スペシャリストの智CREカンファレンス2018-2019・レポート今からの企業競争力を問う拠点機能の変化と不動産戦略

特別講演 経営視点から見る強い企業、成長する企業 加賀電子代表取締役会長 塚本 勲氏

地の利を活かした「部品の便利屋」として創業

 当社は1968年に電子部品商社として設立して以来、とりまくエレクトロニクス業界の発展と共に業容を拡大してまいりました。2014年に建設した本社ビルは秋葉原の地にかまえていますが、その立地は決して、私たちの業態やアイデンティティと無関係のものではありません。
 加賀電子の創業前、私は可変抵抗器のメーカーで組立工として働きはじめ、その後営業に配転になります。当時隆盛を極めていた音響機器メーカーなどが代表的なお得意先でした。そのうち抵抗器だけでなく、あらゆる電子部品を扱いたいと思うようになり、秋葉原に電子部品商社を創業します。お客さまに必要だと言われると、どんな部品でも探し出してきて、それを納める。いわば秋葉原という地の利を最大限活かした「部品の便利屋」としてスタートしたのです。当時、お金はないものの人脈という無形の財産はありました。創業当時はデジタルの「デ」の字もなかった時代ですが、技術革新のスピードは速い。すべてはお客さまのため、頼まれたものはなんでも取り扱うという姿勢と土地のメリットがあったからこそ、アナログからデジタルへの技術変化、業界の移り変わりに対応できたのではないかと思います。
 70年代にインベーダーゲームが流行していたころは、日本の半導体メーカーが作るICチップをゲーム機会社に販売するという取引のお手伝いをしました。部品が足りなくなって、アメリカから当時の共産圏まで、世界のどこへでも出かけていって調達したものです。
 当時から一貫しているのは、在庫を持たない商売に徹するということ。創業当時は、銀行からの借入ができないので、持てなかったというのが実情です。ですから先に注文をもらい、その分を仕入れ先に発注するというやり方しかできなかったのです。しかし、在庫を持つと、資金が寝てしまったり、保管スペースなどの費用もかかる。結果的に、在庫を持たないフロー経営、受注があってから初めて発注する「受・発注の原則」が、変化に強い会社を作り上げる大きな要因になりました。これは現在も加賀電子のDNAとして引き継がれています。

加賀電子塚本 勲氏

ベンチャー投資を通して、時代の変化を先取りする

 これからもますます時代は変化します。電気自動車、5G、AI、IoTといった新技術もあれば、高齢化、医療、美容・健康への関心の高まりなど社会的な変化もある。グローバルに見ても、生産拠点やサプライチェーンがどんどん変化します。それに対応するため、私たちも世界に進出し、電子機器の受託開発・生産サービス(EMS)を強めています。
 時代の変化に常に敏感であるためには、お客さまの声を聞き、自らも新規事業を次々に起こすことが大切です。創立50周年を機にファンドを創設し、車載機器や通信、環境、産業機器、アミューズメント、医療、ヘルスケア、素材など成長市場で活躍するベンチャー企業への投資も始めました。現在の投資先企業は20社近くに及びます。
 その中には、都心のオフィスビル内で社内育児施設を展開している企業もあります。エレクトロニクス商社がなんで育児サービスに投資をするのかと思われるかもしれませんが、企業の不動産戦略と合致した育児サービス業をベンチャーと一緒に担うことは、知育玩具など電子部品の新しい市場を形成するうえでも、ユーザーの意識の変化を先取りするうえでも必要なことだと思うのです。
 創業以来のモットーである「フレキシビリティ、キープヤング、たえずトライする」の「F・Y・T」と、行動指針である「ジェネラル(なんでも取り扱う)、グループ、グローバル」の「3G」を胸に、私たちはこれからも、変化に柔軟に対応しながら土地とともに弛まぬ成長を目指しています。

テーマトーク 企業価値の変化と不動産戦略。モルガン・スタンレーMUFG証券 シニアアドバイザー ロバート・フェルドマン氏。三菱地所リアルエステートサービス 代表取締役社長 田島 穣。モデレーター 日経CNBCキャスター 改野 由佳氏

 カンファレンスの最後に、エコノミストのロバート・フェルドマン氏と、不動産活用のスペシャリストとして三菱地所リアルエステートサービスの田島穣社長が「企業価値の変化と不動産戦略」をテーマにディスカッションしました。

ITによる情報コストの削減はオフィスや人々のコミュニケーションをどう変えるか

改野
 まずお話の起点として、フェルドマンさんは、「スペシャリストの智」の中で情報取得のコスト低下とスピードの短縮という大きな変化を、企業価値向上のチャンスとすべきだと述べられていますが。
フェルドマン
 最も大きな変化は、この30年にわたるIT革命を通して、情報を扱うコスト、それを伝達するコストがきわめて安くなったということでしょう。インターネット技術は時間や地理的な境界をなくしただけではなく、コストの境界もなくしました。これは情報や商品を受け取る需要サイドに高い利便性と多くの選択肢が生まれたことを意味します。
 一方、供給サイドにとっても、消費者が何を求めているかを以前よりも早く察知し、商品をより安く、より速く供給することができるようになりました。いわば情報利用の精度によって企業価値が変わるのです。情報をいかに分析して、有益な価値に転換するのかが、経営者の手腕になります。
田島
 ネット環境さえあれば世界中どこでも情報を共有できるようになりました。理論上働く環境はどこでもよく、極端な話、オフィス拠点もなくてもよいということになります。ただ、現実にはそうはなっておりませんし、企業戦略にとっても拠点は重要な意味を持ちます。シリコンバレーにはIT企業が集まり、このエリアの不動産価格も上昇しています。
 ITがどんなに進化しても、ビジネスを創造して進化させていくためには、人と人が顔を合わせることが欠かせません。オフィス戦略においても、フリーアドレスや在宅勤務などバリエーションは豊富になってきていますが、逆に会議室のスタイルやパブリックスペース、社員食堂などコミュニケーションを発展させるために工夫を凝らす傾向も増えています。オフィスの中で偶然の出会いを増やす工夫を凝らすことで、思いもよらぬアイデアや、興味や関心を多く引き出すことができ、事業戦略の次の原動力を生む機会が増えます。
 当社も昨年5月に本社を移転し、ひとつのフロアに全ての部署を集約しました。フリーアドレスや多様な共有スペースを取り入れることで、部署や役職を超えた時間と場所の共有が進みました。すでにその効果も現れてきています。一部をご紹介しますと、これまで4つのフロアに分かれていた不動産売買仲介、賃貸経営、駐車場マネジメント、不動産鑑定の各営業部をひとつのフロアにしたことにより、各営業部の垣根を越えた協業による成約率が前年比15%アップしました。
フェルドマン
 アイデアはどこから生まれてくるのか。一日中、同じオフィスにいれば必ず生まれるというものではないですが、人と接することで生まれることは確かでしょう。この前伺った通信社の社屋には、広いオフィスのど真ん中に料理を並べた大きなテーブルがありましたよ。誰もがいつでも好きなものを好きなだけ取ってよい。そこが新たなビジネスヒントにつながるようなコミュニケーションを促すというのです。
 昔の企業によく見られた喫煙室では、部署や役職と関係なくいろんな人が溜まって情報交換をしていました。喫煙室ではなくても、人の集まりやすいスペースのある会社は、コミュニケーションが活発になり、収益性も高いと言えるでしょう。

モルガン・スタンレーMUFG証券ロバート・フェルドマン氏

グローバル規模でのエリア・ブランディングを考える時期

改野
 情報伝達の距離的・時間的制約が小さくなるグローバル化の時代に、企業はどういう戦略が必要でしょうか。
フェルドマン
 グローバル化でどこに市場があり、どこに需要があるかを探すことはしやすくなった。ただ、まだ「心の壁」があるようです。例えば私が愛用する遠近両用の眼鏡。フレームからレンズを外して上下に動かすことができる優れものなんです。ぜひ私のアメリカにいる友人にも使って欲しいと、海外では売っていないのかメーカーに問い合わせたことがあります。すると、そのメーカーの人曰く「壊れた時のアフターサービスが提供できないため海外での販売はおこなっていない」というのです。これはたしかに日本人にとっては美徳かもしれませんが、外国人がその話を聞いたら不思議に思うでしょう。日本企業の“美徳”がグローバル化を邪魔している例です。
田島
 不動産投資の面からのグローバル化は今後ますます進んでいくと思います。私はかつてロンドンとニューヨークで勤務したことがありますが、両都市とも外国人投資家の活動が大きなウェイトを占めていました。アジアの中で日本は何より外国人でも所有権で不動産を持てる非常に魅力的な国です。今後、アジア諸国の経済的発展に伴って、東京等の主要都市はロンドンやニューヨークのようなグローバル都市になっていく可能性は大いにあります。ITの進化は更にその動きを加速していくでしょう。
 株式市場に目を転じると既に外国人投資家の存在感は非常に大きいものがあります。世界でもこれほど外国人の影響力の強い市場はないと言われています。その外国人投資家が求めるものの一つが資産効率の向上です。企業不動産についての戦略はIRの観点からも大変重要です。
 企業立地の視点では、こんな見方もできます。先の塚本会長の加賀電子様は、秋葉原に本社を構えています。秋葉原といえば、電気と電子機器さらにサブカルチャーの聖地として世界的なエリア・ブランドになっています。私どものお膝元、丸の内も、ニューヨークのウォール街と比較して東洋のトップビジネス街に例えられます。このようなグローバル・ブランドに成長したエリアに拠点を構えることで、企業価値、企業のブランド・ロイヤリティを効率的に高めることができます。移転を考えられている企業様がいらしたら、エリア特性を最大限活用したプランもぜひ検討してほしいと思います。
フェルドマン
 エリア・ブランディングも不動産投資の一環ですが、そこではリスクをどうテイクするかも考えないといけません。リスクテイクの経験とやり方は国や文化によって違うもので、日本には新たな投資先に投資して失敗したら、クビになってしまうような風土があります。日本はまだ、「やるべきだけれど、やらない」という企業文化が根強い。それは残念なことです。

三菱地所リアルエステートサービス田島 穣

バックナンバー

  1. vol.28
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス2020-2021・レポート
    この時代だから
    見えてくる
    成長戦略とは
  2. vol.27
    コロナ禍は企業に何をもたらすか
    事業転換を模索し筋肉質に生まれ変わる
    (土橋 道章氏)
  3. vol.26
    未曾有のパンデミックで見えた
    新たな危機管理
    企業経営にとって対処すべき課題とリスク
    (佐山 展生氏)
  4. vol.25
    これからの不動産戦略に
    欠かすことのできないESG
    (堀江 隆一氏)
  5. vol.24
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス2019-2020・レポート
    躍進か衰退か
    企業の成長力を考える
    今後求められる企業経営と不動産戦略
  6. vol.23
    「好き嫌い」から始める競争戦略
    成熟社会における企業価値とは何か
    (楠木 建氏)
  7. vol.22
    これからの成長戦略に向けた
    企業の体質改善
    (大工舎 宏氏)
  8. vol.21
    経営者視点で見る令和時代のM&A
    (岩口 敏史氏)
  9. vol.20
    新時代の事業承継
    進化のための受け継ぎ方
    (田中 歩氏)
  10. vol.19
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス2018-2019・レポート
    今からの企業競争力を問う
    拠点機能の変化と不動産戦略
  11. vol.18
    モノからコトへ
    消費行動が変化するなか
    企業価値と不動産はどうあるべきか
    (ロバート・フェルドマン氏)
  12. vol.17
    新世代型都市開発と
    これからの企業オフィス戦略
    (谷澤 淳一氏)
  13. vol.16
    クリエイティブオフィス戦略で
    新たなイノベーションを
    働き方改革を「場」の視点から再構築
    創造性を促すワークプレイスのススメ
    (百嶋 徹氏)
  14. vol.15
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス2017-2018・レポート
    2018年成長する企業の資質とは。
    企業体力強化に備える不動産戦略のポイント。
  15. vol.14
    変革の時代に日本企業の強みを生かす
    CRE戦略を通した「稼ぐ力」の向上
    今後10年の企業ビジョンとCRE戦略の重要性
    (冨山 和彦氏)
  16. vol.13
    企業価値向上のカギを握る
    CREプロフェッショナルの社内育成
    社内外の専門家のネットワークを最大限に活用する
    (村木 信爾氏)
  17. vol.12
    企業価値を高める
    CRE戦略の一環としての
    ワークプレイス改革
    (齋藤 敦子氏)
  18. vol.11
    中堅中小企業が今取り組むべきCRE戦略とは
    不動産の棚卸しから、
    事業継続、相続・承継問題まで
    (平川 茂氏)
  19. vol.10
    リノベーションによる耐震、省エネ、環境保全で
    企業価値の向上
    求められる多様なニーズに対応した
    オフィスビルのリノベーション
    (河向 昭氏)
  20. vol.09
    スペシャリストの智
    CREカンファレンス・レポート
    クラウド化がもたらした加速する社会基盤。
    今の企業価値を考える。
  21. vol.08
    企業価値向上のカギとなる
    クラウド導入で進めるシステム改革
    顧客のビジネス価値を高める企業姿勢
    (保科 実氏)
  22. vol.07
    クラウドを利用した動産管理と企業価値の向上
    「e-Leasing」と「CRE@M」が目指すもの
    (長谷川 善貴氏)
  23. vol.06
    環境保全しながら
    経済合理性のある土地活用を
    (西村 実氏)
  24. vol.05
    不動産を流動化させて経営の劇的な改善を
    バイアウト投資市場からみた企業のCRE戦略
    (南黒沢 晃氏)
  25. vol.04
    現在において考えるべき
    リスクマネジメントとCRE戦略
    (渡部 弘之氏)
  26. vol.03
    企業の成長に欠かせないM&A戦略。
    CRE(企業不動産)の位置づけが重要に
    (大山 敬義氏)
  27. vol.02
    未来に向けたCRE戦略
    外部の専門企業との連携が鍵に
    (百嶋 徹氏)
  28. vol.01
    不動産市況が好転した今年こそ
    CRE戦略再スタートの元年に
    (土岐 好隆氏)