め、持続可能な発展を促す意志も含まれている。ESGに配慮している企業は、中長期的なフリーキャッシュフロー創出力など企業価値向上が期待できるとも言われている。

投資家にとっても、持続可能な成長を見込める企業は、安定した投資対象として高く評価され、2019年3月末時点で2400近い年金基金や運用会社などがPRIに署名している。GSIA(Global Sustainable Investment Alliance/世界持続可能投資連合)によると、世界全体でのESG投資割合は33.4%にものぼっている。日本でも、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年にPRIに署名、ESG投資を2017年から開始している。日本でのESG投資額は、2012年の段階では、ESG投資割合が0.2%だったが、2016年に3.4%、GPIFがPRIに署名した後の2018年には18.3%に急成長している。世界の市場でも、日本でもESG投資は資産運用において、重要なものとなっているといえる。

急成長するESG投資の7つの手法とは?

急速に成長しているESG投資だが、2006年の国連でのPRI提唱の前から、歴史ある投資手法だ。その起源は1920年代にまで遡るという。また、その手法は大きく7つに分類される。

ネガティブスクリーニング1920年代にアメリカのキリスト教系の団体が始めたもの。ESG投資の原点ともいえる。武器、ギャンブル、たばこ、アルコール、原子力発電、ポルノなど、倫理的でないと思われる事業を行う企業を投資先から排除する。欧州などで広まっている。
ポジティブ
スクリーニング
1990年代に欧州で始まった手法。同業界の企業から投資先を選ぶ際に、ESG関連の評価が最も高い企業に投資する。ESG関連の評価が高い企業は中長期的に業績が高くなるという発想に基づく。
規範に基づくスクリーニング2000年代に北欧で始まった手法。ESG分野の国際基準に照らし合わせて、基準をクリアしない企業を投資対象から排除する。ポジティブスクリーニングよりも投資対象企業は、増える。
ESGインテグレーション型従来、投資対象を選ぶ際に参考にした財務指標以外に、ESGを中心とする非財務指標も含めて考慮して、投資対象を選ぶ手法。年金基金など、長期投資性向の強い資金を運用するファンドなどが積極的に採用している。最近、増えている手法である。
サステナビリティテーマ投資型サステナビリティ関連企業やプロジェクト(特に再生可能エネルギー、持続可能な農業等)に対する投資など、特にサステナビリティを重視したファンドに投資する手法。太陽光発電企業への投資ファンド、グリーンポンドなどもここに含まれる。
インパクト投資型社会・環境に貢献する技術・サービスを提供する企業を投資対象とする手法。比較的、小規模の非上場企業への投資が増えるため、ベンチャーキャピタルがファンドの運用を行うことが多い。
エンゲージメント・議決権行使型株主総会などで議決権を行使し、企業のESGへの取り組みを積極的に求める手法。このタイプの手法を取る株主は「物言う株主」「アクティビスト」と呼ばれる。

現在、世界的に最も多いのは、「ネガティブスクリーニング」の手法だ。また、「ESGインテグレーション型」もその割合を増やしている。日本では「ESGインテグレーション型」と「エンゲージメント・議決行使型」が主流である。

注目される「SDGs」と「ESG投資」の関係とは?

「ESG投資」の広がりには、2006年の国連での提唱が大きく影響していることは間違いない。その国連が、いま重視しているのが「SDGs(Sustainable Development Goals、国連の持続可能な開発目標)」だ。2015年に国連に加盟する193の国と地域、そのすべてが採択したもので、2030年までに貧困の撲滅、格差の是正、気候変動対策といった17の目標を達成することをうたっている。この「SDGs」の特徴は、この目標達成に関して、国や国際機関だけではなく、民間企業も課題解決を担う主体と位置づけていることだ。日本企業でも、「SDGs」への取り組みを表明し、具体的な活動を始めている企業も増えてきている。

「SDGs」で示されている17の目標の多くは、「Environment(環境)」、「Social(社会)」の課題だ。そして、企業がこういった課題に取り組むには「Governance(企業統治)」が働いていなければならない。つまり、「ESG投資」をしたいと考えた場合、現在、増えている「ESGインテグレーション型」では特に、「SDGs」への取り組みを行っている企業が投資対象になる可能性が高い。つまり、「ESG投資」を行うことが、「SDGs」への取り組みへの支援となる。

不動産投資における「ESG」とは?

「ESG投資」では、多くが株式、ファンドなどを通じて、企業への投資が多数を占める。しかし、投資は多様だ。不動産も、その安定性などから、重要な投資対象となっている。では、不動産に「ESG」は関係ないのだろうか。

国土交通省は、2018年に「『ESG投資の普及促進に向けた勉強会』の最終とりまとめ」を発表した。そのなかで、「ESG不動産投資の基盤整備」を喫緊の課題としてあげている。同省は、不動産においても「不動産そのものの環境負荷の低減」だけではなく、「健康性・快適性に優れた不動産」をESG不動産として認証制度を設け、不動産投資を活性化しようと考えている。認証のポイントとして、検討されている主な内容は以下の通りだ。

健康性・快適性利便性安全性
基本性能執務者の健康性・快適性に関するハードの要素(空間・内装、音、光、空気・空調、
リフレッシュ、運動)
執務者の健康性・快適性に関連する業務の効率性・コミュニケーションに関する要素(移動空間・コミュニケーション、情報通信)執務者の健康性・快適性の基礎となるオフィスビルの安全性に関する要素(災害対応、有害物質対策、水質確保、セキュリティ
運営管理健康性・快適性、利便性、安全性に優れたオフィスビルの維持管理に関する要素(維持管理、満足度)
プログラム執務者の健康性・快適性、利便性、安全性に関するソフトの要素(プログラム)

※国土交通省 「『ESG投資の普及促進に向けた勉強会』の最終とりまとめ」より

この国土交通省の取り組みは、オフィスビルを対象としている。そこで働く人の健康や快適性に配慮したビルであること、ビジネスに対する利便性に優れていること、災害対策を含むセキュリティへの配慮があることなどがあげられている。こういった内容を満たす物件であれば、そうでない物件と比較して、空室率は低く抑えられ、長く利益を生む物件になることは想像に難くない。「ESG投資」では、ESGに配慮している企業は、中長期に渡って成長する可能性が高いと考えている。不動産においても、ESGへの配慮が物件価値を高める可能性が高いといえる。

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