
──土壌汚染に関する法律として2003年に土壌汚染対策法が施行されるわけですが、そもそもこれはどういう法律なのでしょうか。
土壌汚染対策法(以下、「土対法」)には、土壌汚染の状況を把握すること、土壌汚染による人の健康被害を防止すること、という二つの目的があります。
土対法が対象にしている特定有害物質は現状で25種類(※1)ありますが、こうした特定有害物質を扱う事業者は、水質汚濁防止法であらかじめ届出をしているのがほとんどです。特定有害物質の使用が工場で適切に管理されている場合は問題ないのですが、この工場を閉鎖や移転、特定有害物質の使用施設を廃止するような場合には、その届出をしなければなりません。そのタイミングで土対法の調査が義務付けられ、もし土壌から特定有害物質が検出され、それが指定基準を上回り、かつ健康被害をもたらす可能性が認められれば、それを防止するための対策を取らなければなりません。
また、全国で毎年地下水調査が行われていますが、そこで特定有害物質に汚染されている井戸などが見つかり、この汚染源はもしかしたら上流にある工場ではないかと疑われるときには、調査命令が出るケースもあります。
ただ誤解がないように言い添えておくと、この法律は土壌汚染を全部浄化することを目的にした法律ではないのです。多少の汚染はあるが、地下水に漏れ出ていないし、汚染場所には人が容易に立ち入れないようになっているということであれば、管理をする義務はありますが、浄化をする必要性まではありません。
とはいえ、土地はそこで事業を営む利用価値だけでなく、資産としての価値も有しています。土地を売買する際には、土地の用途に重要な影響を及ぼす事項については必ず説明しなければなりません。土壌汚染があるというだけで土地の値段が下がったり、場合によっては売れなくなるという経済的リスクは当然あります。そのため不動産売買や有効活用の観点から、土対法とどう向き合うかということが、一般事業会社はもとより、不動産仲介にあたる企業にとっても非常に重大な関心になっているのです。
──土対法は5年ごとに見直しが行われているようですが、年々厳しくなっているのでしょうか。
規制対象となる25種類の特定有害物質は、世界的にみると少ない方です。米国や欧州、中国では100種類以上の規制物質が挙げられています。こうした国際的な流れから類推すると、今後、規制対象となる特定有害物質は増える可能性がありますが、反面、規制値が緩やかになるものもあります。
直近の法改正は平成22年(2010年)に行われましたが、この改正では、現在、特定有害物質を使用しているか否かにかかわらず、3,000㎡以上の土地の形質変更を行う場合は、すべて調査が義務づけられるようになりました。法の網を広くかぶせようというわけです。
一方で、土壌汚染による健康被害の恐れのある土地を「要措置区域」とし、汚染はあるが健康被害の生じる恐れのない土地は「形質変更時要届出区域」と二つの区分けを導入したのも法改正のポイントです。すぐに対策を講ずべき土地と、将来改変するときに浄化すればよい土地とに区分したわけです。
こうした法改正の背景には、「ブラウンフィールド」問題があります。ブラウンフィールドとは、土壌汚染対策費が多額となるため土地売却が困難と考えられ、土地本来の価値が生かされない土地のこと。例えば、都心部の地価の高い土地であれば、汚染箇所を全部掘削して、きれいな土に入れ替えるというような大工事を行っても十分採算がとれますが、郊外の安価な土地の場合はそうはいきません。工事費が資産価値を上回ってしまうので、手つかずのまま放置されてしまう土地がたくさんあります。これがブラウンフィールドです。
環境省が2007年にまとめた資料によると、全国でブラウンフィールドの面積は2.8万haでその土地の資産価値は10.8兆円、土壌汚染対策に要する費用は4.2兆円と試算されています。(※2)
汚染があると土地は売れないが、費用が莫大なので浄化もできないというジレンマ。結果的にその土地は有効活用されないままになるのでは、社会経済的にも大きな損失と言わざるを得ません。
──土壌汚染の把握のためには、具体的にどんなことが行われるのですか。
まず土地の歴史(地歴)を把握することが欠かせません。現在の持ち主がきちんと地歴を管理していればいいのですが、残念ながらそういうケースは多くはありません。行政に小まめに届けを出していたり、CREの専門部署が地歴を把握していれば、その後の土壌汚染対策コストも抑えることができるのですが、そこまでの対策ができている企業はまれです。
そのため、私たちが使用者の変遷をたどり、航空写真を調べ、ときには企業の資料室にこもって不動産関連書類を引っ張り出したりすることもあります。もちろん専門のスタッフが現地を実際に歩いてみる現地踏査も不可欠です。
汚染があると懸念される場合は、土壌のサンプルを分析したり、土に穴を開けて土壌ガスを吸引するなどの状況調査を行います。カドミウムや水銀、六価クロムといった重金属は表層を分析すればだいたいわかりますが、トリクロロエチレンなどの有機塩素化合物は、土中に深く浸透しています。私たちが調査した例では、地下60mまで浸透し、地下水に流れ込んでいたケースがありました。電気機器の絶縁油などに使われるPCB(ポリ塩化ビフェニル)は事例としては少ないが分解するのがやっかいで、処理費用も高くつきます。
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