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モノからコトへ消費行動が変化するなか企業価値と不動産はどうあるべきか

「イエスというべき時にノーを言う間違い」がまだまだ多すぎる

──話は変わりますが、いま自動車を作る会社は必ずしも自動車メーカーだけとは限らない。電気メーカーが自動車を作っても全くおかしくない時代です。さらに自動走行が可能になると、クルマはもはや情報端末の一つということになる。クルマそのものの概念が変わってくるわけですね。そのような近未来的なイノベーションのなかで企業はどこへ向かうべきか。何に価値を求めていけばいいのでしょうか。

 自動車会社がいま何を販売しているのかといえば、商品はたしかにクルマの形をしていても、A地点からB地点へ移動したいというユーザーのニーズを反映したサービスそのものだろうと思います。日本では自家用車の平均稼働率も低く、他の交通手段の技術革新を求めるユーザーも少なくないでしょう。消費者がクルマを買うのを止めてしまった場合、余ったお金に対して何を提供していくことができるのか、これまで自動車を製造・販売してきた実績があるメーカーであってもそろそろ本気で考えなければなりません。
 自動車メーカーが例に挙がりましたが、これからの企業にとってリスクをどうテイクするかが重要な価値になってきます。リスクテイクの経験とやり方は国や文化によって違うもので、日本には新たな投資先に投資して失敗する事を強く避けようとするような風土があります。間違いをしないことを最優先するあまり、新たな投資をしなくなってしまう。これではイノベーションは生まれない。失敗をしてもよい企業文化を育てることが必要です。統計学的にも「イエスというべき時にノーを言う間違い」と、逆に「ノーというべき時にイエスといってしまう間違い」では、後者の方がリスクが逆に低いと思います。日本は「やるべきだけれど、やらない」という企業文化がまだまだ根強いようで、経済活性化を阻んでいる。

労働市場の改革は結果的に企業価値も労働所得も向上につながっていく

──日本ではこれから先も確実に労働人口が減っていきます。この時代に、労働市場をどう改革していくのか、これもまたフェルドマンさんの重要な関心事だと聞いています。

 いま政府主導で進む「働き方改革」は決して成功しているとはいえないように感じます。残業規制とか雇用形態ばかりが議論されて、労働市場全体の改革にまだ足を踏み込んでいないのです。
 だからこそ、「働き方改革」の第二幕には期待しています。そこでは金銭的解決を基にした解雇規制の大幅緩和が必須です。正社員か非正社員かという区別はもちろんのこと、そもそも正社員という概念さえなくすべきだと私は提言しています。人は会社への帰属でなく、仕事の内容を通して評価されるべきです。その人の企業貢献が上がれば給料も上がる、そうでなければ下がるというシンプルな評価体系の導入が必要です。また、能力の高い人は複数の企業にまたがって働くことができるよう、政府は雇用の流動化を進めるべきです。それを促すために企業は並行してオフィス環境の整備に取り組むことが重要です。こうした労働市場の改革により日本経済が活性化し、結果的に企業価値も労働所得も向上にもつながっていくと私は考えています。

──働き方改革は、単に労働時間の短縮だけでなく、新しいワークプレイスの創出にも目を向けていく必要があると思います。そうなると、時間の使い方と場所のありかたの関連性が大きな意味をもつようになり、オフィス拠点についての考え方も変わっていくのではないでしょうか。

 ワークプレイスや建物の変化に目を向けると、近年の技術革新でエネルギー効率のよいビルもたくさん建設されるようになりました。古い建物にしがみつくより、新しい技術を導入して作り直した方がエネルギー効率も格段に高まります。ただ、その基準をしっかり示し、投資プロジェクトを組まないと、いつまで経っても古いビルは残ったままになってしまいます。
 そのためには、やはり行政を巻き込んだ都市計画レベルからの投資ということが必要になってきます。アメリカ・オレゴン州にポートランドという街があります。この町では30年前から都市計画が進み、1992年には都市の骨格となる50年後のビジョンを定め、成果を上げてきました。高齢者向けの住宅を利便性のよい場所に集中配置するなどコンパクトな街づくりだけでなく、持続可能な交通体系や人々が街に関わる仕組みづくりにも特徴があり、今では全米で一番住みたい都市に選ばれています。

ロバート・フェルドマン氏

なぜ日本の企業経営者はビジネスジェットを持たないのか

──最後にこれまでのお話を踏まえて、いま日本の経営者に求められている行動について何かご意見をいただきたいのですが。

 まず改革すべきは、人事評価システムの改善、成果主義の報酬体系の徹底です。従業員もまた自分の評価が給料にストレートに表れるインセンティブを求めているわけですから、経営者もそれにいち早く応えるべきです。
 もう一つは意識の上でのグローバル化の徹底。日本の企業がなぜビジネスジェット機をもっていないか、私には昔から不思議に感じています。新幹線が便利になってきているとはいえ、新幹線での移動だけでは海を渡ったビジネスはできません。グローバル・ビジネスといいつつ、その感覚はまだ国内に留まっているように感じます。知識への尊敬や製品を綺麗に仕上げるプライドといった日本の企業人が持つ美徳は保ちながらも、古い概念を壊して国境を飛び越えていこうという感覚は企業にとって重要な価値となってきます。
 米中貿易戦争やイギリスのEU離脱など、いま世界では国際経済のバランスが崩れる恐れがあります。ただ、その影響は欧米や中国に比べると日本はむしろ少ないと私は見ています。むしろ日本の場合は、労働不足の方が深刻な問題です。私の計算によると、今後12~13年間で国内の労働力は500万人少なくなります。それを全て外国人の労働力で補うことはできません。この労働力不足時代だからこそ、人々はもっと効率的に働かなければならないし、そのためには新しいワークプレイスの創出やエネルギー効率の高いオフィスビル活用を含む、本当の意味での働き方改革が不可避だと思います。雇用の流動性が高まり、労働生産性が高まることと、不動産の価値を向上させることはけっして無縁ではない。私はそう思います。

Profile

モルガン・スタンレーMUFG証券 シニアアドバイザー

ロバート・フェルドマン

モルガン・スタンレーMUFG証券(株) シニアアドバイザー。東京理科大学大学院経営学研究科教授 兼 イノベーション研究科教授。1953年アメリカ・テネシー州出身。1970年に交換留学生として初来日。イェール大学(経済学・日本研究学士)を経て、マサチューセッツ工科大学において経済学博士を取得。野村総合研究所、日本銀行で研究業務、その後国際通貨基金(IMF)勤務を経て、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券主席エコノミスト、モルガン・スタンレーMUFG証券日本担当チーフエコノミストおよび経済調査部長を務める。経済財政諮問会議に設けられた「日本21世紀ビジョン」専門調査会の「経済財政展望」ワーキンググループ委員も経験。専門はマクロ経済および金融構造論。「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系) 、「日曜討論」(NHK)などテレビ番組のコメンテーターとしても知られる。著書に『フェルドマン式知的生産術 ― 国境、業界を越えて働く人に』(プレジデント社、2012年)、『フェルドマン博士の日本経済最新講義』(文藝春秋、2015年)などがある。

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