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クリエイティブオフィス戦略で新たなイノベーションを働き方改革を「場」の視点から再構築創造性を促すワークプレイスのススメ。ニッセイ基礎研究所 社会研究部 上席研究員。百嶋 徹氏
 ここ数年、働き方改革が大きく取り上げられています。一口に「働き方」と言っても、そこには業種、業態、経営側、従業員側など立場によって手法も異なれば求めるものも違います。また、単に長時間労働の改善だけでなく、知識創造性を高めるという観点で、ワークスタイルを考える必要性もあるでしょう。かねてからクリエイティブオフィスの重要性を指摘し、それを新たなCRE戦略に組み込むことの必要性を提唱してきた、ニッセイ基礎研究所の百嶋徹氏に、働き方改革とワークプレイスの関連を語っていただきました。

なぜクリエイティブオフィスなのか。知識創造活動こそが差別化の源泉

──「スペシャリストの智」の中の百嶋先生ご担当のコラム、「経営視点のオフィス戦略のすすめ」(注1)でもすでに述べられていますが、先生は2011年ごろからクリエイティブオフィスの重要性を指摘されています。ここに着目されたのはなぜでしょうか。

 「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるアメリカ発のグローバル企業の躍進、さらには、アジア企業の台頭などで企業間の国際競争はきわめて激化しています。これまでは、製品・技術の改良で一定の成功を収めてきた日本企業ですが、これからは、画期的なイノベーションにつながる知識創造活動を差別化の源泉とする必要があると強く感じています。従業員のアイデアや自由な発想、創意工夫といったものを企業競争力の源泉と認識し、それを高めて独創的なイノベーション創出につなげていくことが非常に重要となっているのです。知識創造を担う従業員が創造性や感性を磨き高められるような環境を戦略的に整備・提供することこそが、現代の企業経営者に求められる重要な役割であり責務なのです。そして、ワークプレイスは知識創造活動の主たる舞台となります。
 研究開発や企画開発はまさに知識集約度の高い業務であり、そうした業務を担う拠点で創造的なワークプレイスづくりを追求することはもちろん大切です。しかし、現代の企業の知識創造は研究開発業務にとどまるものではありません。調達・購買、製造、物流、販売・マーケティングなど企業のバリューチェーンを担うあらゆる業務、そして経理・財務、人事、IT、管財などあらゆる本社間接業務で、創造性が競争力の源泉となり得ます。したがってクリエイティブオフィスの構築・運用も、本社、営業所、工場、研究所、物流拠点を問わずあらゆるタイプのワークプレイスで重要な課題になっていると考えています。
 私がこの問題により着目するようになった7年ほど前から、欧米の先進企業はすでにこうした課題に熱心に取り組んでいました。従業員が活き活きと働けるような創造的で自由なオフィスを作り、そこに柔軟で裁量的なワークスタイルをセットで推進することで多様な人材の能力を最大限に引き出して、新たなイノベーションを生み出す。こうした戦略が実践されていました。
 そうした先進企業のCRE戦略を分析すると3つの共通要素を抽出でき、それらは企業がCRE戦略を実践するための3つの重要なポイントに他なりません。一つ目は、CREマネジメントの一元化。二つ目が、外部の不動産サービスベンダー等をアウトソーシング先として戦略的に活用することです。アウトソーシング活用によって、インハウスのCRE部門のスタッフはより戦略的な業務に専念することができるようになります。そして三つ目が今回のテーマである創造的なオフィスづくりです。先進企業は早くから、CRE戦略の重点を単なるハードの不動産管理に止まらず、先進的・創造的なワークプレイスやワークスタイルを活用した HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント:人的資源管理) に移行させているのです。私はこの3つのポイントを「三種の神器」と呼んでいます(注2)。

百嶋 徹氏

──創造的なワークプレイス、つまり「クリエイティブオフィス」とは改めてどういうものでしょうか。

 私はクリエイティブオフィスの先進事例に見られる共通点を「基本モデル」と呼び、「基本的な設計コンセプト」として提唱しています。まずこの基本モデルを貫く大原則は、オフィス全体を街や都市など一種の「コミュニティ」として捉えることです。オフィスは従業員にとって、1日に8時間程度滞在する重要な生活空間の一部です。人々はそこで集中したり自由に交流したりして、互いに啓発され、共同で仕事を進め、達成感を共有します。
 例えば、従業員それぞれが座る固定席は、個々のアイデンティティを保てる居場所であり、自分を世帯主とする自宅のようなものです。自席の周囲との自由なコミュニケーションは、親しく近所付き合いをするようなものと言えます。一方、オフィス内の休憩・共用スペースは、街で言えば一種の公共スペースでしょう。このようにオフィスには、街やコミュニティの主要な機能が凝縮されていることが必要なのです。オフィスは従業員にとって、各々の能力や創造性を最大限に活かすことができる場所であり、そのコミュニティに属していることを誇りに感じることができる場所でなければならないのです。
 また、オフィス環境は、従業員のモチベーションやワークスタイル、従業員間のコミュニケーションやコラボレーションに影響を与えますから、オフィスを一種の生態系、すなわち「エコシステム」として捉えることも可能です。
 こうした大原則のもと、クリエイティブオフィスは、企業内にソーシャル・キャピタルを育む、多様性を尊重する、地域コミュニティと共生する、安全性に配慮する、従業員の心身の健康に配慮する、という5つの具体原則を満たす必要があります(図表1)。「ソーシャル・キャピタル」とは、コミュニティや組織の構成員間の信頼感や人的ネットワークを指し、コミュニティ・組織を円滑に機能させる「見えざる資本」であると言われます。

図表1 クリエイティブオフィスの基本モデル(大原則・具体原則)の概要
(備考)「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標
(資料)百嶋徹「第7章・第1節 イノベーション促進のためのオフィス戦略」
『研究開発体制の再編とイノベーションを生む研究所の作り方』(技術情報協会、2017年10月31日)

(注1)百嶋徹氏によるオフィス戦略についてのコラムは、こちらでもお読みいただけます。
企業経営者に向けたCRE戦略概論
第2回 経営視点のオフィス戦略のすすめ 前編 >
第3回 経営視点のオフィス戦略のすすめ 後編 >

(注2)CRE戦略における「三種の神器」については、こちらでもお読みいただけます。
スペシャリストの智 vol.02 ROE(株主資本利益率)向上のための企業不動産戦略 後編 >

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