事業承継がうまくいかない要因は?知っておきたい基礎知識や円滑に進めるコツを解説

「事業承継がうまくいかない要因は?知っておきたい基礎知識や円滑に進めるコツを解説」のアイキャッチ画像

目次

近年、中小企業経営者の高齢化が進み、事業承継が企業の大きな課題のひとつとなっています。ここでは、事業承継の基礎知識についてふれながら、事業承継をしないことによって生じる問題をまとめました。また、事業承継の具体的な進め方や、承継にあたり考えられるリスクと対処法も解説していきます。

事業承継とは?

事業承継とは、会社の経営権をオーナーから後継者に引き継ぐことです。中小企業では、オーナーである現社長の経営手腕が会社の存続基盤になっているケースが少なくありません。引継ぐ先によって、将来の経営が良くも悪くも大きく左右されます。
しかし、事業承継は単に「誰を次の社長にするか」「株式を誰に渡すか」だけではありません。承継したあとも安定した事業が行える、さらには企業が成長を続けられるよう、あらゆる経営資源を承継する必要があります。

事業承継の種類

事業承継には、大きく分けて「親族内承継」「親族外承継(社内承継)」「上場」「M&A」の4つあります。

①親族内承継

経営者が自分の親族へ引き継ぐ承継方法です。
自社株や個人財産を後継者に移転しやすい、役員・従業員・取引先に受け入れてもらいやすいなどのメリットがある一方、経営者の資質がある親族がいるとは限らない、相続人が複数いる場合に経営権をめぐる紛争が起こる可能性があるなど、事業存続が危ぶまれるようなデメリットもあります。

②親族外承継(社内承継)

オーナー親族以外の役員や従業員に承継する方法です。また、親族内承継の中継ぎとして一時的に承継するケースもあります。親族外承継は、自社の経営や事業に詳しい人物や、経営者としての資質を持つ人物に承継できる点はメリットといえますが、適任者がいないケースや、個人債務保証を引き継ぐ際に問題が起こる可能性があるなどのデメリットもあります。

③上場

上場できる規模にある場合には、事業承継の手段の1つとなります。
外部から優秀な人材を集めやすくなることや、上場への整備の中で後継者の育成も行える点などのメリットがある一方、上場自体のハードルが高いこと、管理監督が厳しくなる点などがデメリットともいえるでしょう。

④M&A

企業の吸収・合併により第三者に事業を譲渡する方法です。後継候補を広く外部に求めることができ、会社のさらなる成長や発展が見込めるなどのメリットがあります。反対にデメリットは、条件が合致する買い手が見つかるとは限らない、経営方針は買い手に委ねられるなどが挙げられます。

最近ではM&Aを専門に扱う仲介会社が増えてきたことや、国の支援体制が強化されたなどの理由から、M&Aによる事業承継が増加しています。事業承継の種類については下記記事で詳しく紹介していますので、こちらもご参考ください。
『事業承継』とは?そのポイントと準備について解説!

事業承継がうまくいかない要因

ここからは、事業承継を進めるにあたって考えられるトラブルやその要因について見ていきます。事業承継をスムーズに進めるためにも、必ず念頭に置いておきましょう。

後継者選びを失敗してしまう

後継者が決まっても、後継者に経営能力が欠けていると、事業の継続が難しくなりかねません。
また、後継者の育成には長期間を要します。経営者が高齢になってから慌てて引き継ぐような選び方では、適任かどうかを見極めるのは更に困難となり、計画的な育成も難しくなるでしょう。経営者が若いうちから後継者選びの準備を進め、余裕をもって育てる時間を確保することが重要です。

親族が相続でもめてしまう

親族内で事業承継をする場合、相続または贈与によって財産を渡すことになります。そのため、事業用資産や株式について、他の相続人から遺留分を主張されることがあり、トラブルに発展してしまうケースがあります。親族内で争っていると相続以外の問題解決が遅れ、本業にも支障が出て、結果として事業が立ち行かなくなる場合もあるため注意が必要です。

社内への周知に失敗してしまう

社内へ周知するタイミングや方法も、事業承継においては大切です。特に上場会社のM&A案件などでは、早めに周知してしまうと情報漏えいのリスクが懸念されます。また、社内での周知方法次第では、従業員に理解されず、モチベーションの低下につながり本業に影響が出てしまう可能性があります。納得できない従業員が去ってしまうリスクもあるため、自社への信頼が落ちてしまわないよう、十分に配慮して準備する必要があります。

経営状況が不透明

事業承継にあたり、自社の経営状況や事業資産の可視化を適正に行わないと不利益が生じるリスクがあります。特に不動産評価は、企業の財務状況を示す上でも大きな影響を及ぼします。不動産価値が見落とされると企業価値が正しく評価されない可能性もあるため、専門家に相談することを勧めます。

M&Aの知識不足

事業承継でM&Aを選択する場合、事前準備が自社の今後を大きく左右します。
承継先を安易に決めてしまうと、自社の求める方向性とは異なる買い手になってしまう可能性もあり、場合によっては業績悪化や経営環境の悪化にも繋がりかねません。

事業承継を円滑に進めるコツ

事業承継を円滑に進めるにためには、下記3つの事前準備がポイントです。

  • 事業承継の必要性の認識
  • 経営状況・課題の視覚化
  • 企業の価値の向上

まず「事業承継の必要性の認識」をすることです。必要性を認識しなければ、前述したトラブルが発生してしまい、また承継の準備に間に合いません。後継者の育成は5~10年の歳月を要するため、逆算して準備を進めておくのが良いでしょう。

次に「経営状況・課題の視覚化」です。自社の経営状況を一から洗い出し、課題を明確化することで、具体的な対策を打ち出すことができます。特に「事業」「資産」「財務」に分けて視覚化すると、それぞれに効果的な対策を立案できます。

そして最後は「企業の価値の向上」です。例えばM&Aを活用して承継を行う場合、企業価値が低ければ、買い手にとっては魅力的だと感じてもらえません。結果として買い手が現れなくなってしまいます。企業の価値を上げるには、引退までに、会社の将来的なビジョンを明らかにし、ビジョンに沿った施策を実行することが大切です。例えば、事業や提供製品・サービスを向上させたり、会社の働き方を改善したりすることで、企業の価値を高めることにつながります。

私たち三菱地所リアルエステートサービスは、企業の不動産価値を正しく評価し、事業承継やM&Aをサポートいたします。
M&A実行時の不動産売却や売却シミュレーションの他、相続対策のためM&Aによって得た代金を不動産に切り替えたいなど、不動産に関わるお客様のご要望には当社がお応えいたします。お気軽にお問い合わせください。
M&A・事業承継 コンサルティングのお問い合わせはこちら

事業承継にかかわる税金

事業承継では、後継者に対し、会社経営だけでなく自社株式や不動産などの引継ぎも行われます。事業承継税制を利用するなど事前に対策をすることで、相続税や贈与税などの税金を免除できるケースがあります。事業承継前に税金対策を確認し、後継者に引き継ぐのが良いでしょう。ここでは、「贈与税」「相続税」についてご紹介します。

事業承継にかかわる贈与税

贈与税とは、個人から財産を贈与されたときに発生する税金のことで、贈与された人が納めます。1月1日から12月31日までの1年間で得た財産の合計金額から、基礎控除額の110万円を差し引いた金額をもとに、その金額に応じた贈与税率をかけ控除額を差し引くと、支払う税金を算出できます。平成27年以降の贈与税の税率は、次のとおり、「特例贈与財産」と「一般贈与財産」に区分されました。

特例贈与財産用税率

贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者に限ります。)が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に使用します。

基礎控除後の
課税価格
200万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下4,500万円以下4,500万円超
税率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額10万円30万円90万円190万円265万円415万円640万円
出典:国税庁

一般贈与財産用税率

特例贈与財産用以外に適用され、例えば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用します。

基礎控除後の
課税価格
200万円以下300万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下3,000万円超
税率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額10万円25万円65万円125万円175万円250万円400万円
出典:国税庁

事業承継にかかわる相続税

相続税とは、被相続人(故人)から相続等で財産を取得した場合にかかる税金で、相続人(財産を受け取った人)が納めます。計算方法は贈与税より少し複雑ですが、簡単に解説します。
まず、課税対象となる全財産から基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を求めます。

課税遺産総額=相続税の対象となる全財産(課税財産)-基礎控除額(※)
(※)基礎控除額=3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

ここで課税財産が基礎控除額よりも下回る場合、相続税は発生しません。
課税財産が基礎控除額を上回った場合は相続税の課税対象となり、次の流れで求めます。

  1. 課税遺産総額を各相続人の法定相続分に応じて仮の相続税額を求めます。
  2. 求めた金額に下記税率と控除額を反映させ、相続税の総額を算出します。
  3. 算出した総額に実際の遺産取得割合や各種控除等を適用させることで、各人が実際に負担する相続税額を求めることができます。
法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円
出典:国税庁

事業承継の支援施策を知っておこう

贈与また相続する財産によっては、税金として大金を支払わなければならないケースもあります。しかし制度をうまく活用すれば、支払う税金を抑えることができたり、補助金・金融支援を受けることができるかもしれません。現在、中小企業庁では様々な事業承継サポートが行われています。中でも注目なのが、税制支援政策です。以下の支援施策をうまく活用して、事業承継を円滑に進めていきましょう。

事業承継税制

事業承継税制は、会社や個人事業の後継者が取得した非上場株式等について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。個人版と法人版があり、ここでは「法人版事業承継税制」について簡単に説明します。
法人版事業承継税制には「一般措置」と、2018年の税制改正で導入された10年間の限定措置である「特例措置」があり、納税猶予の対象株式数や承継パターン、納税猶予割合など多くの面で「特例措置」の方が有利であると言われています。
特例措置では特例事業承継計画の提出が条件であり、2024年3月までに提出し、かつ2027年までに実際に事業承継を実施すれば特例措置が適用されます。
そのほか、M&Aによる生産性向上等を目指す「経営資源集約化税制」や、M&A時の不動産の権利移転にかかる登録免許税や不動産取得税が軽減される特例など、M&Aを通じた事業承継を支援する制度も整備され始めています。

補助金

事業承継を契機として経営革新等を行う中小企業経営者に対し、その取り組みに要する経費(M&A時に専門家を活用した費用や事業承継・引継ぎ後の設備投資、販路開拓、設備廃棄費用など)を補助する制度があります。
尚、上記補助金の内、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)においては、予めM&A支援機関に登録された期間の提供する支援に係るもののみが補助対象となります。

金融支援

株式の買い取りや相続税の支払いなど事業承継の際に必要となる各種資金について、融資や信用保証を受けられるよう、金融支援サービスも行われています。

出典:中小企業庁「財務サポート 『事業承継』」

しっかりとした準備が事業承継成功のカギ

事業承継を行う場合は、余裕をもって十分な準備を整えることが大切です。
また、企業が不動産を保有している場合は、正しい価値を導き出すこともポイントとなります。
事業承継における不動産関連のご相談は、専門的なノウハウと実績豊富な三菱地所リアルエステートサービスまでお問い合わせください。

お問い合わせ・ご相談はこちら
トップ > コラム > 事業承継がうまくいかない要因は?知っておきたい基礎知識や円滑に進めるコツを解説