スペシャリストの智CREカンファレンス2018-2019・レポート今からの企業競争力を問う拠点機能の変化と不動産戦略

地域やステークホルダーとの共生を踏まえたCSR観点のCRE戦略

改野
 ところで、競争力の高い企業に共通に見られるCRE戦略の特徴というものはあるのでしょうか。
田島
 競争力のある企業ほど、企業の経営資源の最適化を目指して国内の拠点戦略を見直す傾向が見られます。一例を挙げれば、これまで郊外に建設されるケースが多かった研究開発施設ですが、優秀な人材を確保するためにアクセスのよいエリアに移転したり、都心にサテライトオフィスを設けたりする事例が増えてきました。また、都市部に設けることが困難な物流施設の場合でも、従業員の働きやすさを考慮して施設内にカフェや託児所を併設する例があります。
 企業が大きくなればなるほど、CRE(企業不動産)の社会的意義も増すので、拠点戦略は企業側の問題だけに止まらず、周辺社会からもチェックされることになります。
 例えば、地域雇用の源泉としての役割を担っていた工場跡地の有効な活用方法として、跡地にスポーツ施設を含む文化施設を建設したという例。雇用の再創造や経済効果による地域の発展を考慮したうえでの選択でした。一企業の繁栄だけに閉じるのではなく、CSR観点を併せもって検討されたCRE戦略と言えるでしょう。
 私たちは、できるだけ周辺環境も考えたCRE戦略を提案しながら、地域とともに価値観を高められる企業になってもらえるようなお手伝いをしています。そのために有用だと考えているのが、当社の「CRE@M」というシステムです。所有不動産を一元管理するためのアプリケーションなのですが、現状の不動産価値を把握した上で財務戦略を立てるのに役立ちます。こうしたツールを使うことで、企業不動産と地域や社員との関係や、不動産価値の社会への還元などについて、いま何をすべきかが明確になるはずです。
改野
 基調講演の中で、竹中先生は2019年を、「大きく揺れながらも、しかし力強く前進する年」と予想しましたが、お二人にとっての2019年はどのような年になると思われますか。
田島
 不動産の専門的な視点から言いますと、東京のオフィス空室率は1%台、平均賃料もこの5年間ずっと上昇しています。不動産需要は活発で、不動産投資マーケットの基調は2019年も相変わらず強いものになると考えています。ただ、不安材料がないわけではない。一つは、米中対立、ブレグジットに伴う世界経済の減速、国内でも設備投資、建築投資がそろそろピークアウトを迎えるかもしれません。不動産融資に対する銀行の融資規制の動きもあります。リスクと潮目の変化も考えながら、お客さまに適切なアドバイスをしていきたいと思います。
フェルドマン
 マクロ経済はあまりよくないが、ミクロ的なチャンスは数多くあると考えています。技術の変化、例えばドローンを活用した農業。一日7万食のレタスを作る工場が稼働を始めたというニュースも聞きました。日本は世界でもまれに見る農地が余っている国。これを活用しない手はありません。他にも、電力ネットワーク用の蓄電池のコストを削減する技術で、再生エネルギー産業も活発になるでしょう。ヘルスケアも有望な市場ですね。不動産という生産要素はすべての産業に使えるものです。技術と市場が変わると、どのように不動産価値が変わるかということに、今年も注目していきたいと思います。

Profile

慶應義塾大学 名誉教授/
東洋大学 教授

竹中 平蔵

1951年生まれ。博士(経済学)。一橋大学卒業。
ハーバード大学客員准教授、 慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て2001年、小泉内閣の経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などを歴任。現在、公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、(株)パソナグループ取締役会長、オリックス(株)社外取締役、SBIホールディングス(株)社外取締役などを兼職。

加賀電子
代表取締役会長

塚本 勲

1943年生まれ。石川県出身。加賀電子創業者、代表取締役会長。金沢市立工業高校を中退して上京し、電機メーカーに就職。製造職から営業職に転じて才覚を発揮する。1968年に電子部品卸売業の加賀電子設立。人との縁を大切に社業発展に尽くし、1986年東証二部に上場、1997年東証一部上場。加賀電子グループは、独立系エレクトロニクスの総合商社として、電子部品・半導体販売からEMS(電子機器の受託開発・製造サービス)、パソコン・周辺機器、システム提案等の事業をグローバルに展開する。現在は会長として国内外問わず新規事業開拓にも積極的に挑戦している。

モルガン・スタンレーMUFG証券
シニア アドバイザー

ロバート・フェルドマン

1953年生まれ。博士(経済学)。東京理科大学大学院経営学研究科教授 兼 イノベーション研究科教授。野村総合研究所、日本銀行で研究業務、その後国際通貨基金(IMF)勤務を経て、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券主席エコノミスト、モルガン・スタンレーMUFG証券日本担当チーフエコノミストおよび経済調査部長を務めた。

三菱地所リアルエステートサービス
代表取締役社長

田島 穣

1958年生まれ。一橋大学卒業。1980年三菱地所(株)入社、2003年ロックフェラーグループ社取締役副社長に就任したのち、2008年より三菱地所にて経営企画部長、執行役員経営企画部長、執行役員ビルアセット開発部長を歴任。2013年に常務執行役員として都市開発、商業・物流施設等を担当。2017年4月より三菱地所リアルエステートサービス(株)代表取締役社長を務める。

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