スペシャリストの智 CREカンファレンス2017-2018・レポート 2018年成長する企業の資質とは。企業体力強化に備える不動産戦略のポイント。

プレゼンテーション 企業の基礎体力をサポートする不動産サービス 三菱地所リアルエステートサービス企業不動産一部長 前田 茂充

CRE戦略に求められる3つの視点

 経済の枠組みがグローバル化とITの浸透によって変化する今、企業が保有する不動産に対しての認識も大きく変化しています。高度成長期に資産化した物件が次々と節目を迎え、今日の情勢に相容れない状況も出てきています。東京都心、福岡、大阪、京都などでは地域ごとの発展を目指した大規模な再開発の動きがみられます。本日はCRE戦略を進める上で、私が考える3つの視点をお伝えし、その上で、当社のCRE戦略支援業務の流れをお伝えしたいと思います。
 視点の1つは、老朽化した基幹事業所対策としてのCRE戦略です。高度経済成長の日本を支えた事業所のなかには築50〜60年が経過しているものがあり、基幹事業所であるために稼働を止めることができず、大規模な修繕ができないというジレンマを抱えています。基幹事業所を大規模修繕する判断はまさに経営課題であり、製造、営業、ロジスティクスなどの各部門の了解を得なければ先へ進めない問題でもあります。だからこそ、CRE戦略としては、複数の事業拠点をその企業の事業戦略に基づき、最適化された状態に近づけていくことが欠かせません。この分散から統合へという施策は、安全な職場環境の維持やBCP(事業継続計画)対策上も避けては通れない課題です。
 2番目は、ROE(株主資本利益率)向上策としてのCRE戦略です。企業経営においてROEを重視する流れは、企業が自らの事業ポートフォリオを見直す契機となり、さらには企業不動産を見直す大きな契機ともなっています。この「スペシャリストの智」でもこの問題を真っ先に採り上げました(注1)。不動産を活用しROEを向上させる方法はいくつかあります。例えば、売却により得た資金を設備投資あるいはM&A(合併・買収)に回す、余剰容積のある土地を高層化し高収益な事業に供する、SPC(注2)を活用してセル&リースバックを進めるなどです。いずれも経営としては大きな判断が求められるものであり、戦略立案、課題抽出、対策実行において経営層のコミットは必須です。社内外のステークフォルダーへの説明、調整にも合理性が求められます。
 3番目は、働き方改革としてのCRE戦略です。人口減少社会において、働き方改革、生産性向上策が国を挙げて叫ばれるようになりましたが、これは企業のオフィス戦略にダイレクトに影響すると考えます。これからは創造性が付加価値を生む業務が重視されるようになります。豊かなコミュニケーションとアイデアが交流することで生まれる創造性をマネジメントすること。すなわち、クリエイティブオフィスへの移行は、働き方改革を進めるうえでも重要な課題です。またクリエイティブオフィスは若手人材の採用面に与えるインパクトも大です。当社も2018年5月に本社を移転します。部門ごとに分散していたオフィスをワンフロアに集約し、働き方改革とあわせてクリエイティブオフィスを実現しようとしています。

三菱地所リアルエステートサービス 前田 茂充

CRE戦略遂行を一貫して支援するサービス

 これまで述べてきた3つの視点に共通していえることは、単体の事業所だけにフォーカスしても課題解決にはつながらないということです。関連する全事業所を俯瞰して、課題を抽出し、解決策を立案しなければなりません。当社はこの全事業所を俯瞰して課題を抽出することを強みとし、CRE戦略支援業務を推進しております。
 CRE戦略はおおむね、①CRE戦略を進めた先に実現したいこと=ゴールの明確化②CRE情報を一元的に管理し、可視化すること③ゴールに至るまでの課題を抽出する評価軸を設定すること④課題物件の抽出と対策の立案⑤対策の優先順位、スケジュールの設定⑥全社横断的な合意形成――というプロセスで進められます。私たちにはこの6つのプロセスを一貫して実現するサービスがあります。
 例えばCRE情報の一元管理では、当社が開発した不動産ツールである「CRE@M」が威力を発揮します。また、課題に対するソリューションをワンストップで提供するサービス群があります。そこでは中長期にわたり顧客と腰を据えて向き合える、三菱地所グループの総合力が生かせます。これらのソリューションを通して、それぞれの物件の最有効活用策を合理的に導くことが可能です。ステークフォルダーへの説明責任が求められる昨今、CREの収益性や価格合理性の判断では、他社との比較が必要となるケースも当然あるでしょう。このような場合でも、当社のもつ仲介機能を活かすことで、合理的な価格形成を図ることが可能になります。
 CRE戦略では、企業がいまどのような不動産をどこに保持しているかを認識するだけではなく、それぞれの不動産にどのような課題があるかを可視化し、その課題解決のためのスケジュールを見える化しておくことが重要です。これがCRE戦略の第一歩になると考えています。

(注1)ROEとCRE戦略については、スペシャリストの智vol.01、vol.02でもお読みいただけます。
vol.01 ROE(株主資本利益率)向上のための企業不動産戦略 前編 >
vol.02 ROE(株主資本利益率)向上のための企業不動産戦略 後編 >

(注2)特別目的会社(special purpose company)の略。特定の資産を担保にした証券の発行など、限定された目的のために設立された会社のこと。

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