
オフィス戦略は、不動産の所有・賃借の選択に焦点を当てて矮小化されることがあるが、そのような見方では経営戦略としてのオフィス戦略の本質を紐解けない。大まかに言えば、企業財務との整合性が取られている限り、オフィスの所有・賃借の選択は大きな問題にならないと考えてよい。
企業財務は、所有・賃借の選択において決定的な制約条件になるため、それとの整合性を取ることが前提だ。実際の所有・賃借の選択では、財務要素に加え、賃料・地価等の不動産市況や建築費などのコスト面、関係先との近接性や交通アクセスなどのロケーション、必要なオフィス規模、入居時期、BCP要因、オフィスづくりの自由度、さらには事業の成長ステージなど、多くの要因を勘案して決定される。例えば、成長期にある企業なら、財務体質が良好でも所有を選択せず、社員増に機動的に対応できる賃借を選択するかもしれない。また新築ビルの一棟借りなら、自社ビルと遜色のない最新のオフィスインフラを取り込めるケースが多い。
さらに、経営層が企業財務に対する方針として、バランスシート(財務体質)と損益・キャッシュフローのどちらを重視しているかにも、大きく影響を受けるとみられる。経営層がバランスシートを重視する場合は、バランスシートが膨らまない賃借を、損益・キャシュフローを重視する場合は、賃料負担のない所有を選好する可能性が高まると考えられる。なお、この財務方針は、企業の置かれた経営状況などによって変更されうるものと考えられる。
いずれにしても、財務体質との整合性が取られている限り、問題とすべきはオフィスの所有・賃借の選択ではなく、従業員の創造性を引き出すオフィスづくりの巧拙だ。
企業は東日本大震災以降の節電対応を機に、光熱費などをかけてオフィスを運営し、また従業員が時間をかけてオフィスに来て働く意義を改めて問い直すべきだ。筆者は、オフィス空間の意義は、人と人との直接のコミュニケーションとコラボレーションを通じて、画期的なアイデアやイノベーションが生まれることであると考える。
従業員間のつながりの価値の重要性に気付かない、または軽視し、つながりを促進するためのオフィスづくりに投資を行わない企業と対極にあるのが米グーグルだ。
同社の世界のオフィスの写真を見ると、オフィス内の移動手段としての滑り台や滑り棒、ビリヤード台、バランスボール、思索にふけるためのブランコ、ゲームや楽器の演奏ができるゲームルーム、奇抜で多様なコミュニケーションスペースや休憩スペース、派手な飾り付けを施した社員のデスクなど、一見すると仕事に関係のないようなものが目に飛び込んでくる。オフィス内での飲食を無料で楽しめるのも有名な話しだ。個性的で遊び心満載なオフィスづくりがなされており、従業員にとって至れり尽くせりの空間だ。
グーグルが従業員にゆとりのある快適なオフィス空間を提供するのは、オフィス空間が従業員の創造性に大きく影響を与えることを熟知しているからだ。同社のオフィスづくりは究極の理想形と言ってもよい。すなわち、経営陣の目利きで選りすぐった優秀な人材を採用しているとの確信のもとに、快適なオフィス環境と柔軟で裁量的な働き方といった創造的で自由な環境さえ提供すれば、厚い信頼を置く従業員の創造性は最大限に引き出され、イノベーションが生み出されるとの考え方が、経営陣に浸透していると思われる。
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