新世代型都市開発とこれからの企業オフィス戦略

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 三菱地所は丸の内エリアをはじめとした、さまざまな不動産の開発に取り組む総合デベロッパーです。グローバル化の進展、国際的な都市間競争の激化、災害に強く環境性能の高い街づくりなど、時代とともに街に求められる役割や機能が大きく変化するなか、絶えず変化に対応した魅力的な街づくりを続けています。丸の内再開発の歩みとともに、これからのオフィスビル、オフィス街に求められる多様性について、三菱地所・谷澤淳一副社長にお聞きしました。

「世界で最もインタラクションが活発な街」
丸の内はどうして生まれたか

──谷澤さんは2018年4月に副社長に就任されましたが、三菱地所では都市開発に携わっている期間が長かったですね。

 1981年に三菱地所に入社以来、ずっと都市開発の担当で、丸の内に関していえば、1988年の「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」(現・一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、以下「大丸有協議会」)の設立にも関わっていますし、1995年に発表された丸の内ビルディング(丸ビル)の建替え事業も担当しています。丸ビル建替えではテナントの移転交渉にあたりました。一時、経営企画担当の役員も務めましたが、これは都市開発を企業経営の視点で見るよい機会になりました。その意味では、一貫して私のキャリアは都市開発だったと言えると思います。

──丸の内エリアは言うまでもなく、百年を超える歴史のなかで、日本のビジネスを象徴する場として認知されてきました。ただ、2000年以降は、ビジネスだけでなく、ネームバリューのあるブティックやレストランが建ち並び、文化・商業機能も果たすようになっています。この変化は当初から見通していたものですか。

 もともと戦後の丸の内開発は、高度成長期のオフィス需要に応えるためのものでした。各企業が安心してビジネスに取り組める街として、一定の役割を担ったと思います。休日の人通りは少ないけれど、平日は人と情報が集まってたいそうな活気がある、そんな街でした。
 しかし、1991~93年頃のバブル崩壊で街の表情は変わりました。バブル崩壊後のデフレが続くなか、元気な企業であればあるほど、丸の内から出て行くようになったのです。もちろん、周辺都市の開発が進んだこともあるのですが、大規模ビルが老朽化し、時代の先端から取り残され、一時は「丸の内のたそがれ」とメディアに取り上げられたこともあります。
 そのなかで、私たちは1995年に旧丸ビルの建替えを発表、その後、1998年には新しくなる丸ビルの詳細を発表し、「丸の内再構築」というビジョンを打ち出すことになります。これは明治の近代化が進むのに伴って赤煉瓦のオフィス街を開発した第1次開発から数えれば、第3次開発と呼ばれています。
 2001年には丸の内が目指す姿を「世界で最もインタラクションが活発な街」と定め、街区のブランド戦略を進めます。それまでのビジネスに特化した街から、多様性のある街への転換です。来街者を広く迎え、街を回遊できるような環境を創出するため、歩道を広げ、沿道には飲食店やブランドショップを誘致、街灯イルミネーションなどさまざまなイベントも手がけました。その結果、これまでとは違う人の流れが生まれるようになりました。
 その後も、「大手町温泉」を採掘した「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」や、丸の内エリア初のサービスアパートメントを導入した「大手町パークビルディング」など、2002年の丸ビル竣工から15年間で12棟の再開発が進みます。これらの再開発により、当社ビルの延床面積は約1.5倍に広がり、事業所数は約1.2倍、店舗数も約3倍に拡大、土日の来街者が約2.5倍と大幅に増えました。

谷澤淳一が語る

──その背景には、大丸有協議会の活動も大きな影響を与えていますね。

 バブル崩壊、都庁移転、リーマンショックなどいくつもの事象を乗り越えながら、1988年からこの地区の地権者たちは協議会に集い、都心の重要性や大手町・丸の内・有楽町地区の在り方についてずっと議論を続けてきたわけです。大手町・丸の内・有楽町のつながりを意識しながら、3つの街区を一体のものとして捉え、「まちづくりガイドライン」を定め、それに則りながら個性と多様性を打ち出そうと努力してきました。エリアマネジメントという考え方を本格的に実施した国内でも先駆的な試みです。思えば、協議会の活動は、世の中の変化に柔軟に対応した未来の街づくりという課題に向き合ってきた30年だったと思います。

人々が行き交うことで生まれる
「創造的な賑わい」を持続させる

──こうした丸の内の変化を、この地にオフィスをもつ企業はどのように受け止めていると思いますか。

 企業にとってはやはり人と情報が最大の資産です。バブル崩壊後、時代の変化に敏感な企業が丸の内から退出し、残ったのは重厚長大企業ばかりと言われた時期もありましたが、そうした旧来型の企業もまた真剣に新しい時代のビジネスのあり方を求め、意識改革に努めるようになりました。結果的に、現在の丸の内には外資系やベンチャーを含む多様な企業が集積するようになりました。その集積が賑わいと活力を生み出し、国際的なビジネスセンターの一つとして世界からも注目されるようになりました。これが新しい丸の内ブランドになることで、従業員のリクルーティングの面でも効果を上げていると聞いています。
 私は一つの企業が本社機能を充実させればそれだけでビジネスが活発になるとは考えていません。そもそも、オフィスの固定席に縛られながら仕事をするというスタイルが過去のものになろうとしています。フリーアドレスに象徴されるような、新しいワークスタイルがこれからは当たり前になります。オフィスの「賃料」という概念も変わっていくでしょう。これまで私たちデベロッパーのビジネスは、賃料×面積で収益が決まっていたものですが、それも変わりつつある。複数の企業や個人事業主が一定のスペースを共有する会員制のシェアオフィスが至るところに出現し、企業活動がまるごとそこで展開されるということもまれではなくなりました。
 いずれにしても重要なのは、オフィスやエリア全体が、イノベーションが起こりやすい場所であり続けること。人々が行き交うことで生まれる創造的な賑わいが重要で、丸の内はこれが持続的に湧き起こる街であり続けるべきです。

オープン・イノベーション・フィールドとして
これからも進化しつづける

──あらためて、これからの丸の内はどう変化していくと思われますか。

 約束された未来があらかじめあるわけではない、街は時代や社会の変化、産業や消費の変化とともに、つねに変わっていかなければならない、というのが私の考えです。丸の内再構築にあたっては、ビジネスシーン以外に目を向け、先鞭をつけていろんなことをやってきましたが、それに安住しているわけにはいきません。つねに新しい課題が立ち現れるからです。
 例えば、ITやAI、ロボティクスというテクノロジーを取り込んで、それを丸の内エリアの発展にどう活かしていくか。私たちは丸の内を「オープン・イノベーション・フィールド」と捉え、最先端技術を活用したシステムやサービスの実証実験も積極的に導入しています。賃貸事業においても、国内外の成長企業や先端技術の活用に取り組むスタートアップ企業をターゲットとした小規模オフィスを提供したり、それらの企業間での交流活性化や大企業とのネットワーク形成を支援するなど、多様なプレーヤーの接点となるプラットフォームの構築に取り組んでいます。

谷澤淳一が語る

──最後に、企業経営者に向けた、これからのオフィス拠点選びのポイントをお聞かせください。

 やはり重要なのは、社員の方が働きたくなるような場所でしょうね。その前提にあるのはダイバーシティ、人間はひとりひとり好みが違って多様であるという考え方でしょう。身近な例で言えば、夏のクーラーの温度。男性には快適な温度でも、女性にとっては冷えすぎと感じることもある。メガプレートの広いスペースでわいわいコミュニケーションしながら働くのが好きな人も、ときには個室にこもって集中して仕事をしたいときもある。そうした多様性にどう対応していくか、単体のオフィスだけでなく、エリア全体としてその多様性にどう対応していくかが重要なポイントです。
 立派な外観のオフィス、憧れるようなブティックも大切ですが、そればかりが集まって、近所に手軽にランチが出来るような店がなければ、街区の魅力は半減します。人が息づく街には、ぶらぶら散歩していて楽しいとか、人の生活の営みが伝わるような猥雑性もまた大切な要素ですから。そうした意味での多様性を担保しながら、私たちは人と企業が可能性を感じ、進化できる街づくりをこれからも目指していきたいと思います。

数字で見る丸の内
*1 上場会社(東証一部・二部)のうち、大手町・丸の内・有楽町地区に立地する本社数
*2 一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会「The Council for Area Development and
Management of Otemachi, Marunouchi, and Yurakucho 2017」より
(資料)三菱地所統合報告書2018より

Profile プロフィール

三菱地所株式会社 代表執行役 執行役副社長

谷澤 淳一

1981年三菱地所入社。都市計画事業室長、ビルアセット開発部長、経営企画部長を経て、2014年常務執行役員(経営企画部担当)に就任、2018年4月より現職。

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