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19世紀末のロンドン、パリがテーマ

同館では、19世紀末のパリを語る上ではずすことのできない画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの200点以上のリトグラフ・ポスターによる「モーリス・ジョワイヤンコレクション」を所蔵しており、トゥールーズ=ロートレック美術館(フランス・アルビ市)と姉妹館提携している。この他、オディロン・ルドン、フェリックス・ヴァロットンといった作家の作品、「生活のなかのジャポニズム」をテーマとした美術工芸品のコレクションを所蔵しており、これらのコレクションと同時代の、19世紀後半から20世紀前半の近代美術をテーマとした企画展を年三回開催している。


所蔵するロートレック作品の複製画がミュージアムショップで販売されている

これまでの企画展の中でも、ラファエル前派の画家をフィーチャーした『バーン=ジョーンズ 装飾と象徴』(2012年)や『ザ・ビューティフル 英国の唯美主義』(2014年)は、「いくつもの思い出に残る展覧会の中で、とりわけ印象的でした」と高野さん。どちらも19世紀後半のロンドン、産業革命後の物質至上主義のなかで、“芸術はただ美しくあるために存在すべきである” という信念のもとアートやデザインを生み出した芸術至上主義と世紀末芸術をテーマとしたもの。まさに[一丁倫敦]と同時代の英国美術を主役とした、同館ならではの展覧会だった。

そうした中、異彩を放っていたのが、幕末・明治の天才絵師、河鍋暁斎の名品を集めた『画鬼・暁斎−KYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル』(2015年)。深く日本文化に傾倒していたコンドルは、暁斎を日本画の師と仰ぎ、暁英と号しました。これほど、コンドルの日本への愛は深いものだった。

銀行営業室が格調高いカフェ・バーに


重厚な天井を支える6本の柱がそびえる[Café1894]の店内は必見館内に併設されたミュージアムカフェ・バー[Café1894]やミュージアムショップ[Store1894]もまた、ぜひ訪れておきたい場所だ。

カフェの重厚な天井を支える6本の柱をはじめ、かつての銀行営業室を、1894年当時の写真や保存部位から可能な限り忠実に復元しており、床には当時使用されていた英国ミントン社とおなじヴィクトリア朝時代のタイル(現在はMAW&CO.社製)が使用されている。やさしい外光を集める新旧丸ビルで使われていた窓ガラスや、真鍮の金具、ガス灯のような照明が印象に残り、まるで19世紀末を描いた映画のなかに入りこんだような気分が味わえる。ショップには、企画展ごとの展覧会グッズや、ロートレックをはじめとした所蔵作品をモティーフとしたオリジナル商品などが扱われており、多くの人にとって展覧会後のお楽しみとなっている。


[Café1894]でいただけるクラシックアップルパイはサクサクした食感とほのかな甘さが自慢


ロートレックをはじめ所蔵作品の作家らをモティーフにしたユニークなペインター色鉛筆

薔薇を愛したコンドルに思いを馳せる庭

併設された[三菱一号館 歴史資料室]では、漆喰壁や木の格天井など明治時代の執務室の雰囲気の中、三菱一号館の再現の経緯や丸の内の歴史に触れることができる。洋家具職人の手によるオフィス家具や、旧三菱一号館を再現した1/40サイズのドールハウス、銀座の老舗が再現した明治のビジネススタイル(スーツ、帽子など)など、他では見ることができない資料が展示されており、丸の内の成り立ちの一端に触れることができる。


歴史資料室は大名小路に面した出入り口からも入室でき、気軽に静かな空間の非日常を味わえる

そして、高野さんが「なにより愛すべき」というのが、[一号館広場]と呼ばれる中庭の存在。「音楽祭の時期には、この広場でもたくさんの音楽が奏でられます。そこに流れる時間に、まるでヨーロッパに旅したときのようなときめきを感じます」と高野さんはいう。

日本で手がけた建築の多くに、故郷である英国をしのぶ薔薇の咲く庭園を併設したコンドル。広場には、そんなコンドルへのオマージュとして、1894年頃発表されたオールドローズをはじめ約40種の薔薇が植えられている。薔薇の茂みと木々の奥に見え隠れする赤煉瓦、こぼれ落ちる日差しと噴水の輝き、はしゃぐ子どもたち、サンドウィッチや本を片手に、思い思いに佇む人びとーー。

クラシカルな三菱一号館美術館と、モダンながら調和のとれた丸の内ブリックスクエアに生まれたその空間は、オフィス街・丸の内のイメージを一気に塗りかえてしまった。[一丁倫敦]の面影をいまに伝える三菱一号館美術館は、いまや丸の内の風景として欠かせない場所となっている。


順路のあいまの渡り廊下からは、ロンドンの公園を思わせる緑豊かな丸の内ブリックスクエアが見下ろせる