働き方改革、働くことの意義や働きやすさを考える上で移転は改革推進のエンジンとなる。

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 オフィス移転は、企業の文化やガバナンスを改めて考える転機としていい機会となり得ます。だからこそ、その転機を活かす上で、コンセプトとロジカルな実務が必要となってきます。
 今回の「リアルな現場 vol.2」では三菱地所リアルエステートサービス自らの本社移転までの準備にフォーカスします。働き方改革をどのように推進し、どのようなビジョンで望んだのか。移転計画のある企業の参考となる誌面コンサルティングを4名のプロジェクトメンバーのディスカッションでお伝えします。

移転に向けた課題抽出とコンセプト設計

──移転に至る背景と、現状のオフィスが抱えていた課題をお聞かせください。

若佐 当社は、2014年以降、人事制度の改定やCRM(顧客管理)導入など、様々な改革を行ってきましたが、本社オフィスが4フロアに分かれている物理的な要因によるコミュニケーションのロスが課題となっていました。

社内では特に社員の集まる場所がなく交流の場が少ない、休憩スペースが活用されていないという声が挙がっていました。これらの課題を解消するためにも、移転の機運が高まっていきました。

──今回の移転のコンセプトとして『REAL BREAKTHROUGH』=「場所」「時間」「人」の改革を挙げられていますが、その意味はどういったものでしょうか。

若佐 『REAL BREAKTHROUGH』とは、移転を機に各セクション間の壁、これまでの旧習を取り払うという想いが込められたコンセプトです。まず「場所」については、最大の課題であった4フロアを1フロアに集約し、部門の壁を越えた情報の共有と、密度の高いコミュニケーションを目的とします。
「時間」については、当社だけでなく業界全体においても長時間労働が課題となっています。これは移転したからといってすぐに解決できるものではありませんが、移転を機に労働時間に対する社員の意識を高めていきたいと考え、そのために労働生産性を向上させる様々な取り組みを検討しました。

萩原 「人」については、移転を機に働く環境を変えることによって、人の意識と行動を変えるという目的があります。
これら3つの改革によって生産性の向上、ワークライフバンスの実現、多様性促進を図りつつ、「社員と会社がともに成長できる活気あふれた組織づくり」を目指します。

(左から)リーシングマネジメント部 萩原 美穂、経営企画部 若佐 昌彦

移転を機に働き方を変化させる取り組み

──移転に伴う様々な取り組みによって、働き方はどのようにどう変わりますか。

モバイルワーク及びフリーアドレスの導入

萩原 働き方改革を推進する上で、移転は最もよいきっかけと考えられます。特に、どこでも仕事ができる環境であることが、働き方を変える一番の近道だと思います。そのために、全社員にノートPCを配布したり、固定電話を削減し、各自がスマートフォンを携帯する体制へと切替えることができました。これらは移転がなければ実行できなかったでしょう。
フリーアドレスを導入したことによって、仕事に集中したい時、電話したい時など、自分の用途や、仕事のスタイルに応じて働く場所を変えることが可能となります。このように環境を変えていけば自ずと意識や行動は変わっていくものだと思います。

例えば昇降式の机を使用することによって机の高さを変えるだけで、仕事の効率性が高まります。またファミレスのような環境で気軽に打ち合わせができたり、用途に応じて環境を変えることで業務がより効率的になると思います。
一方で、上司から見ると部下の顔が見えない、管理がしづらくなるという懸念もありました。その点についてはビーコン(所在管理システム)やスマートフォンですぐに連絡を取れるようにしたり、フリースペースを活用して打ち合わせを密に行うなど、管理者のバックアップ体制も整えています。

若佐 固定席でなくなったことで、空いた座席やスペースを使って打ち合わせするケースが増えると思います。スペースの有効活用にもなりますし、気軽に打合せできる環境が整うことにより情報交換が進む効果が期待できますね。

打田 移転後は一人当たりのスペースが減るため、固定電話を削減することになりましたが、スマートフォンの導入によって効率化が実現するかどうかは、継続的に検証することが必要だと思います。
また移転前からビーコンを導入し、社員がどのような働き方をしているかをデータ化することによって真のオフィスの最適化を実現できました。今後は稼働状況のデータを集積し、長時間労働を管理し、働き方を向上させていきたいと考えます。

3つのラウンジを設置

萩原 リラックスラウンジはリラクゼーションソファを設置しました。仮眠など社員の心身のリフレッシュに活用することで、業務に改めて集中するスイッチ機能になると思います。
カフェやライブラリーは、交流を促進する目的でコーヒーを置いたり新聞雑誌を置いたりして、人が集まる仕掛けを作りました。そこで業務のクロスセルを促進させたり、コミュニケーションが生まれることを意図しています。

社員から交流の場が欲しい、リラックスできる場所が欲しいとの声があったのですが、目的によった使い分けができるよう3つとも異なるテーマを持たせて作り、一つの場所に収めるよりも分散させて配置しました。カフェについては、時間帯によってはお客様もご利用できるようになります。
また移転後にオフィス見学ツアーの企画もありますので、お客様目線でアクセントになるような備品及び配置を心掛けました。

若佐 従来のオフィスとは異なる雰囲気の内装にこだわりましたので、お客様に当社が変わったと感じていただけるだろうと期待しています。

ご来社のお客様もご利用可能なカフェラウンジ『REAL CAFÉ』

プロジェクトを通して得られる新たな視点

──働き方について、女性なりの視点、時間の使い方やプライベートとのバランスについて、移転によって何を期待しますか。

萩原 将来的にサテライトオフィスやテレワークの導入を改革のロードマップに描いています。導入されれば本社以外のどこででも業務ができるようになるので、結婚・出産・育児・介護といったライフイベントによって、働き方が変化する社員へより多くの選択肢を提供できるようになります。
またフレックス制度はこれまで介護や育児の場合の用途に限定されていましたが、今年夏頃から全社員を対象に導入することを予定しています。特にこれからは介護を担う立場の男性も増えることが予想されるので、女性に関わらず介護離職を防ぐことの重要性は大きいと思います。

──サテライトオフィスやフレックス導入によってICTの重要性が高まります。社員へ理解を深めるために工夫したことはありますか。

打田 社員にスマートフォンの使い方を動画配信し、誰でも理解できるように分かりやすくしました。また、配布するノートPCを3機種から選択できるようにしました。画面が大きく見やすいタイプや、軽量で持ち運びやすいタイプなど各自のワークスタイルに応じて選ぶことができます。移転後にはセミナールームで講習会を開催するなど、全社に向けてITリテラシーを上げていく継続的な努力が必要になると思います。
セキュリティ面では移転を機にセキュリティポリシーを刷新できたのは大きいと思います。

(左から)情報開発一部 麓 和宣、業務システム部 打田 大輔

──移転プロジェクトを通して得られた新たな気づき、移転にあたり重要な視点はどのようなことでしょうか。

打田 インフラの面では、移転を機に古いハードを捨てて、新しいPCや綺麗な会議室など、新しいものに刷新できます。しかし現場の業務はそれだけでは変わりません。新しいオフィスで働きやすさが変わったとは言え、ハードとソフト両面を業務支援していかないといけない。そういった意味で、RPA(ソフトウェアロボットによる業務の自動化や効率化に向けた取り組み)の導入によって業務の効率化も図りたいと考えています。

若佐 移転は、従来の考え方にとらわれずに、一度に変化を起こすことができるので、非常に合理的な判断ができます。例えば働き方の見直しによって、通常なかなか踏み込めない分野である就業規則を改定するきっかけにもなりました。
不動産業界は物件の紹介等で紙を使う文化が根強く残っているため、今後は移転を機に施策として掲げたペーパーストックレスが継続できるかが、課題であると考えています。

今まで何度かペーパーストックレスにトライしましたが、期待するような成果がありませんでした。今回は70%削減という高い目標を掲げていますので、一度に改革を進めるには移転はよい契機になると思います。

若佐 削減できた文書スペースにこれまで費やした賃料を考えると怖いですね。どれだけ非効率だったかと思い知らされました。しかし逆に考えれば、賃料コストについて社員自ら考えるきっかけにもなりました。無駄なコストを省き、その分を社員に有効活用できればよいと思います。
また、限られた執務スペースの中で、備品等は在庫を多く持たずに必要なものだけ購入する発注行動を見直すきっかけにもなり、コスト削減効果も期待できます。
オフィス移転は、これまで踏襲してきた働き方を客観的に見つめ、検証するよい機会になると思います。

──最後に、働き方改革とオフィス移転の成功の鍵は何でしょうか。

萩原 経営者のリーダーシップと評価制度の見直し、この2点が重要です。
労働生産性が向上したら、評価が社員に還元されるべきでしょう。従ってこれらが同時進行で行われることが成功への道筋でしょう。

──もちろん、移転による改革を継続的なものにするためには、事前のプロジェクトだけでなく移転後の変化を振り返り、検証を重ねることも重要となります。
 「リアルな現場」では、移転後数ヶ月を経た頃、実際に起こった働き方の変化と戦略的な運用を改めて紹介する誌面コンサルティングの機会を設けたいと考えています。お楽しみにお待ちください。

三菱地所リアルエステートサービス
経営企画部 次長

若佐 昌彦

移転事務局メンバーとして、各WGの運営、意志決定機関との調整、予算管理を担当。

三菱地所リアルエステートサービス
リーシングマネジメント部 課長

萩原 美穂

ワークスタイルWG兼移転事務局メンバーとして、レイアウトの検証、フリーアドレスの運用や働き方改革ロードマップ策定を担当。

三菱地所リアルエステートサービス
情報開発一部 次長

麓 和宣

ワークプレイスWGのリーダーとして、レイアウトの検証、フリーアドレスの検討、什器備品の決定を担当。

三菱地所リアルエステートサービス
業務システム部

打田 大輔

ICT情報通信WGメンバーとして、IT関連の仕様の調整及び決定を担当。

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