
──劣化した設備を更新したり、ビル自体の耐震性能を高めるなど建物の性能を強化することで、企業不動産の価値を維持・向上させるのがリノベーションですが、そのためにどのぐらい費用がかかるのか、投資対効果はどうなのか、といったことで悩むビルオーナーも少なくないと思います。御社のリノベーション設計部は、同じ部署に意匠デザイナー、構造設計、電気・機械設備、工務、コスト管理などの専門スタッフが在籍しており、機敏にプロジェクトを展開しています。建物診断から実際の改修工事の設計監理、省エネ計画や建物調査報告の作成などを担当されていますが、修繕計画の策定は具体的にはどのようなステップで行われるものなのでしょうか。
どんなに新しい建物も10年、15年と経年すると、機械設備の不調などが目立つようになります。耐震基準の考え方も変化しますので、それに対応した耐震補強工事も必要になります。そのことに気づいたビルオーナーから、まず自社の保有するビルの耐震診断や建物診断などの調査をしてほしいという相談が私どもに舞い込みます。また、今後10年、20年にわたってどのぐらいの投資をすれば建物が維持できるのか、中期修繕計画を立ててほしいというリクエストもあります。
中長期修繕計画では、例えばあと20年建物を持たせるためには総額このぐらいが必要だという目安が出ます。その上でビルオーナーの予算を勘案しつつ3~5カ年の詳細計画を立案し、どの建物のどの部分の修繕から着手すべきかといった優先順位付けをします。このようにして立案した計画に沿って翌年以降修繕を実施していくことで、各年の修繕費用を平準化することができるようになります。
──新築の段階で最初から修繕計画を立てていれば、いざ改修となったときにも安心ですね。
新ビルが竣工した時にすぐに私どもに修繕計画を依頼してくるビルオーナーもいます。それに応えて、私どもは設備機器一つひとつまで詳細に計画を練ります。修繕のための年間投資金額を定めて、その枠の中で優先順位を付けます。ビルオーナーはこうした修繕計画に基づいて、修繕・更新を実施するゼネコン等に対して計画発注をします。
──修繕計画を前倒しで検討することで、建物のライフサイクルコストを抑えることができるわけですね。これは結果的に企業不動産の価値を高めることにつながります。
──御社がかかわったリノベーション事例で最近はどんなものがありますか。
横浜新都市センターが管理する、横浜新都市ビルおよび横浜ポルタの例があります。築30年経つ建物ですが、修繕箇所の重要度を勘案しながら、改修計画を立て、3年ほどかけて順に修繕を進めてきました。特に冷暖房の熱源機器構成をガス主体から電気主体に変えることで省エネ効果を高めることができました。これによって、冷暖房におけるランニングコストが約30%削減されました。
当社の事業は多くはオフィスビルですが、もう少し変わった例でいうと、サンシャインシティの展望台や噴水広場、水族館などの集客施設の改修事例があります。サンシャインシティは三菱地所が約40年前に手がけた施設ですが、2016年のリニューアル・オープンのための、トータルなコーディネイトを当社が担いました。
──ところで、建物診断の結果、リノベーションをしたほうがいいのか、それともビルを建て替えたほうがいいのか、判断に迷う物件もあるのではないでしょうか。
一般論的には建替コストは改修コストを上回るものですが、建物を診断した結果、耐震補強工事のコストが過大になるとか、もともと階高(建物の、ある階の床面からすぐ上の階の床面までの高さ)が低くて使い勝手が悪いビルなどは、将来のテナント誘致を考えたとき、改修より建て替えたほうが有効という判断になることもありますね。
──こうした判断はビルオーナーにとって難しい場合もありますね。
修繕判断をサポートするために、当社で「簡易建物診断ツール」を用意したこともあります。これは施設数が200以上に及ぶ某国立大学のリノベーション計画を策定する過程で生まれたものです。施設の数が多いので、どこから手をつけていいかわからない。業者からの見積もりもそれがどこまで妥当なのかわからない。概算見積もりだけでもすぐに出せないかといったご要望に対応して開発しました。防水・設備・電気などのカテゴリーにわけて、面積当たり項目ごとの改修金額を出せるようになっています。
重要なのは、これによってビルオーナーがリノベーション費用の妥当性を検討できるようになったこと。あくまでも簡易ツールなので、詳細計画の段階で金額に誤差が生じてくる場合もありますが、実施に当たっては、改修工事に関する見積調査を年間1000件ほど行っている私どものノウハウが活きてきます。
横浜新都市ビルの設備改修
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