
──平川会計パートナーズは、主に中堅中小の顧客企業に対して、税務・会計サポートをはじめ、相続税や事業承継に関するアドバイス、さらに経営計画策定支援など幅広い経営コンサルティングをされています。中堅中小企業をめぐる最近のビジネスの変化をどうご覧になっていますか。
技術革新が進み、これまでとは違うタイプの新興企業がコンペティターとして登場するなど、中堅中小企業を取り巻く競争はますます激しくなっています。例えば小売・流通業の領域ではインターネットを駆使したeコマースの台頭に脅かされる企業も出ている。従来の「店舗」という概念が変わり、店頭に単に商品を並べていても売れない。何らかの付加価値をつけないと、旧来型の小売・流通は難しい状況になる、という危機感をもつ若手経営者は多いですね。
もちろん店舗でモノが全く売れなくなる、というわけではありません。これからは、リアルな店頭ビジネスとバーチャルなインターネットビジネスが連携しながら展開していくのではないでしょうか。
一つ例を挙げましょう。私たちのお客様で、中古ブランド品を販売する会社がありますが、最近はもっぱら海外の富裕層に高額品が売れているそうです。ただ、eコマースで海外に通販というのはほとんどなくて、むしろそうした顧客が来日したときに店舗に寄ってくれる。英語や中国語のサイトをみてその存在は知っていたが、実際に店頭で商品を確認しないと安心できないということです。リアルとバーチャルのハイブリッドが重要だという事例です。
海外顧客を対象にしたビジネスは、業種を問わず、これからはますます重要になります。事業承継を控えた二代目、三代目の経営者と話をすると、「日本ではなく海外へ」という話が必ず出てきます。これまでは大手の取引先が海外に進出すれば、それに随伴するような形で中小企業も海外展開していった。しかしこれからは、海外現地生産ではなく、海外市場をどう自社製品やサービスの消費市場として取り込むかが重要だというのです。日本の人口減少は今後ますます進みます。海外を視野に入れた自立したビジネス展開は、これからの中小企業経営者にとっては必須の課題といってもよいでしょう。
──店舗の位置づけが変わるというお話でしたが、店舗も不動産の一つです。経営における不動産の役割も変わっていくのでしょうか。
小売業では店舗の立地が絶対的条件でしたが、eコマースの進展でこうした一元的な考え方も変わっていくでしょう。全て不動産をベースにビジネスをしていくというスタイル自体が、もはや過去のものになろうとしています。必要な不動産があれば、それを購入するのではなく、借りるという方法もあります。取得から賃貸へ、保有から利用へという流れも進んできたと思います。
同時に、不動産を多数保有している企業は、それを遊ばせることなく、収益源として最大限活用するにはどうしたらいいかを必死で考えるようになった。つまりCRE(企業不動産)戦略は中小企業にとっても重要だ、という認識が徐々に広まっていると思います。
──とはいえ、これまで慣れ親しんできた土地や建物には愛着があります。頭を切り換えるのに時間がかかりますね。
不動産を持っているとどうしてもそこに縛られる、ということはあります。例えば、これまで自社ビルで事業を営んできたが、社員が増えて手狭になった。近所にオフィスを借りると、人員が分散してしまう。大きなオフィスに移転するにしても、家賃コストが気になる。その場合、旧本社ビルはどうするのか。自分で使っている限り、家賃収入は入らないが、人に貸せば家賃収入が入る。しかし老朽化しているので果たしてテナントが入居するかどうか。いっそのこと売却してしまうか……などと、不動産物件一つとってもさまざまな悩みがあります。
保有・活用・売却・賃貸、さらに不動産証券化やリースバックなど複数の選択肢があるなかで、ケースごとにメリット・デメリットを分析し、それを経営者の判断材料として提供する。それが私たち専門家の仕事にもなっています。
──デザイン的なリノベーションや、設備を改修するだけでは不足といえるのでしょうか。
単体のビルでできることには限りがあります。むしろ、地域や街区ごとの特徴を活かした街づくりのなかで、ビル経営を考えていくという視点が重要です。私どものオフィスは千代田区の外神田にありますが、ここは秋葉原に近く「アキバ・カルチャー」に関連する企業がたくさん事務所を構えています。むろん昔ながらの電気屋さんばかりではなく、アニメなどのサブカルチャーを発信する企業も多い。土地やビルのオーナーも、社会のトレンドの変化を見越したうえで、地域の特性を上手に発信しながら集客に努める必要があるでしょうね。
──かつて企業不動産は、保有していれば銀行からお金が借りやすいなどの利点がありましたが、最近はむしろROA・ROE向上のために、不動産証券化などの方法でオフバランス化を図るのが一つのトレンドになっています。企業価値向上のために不動産をどう組み替えるかは、中堅中小企業にとっても大きな課題です。
オフバランスも含め、不動産の組み替えをしようというとき、一番の問題になるのは税金です。売却したとしても、簿価が低く譲渡益が高くなった場合税金が高くなり手取りが減ってしまいます。保有していれば全体の価値を維持したままなんとか利回りも確保できるということで、資産の組み替えに積極的ではない企業もあります。
また、事業用の資産を買い替えたときに譲渡益の一部に対する課税を繰り延べることができる買換特例がありますが、最近の地域再生法の改正で繰り延べできる割合が縮減してしまいました。税制の恩恵を受けながら事業用不動産を入れ替えるということができにくくなっている一面はあります。
そもそも不動産をたくさん持つ企業というのは歴史のある会社が多く、しかもメインの不動産が会社創業の土地ということもあります。そういう土地を手放すことには抵抗感があるし、「あの会社もついに土地を売ることになったか」という風評被害を恐れるもの。そうしたことも危惧してなかなか動けないケースもあります。
ただ、こうした企業も資産の組み替えを余儀なくされるタイミングというのがあります。相続や事業承継です。相続では全ての財産に対して相続税がかけられるし、相続税支払のために多額の納税資金を用意しなくてはなりません。そのために不動産を処分せざるをえない企業はたくさんあります。
そこで私たちがいつも申し上げているのは、いつか相続のタイミングで資産の処分をしなければならないのだとしたら、その時を待たず、今からでも資産の組み替えをしておいたほうが賢明だ、ということです。これこそがCRE戦略なのです。
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